この世界で…

水姫

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箱庭の世界で…

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その日生まれたばかりのリヒト様を見た瞬間、私は確信した。

この人は私が愛して差し上げなければいけないと…。
幸い私はユスティーツ様や、この屋敷の人たちから絶対的な信頼を勝ち得ていた。計画は素早く、慎重に…。この家の執事にしか伝わっていないならリヒト様を愛して差し上げられるだろう。あの部屋には光が届く…あとは食事さえ準備すればいい。

全てが順調だった。触れれば壊れてしまいそうだった赤子はすくすくと成長し、日に日に美しく、眩しい存在になっていく。

初めて喋った日、歩いた日、全ての初めてを誰とも喜びを共有出来なかったのは残念だったが仕方ない。ふふ、私だけの特権だと心に残しておこう。

まぁ、あの日は誤算だった。まさか母親について聞かれるとは…危うく計画を飛ばしてしまうところだった。表に出てしまったのは未熟だったが、行動に移さなかった自分を褒めてやりたい。

リヒト様はさすが公爵家の血筋、聡明で私の雰囲気にも敏感に反応していた。

あと少しでリヒト様の全てを…。


なのに!何故なんだ…。私の計画は完璧だった!完璧だったんだ!まさか、こんな…駄目だ!駄目!
「リヒト様…」

「ふぅ…その穢らわしい口でその名を呼ばないでくれるかな?」



公爵家に宝が戻ってきたその日、人知れず1人の執事が消えた。

事故死

後の歴史書にはそう記されている。
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