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アナスタシア来店

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秋も深まり、木々は葉の色を変えていく。

空は見事な晴れ。

何か良いことが起きる兆しのような気がしてきた。


「おはようございます!」

「おはよう、ヴァレンティーナ」


朝は掃除から始まる。

掃除に始まって掃除で終わる。

これが日課だった。


(先日はドッキリも良いものだったわ! まさかエカテリーナが来店するなんて)

店の掃き掃除していたら、まさかのアナスタシアが来店。

アナスタシアは常連客の一人だ。

「いらっしゃいませ!」

「ヴァレンティーナ。おはよう! 次、お休みいつ?」

「うん、明後日だよ」

「そうなんだ。じゃあ、一緒にさ、王宮行かない?」

「え!? 王宮? どうしてまた?」

「ヴァレンティーナがジョージと婚約破棄したことをコンスタンチン王子殿下に話したの。そうしたらね、王子殿下がヴァレンティーナを王宮に連れて来るように言ったの。一緒に王宮でお話ししようかな? と思ったの」

「そう……だったんだ」

「迷惑……かな?」

「迷惑? とんでもないわ!」

「じゃあ、明後日王宮に行きましょう!! レオニード王子殿下も顔を出すみたいだから」

「レオニード王子殿下、少し元気出したのかしら?」

レオニードは婚約者を不意な事故で亡くした。

暴走した馬車にはねられたのだ。

若干22歳。可哀想に……。


「で、今日はお洋服を買いにきたの。冬物のアウターが欲しくて」

アナスタシアはお洒落だ。

ファッションにはとことん拘る。


アウターが並んだ棚を見ている。

「ゆっくりしていっていいのよ!」

「うん。ありがとう」


アナスタシアは茶色いミンクのコートと白いミンクのコートを棚から下ろした。

「ねえ、どっちが良いと思う?」

茶色の方は丈が短い。白の方は丈が長い。

「そうねえ、アナスタシアはあまり派手めのファッションは好まないから、暗くなりがちなのよね……。そうだわ、白の方が明るくて良いわ!」

「ありがとう! じゃあ、これ、お買い上げするわ!!」

このように、いつもアナスタシアは「どちらかを選んで」と懇願してくる。

つまりはヴァレンティーナのセンスを試してくるのだ。

「13万ソトです」

「は~い」

アナスタシアは13万ソトを支払った。

「ありがとうございました」

アナスタシアは踵を返した。


「話、聞いちゃったわよ!」

マルガリータがやってきた。

「王宮に行くんだって? 何かいい出会いがありそうね」


と言われても、誰と結ばれるのだか……。

レオニード王子殿下は服喪しているし、第三王子は年下だからヴァレンティーナのことなど眼中に無さそうだし……。
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