面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第12章 イグドラ亜人集合国

第336話 次は誰だ?

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 セボサでの出来事が終わったケビンたちは旅の続きを始めると、ようやく国境沿いまで到達した。

 ケビンたちが関所を無事に抜けると先に見える光景は自然豊かな風景で、木々を伐採したりしてあまり開拓をしていないような印象を受けるのだった。

「やっとイグドラ領に入れた」
「自然豊かだわ。故郷を思い出すわね」
「ケビン、街ってあるの?」
「見た感じ木しかないよね」
「自然がいっぱいです!」
「これこそ騎士が守るべき風景」
「相変わらず何もないとこよのぅ」

「ん? クララは来たことがあるのか?」

「人の姿では初めてだな。ドラゴンの時に散歩がてら上空を飛んだことはある」

「阿鼻叫喚だっただろうな……」

 それから1週間ほど経つとようやく集落らしき村が見えてきた。ケビンたちは驚かせないようにバイコーンから降りて、徒歩で村へと近づいていく。

 驚かせないためとあってもバイコーンはやはり目立つようで、あっという間に村の大人たちが警戒心を露わにして、武器を手に集まりだした。

「何者だ」

「冒険者をしているケビンと申します」

「それは魔物だろ?」

「はい、仰る通りで確かに魔獣ですが従属させていますので皆さんを襲ったりはしませんし、ギルドにもきちんと登録をしていますので証拠となる首輪もついています」

 ケビンはそう伝えると首輪が見えるようにバイコーンを横向きにすると、それを見た大人たちが口々に本物であることを呟いていく。

「確かに……従魔の首輪だ」

「ご理解頂けましたら武器をおろして欲しいのですが……」

「すまない。悪気があって言うのではないが、人族は信用できないのでつい反射的に構えてしまった」

「いえ、お気持ちはわかります。私の知人にも奴隷の獣人の方がいますので」

「獣人が知人だと?」

「はい、誤解のないようにお願いしたいのですが、奴隷として酷い扱いを受けていた獣人の方を助け出したら気に入られてしまいまして、今は私の奴隷として働いています」

「お前の奴隷だと!? 何処にいる?」

「今は私の家の農地の管理などをしています」

「嘘じゃないだろうな? 人族はすぐに嘘をつく」

「証明になるかどうかわかりませんが、その子は兎人族です。あとは猫人族だったり、狼人族だったりと色々な種族の方にお世話になっています」

「どの種族も警戒心が強い者たちばかりではないか」

「そうなんですか? あまり警戒されたことはないのですが。まぁ、怒られたことはありますが」

「お前が主なのに奴隷から怒られるのか?」

「普通に接するように命令していますから。奴隷として扱いたくないのです。ちなみに怒られた理由は狼人族ということを知らず、その子へ『犬なの?』って聞いた時ですね」

「それは怒られて当然だ。狼人族に対して犬呼ばわりするのは最大の侮蔑だからな」

「その時もそういう風に教えてもらいました。『私は犬じゃなくて狼です!』って」

「嘘をついているような感じではないな」

「それとちょっとお聞きしたいのですが、犬人族っているんですか?」

「狼人族の子に聞かなかったのか?」

「いやぁ、怒られたあとで聞くって勇気がいるじゃないですか? 怖くて聞けなかったんですよ。もしかしたら質問に“犬”が入ることすら許されないんじゃないかって」

「ははっ! お前は人族にしては面白いな。奴隷の主のくせに奴隷から怒られて怖いのか? ははは!」

「凄い剣幕で怒ってきたんですよ? あれは誰でもビビりますよ!」

「気に入った! みんな、こいつらは悪い人族ではない! 解散しても大丈夫だ! それと、犬人族は普通にいるぞ」

 ケビンのバカ正直な包み隠さない話に気を許した獣人族の者が解散の合図を出すと、集まっていた大人たちは散り散りに去って行くのだった。

「改めて、俺は狐人族のゴンと言う。ここはイグドラ領とアリシテア領の繋ぎの地で、コトネクの村だ。君たちの来訪を歓迎しよう」

「ありがとうございます。俺は先程申した通りで名前はケビン。この冒険者パーティーのリーダーをしています」

 それからケビンたちはゴンの案内で村の宿屋を紹介してもらい、腰を落ち着けることにしたのだった。

「それにしても警戒心が強かったわね」

「奴隷狩りにあったり差別されたりしたんだ。当然の結果だな」

 案内される時のゴンの話では、人族でも1度認められたものは通行証を貰えるようで、それさえ見せればイグドラ領はある程度自由に村や街の出入りができるそうである。

 ケビンもこの後その通行証をゴンから受け取る手筈になっており、今後はそれを見せれば先程のようなことはなくなるということだった。

 頻回に訪れる旅の商人などは顔馴染みになって、通行証を見せる前に声をかけられることもあるという。

 ケビンたちは頻回に訪れる予定はないので、通行証は旅の間も旅が終わっても必需品となってくる。

 問題となるのは通行証が役割を果たさない、人族排斥主義の者たちだと説明を受けた。

 その時のゴンは申し訳なさそうに話していたが、「元は人族のせいだから気にすることはない」とケビンが伝えてフォローを入れると、益々気に入られたようで「人族らしくない」とまで言われてしまう。

 夕暮れ時にゴンから通行証を受け取ると、ケビンたちは宿屋のご飯を食べて部屋へと戻っていく。

「さて、ケビン君。なんか流れで宿屋に泊まることになったけど、今日は誰と寝る? 余った人たちで借りている他の部屋を使うから」

「ん? 空間魔法を使って一時的に広くするからみんなで寝れるよ?」

「え……それじゃあ、今までも宿屋に泊まれたんじゃ……」

「ティナは宿屋と携帯ハウスはどっちがいい?」

「……携帯ハウス」

「そういうこと。わざわざお金を払ってまで泊まる必要もないだろ?」

 その後、空間を広げたケビンによって全員で同じ部屋を使い寝泊まりするのであった。

 翌日、朝食を食べたケビンたちはゴンに別れを告げるとコトネクの村を出発する。

 ゴンの話ではこのまま西へ向かえば【ディルノック】という名の街に着くとのことで、最初に抱いた木々だけの国かと思いきや、ちゃんと街道が作られており特に寄り道をすることもなく街までは迷いもせずに進むことができた。

 やがて着いたディルノックの街の入口で早速渡されていた通行証を見せると、ケビンたちは難なく街の中へ入ることができて、そのまま冒険者ギルドへ足を運んだ。

 道中ではそれなりに魔物を倒したりもしていたので、買い取りの手続きを済ませると、ケビンたちは面白いクエストがないか物色をするのである。

 前回の地下通路のクエストでカーバインから疲れたという名の計らいがあって、アリスとシーラは晴れてAランク冒険者となっており、クエストもSランクまで受注可能となっていたが、Sランククエストが然う然うあるわけでもなく、アリスはクエスト掲示板とにらめっこをしていた。

 けれども、その日は結局クエストを決めきれずに、みんなで携帯ハウスへと帰るのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 数日後の朝、いつものように朝食を済ませたらアリスが体調不良を訴えて、ケビンが鑑定をすると妊娠していることが判明した。

「アリス、おめでとう。子供ができてるよ」

「本当ですか……良かったです……妻の役割の1つを達成できました」

 体調不良のためかいつものように元気に答えていく訳ではなく、大人しい声で言葉を紡ぎ出していたが、ケビンへ心配をかけないように精一杯微笑んでみせるのだった。

「無理しなくていいからね。キツい時はしっかりと休むんだよ」

「はい……でも、ケビン様との冒険が終わってしまうのがとても残念です」

「子供がある程度育ったら子供と一緒に冒険をしよう」

「ふふっ……また新しい夢が1つ増えました。ケビン様といると夢がどんどん増えてどんどん叶ってしまいます」

「今日はゆっくりと休んでね。落ち着いたら帝城へ送るから」

「ありがとうございます」

 それからケビンはアリスが寝付くまで傍で手を握って、今日は家の中でゆっくり過ごそうと決めるのであった。

 ケビンがアリスに付きっきりの頃、リビングでは嫁たちが女子トークを繰り広げていた。

「アリスの体調不良は妊娠よね?」

「多分、そうだろうね。朝食も少ししか食べていなかったから」

「私も早くケビンとの子供が欲しい」

「子供か……私は難しいだろうな」

「クララも妊娠するよ。相手はあの絶倫皇帝ケビン君だよ」

「ティナ、何気に酷い言い方だね」

「いや、回数の問題ではなくてだな。人と魔物であろう?」

「それこそ間違ってるよ。人と魔物の子供ができないなら、ゴブリンやオークが女性を攫うわけないじゃない」

「あやつらの精は特殊だからのぅ。相手がメスで卵を成せれば何でもいいのだ」

「え……ドラゴン相手でも作れちゃうの?」

「ああ、作れるぞ。大昔に1匹、馬鹿な若いドラゴンが罠にかかっての。見事に輪姦されて孕まされおった。その後、卵の中からドラゴンではなくドラゴンの血を引くオークが出てきた時には驚いたものだ」

「クララってそれを見たの?」

「そりゃあ見るだろう。どうなるのか興味が湧くではないか。ドラゴンとオークの子供だぞ? 名付けるならドラゴンオークだ」

「それで? その後ドラゴンとその子供はどうなったの?」

「私が殺した。無論、孕ませた奴らもな。皆殺しだ」

「「「え……」」」

 今のクララからでは想像もできない残酷な処置に、その場にいた者は言葉が出なかった。

「オーク如きの罠にかかるなど龍族の恥さらしな上、孕ませられおったからな。集会により処刑は決まっておったが、何が生まれてくるか見たくてな。産むまでは誰にも手出しさせんかったから、私が処刑係になったのだ。無駄にドラゴンの血を引いておる分、生まれてきた子供をそのまま放置すると危険だからの。赤子のうちに殺したのだ。オーク共はその後に燃やし尽くしてやったわ」

「クララって今更ながらに怖いね」

「私の本質はドラゴンだぞ。そなたらに手出しをせんのは主殿の大切な人だからだ。無関係なら私に無礼を働いた時点で殺しておるわ」

「この時ほどケビン君の嫁でよかったって思うことはないわ」

「ケビンは凄いからね!」

「ケビン君様様だね」

 ティナたちの話がひと段落すると控えていたニコルが声をかけてくる。

「奥様方、お茶のおかわりは如何されますか?」

「もらうわ。それとニコルも一緒にお喋りしよ」

「そうよ、ニコル。実家勤めじゃないんだから気楽にしてなさいよ」

「ニコルも話そうよ」

「そなたは変なところで堅物だの。エッチの時は弾けておるのに」

「クララ様、今それを言わないでください」

 和気あいあいとしている中で、クララも参加となった女子トークは振り出しに戻るかのようにケビンとの子供の話になる。

「次は誰かな? 私とアビーとクララはないからクリスかシーラね」

「私の勘だとシーラかな」

「えっ!? 私?」

「うん。スイッチが入った時のシーラって、ケビン君を凄い欲しがるでしょ? あれを見ると本当に心から愛しているんだなって思えちゃうもん」

「うぅぅ……」

 シーラは睦ごとの最中のことを思い出したのか、真っ赤になって俯いてしまう。

「私はクリスだと予想してるんだけど。何気に誰とでもペアを組めるし、抵抗なく絡み合うでしょ?」

「女の子相手に抵抗をなくさせたのはティナなんだけど」

「それは……しょうがないじゃない。燃えちゃったんだもん」

「別にいいんだけどね。みんなのことはケビン君の次に好きだし」

 クリスの発言の後に、黙っていたクララが自らの予想を口にした。

「私は大穴狙いでニコルにしておくかの」

「えっ、私ですか!?」

「ああ、そうだ。私と同じ日に初めて抱かれたであろう? そなたには愛着があるのだ。それにそなたの装備にはドラゴンが描かれておるしの」

「あっ、あれはケビン様の昔からの家紋であり、エレフセリア帝国の国章でもあるからです。メイドなので騎士にはなれませんが、昔から憧れる騎士らしく装備には主の家紋を刻んでおきたかったからです」

「なんと!? 主殿は昔から私を従えるのを予見しておったのか」

 クララはニコルの装備品に描かれている絵がケビンの家紋と聞いて喜びを顕にするが、家紋の由来を知っているティナが申し訳なさそうに教えるのであった。

「あぁぁ……クララ……喜んでいるところ悪いんだけど、あれはドラゴンを殺すって意味合いがあるのよ。ドラゴンの下に刀が2本交差しているでしょう? あれはケビン君の愛刀でその刀で殺すって意味合いがあるの」

「ふむ……刀なぞ描かれておったかの?」

 クララにとって刀よりもドラゴンが描かれていることの方が重要であったため、刀の存在など頭の片隅にすら残ってはいなかったのである。

 そのようなクララに、ニコルがマジックポーチから盾を取り出すとテーブルの上に置いて、家紋が見えるようにしたのだった。

「ほら、ここよ」

 ティナの指し示す場所に刀が交差している絵が描かれており、クララは初めてそれを認識する。

「確かにあるな……だが、私は1度もこの刀を見たことがないぞ? 主殿の愛刀なのであろう?」

「そりゃあケビン君が近接戦闘をしないからだよ。いつも後方で待機しているでしょ? だいたいは手加減のできないクララのストッパー役として」

「クリスは手厳しいの。そもそもドラゴンが手加減などする方がおかしいのだぞ? 圧倒的な力でねじ伏せる。それがドラゴンだ」

「まぁ、わからなくもないわ。で、クララはニコルに票を入れたけど、当たる確率はないわよ? ケビン君が避妊魔法を使っているし」

「ああ、妻を先に孕ませるというやつか。ニコルに対してうっかりかけ忘れて孕ませるってことがありそうだがな。しかし、主殿は色々な女に手を出しておいて変なところで頑固よな」

 クララの言葉に一同は同じ思いなのか、無言で頷くのだった。

「変に義理堅いところも魅力ではあるんだけどね」

「それで? 残りのシーラとニコルは誰に票を入れるのかな?」

「私はティナかな? 何だかんだでいっぱい抱いてもらってるし、種族的にできにくいって言われててもできないわけじゃないから。ニコルは?」

「わ、私ですか!? 私は仕えていたこともあるのでカロトバウンのご息女であるシーラ様に身篭って欲しいと思います」

 その後もケビンが現れるまで女子トークは終わらず、ケビンをどうやって楽しませるか、好きな体位は何かなどピンク色に染まっていくと、次第にシーラは直接的な内容に恥ずかしくなり聞き役だけになってしまうのだが、俯きながらもしっかりと聞き漏らさないように耳へ集中していたのであった。
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