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彷徨う心

聖女へ

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と、朝早く。ドアをノックする音がした。ローサは「はい」と答えた。
「ローサ」
現れたのは従姉妹のソフィアだった。ソフィアは聡明な女性だ。

「ローサ。話はアイーダから聞いたわ。これから我が家に滞在する事になったって。お父様からも話は聞いたわ。だけど安心して。私もローサの味方だから」

なんとありがたい。コーンウォール家は味方でいてくれる。

「ローサ。それからお父様の提案で聖女にならないか? という話なの。コーンウォール家の健康管理のためにも。ネ」

とソフィアはウインクをした。

ーー聖女なんて考えもしなかった。

こうしてコーンウォール家のお役に立てる事が心底嬉しかった。


「ローサ。聖女になる決意がついたら私を呼んで。私はリビングにいるから」

そう言ってソフィアは部屋から出ていった。

しかし、間もなくして戻ってきた。

「あ、そうそう。朝ごはんできているから合わせて伝えておくね」

そう言ってソフィアは踵を返した。

ソフィアにはマリアナという妹がいる。マリアナは隣国の公爵家に嫁いだばかり。

マリアナは結婚できて、私はどうして婚約を破棄されなければいけないのだろう?

しかも、実の妹に奪われるなど誰が想像しただろうか? 実の妹に略奪され、実の弟に家を追い出される。しかも、冷たい雨が降りしきる中、移動をした。あのときに行商人がいたから馬車に乗ることができた。しかし、行商人がいなかったと考えると、今は風邪ひいて寝込んでいたに違いない。

とにもかくにも自己憐憫に溺れてしまっていた。

取り敢えず支度をした。朝ごはんを食べに行かなければならない。

食堂がわからない!

そう思った刹那、ソフィアが再び飛んできた。

「ごめん、ごめん。食堂がどこにあるかわからなかったよね。案内するね」

屋敷の中はマリソナ家の屋敷並みに広い。まるで巨大ダンジョンだ。まかり間違えば迷子になってしまう。

「そこの突き当りを右に行った場所が食堂になるの。因みに左に行くと家臣たちの食堂だから間違えないように」

ソフィアは栗毛色の髪を二つに分け三つ編みをしている。身長はやや低め。それでも、ローサ自身が長身なので、ソフィアもそこそこ長身だ。

ソフィアの茶色の瞳。厚い唇。多幸感溢れる顔立ちだ。

「そーだ。ご飯食べ終わるまで一緒にいちゃだめかな?」

「いいよ」

「ぅわ~い! やったやった」

人懐っこく天真爛漫なところは昔と変わらない。

しかし、コーンウォール家には問題があった。相続問題だった。コーンウォール家には男子がいない。コーンウォール伯爵夫人は元々不妊気味だった。やっと産まれたのがソフィアだった。

次も粘るけれど生まれたのはマリアナ。マリアナの後に一時的に男子が授かったが、4歳で夭逝。もし、コーンウォール家の相続となると、自ずとソフィアの夫になる人物になる。

しかし、ソフィアは妹に先を越されてしまった(とはいってもソフィアはローサよりはまだまだ若いが)。

ソフィアは結婚をどう思っているのだろうか?

とりあえず今は朝ごはんの事だけを考える事にした。

そして二人は仲良く食堂に入った。



「ねぇ。リサが略奪愛をしたって本当なの?」

とソフィアは訊ねてきた。
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