婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第49話 剣の練習

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◇◇◇

 それから一週間。
 ユリクはこの間、店が開店していない早朝に私よりも早く起きて剣を練習し、閉店後の夜私が寝た後も剣を庭で振るっていた。

 精霊が剣を磨いてくれたから、鍛える気になったのだろうか。
 ユリクは真剣な表情をして剣を空に振るっているので、そういうときは話しかけられない。

 私がちょうど起きてくるころにはお風呂で汗を流しているから、練習を見たところはこの一週間で二度くらいしかない。

 でもすごい努力をしていることは、時々触れるユリクの腕の固さや、目の下にうっすら浮かぶクマでわかった。

「……頑張ってるなぁ」

 朝食を済ませた後、部屋でぽつりと呟く。

 今日はちょうど精霊が帰って行った日から一週間が経った、休日だ。
 買い出しに行こうにも昨日の開店前に行ってしまったし、特にすることがない。

 ユリクと一緒にフェリタ街に行こうとも思ったのだが、剣の練習できっと疲れているだろう。

 私も疲れが溜まっているし、今日はゆっくり自室で本でも読んで過ごそう。
 と、猫脚テーブルに置いてある本を取ろうとしたとき。

 ——コンコン。

 玄関の戸を叩く音が、微かに私の部屋まで届いた。

 ——コンコン。

 気のせいかと思っても、再びドアがノックされる。
 控えめなドアの叩き方から、私はなんとなくある人が浮かんだ。

 玄関に行こうと部屋のドアを開けると、ちょうどユリクも部屋を出るところで、私と視線がかち合った。

 ユリクもノックの音が聞こえたのだろう。

「俺が出ようか?」
「ううん、大丈夫」

 この叩き方には心当たりがある。
 一階まで階段を下りていると、ユリクもついてきてくれて一緒に玄関まで行った。

 ユリクの心配そうな視線を感じながら、私はキイ、と音を立ててドアを開ける。
 看板も出していないし、「閉店中」のプレートも門前に飾ってあるから、休日に人がこの家にやってくることはない。ユリクが不安なのもわかる。

 でも、この控えめで姿を見なくても品があるとわかるような、ドアのノックの仕方は……。

「こんにちは、カナメ」

 深紅のローブを纏い、ローブの胸元には銀色の翼の紋章。
 陽に照らされ煌めく金髪を一つに結んでさらりと肩に垂らし、海よりも綺麗な青色の瞳。

 リュザが美しく微笑み虚無の瞳を向けながら、そこに立っていた。


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