面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第10章 ひとときの休息

第265話 おや?

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 ケビンが姿を消してからしばらくの日にちが経過した頃、カロトバウン家の庭ではカインが黙々と鍛錬に励んでいる姿があった。

 既に戦争で受けた精神的な傷は癒えて、体も何不自由なく使えるまでに回復している。

 そしてそこへ、ここ最近の日課である1人の女性が現れた。

「今日も精が出るわね」

「ん? あぁ、ルージュさんか」

「よくそんな飽きずに続けられるわね」

「今回の原因は俺が弱かったせいだ。弱いなら鍛えて強くなるしかない」

「戦争なんだから仕方ないじゃない。貴方の責任じゃないわ」

「いや、俺がもっと強ければあの時シーラを守りきれた。そうしたらシーラが皇帝へ献上されることもなかったし、ケビンもああなることはなかった。全ての責任は俺にある」

「自惚れよ。いくら貴方が強くても何千、何万という兵士相手に1人で勝てるわけがないでしょ。しかも人を守りながら戦うのよ?」

「自惚れでも構わねぇ。強くならなきゃ意味がない」

「そのひたむきさは尊敬するわ」

「ルージュさんもよく飽きずに見にくるよな?」

「私も剣士の端くれなのよ? 剣士なら強い人がいると気になるもんじゃない?」

「俺はそんなに強くないぞ。強くないから鍛錬してる」

「ねぇ、試合してみない?」

「ルージュさんとか?」

「私以外に誰がいるのよ?」

「あまり気乗りしないけどなぁ」

「今の貴方の強さがわかるでしょ? 誰とも戦わないで鍛錬だけで強くなれると思うなら、それこそ酷い自惚れよ」

「……それもそうか」

 カインとルージュはこの日より次第にお互いを高め合うように切磋琢磨することになる。

 カインは戦争でシーラを守れずケビンに負担をかけたことを、ルージュは気落ちしている妹の力になれない鬱憤を晴らすかのように。

 最初の入り方はどうであれ、それはやがてなくなり純粋に今よりも強く、もっと強くと研鑽に励んでいくのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 やがて月日は経ち半年が過ぎようとしていた頃、ティナたちも悲しみから立ち直っており次の行動に向けて動き出そうとしていた。

「私、帝国に行こうと思う」

「何故?」

 ティナの突然の言葉にニーナはその真意を知るため問い返すと、真剣な面持ちでティナが答えた。

「レティから聞いたんだけど、帝城にはケビン君が守っている女性たちがいるの」

「奴隷の方たちですね」

 その言葉にスカーレットが反応する。彼女はケビンからの手紙を読んだ後、すぐさま行動してアリスと連絡を取り合い、3ヶ月後には既に護衛とともに馬車でカロトバウン家へと到着していた。

 スカーレットがカロトバウン家に着いた時は、ティナたちとも面識がありケビンの婚約者ということもあってサラはすんなり受け入れ、今はカロトバウン家で生活を送っている。

「アリスが言っていました。帝城の女性たちは男性に酷い目に合わされていた人たちであり、行き場のない彼女たちをケビン様が保護しているのだと」

「そう、その人たちは今のところケビン君の結界で守られているけど、帝城の外では衛兵が護衛をしているらしいの」

「その通りです。結界は帝城に張られていますが買い物とかは自身で行う必要がありますので、帝城の外へ出る機会があります。食料とかに関しては衛兵の方たちが率先して代わりに買いに行っているそうですが、女性用の品物に関しては女性たち自身で買いに行く必要があるので、その時に護衛がつきます」

 ティナの言葉にスカーレットが補足説明をしていく中で、ニーナがティナのしようとしていることに気づく。

「女性たちの護衛?」

「そうよ。いくら護衛とは言っても男性でしょ? 男性と一緒では入りづらいお店とかもあるはずよ。ケビン君が置いているくらいだからきっといい男性なのには違いないけれど、それでも気にしてしまう女性はいると思うの」

「その男性たちも元は奴隷でケビン様が助け出された方たちです」

 そこで沈黙を守っていたクリスが口を開く。

「要するに、ケビン君がいなくなって不安がっているかもしれない彼女たちのお世話をするのね?」

「その通りよ。いつまでも悲しんでいられないわ。ケビン君がいつか戻ってきた時に笑顔で迎えられるように、私たちは私たちでできることをしましょう」

「それならば、まずは向こうに着いたらマリアンヌ王妃様に会いましょう。王妃様が彼女たちとの橋渡し役をしていらっしゃいますから」

 こうしてティナたちは、ケビンが守っている女性奴隷たちの元へと旅立つ準備を始めるのである。

 そして数日後、ティナにも予想だにできない、一体誰が予想できたであろうかと思える事態が起こる。

「え? 姉さん、もう1度言って?」

「だから、私はここに残るって言ってるの。サラ様にも許可を貰ってるし」

「熱でもあるの?」

「違うわよ!」

「ふふふっ、ルージュさんはね、カインと離れるのが嫌なのよ」

「ちょ、サラ様!」

 ルージュの気持ちをバラしてしまったサラに、慌てふためきながらルージュは止めようとするが既に遅い。

「え……えっ!? いつの間にっ!?」

「随分と前からよね? カインと一緒に鍛錬をしているのは」

「姉さん、カインお義兄さんのことが好きなの!?」

「天変地異……」

「シスコン卒業かぁ……」

「素敵ですね」

 それぞれが感想をこぼしていると、ルージュは顔を赤らめて俯いてしまう。そこへやってくるは空気を読めない男、うっかり屋のカインであった。

「みんな集まって何してるんだ?」

「カインとルージュさんのことを話しているのよ」

「ん? 俺とルージュさん……? 鍛錬か?」

「そうよ。随分と前から一緒に鍛錬をしているでしょう? それでティナさんたちが帝国に行くって言ったけど、ルージュさんは残るって決めたのよ」

「そうなのか? ルージュさんはシーラと同レベルのシスコンって聞いたけど、熱でもあるのか?」

「ち、違うわよ!」

 ルージュは想い人のカインから、まさか妹と同じことを言われてしまうとは思いもせず即座に否定した。

「ふふっ、カインはルージュさんのことどう思う?」

「ルージュさんか? 強くて素敵だと思うぞ。見た目も綺麗だしな」

 後のことなど何も考えていないカインの思った通りの素直な言葉に、ルージュは先程以上に顔を赤らめて湯気でも出てしまいそうな勢いである。

「それならルージュさんの面倒はカインに任せようかしら?」

「面倒? 面倒なんて1度も思ったことはないけどな」

「それならずっと見てあげるのよ? 男に二言はないわよね?」

「何かよくわかんねぇけど、ケビンほどじゃないが面倒見る甲斐性くらいはあるぞ」

 当然、カインの見る面倒とは鍛錬の相手であり、ケビンほど上手く指導はできないがちゃんと相手をするという意味である。

「良かったわね、ルージュさん」

「~~ッ!」

 話が纏まったかと思いきや、意味のわかってないカインが更に会話を続ける。

「いつまで見てればいいんだ? ティナさんたちが戻るまでか?」

「あらあら、もう二言を覆す気なのかしら?」

「ん?」

「カインお義兄さん、姉さんのことを大事にして下さい」

「そりゃあ、大事にするけど……体に残るような怪我とかさせられないしな」

 更に続くズレていないようで少しズレた内容の言葉に、女性たちから祝福の言葉が次々に贈られてくる。

「お幸せに」

「お義兄さんも意外とやるね」

「男らしいです」

「ん? やっぱり何かおかしくないか?」

「おかしくないわよ? カインは嫌いな人のことなんて面倒見ないでしょ?」

「そりゃあ、嫌いな奴のことなんか面倒見たくねぇし」

「それならルージュさんは好きよね?」

「ああ、好きだぞ」

「ほら、ルージュさん。カインが好きって言ってくれたわ」

 サラがルージュにそう伝えるが、ルージュは既にカインの言葉でノックアウト寸前であった。

「一体どういうことなんだ?」

 そこへ偶然(?)通りかかったアインがカインに伝える。

「カイン、おめでとう」

「兄さんか? 一体何なんだ?」

「カインのうっかり癖も、ここまでくれば才能としか言いようがないね」

「え?」

「カイン、男に二言はないからね。しっかりルージュさんを幸せにするんだよ」

「どういうことだ?」

「ケビンほどの甲斐性はないけどずっと面倒を見てあげるんだろ? 更には大事にすると言って、好きだと告白もしたんだ。これを祝福しないなんてありえない」

 アインから淡々と告げられていく自分の言った言葉に、カインもようやく理解が追いつきことの真相に気づいてしまった。

「マジか……」

「あら、嫌なの? カイン」

「いや、ルージュさんは大丈夫なのか?」

 当の本人がどう思っているのか知らないカインは、ルージュに尋ねてみると消え入りそうな声でルージュが答えた。

「……私も……カインさんが……好きです……」

「良かったじゃないか、カイン。両想いだよ」

「そうか……それなら問題ないな。よし! ルージュさん、俺と婚約してくれ。指輪は後で一緒に買いに行こう」

「……はい……お願いします」

「姉さん、良かったね」

「お幸せに」

「ケビン君、戻ってきたらビックリするだろうなぁ」

「カインお義兄様は男らしいです!」

 こうしてルージュはシスコンから卒業して、めでたくカインと婚約することになったのである。

 その後のルージュは片想いから両想いになったことで、ティナにしていた時のようなベッタリをカインに向けてするが、カインは特に邪険にもせず受け入れるのであった。

 それから更に数日後、準備の整ったティナたちは帝国へ向けて出発するのであった。
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