婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第22話 森へ行きますよ!

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 ちらりと時計を見ると、八時半。開店時間まであと三十分ある。
 メイナを森で採取して帰宅するのにそんなに時間はかからないだろう。

 開店十分前になると二、三人並んでいることもある。
 今日は平日だから、そんなこともないと思うけど。

 もし私が間に合わなかったとしてもユリクがなんとかしてくれるはずだ。
 スイーツは作らないけどコーヒーや紅茶を淹れるのが上手いから、「カナメが帰ってくるまで少々お待ちください」とか言って温かい紅茶や冷たいコーヒー差し出しそう。

 そんなことにならないよう、早めに帰ってくるつもりなんだけどね!

 テノくんが手遅れになる前にさっさとメイナを採取しないと。

 私は急ぎ足で森へ向かう。

「……でも、開店前にお客さんが来るなんて思ってなかったよ……」

 テノくんが大変な目にあって、頼れる人がいなくて藁に縋る思いで私のところに来たのだから仕方はないといえば仕方はないが、あんなにドアを叩かれるのは心臓に悪いのでやめてほしい。

 コンコンって普通にノックしてくれればそこまでびっくりしないのに。
 大きな音出して叩かなくてもちゃんとドアは開けるし。

 ……けど、自分の子どもが命の危険に直面してたらパニックに陥ってしまうよね。

「うん、仕方ない仕方ない」

 私ももし自分に子どもがいたらパニックになって病院のドアをバンバン叩いていたかもしれない。

 私は一人でうんうん頷き、辿り着いた森の中に入った。

 森の入り口には『魔物が出ることがあります! 注意』と書かれた看板が立てられている。

 メイナは木の下であれば生えているから、森の奥深くに入らなくても採取できるはずだ。
 魔物は入り口付近に出ることは少ない。大丈夫だろう。

 魔物は植物から発生する魔力を大量に取り入れないと生きていけないため、森から出ることができない。

 この世界では植物、動物、人間、獣人など呼吸をするもの全てに魔力が宿っている。

 植物や動物は魔力を持っていることには持っているのだが、人間のように使いこなすことはできない。

 呼吸によって僅かな魔力を生み出していて、人間や魔物が無意識に吸収している。

 魔物は植物の魔力を吸収し、人間は動物の魔力を自動的に吸収していて、上手く吸収した魔力が作用すれば大きな魔法を使えたり、強力な魔物に育つのだ。

 だがほとんどの人間や魔物は、吸収した魔力はすぐに消費されてしまう。

 人間は疲労、ストレスがたまると消費される。吸収した魔力は元から人間が持っている魔力とは違って、たんぱく質みたいなものですぐエネルギーに使われてしまうのだ。

 ちなみに魔物は食事で消費される。

 魔物は人間と違って植物から大量の魔力を取り入れないと死んでしまうので、森の中でしか生活できない。

 だから私がいる森の入り口に住みついているのではなく、森の奥深くに潜んでいる。

 安心して採取していいのだ。

「えーっと、メイナ、メイナ……」

 確か精霊たちが青緑に光っていて、針みたいに鋭くて細い、と言ってたよね。

 私は木の下にしゃがみこんで目を凝らした。
 小さな色とりどりの花が咲いていたり、様々なかたちの草が生えていて、こんなに間近で草花を見たことはあまりないから見ているだけでも楽しい。

「青緑に光ってるのは……ないなぁ」

 私は木の下にしゃがんでは探し、木の下にしゃがんでは探しを繰り返した。

 どれも光っている草はなく、針みたいに鋭いものも見当たらない。

「もう少し奥の方なのかな?」

 私は少し奥に入って探した。
 細い草は見つけるんだけど、青緑に光っているものがない。

 うーん、木の下であれば生えてると思ってたんだけど、意外とレアなものなのかな?

 私はもう少し森の奥に入ってしゃがんで木の下をあちこち見回す。
 なかなか見つからない……と思ったとき。

 今いる場所より奥の木に、青緑に光っている草がちらりと見えた。

「これだ!」

 私は走ってその木の下に行き、青緑にきらきら光っている草を凝視する。
 ……うん、見た目も針みたいに鋭くて細い。絶対これがメイナだ。

 周りにもいっぱい生えていたから、よいしょよいしょと一つ一つ摘み、持ってきたカバンの中に詰めた。
 カバンの中が青緑に光って若干眩しい。

 一つ一つ摘むたびに、ふわっと鼻の奥まで刺激するすーすーした匂いが香ってきた。
 これはひょっとして……

「ミントに似てる!」

 似てるというか、匂いがミントそのものだ。
 これをそのまま食べさせるのはテトくんにはきついだろう。というか私もきつい。

 それに私が調理しないと元気が出る効果は見られない。

 チョコレートとミントを組み合わせたスイーツといえば……うん、熱が出てるときにも食べやすいし、あれでいいだろう。

「よし! 早く帰って作らな……きゃ……」

 私がカバンを背負って立ち上がると。

 グル……グルル……。

 いつの間にか、数々の魔物が私を囲んでいた。
 中には私くらい大きな魔物もいる。

 魔物たちは目を真っ赤に光らせ、良い獲物を見つけたとでもいうように私を睨んでいた。

 やばい、と後ずさると大きな木の幹にぶつかる。
 早く森から出ないと、と思ってもメイナを見つけるのに必死で出口は遠のき、走って行ったとしても絶対に魔物に捕まる。

「こ、これはまずい……」

 シェイラ・リッドフォード。
 生きてきた中で、初めてのピンチです。
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