本当にそれ、ダンジョンですか?

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初級冒険者の章

第71話 ビアンカちゃんからは逃げられない

 七海さんと恋人になり、順風満帆な毎日を送っていた矢先の事である。ダンジョン攻略が少し省力的になっているなと思っていたけれど、まさかビアンカちゃんに追求されるとは思ってもみなかった。

 そりゃあビアンカちゃんとエッチしたいかと言われたらしたいに決まっている。でもね、七海さんという素敵な彼女が居るので浮気はしないのです。七海さんを悲しませたくない、七海さんには笑顔でいて欲しい。お仕置きが怖い訳じゃないよ?

 ボクとビアンカちゃんは酒場のバーカウンターに並んで座り、お話をする事にした。ギルマスは帰って来ないし、夏子さんはお茶を出してそそくさと居なくなってしまった。逃げたな……。

「おにーちゃん聞いてる? もう1ヶ月も経つのにまだ中級冒険者にもなれないなんて下手過ぎだよ。もっとやる気出してくれないと温厚なビアンカちゃんだって怒るよ?」

「ひーん、ごめんないさいー。でもでも、ボクも頑張ってるんです。ほら、昨日なんて14階まで行ったんですよ。もう少し武器が強ければクリア出来たと思うんだよねー」

 本音を言うと11階から先は楽しくないのだ。何ていうかモンスターが本格的になったっていうのかな、遊び心を忘れてしまったようなガチ勢向けなのです。もっと可愛い女の子がいっぱい出て来て欲しいのにゴリゴリマッチョなギルマスが出てくる感じ? やる気出ないんだよねー。

 深い階層に行けばいいアイテムが出るって訳でもないし、持ち帰り金庫を拾ったらもう満足っていうのかな、その瞬間に冒険者からトレジャーハンターにクラスチェンジですよ。今度はラブリーポーション持って帰って七海さんに飲んで貰おうかな。

「…………はぁ。本当に大丈夫?」

「もちろんです。ボクはやれば出来る子って言われて育ちましたからね。頑張りますよー」

 ビアンカちゃんを安心させるため、キリっとした決め顔で伝えました。そのうちクリア出来るっしょ!!

「…………いつまで?」

「えっ?」

「いつまでにクリアするの?」

「そ、それは……がんばりましゅ」

 ジワジワと詰め寄るビアンカちゃんを見て思った。ああ、これが上司に問い詰められる平社員なのかと。

 あの熱い夏の日、喫茶店でサボるインテリサラリーマンがペコペコと頭を下げて電話していたのを見て内心ゲラゲラと笑っていた。きっと彼もこんな気分だったのだろう。でもボクの場合は上司がビアンカちゃんだからね、イケメンフェイスでニパーっと笑えば許して貰えますよ。ニパー♪

「…………へぇ。やっぱりおにーちゃんクリアする気ないんだ。おにーちゃんが童貞卒業したから想い出上書きエッチの準備はバッチリだっていうのに、エッチしたくないんだ~」

「そ、そそそ、そんな事ないですー! ボクはいつでもやる気満々ですよ? 早くビアンカちゃんとエッチしたくてウズウズしてますー!」

 イケメンフェイスが通じなかった!? それに何ですか想い出上書きエッチって。あれか、七海さんと初キスした時のアレか!

 今のボクは初々しいエッチで大満足なので上書きとか本当に必要ないと思う。

「そっかそっか、ウズウズしてるなら早い方がいいよね♪ しょうがないなぁおにーちゃんは。ビアンカちゃんが手伝ってあげちゃおうかな~」

「な、なんで手を引いて行くんですか? あのあの、手伝って貰わなくてもボクならクリア出来ますよー!?」

 強引に手を引かれた先は黒いゲート。もしかしてビアンカちゃんと二人プレイですか? そもそもビアンカちゃんと二人プレイって可能なんですか?

 色々と確認したいけどギルマスが居ません。どこ行っちゃったのギルマスぅー!

「よーし、ビアンカちゃんの本気を見せてあげるね♪」

「ちょ、ギルマスー! これ大丈夫なんですかー!?」

 ボクの言葉を聞いたであろうギルマスが奥の部屋からチラッと顔を出して覗いているのが見えた。あのマッチョ、やっぱりビアンカちゃんには強く言えないのか……。

 そうしてボクはビアンカちゃんと二人プレイをする事になったのだった。



   ◇



 来てしまいましたダンジョン1階です。どうやらビアンカちゃんが協力してくれるらしいですよ。

 黒い下着のような露出の激しいエチエチ衣装に翼や尻尾といったサキュバス独自のパーツがエロカワイイ。プカプカと宙に浮いてるし、初めて会った時のゴスロリドレス姿と全然違います。

 これがサキュバスクイーンの姿なのだろう。

「よーし、サクサクいくよー!」

「あれ、二人プレイなのに普通にプレイできるんだ。七海さんと来た時は一人は観戦モードだったのに」

 そう言えばギルマスが言ってたな、中級冒険者から使える酒場で仲間と一緒に冒険出来るって。それと同じ感じなのかな。

「あ、おにーちゃんにはこれを渡しておくね。ビアンカちゃんからのプレゼント♪」

「これは満腹の指輪?」

「うん。ビアンカちゃんがお願いしたら筋肉の人がくれたの。いひひ、ビアンカちゃんの人徳ってやつだね~」

 マッキュのマスコットキャラクターが可愛くデフォルメされた指輪を貰いました。これは満腹の指輪、空腹度が減らない素敵なアイテムです。

 もしかしてギルマスが顔を出さなかったのってこれのせいか? 哀れギルマス……。

 指輪を一度マジックバッグに入れて装備してみました。でもこれ……。


【マジックバッグ】
・ビッグマッキュセット
・呪われた満腹の指輪(装備中)


「あちゃー、呪われてる指輪だったね~。まあ空腹の指輪じゃないから問題ないよね♪」

「う、うん」

 ふと違和感を感じた。装備が呪われているかは外見だけじゃ判断出来ない。つまり装備するまで分からないのだ。

 普通だったらボクが呪われた指輪だと焦る場面なはずなのに、ビアンカちゃんは予め知っていたかのように言って来たのである。

 このダンジョンにおいて呪われた装備というのは解呪カードを使うまで外せない制限が設けられる。まるで『空腹なんかで死なせないぞ♪』と言っているような……。

 ちょっと悪い方向に考えすぎてしまったがダンジョン攻略を進めよう。通路を進み大部屋に辿り着いた。ふむ、スライムが3匹ですか。素手だけど通路を使って――。

「あ、スライム発見~。えいっ」

『ぴぎぃぃぃぃ!』

『ぴぎぃぃぃぃ!』

『ぴぎぃぃぃぃ!』

「……えっ?」

 おかしい、これは絶対におかしいぞ。

 ビアンカちゃんが指パッチンをしたら3匹のスライムちゃんが燃え上がった。そんなチートな攻撃は見た事がない。

 しかも倒したスライムの経験値はボクに加算されていたです。

「おっ、盾あるよおにーちゃん。ほらほら早く拾って~」

「う、うん」

 どうやらビアンカちゃんにとってこんな事は朝飯前らしく、初めて会った時の鬼ごっこは何だったのかと思うチート振りだった。

 鋼鉄の盾を拾い装備し、どんどんと探索を進めて行く。



   ◇



 階段を降りた先はフロア全体が一つの部屋になったモンスターハウスだった。

 通路が無いため常に複数の敵から狙われる危険な部屋。敵を即座に倒す火力が無い場合、スキルカードで敵を眠らせたり工夫が必要な危険な部屋だ。

 だけど……。


『んほー!』

『プルン!?』

『ああぁぁぁん』

『らめぇ』


 そんな危険なモンスターハウスもビアンカちゃんの指パッチンが鳴り響くと、部屋のモンスター達が一斉に燃え上がり断末魔の叫びを上げて昇天した。

 ビアンカちゃんにとってダンジョン攻略というのは片手間で終わる作業のようなものであり、雑談しながら指パッチンするだけで終わってしまうのだ。

 ボクはまだ一度も攻撃をしていないし、一度もダメージを受けていない。手に持った金の剣も鋼鉄の盾も意味を成していないのである。通路を歩いて不意打ちを食らう事もなく、時折指パッチンをするだけで経験値が蓄積されて行くのだ。

「今日はね、おにーちゃんのために最高の部屋を用意してあるんだよ~。ななみんには申し訳ないけど、普通のエッチじゃ満足できない体にしてあげるね♡ うひひ、楽しみにしててね~」

「ゴクリ……」

 まだ7階だと言うのにクリアした後の事を楽しそうに話すビアンカちゃん、まるでお散歩気分でダンジョン攻略をしているのだ。

 このままクリアしたらボクは赤いゲートに連れ込まれ、七海さんとのエッチがお遊びに思えるような凄いエッチをされてしまうのだろうか。

 いいのかこれで……本当にこれでいいのか? 死ぬまでは七海さんを一番に愛すると誓ったのだ。いくら夢の中とは言え浮気はダメだろう。お仕置きだってされちゃうかもしれない。ローション、ガーゼ……ガクガクブルブル。



――よし、罠を使って事故死を狙ってみよう!



 ごめんよビアンカちゃん。ボクはビアンカちゃんが好きだけど七海さんを悲しませるような事はしたくないのだ。

 モンスターハウスは普通の部屋よりも罠の数が多いという特徴がある。仕掛けられた罠にはHPを半分にしてしまう地雷の罠や毒矢が飛んでくる罠がどこかにあるはずだ。

 それを上手く使えば……。

「ぎゃー!!」

 足の裏から硬いモノを踏んだ感触が伝わった後、カチッという音と共に爆発に巻き込まれた。

 現実だったら即死しそうな激しい爆発も、ダンジョンの中ではブワーっと風が巻き上がる程度です。痛みがあったらヤバいね!

 近くにあったカードが爆発の巻き添えで消えてしまったが問題ない。このまま次の地雷の罠を探して矢を受ければ……。

「あはっ、おにーちゃんったらドジなんだから~。はい、ビアンカちゃんが治してあげるね。むちゅ~♡」

「ん゛ん゛っ!?」

 犯されるような激しいキスが続いた後、甘いトロっとした蜜が流し込まれた。ゴクリと飲み込むと体がポカポカと温かくなり、HPが全回復していたのだ。

「こ、これって……」

「いひひ、安心してよおにーちゃん。どんな事があっても絶対に死なせたりしないんだからね。そう、どんな事があってもね……」

 ボクの心を見透かしたように笑うビアンカちゃん、どうやら死ぬことは許されないようだ。

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