水神様の注意事項についてよーく聞いておくように

渡り廊下

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落ちたら異世界なんてベタな

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「あ」

ズルリ
まさにそんな音を立てて泥に足を滑らせる。傾いた身体のその先には暗い暗い壁のような水だった。ドンッと池の中に落ちる。がむしゃらに腕やら足やらを動かしても掴むのは水のみであっという間に水中に引き込まれてしまった。公園を突っ切ったほうが早いからって通り慣れてない道から帰ろうとか思うんじゃなかった。そんな後悔の中、夜の水中は酷く暗くて何も見えない。自分の腕すらも。だが暗闇の中、おそらく街頭だと思われる灯がうすぼんやりと見える。必死に手を伸ばすけど届かない、届かない。
ゴボッ
口から気泡が大量に出てきて苦しい、苦しい、くるしい、くる、しい
次第に水面から遠くなっていったせいか灯が暗くなっていく。いや、私の意識が無くなっていっているからか、な────











「ハアッッッ、ゴホッゴホッケホッ」

目を覚ませば病院──じゃない!水中ですね!!周りを見渡すと深い藍色に染まる美しい水底だった。所々見えるパステルカラーは珊瑚だろうか。あれ?公園の池に珊瑚とかあるの?そういえば最近池クリーン運動やってるらしいしそれの功績?すごいな町内会。
なんて現実逃避はそろそろやめようかな
何度も言うがここは水中。え?なんで息できるの私。
………え、これもしかして死………………………………

いやいやいやいや!!まだ!まだ!!夢の可能性があるし!!?
ベタに自分の頬を思いっきりつねると痛かっ……痛い!?夢じゃ、ない!?もしかして幽霊?私幽霊?どっかに私の死体とか浮いてる?浮いちゃってる??と、とりあえず陸に上がってみよっかなー…。そう思った時ふわりと私の身体が浮いた。水中の動きにくさとかがまるでない。この考えただけで勝手に体が動く感覚と言ったらいいか。さすが幽霊。身軽だあ(逃避思考)。

池から出たら警察が沢山いたらどうしよう…あっいや見えないのか私。なんて思いながら水面から顔を出してみると、意に反して人影は見えなかった。というか公園ですらなかった。

………は?

公園があると思って池から顔を出してみるとそこは森だった。何を言っているのかわからねーと思うが以下略。いやどこですかココ。そもそも意識から逸らし続けてたけど池自体もかなり公園のものとは違う。公園の池はやっぱりこんなにキレイじゃない。なんというかテレビで見たような外国の綺麗な海のような色をしている。透き通った青緑色だ。大きさもかなり大きい。学校の運動場並の大きさでもはや池というより湖という方がしっくりくるかも。
うーん、一体何が起こってんの?なんて思ったけどその疑問は湖の底で目を覚ました時から思ってたわ。まあ、何が起きてるのか一切わからないけどとりあえずさっさと陸に上がってそこら辺探索してみようかな。
湖の淵に近づくとその周囲にあった草木がよく見える。それぞれがとても大きいように感じた。普段私が見てるような広葉樹、針葉樹とは違うもっと大きくて趣深い感じ?それぞれが何百年もそこにあったかのような深さを醸し出しているような?いや木の趣なんて私にはよく分かんないんだけども。それはさておき、探索してみるか。
あれ?池辺に腕をかけようとしてるんだけどかけられない。なんで?
自らの腕を認識しようと目線をやるけどそもそも自分の腕が見当たらない。腕があるはずの場所には透き通った湖の水が不自然に浮き上がっているだけだった。嫌な予感がして腕を右に動かしてみると浮き上がっていた不思議な水も同じように右に動く。
え?嘘でしょ嘘でしょまさか私、

「み、みみみ水になってるんですけどーーーー!!!」

なにこれ!?なにこれ何これ?!!?昨日今日どころか人生最高に驚いてる自信あるんですけど!!??え?今どうなってるの??!どうなってるの!?誰か鏡!鏡持ってきてぇーー!!!
つんつん
もしかして今全身水!?なんで今まで気づかなかったかなあ私!!?
つんつんつんつん
幽霊通り越して水!!?なんでだよ!!いやむしろ水の方が物理的に触れるからまだマシ…いや意味わからなさでは断トツだよ!!???
つんつんつんつんつんつんつんつん

「いや誰よさっきから!こっちはそれどころじゃな……えなに?」

つんつんと触られる感触に振り向けば水中にたくさんのタツノオトシゴ…ではないけど似たようなものがこちらを見ていた。大きさ的には5cm程度かな。…ちょっと可愛いかも。
それらはふよふよふよふよ私の周りを漂っている。湖底の珊瑚のように色とりどりでとても賑やかだ。先程の混乱も少し和らいでそれらと見つめ合う。

「まま、だいじょう、ぶ?」
「え?なに?なんだって?」
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