【完結】婚約破棄したら、辺境伯に溺愛されました。

hikari

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グラント家の屋敷へ

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翌早朝。

まだ、太陽は出ていない。

空には煌々と月明かりが見える。

三日月だった。

星も見える。晴れ。



雪はだいぶ溶け、雪の壁も低くなっている。

屋根からは水滴が垂れている。

しかし、まだまだ寒い。


家族が見送りに来てくれた。


「お父様。お母様。これから私はグラント家の屋敷へ向かいます。ヴィルヘルム様と謁見して参ります」

「ディアナ、気をつけてね」

「気をつけて行くんだぞ、ディアナ」

「はい。お父様。お母様」


「姉上。道中は長いですよね。気をつけて」

「ありがとう、セイン」


「お嬢様。トーマスめも見守っておりますぞ」

「ありがとう、トーマス」

ディアナは続けた。

「行って参りますわ」


グラント邸に行くには丸一日かかる。

それを見越して、早起きをしたのだ。


ディアナは馬車に乗り込んだ。

これからグラント邸へ向かう。


御者は馬車を出発させた。


家族は皆手を振ってくれていた。



不安ばかりが過ぎる。

暴君で有名な辺境伯だ。


何をされるかわからない。


これが、パトシリアに婚約者を奪われた末路なのだ。

(なぜ……なぜジョージは浮気なんかしたの?)


ヴィルヘルムも恐らくジョージが占い師をしている事を知っているだろう。

占い師をしながら、顧客の話に傾聴している。

そして、相談に乗っている。


予約が取れない占い師。

どれほど人気があってどれほど信頼の厚い占い師なのだろう。


ヴィルヘルムも卒には信じてくれないかもしれない。


パトシリアは子爵令嬢。

パトシリアもまた世間の評判は良かった。


礼儀正しくて、真摯かつ謙虚な人間性として有名。


そんな二人が浮気をしたのだから、果たして誰が信じようか。


そんな二人に裏切られた事を悲しく思っていた。



馬車はカツカツと独特のジョイント音を響かせて道をゆく。


御者のパーシーでさえも信じてくれるかわからない。


「お嬢様。これからグラント邸へ向かうわけですが、お時間かかりますよ」

嗄れたバリトンの声。

御者のパーシーだ。

「ええ。大丈夫ですわ」


「それにしても、ジョージ様と婚約破棄したというのは本当の話なんですか? 私は二人はお似合いだと思っていましたのに」

「それが生憎……。ジョージ様が余りにも身勝手だったから、婚約は取り消してもらったわ」

「身勝手ですと?」

「はい。信じてもらえるかわかりませんけど、ジョージ様はゼンケ子爵令嬢と既に婚約を結んでいたんです」 

「そうだったんですか……。という事は二股をかけていた……という事だったんですね?」

「そうなんですわ」

本当に思い出すだけでムシャクシャする出来事。

ジョージによる裏切りの他なにものでもない。

「しかし、お嬢様。ジョージ様は当たる占い師というよりは悩みをよく聞いてくれる占い師として王侯貴族は勿論、平民からも支持を集めているんですよ。そんな人が二股交際だなんてな」 

やはり、にわかには信じられないのだろう。


ディアナも当初はジョージを信じていた。

誠実な人物であると。

占い師というよりはむしろカウンセラーに近い存在である事も。

占いは当たる外れるではなかった。

ジョージの場合は悩み事を聞いて占いをしていた。


ジョージと交際中は占いなんて胡散臭いものだと思っていた。

しかし、ジョージの人となりを見ていると、占いは人を助けるという事を知った。


「ジョージ様の占いは確かに当たるか否か……ではなかったわ。そうではなく、悩みを解決する糸口を見つけるものでした」

「だから、そのジョージ様がゼンケ子爵令嬢と二股をかけていたなど……なかなか信じがたいものがあるんですよ」


そう言うに決まっている。

だから、なかなか味方ができないのだ。


他の王侯貴族だってこれはジョージの浮気ではなく、むしろディアナの浮気だと言ってしまえば誰でも信じてしまうかもしれない。


それほど評判の良い男だった。


「それにゼンケ子爵令嬢ってパトシリア嬢の事かい?」

「そう……だけど」

「パトシリア嬢もまた愛嬌のあって可愛い子だよね。いつも元気よく挨拶してくれるし」 

パトシリアもまた周りからの評判は良い。

だから、始末悪いのだ。

(私はそんな二人の仮面の裏を知ってしまったわけね)

「そうですね。二人共猫をかぶっているのかもしれませんからね」

猫をかぶっている……というよりは裏の顔を持っていると表現した方が正しい。

互いに二重人格なのだろう。

そう。内面が悪くて外面が良いというやつ。


「猫をかぶっている……というよりは内面が悪くて外面が良いだけの話よ」

「そうですか」


馬車は街中に入った。

雪の壁は街中も低くなっている。

この街はジョージが占い屋を営んでいる街に次いで二番目の街だ。



日差しも徐々に強さを増してきた。

夜明けだ。


「まだまだお時間かかりますよ」

「はい、パーシー」




しばらくして。

「昼になりました。ご飯を食べましょう」

ディアナは手に持っていたサンドイッチに手を付けた。

このサンドイッチはステラが特別に作ってくれたものだ。

「美味しい」

いつも、食事は使用人が作ってくれるが、やはり実母の手作りが一番美味しいと感じた時だ。


「では、行くとしよう。あと、半日かかりますからね、ディアナ様」


馬車は街を抜け、平地へ出た。

どこまでもが広い原っぱだ。


原っぱを抜けると、今度は湿地帯へ。


湿地帯を抜けると、穀倉地帯に出た。


穀倉地帯を抜けると森の中へと入っていった。

森は鬱蒼としていた。


そうこうしているうちに日が暮れてきた。


すると、遠くの方からツタの絡まる大きなお屋敷が見えた。



「ディアナ様着きました」

そのお屋敷が今日会う例の辺境伯のお屋敷なのだろう。


ディアナは馬車から降りた。

壮大な建物が出迎えてくれた。
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