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第55話 王都へ
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◇◇◇
「それで、私に剣を教えて欲しいと」
王都にあるリッドフォード家の屋敷。
私たちは馬車を借り、屋敷までやってきた。
ユリクはフードを被り、尻尾をズボンの中に隠して馬車に乗り、私と共に屋敷に入った。
獣人は王都に居住することは認められていないが、歩くことくらいはできる。
けれど差別発言が聞こえたらユリクも良い顔をしないだろうから、フードとズボンでモフモフを隠した。
そしてたどり着いたお父様の書斎。
私が屋敷に来た旨を話すと、お父様はむっと眉を顰めた。
……そう、お父様は今では魔法省の大臣を務めているが、その前は王国騎士団の団長だったのだ。
そういえばそうだったなぁくらいで特に気にしてもいなかったのだが、剣がとてつもなく強いことは小さい頃リーナやリネス、他の使用人からも聞いている。
「ぜひ、お父様がユリクを鍛え上げれば、ユリクが王国騎士団に入ることを受け入れられ、王都での獣人の差別もなくなっていくかと思います。どうでしょう?」
「ふむ……」
「王国騎士団に一度落ちている人は、国が行う正式な入団試験でなくとも、日程を決めて個人的にもう一度試験を受けることが可能です。なので訓練は一か月、一週間、三日でもいいので、ユリクに教えていただけないでしょうか」
「よろしくお願いします」
「……」
私とユリクが頭を下げる。
王都に馬車で向かっている最中、ユリクと話をした。
もし王国騎士団に受かったら、カフェの存続は本当に大丈夫なのか。
ユリクは「大丈夫。絶対になんとかする」とだけしか言わず、今でも私は不安が残っている。
でも、元々ユリクは王国騎士団に入りたかったはずだ。
獣人の差別が王都に色濃くあるのに、諦めずに入団試験に出向いたのだから。
なら、ユリクの夢を叶えてあげたい。
私はぎゅっと拳を握りしめて頭を下げ続ける。
やがて、「頭を上げてくれ」とお父様の声が耳に届いた。
ユリクも私も上を向くと、いつも通りの無表情があった。
「私も獣人の差別が少なくなるよう、人事を尽くしたいのだが……」
「……!」
私はその言葉に思わず目を丸くする。
お父様の口から獣人の差別が少なくなるよう努力したい、なんて今までじゃ考えられなかった気がする。
きっと『カナメ喫茶』の生き生きとした獣人たちを見て、考えが百八十度変わったのだろう。
私は嬉しく思い、気付かれないようにこっそりと笑んでいると、お父様が革張りの椅子を引いてすっと立ち上がる。
「だが私も暇じゃない。やるならば今日から一週間のみだ。一週間後、入団試験を受けさせる。ユリクは客人の部屋に泊まり込みにする。その間、シェイラは『カナメ喫茶』を一人で営業することになるが、それでもいいか?」
お父様が私とユリクを交互に見つめる。
その瞳はギラギラと燃え上がっていて、いつもの覇気のない瞳とは一転、完全に王国騎士団団長の瞳になっていた。
私はユリクと視線を合わせて頷き、再びお父様の方を見て頷いた。
そして私はそのままルッカ村に帰り、ユリクとはしばらく離れて過ごすことになった。
私が馬車に乗る前、見送りに来てくれたユリクが私を見て微笑み、
「必ず帰ってくるからね」
と言ってくれた。
必ず帰ってくるという言葉に、私は安堵して馬車に乗り、ユリクが見えなくなるまで手を振った。
馬車の中で少し前にお父様に家に帰らされて、ユリクと会えなくなってしまったときのことを思い返す。
あのときとは違う。今回は絶対にまたユリクと会える。
しばらくユリクと会えないけれど、必ずまた姿を見れることに温かな安心を覚えていた。
「それで、私に剣を教えて欲しいと」
王都にあるリッドフォード家の屋敷。
私たちは馬車を借り、屋敷までやってきた。
ユリクはフードを被り、尻尾をズボンの中に隠して馬車に乗り、私と共に屋敷に入った。
獣人は王都に居住することは認められていないが、歩くことくらいはできる。
けれど差別発言が聞こえたらユリクも良い顔をしないだろうから、フードとズボンでモフモフを隠した。
そしてたどり着いたお父様の書斎。
私が屋敷に来た旨を話すと、お父様はむっと眉を顰めた。
……そう、お父様は今では魔法省の大臣を務めているが、その前は王国騎士団の団長だったのだ。
そういえばそうだったなぁくらいで特に気にしてもいなかったのだが、剣がとてつもなく強いことは小さい頃リーナやリネス、他の使用人からも聞いている。
「ぜひ、お父様がユリクを鍛え上げれば、ユリクが王国騎士団に入ることを受け入れられ、王都での獣人の差別もなくなっていくかと思います。どうでしょう?」
「ふむ……」
「王国騎士団に一度落ちている人は、国が行う正式な入団試験でなくとも、日程を決めて個人的にもう一度試験を受けることが可能です。なので訓練は一か月、一週間、三日でもいいので、ユリクに教えていただけないでしょうか」
「よろしくお願いします」
「……」
私とユリクが頭を下げる。
王都に馬車で向かっている最中、ユリクと話をした。
もし王国騎士団に受かったら、カフェの存続は本当に大丈夫なのか。
ユリクは「大丈夫。絶対になんとかする」とだけしか言わず、今でも私は不安が残っている。
でも、元々ユリクは王国騎士団に入りたかったはずだ。
獣人の差別が王都に色濃くあるのに、諦めずに入団試験に出向いたのだから。
なら、ユリクの夢を叶えてあげたい。
私はぎゅっと拳を握りしめて頭を下げ続ける。
やがて、「頭を上げてくれ」とお父様の声が耳に届いた。
ユリクも私も上を向くと、いつも通りの無表情があった。
「私も獣人の差別が少なくなるよう、人事を尽くしたいのだが……」
「……!」
私はその言葉に思わず目を丸くする。
お父様の口から獣人の差別が少なくなるよう努力したい、なんて今までじゃ考えられなかった気がする。
きっと『カナメ喫茶』の生き生きとした獣人たちを見て、考えが百八十度変わったのだろう。
私は嬉しく思い、気付かれないようにこっそりと笑んでいると、お父様が革張りの椅子を引いてすっと立ち上がる。
「だが私も暇じゃない。やるならば今日から一週間のみだ。一週間後、入団試験を受けさせる。ユリクは客人の部屋に泊まり込みにする。その間、シェイラは『カナメ喫茶』を一人で営業することになるが、それでもいいか?」
お父様が私とユリクを交互に見つめる。
その瞳はギラギラと燃え上がっていて、いつもの覇気のない瞳とは一転、完全に王国騎士団団長の瞳になっていた。
私はユリクと視線を合わせて頷き、再びお父様の方を見て頷いた。
そして私はそのままルッカ村に帰り、ユリクとはしばらく離れて過ごすことになった。
私が馬車に乗る前、見送りに来てくれたユリクが私を見て微笑み、
「必ず帰ってくるからね」
と言ってくれた。
必ず帰ってくるという言葉に、私は安堵して馬車に乗り、ユリクが見えなくなるまで手を振った。
馬車の中で少し前にお父様に家に帰らされて、ユリクと会えなくなってしまったときのことを思い返す。
あのときとは違う。今回は絶対にまたユリクと会える。
しばらくユリクと会えないけれど、必ずまた姿を見れることに温かな安心を覚えていた。
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