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第53話 チョコレートドリンク
しおりを挟む「まだ練習してる……」
ユリクが練習している間、私は部屋に戻って本を読んでいた。
フェリタ街の市場を逸れた道に書店があるので、たまにそこでいろいろ本を買っている。
大体旅行の本やお菓子のレシピ本を買っていた。
旅行の本は地方の方の食べ物の特徴を知りたくて買い、お菓子のレシピ本はチョコレートを加えたら美味しそうと思えるようなお菓子が載っているのを探して買っている。
それらを読んで楽しむこと二時間。
部屋から出、階段を下りて一階の窓ガラスを覗くと、ユリクはまだ練習していた。
「大丈夫かな、疲れてたりしないのかなぁ」
この一週間朝晩ずっと剣の練習をしているし、疲れているはずだ。
私は剣を空中で突いたり払ったりしているユリクをリビングからそっと見つめた。
「……何か私にできることはないかな」
ユリクは開店中接客もほとんど行っているし、すごい疲労が溜まっていると思う。
私に何かできることがあれば、ユリクを癒したい。
見たところ、ユリクの周りに飲み物がない。
これだけ練習して飲み物を飲んでいないなんて、相当練習に没頭しているのだろう。
絶対に、喉が渇いているはず。
「それなら……」
私はキッチンの方まで歩いた。
ワークトップに牛乳と生クリーム、そしてチョコレートとボウルに念じ、精霊たちの力を借りてさらさらと生み出す。
「よし!」
私は腕まくりをして調理を開始した。
まず鍋に牛乳を入れて中火にかけ、ぼこぼこと沸騰したら火を止める。
そこにチョコレートを数回にわけて加え、なめらかになるまで泡だて器で混ぜる。
チョコレートと牛乳の甘い香りが鼻腔を刺激してきた。
なめらかになるまで混ざったら、生クリームを加えてさらに混ぜる。
「うん、できた!」
たった四工程だが、これでほとんど完成だ。
最後に粗熱を取って、私の魔法で冷やせば……。
「チョコレートドリンクの完成!」
試しにスプーンで掬って一口飲んでみる。
うん、甘くてすごい美味しい!
それを長めのコップに入れ、それだけでは寂しいのでドリンクの上にホイップクリームを絞り、チョコレートソースとチョコレートを砕いたものをぱらぱら乗せ、真ん中にメイナを添える。
以前に飲んだレインボードリンクにかかっていたトッピングシュガーみたいなのは買ってないからないけど、これだけでも結構可愛い。
「ユリクー」
太めのストローをさして、ホイップクリームとドリンクを零さないよう慎重に庭で練習しているユリクの元へと持っていく。
振り向いたユリクが、険しい表情からぱあっと明るい顔になった。
「なにそれ!」
「喉渇いてるかと思って……チョコレートドリンク作ってきたよ」
剣を置いたユリクにドリンクを渡す。
尻尾がこれでもかというくらいぶんぶん左右に振られていて、可愛い。
「飲んでいいの?」
「うん、どうぞ」
「……いただきます」
ユリクがストローに口をつけ、一口吸う。
途端、ハッとしたように目を見開いた。
ストローから口を離したかと思うと、再度咥えてチョコレートドリンクを吸い上げる。
ユリクは夢中で吸って、半分まで飲んでしまった。
ぷはっと息を吐いて私の方を向く。
「甘くてどこかさっぱりする味で、すっごく美味しい。体力もぐんぐん回復してくよ、本当にありがとう」
「ふふ、良かった」
「喉も渇いてたから、持ってきてくれて嬉しい。助かった」
ユリクは再びストローを口につけ、チョコレートドリンクを飲み込んでいく。
耳はぴんと立ち、尻尾もぶんぶん揺れてとてもご機嫌なようだった。
額には玉の汗が浮かんでいて、頬から顎に滴り落ちていた。
もうすぐ飲み干すというところで、私は気になっていたことをそれとなく訊いてみる。
「よく練習してるけど……森で魔物退治でもするの?」
「……」
ユリクは庭のテーブルにかけられた剣を一瞬見遣って、再び私に視線が移った。
「カナメに相談したかったんだ」
ずずっとチョコレートドリンクを一気に飲み干す。
真摯な表情で私を見つめて言った。
「俺、王国騎士団に入りたいんだ」
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