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第48話 精霊さん、今までありがとうございました
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精霊たちの話によると、私の家にいるような小さな精霊たちは大精霊から生まれたものたちで、力を使い果たすと大精霊のもとに帰らなくてはならないらしい。
帰るというのは、大精霊から授かった魂を大精霊に返すということだそう。
つまり、今ここにいる精霊たちは大精霊に吸収され、いなくなってしまうのだ。
「そんな……本当にいなくなっちゃうの?」
しゃがんで精霊たちに訊くと、こくんと頷く。
「もう、力、ない」
「帰らないと、いけない」
力を使い果たしたということは、私が精霊たちを極限まで働かせてしまったということだ。
閉店後に毎回床やテーブルの掃除をさせてしまっていた。
精霊たちが疲れたらスイーツをあげていたとはいえ、ここまで力を使わせてしまったことは確か。
申し訳なくて眉尻を下げていると、まるで私の心中を読んだように精霊たちがぽてぽて歩いて私のもとに集まってきた。
「僕たち精霊は、にんげんに力をつかって、大精霊のもとに帰るのがさだめ」
「カナメがわるいんじゃない」
「そういううんめいなの」
「いっぱい役に立ててうれしかった」
精霊たちがにこにこと笑顔を私に向ける。
そういう運命、という言葉に胸が苦しくなると同時に、ふと疑問に感じることがあった。
「私のスイーツで、貴方たちの力を回復することはできないの?」
私が作るスイーツは『癒しの力』を持っているから、食べた人の体力や魔力は全て回復する。
それは獣人にも人間にも効果のあるものだ。
なら、精霊にも効果はあるんじゃないか?
そう思って訊いてみたけど、精霊たちは「うーん」と首を傾げて顎に小さな指をあてる。
「たしかにかいふくはするけど……」
「いずれ力がなくなることはひつぜんなの」
「人は生まれたら、かならず死ぬでしょう。それと、おなじなの」
「なるほど……そっか……」
人は生まれたら必ず死ぬという言葉にしっくりときて、私はしんみり感じた。
精霊たちも大精霊のもとに生まれて、やがて大精霊のもとに帰って、そしてまた大精霊のもとに生まれて……。
大精霊は人間にとっての神様みたいなものなのだろう。
それでも今まで一緒にいてくれた精霊たちがいなくなってしまうのは、やっぱり寂しい。
「どのくらいで、いなくなっちゃうの?」
「……たぶん、あしたくらい」
「あしただとおもう」
「え!?」
まさかそんなに早いとは思わなかった。
どうにかして、精霊たちが一日でも長くここにいられないかな……。
明日に突然いなくなってしまうのはすごく寂しくて、想像するだけでも胸が痛くなる。
少しでも精霊たちとお話したいし、もっと一緒に過ごしていたい。
カレンダーを見遣ると、ちょうど明日は休日だった。
私は精霊たちに今日の余ったスイーツをお腹いっぱい食べさせ、ふかふかのクッションに寝かせたあと、ユリクが作ってくれた夕飯を食べて風呂に入り、ゆっくり就寝した。
次の日の朝、私は必死に精霊たちの世話をした。
朝精霊たちは半透明の姿になっていて、力が弱まっているのが肉眼でわかってしまって心が苦しい。
どうにか元気にさせたくて、ユリクが作ったチキンサラダの葉を食べさせたり、スタミナのつく料理を作って一口ずつあげたりした。
精霊と一緒に庭に出て薔薇やマーガレットといった花の香りを嗅いで楽しんだり、私の部屋に行って本も読み聞かせた。
花の香りを嗅いだときは「いいにおい!」「おいしそう!」と喜んでいたし、本の読み聞かせをしたときは「この男の人、かっこいい!」「ぶとうかい、たのしそう!」「面白かった!」といろんな感想を言ってくれた。
ユリクも寂しいと感じているのか、昼食は精霊たち用に小さいサイズの料理を振舞ってくれた。精霊たちは頬にいっぱい詰めてもぐもぐしていて、可愛いかった。
昼食を食べたあとはユリクと私と一緒にジェスチャーゲームをやって笑い合い、十五時くらいになったら私がスイーツを作ってみんなで食べた。
でも、そのときにはもう精霊たちは遠くにいたら見えないほど身体が透けていた。
ピンクの光もとても弱まっている。
精霊たちは昨日、明日にはいなくなると言っていたから、その運命は覆せないのだ。
「今日は、ありがとう、カナメ、ユリク」
「たのしかった」
「さいこうのおもいで」
「……うん」
精霊たちがむちっとしたほっぺを上げてにこにこ笑う。
その笑顔すらももう近くで見ても透けていて見えにくい。
喉の奥がきゅうっと苦しくなる。
同時に涙腺が刺激されたけど、泣かないように少し上を向いた。
「……カナメ」
一体の精霊が私の顔にぱたぱた飛んできて、私の額にこつんと自分の額をぶつけた。
「ありがとう」
「……! 私もありがとう」
笑顔で私が応えると、精霊たちが祈るように手を組み、一瞬だけぶわっとピンクの光を強くさせた。
「……?」
何事かと首を傾げていると、精霊たちは羽根を動かしてもいないのに一斉にふわっと宙に浮いた。
そのまま舞い上がり、何かに吸い寄せられるように窓の方に向かっていく。
「ありがとうカナメ」
「ユリクもありがとう」
「たのしかった」
「スイーツもりょうりもおいしかったよ」
「ありがとう」
「ありがとう」
精霊たちは笑顔で私とユリクに小さな短い手を振る。
私たちも手を振って、窓を抜け空に昇っていく精霊たちを見送った。
精霊たちは最後まで私たちに手を振り、やがて見えなくなっていった。
精霊たちが空に昇っていく姿は、夕暮れの赤い空に精霊がふわふわしたピンクの光を放っていて、驚くほど綺麗で、神秘的だった。
シンと静まり返ったリビングで、私は泣くのをぐっとこらえる。
息を呑んでから、ユリクの方に向き直った。
「……寂しいね」
「うん、そうだね」
「スイーツもっと食べさせてあげれば良かったなぁ」
「もっと食べさせてたら、精霊たちのほっぺがもっとむちむちになってたんじゃない?」
「……ふふ、そうかも」
手を口に当てて私は控えめに笑った。
その日の夕食は、ユリクがパイシチューとジェノベーゼにローストビーフといった、豪勢で私の好物しかない料理を作ってくれた。
ユリクが「美味しい?」と聞いてきて、「美味しいよ」と応えたら「良かった」とホッとしたように笑っていた。
もしかして、励ましてくれたのだろうか。
ユリクの気持ちが嬉しくて、寂しかった心がふんわり和らいだ。
◇◇◇
『カナメ喫茶』の休日は一週間に一日のみだ。
一日休んだあとは休みではない朝がやって来る。
「ん……」
眩しい日差しに目が覚め、パジャマから普段着に着替える。
今日は裸のユリクはいないよね? と洗面所のドアを慎重に開け、いないことを確認して顔を洗った。
仕込みのためにトントンと階段を下って一階に行くと、ユリクが何やらテーブルに剣を置いてじっと見つめているところだった。
「ユリク、おはよう。どうしたの?」
「おはよう。いや、ちょっと気になって……」
ユリクが気になっていることが何かも気になるけど、今日はいつもより起きるのが遅かったので早めに仕込みをしなくてはならない。
私は後でユリクに訊こうと思い、急いで調理を開始しようと戸棚を開けた、のだが……。
「あっ! そうだ、チョコレート切れてたんだった!」
ちょうどチョコレートを昨日で使い切ってしまっていたのだった。
ティータイムの時間に精霊用にスイーツを作ったとき、ちょうど残っていたチョコレートを全部使ってしまったのだ。
今買いに行っても開店時間ギリギリに仕込みが終わるか、終わらないか……くらいになってしまう。
せめて調理器具の準備だけでもしておいて買いに行こう、とボウルを引き出しから取り出してワークトップに置くと——
……さらさらさら。
「え……?」
何もないところから小さな丸いチョコレートがたくさん生み出され、ボールの中に入った。
慌ててボウルの中を見ると、大量にチョコレートが入っていた。
「何もないはずなのに、え……、どうして?」
匂いを嗅いでみても完全にチョコレートの甘い香りだし、試しに一欠片食べてみても普通に美味しいチョコレートの味だ。
「ユリク、今魔法を使った?」
「……? いや?」
ユリクが怪訝な瞳でこちらを見て首を振る。
ユリクも私も何もないところからこんなものを生み出せる魔法は持っていないはずだ。
不安に思っていると、ふわっとチョコレートが光を放った。
ピンク色の、ふわふわの光だ。
柔らかいピンク色の光を発し、すぐに元のチョコレートに戻った。
「これって、もしかして……」
「何があったの?」
さっきの私の言葉を不安に思ったのか、ユリクがキッチンにやってきた。
「今チョコレートを切らしてて、器具だけ用意して買いに行こうと思って、ボウルを置いたんだけど……。チョコレートが勝手に生まれたんだよね」
「カナメが魔法を使ったわけじゃなくて?」
「うん、私はそんな高度な魔法できないし……。でもね、今チョコレートがピンク色に光ったの。だから、これは……」
「精霊の力、だよね」
ユリクは一度リビングに行き、剣を取って私のもとに戻ってきた。
その剣はこないだまでいろんな傷がついていたのに、綺麗に磨かれている。
「朝起きたら、剣がこんな感じになってたんだ。武器屋に行ったわけでもないのに。不思議に思ってたら、ピンク色に光ってね」
「……そっか……」
「多分、精霊たちのお礼なんだろう」
精霊たちは最後にありがとう、とたくさん言ってくれていた。
もしかして、祈るように手を組んだとき、私たちの世界に力を残してくれたのだろうか。
試しにチョコレートをつん、とつつくと、少しだけふわっとピンク色に光った。
精霊はいなくなってしまったけれど、こうして力を残しておいてくれたんだ。
まだ私たちと一緒にいた精霊たちの力が、私たちの家にあると思うと寂しさも薄れる。
「ふふ、ありがとうね」
チョコレートに礼を言うと、光りはしなかったけど精霊たちが笑っている気がした。
「……」
ユリクは私が早速このチョコレートで仕込みを開始しようとしているとき、本来なら朝食を作っているはずなのに、ずっと剣を見つめていた。
帰るというのは、大精霊から授かった魂を大精霊に返すということだそう。
つまり、今ここにいる精霊たちは大精霊に吸収され、いなくなってしまうのだ。
「そんな……本当にいなくなっちゃうの?」
しゃがんで精霊たちに訊くと、こくんと頷く。
「もう、力、ない」
「帰らないと、いけない」
力を使い果たしたということは、私が精霊たちを極限まで働かせてしまったということだ。
閉店後に毎回床やテーブルの掃除をさせてしまっていた。
精霊たちが疲れたらスイーツをあげていたとはいえ、ここまで力を使わせてしまったことは確か。
申し訳なくて眉尻を下げていると、まるで私の心中を読んだように精霊たちがぽてぽて歩いて私のもとに集まってきた。
「僕たち精霊は、にんげんに力をつかって、大精霊のもとに帰るのがさだめ」
「カナメがわるいんじゃない」
「そういううんめいなの」
「いっぱい役に立ててうれしかった」
精霊たちがにこにこと笑顔を私に向ける。
そういう運命、という言葉に胸が苦しくなると同時に、ふと疑問に感じることがあった。
「私のスイーツで、貴方たちの力を回復することはできないの?」
私が作るスイーツは『癒しの力』を持っているから、食べた人の体力や魔力は全て回復する。
それは獣人にも人間にも効果のあるものだ。
なら、精霊にも効果はあるんじゃないか?
そう思って訊いてみたけど、精霊たちは「うーん」と首を傾げて顎に小さな指をあてる。
「たしかにかいふくはするけど……」
「いずれ力がなくなることはひつぜんなの」
「人は生まれたら、かならず死ぬでしょう。それと、おなじなの」
「なるほど……そっか……」
人は生まれたら必ず死ぬという言葉にしっくりときて、私はしんみり感じた。
精霊たちも大精霊のもとに生まれて、やがて大精霊のもとに帰って、そしてまた大精霊のもとに生まれて……。
大精霊は人間にとっての神様みたいなものなのだろう。
それでも今まで一緒にいてくれた精霊たちがいなくなってしまうのは、やっぱり寂しい。
「どのくらいで、いなくなっちゃうの?」
「……たぶん、あしたくらい」
「あしただとおもう」
「え!?」
まさかそんなに早いとは思わなかった。
どうにかして、精霊たちが一日でも長くここにいられないかな……。
明日に突然いなくなってしまうのはすごく寂しくて、想像するだけでも胸が痛くなる。
少しでも精霊たちとお話したいし、もっと一緒に過ごしていたい。
カレンダーを見遣ると、ちょうど明日は休日だった。
私は精霊たちに今日の余ったスイーツをお腹いっぱい食べさせ、ふかふかのクッションに寝かせたあと、ユリクが作ってくれた夕飯を食べて風呂に入り、ゆっくり就寝した。
次の日の朝、私は必死に精霊たちの世話をした。
朝精霊たちは半透明の姿になっていて、力が弱まっているのが肉眼でわかってしまって心が苦しい。
どうにか元気にさせたくて、ユリクが作ったチキンサラダの葉を食べさせたり、スタミナのつく料理を作って一口ずつあげたりした。
精霊と一緒に庭に出て薔薇やマーガレットといった花の香りを嗅いで楽しんだり、私の部屋に行って本も読み聞かせた。
花の香りを嗅いだときは「いいにおい!」「おいしそう!」と喜んでいたし、本の読み聞かせをしたときは「この男の人、かっこいい!」「ぶとうかい、たのしそう!」「面白かった!」といろんな感想を言ってくれた。
ユリクも寂しいと感じているのか、昼食は精霊たち用に小さいサイズの料理を振舞ってくれた。精霊たちは頬にいっぱい詰めてもぐもぐしていて、可愛いかった。
昼食を食べたあとはユリクと私と一緒にジェスチャーゲームをやって笑い合い、十五時くらいになったら私がスイーツを作ってみんなで食べた。
でも、そのときにはもう精霊たちは遠くにいたら見えないほど身体が透けていた。
ピンクの光もとても弱まっている。
精霊たちは昨日、明日にはいなくなると言っていたから、その運命は覆せないのだ。
「今日は、ありがとう、カナメ、ユリク」
「たのしかった」
「さいこうのおもいで」
「……うん」
精霊たちがむちっとしたほっぺを上げてにこにこ笑う。
その笑顔すらももう近くで見ても透けていて見えにくい。
喉の奥がきゅうっと苦しくなる。
同時に涙腺が刺激されたけど、泣かないように少し上を向いた。
「……カナメ」
一体の精霊が私の顔にぱたぱた飛んできて、私の額にこつんと自分の額をぶつけた。
「ありがとう」
「……! 私もありがとう」
笑顔で私が応えると、精霊たちが祈るように手を組み、一瞬だけぶわっとピンクの光を強くさせた。
「……?」
何事かと首を傾げていると、精霊たちは羽根を動かしてもいないのに一斉にふわっと宙に浮いた。
そのまま舞い上がり、何かに吸い寄せられるように窓の方に向かっていく。
「ありがとうカナメ」
「ユリクもありがとう」
「たのしかった」
「スイーツもりょうりもおいしかったよ」
「ありがとう」
「ありがとう」
精霊たちは笑顔で私とユリクに小さな短い手を振る。
私たちも手を振って、窓を抜け空に昇っていく精霊たちを見送った。
精霊たちは最後まで私たちに手を振り、やがて見えなくなっていった。
精霊たちが空に昇っていく姿は、夕暮れの赤い空に精霊がふわふわしたピンクの光を放っていて、驚くほど綺麗で、神秘的だった。
シンと静まり返ったリビングで、私は泣くのをぐっとこらえる。
息を呑んでから、ユリクの方に向き直った。
「……寂しいね」
「うん、そうだね」
「スイーツもっと食べさせてあげれば良かったなぁ」
「もっと食べさせてたら、精霊たちのほっぺがもっとむちむちになってたんじゃない?」
「……ふふ、そうかも」
手を口に当てて私は控えめに笑った。
その日の夕食は、ユリクがパイシチューとジェノベーゼにローストビーフといった、豪勢で私の好物しかない料理を作ってくれた。
ユリクが「美味しい?」と聞いてきて、「美味しいよ」と応えたら「良かった」とホッとしたように笑っていた。
もしかして、励ましてくれたのだろうか。
ユリクの気持ちが嬉しくて、寂しかった心がふんわり和らいだ。
◇◇◇
『カナメ喫茶』の休日は一週間に一日のみだ。
一日休んだあとは休みではない朝がやって来る。
「ん……」
眩しい日差しに目が覚め、パジャマから普段着に着替える。
今日は裸のユリクはいないよね? と洗面所のドアを慎重に開け、いないことを確認して顔を洗った。
仕込みのためにトントンと階段を下って一階に行くと、ユリクが何やらテーブルに剣を置いてじっと見つめているところだった。
「ユリク、おはよう。どうしたの?」
「おはよう。いや、ちょっと気になって……」
ユリクが気になっていることが何かも気になるけど、今日はいつもより起きるのが遅かったので早めに仕込みをしなくてはならない。
私は後でユリクに訊こうと思い、急いで調理を開始しようと戸棚を開けた、のだが……。
「あっ! そうだ、チョコレート切れてたんだった!」
ちょうどチョコレートを昨日で使い切ってしまっていたのだった。
ティータイムの時間に精霊用にスイーツを作ったとき、ちょうど残っていたチョコレートを全部使ってしまったのだ。
今買いに行っても開店時間ギリギリに仕込みが終わるか、終わらないか……くらいになってしまう。
せめて調理器具の準備だけでもしておいて買いに行こう、とボウルを引き出しから取り出してワークトップに置くと——
……さらさらさら。
「え……?」
何もないところから小さな丸いチョコレートがたくさん生み出され、ボールの中に入った。
慌ててボウルの中を見ると、大量にチョコレートが入っていた。
「何もないはずなのに、え……、どうして?」
匂いを嗅いでみても完全にチョコレートの甘い香りだし、試しに一欠片食べてみても普通に美味しいチョコレートの味だ。
「ユリク、今魔法を使った?」
「……? いや?」
ユリクが怪訝な瞳でこちらを見て首を振る。
ユリクも私も何もないところからこんなものを生み出せる魔法は持っていないはずだ。
不安に思っていると、ふわっとチョコレートが光を放った。
ピンク色の、ふわふわの光だ。
柔らかいピンク色の光を発し、すぐに元のチョコレートに戻った。
「これって、もしかして……」
「何があったの?」
さっきの私の言葉を不安に思ったのか、ユリクがキッチンにやってきた。
「今チョコレートを切らしてて、器具だけ用意して買いに行こうと思って、ボウルを置いたんだけど……。チョコレートが勝手に生まれたんだよね」
「カナメが魔法を使ったわけじゃなくて?」
「うん、私はそんな高度な魔法できないし……。でもね、今チョコレートがピンク色に光ったの。だから、これは……」
「精霊の力、だよね」
ユリクは一度リビングに行き、剣を取って私のもとに戻ってきた。
その剣はこないだまでいろんな傷がついていたのに、綺麗に磨かれている。
「朝起きたら、剣がこんな感じになってたんだ。武器屋に行ったわけでもないのに。不思議に思ってたら、ピンク色に光ってね」
「……そっか……」
「多分、精霊たちのお礼なんだろう」
精霊たちは最後にありがとう、とたくさん言ってくれていた。
もしかして、祈るように手を組んだとき、私たちの世界に力を残してくれたのだろうか。
試しにチョコレートをつん、とつつくと、少しだけふわっとピンク色に光った。
精霊はいなくなってしまったけれど、こうして力を残しておいてくれたんだ。
まだ私たちと一緒にいた精霊たちの力が、私たちの家にあると思うと寂しさも薄れる。
「ふふ、ありがとうね」
チョコレートに礼を言うと、光りはしなかったけど精霊たちが笑っている気がした。
「……」
ユリクは私が早速このチョコレートで仕込みを開始しようとしているとき、本来なら朝食を作っているはずなのに、ずっと剣を見つめていた。
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