誰もが持っている大切なもの

tomo

文字の大きさ
5 / 5

5話 最後の選択

しおりを挟む
俺は、その場にずっと立ち尽くしていた。何も考えられず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。気づいた時には、下校の鐘が鳴っていた。

そして、家に着く。今日はいつに無く何の音もなく静かだった。

多分親は残業で姉は友達の家だろう。家に誰もいなくて助かった。今の俺は、誰かとまともな会話ができる状態ではなかった。今の俺は、魂の抜けた人間。いうなれば、人間の形をした人形と言えるだろう。そんな俺に会話ができるわけがない。

けれでも、そんな俺にも一つだけ感情があった。それは、「今のこの現実が現実でなければいい」と。しかし、そんな希望がないことは、自分自身でもわかっている。けれども、信じれなかった。いや、信じたくなかった。 佐倉綾斗の人生最大最悪の失態を。そして、この世界から美香の存在が消えてしまったという事を。

俺は、答えが分かりきった事に問い続けていたが、意識が遠くなり眠りについた。

その夜俺は、あの日見た夢に似た夢を見た。けれど、今回はどこかで見覚えのある小さな男の子だった。

 男の子「やぁ、君の望みが叶った気分はどうだい?」
 綾斗「最低の気分だよ」
 男の子「どうしてだい?君の望みだったでしょ?」
 綾斗「ああ、確かに俺が望んだようになった。けれで、おれは間違っていたみたいだ。俺には、もうどうすることもできないみたいだ」
 
 そう、もう美香は戻ってこない。一度消えたものは戻ってこない。それに、これは自分が望んで、行ったことそれなのにそれを取り消すだなんて、無理な話だ。この世界に奇跡なんてものは存在しないのだ。

 俺は自問自答を繰り返し、心の中で自分自身を説得していた。
 けれども、その姿を見た男の子はあざ笑うかのように問いかけてきた。

 男の子「もしその、願いが叶うと言ったらどうする?」
 綾斗「美香の存在を戻せるのか?」
 男の子「あー、戻せるよ。けれども、人間の存在を戻すには、それと同様の代償が必要だ。」
 綾斗「人間の存在と同様の代償」
 男の子「そう。人間の存在と同様。君ならもうわかってると思うけど。一応ヒントをあげるよ。その代償は、誰もが持っていて、もちろん君も持っている。そして、命よりも大事なもの。」
 綾斗「誰でも持っていて、命よりも大事なもの、、、」 

 俺は、もうその代償の正体を分かっていた。けれども、怖くてなかな言いだせずにいた。けれども、この問題の答えを出さなければ、前には進めない。美香も救えない。そんなことを思っていたら、男の子がふと言い出した。

 男の子「たぶん、君の答えはあっている。その方法を使えば確かに助けることはできる。けれども、そこまでして、助けたいと本当に思っているのかい?」
 男の子「今なら、まだ帰れるよ。今までの会話を無かったことにして、今の日常に帰ることができるけど、君はどうする?」
 綾斗「俺は、俺は、俺はもう逃げない。逃げたくない」
 綾斗「決めたよ。俺が美香の存在を戻すトリガーになる。」
 男の子「答えは出たみたいだね。」
 
 そう、答えとは。人間の存在。つまり、佐倉綾斗の存在だ。それ以外しかありえないのだ。それ以外は存在してはいけないのだ。

 男の子「本当にいいのかい?人の存在とは、何よりも大切であり。存在が無ければ、この世で生きることはできない。それでもいいのかい?」
 
 人間の存在とは、この世に生きるならば必要不可欠である。存在が無ければ、命があっても意味がない。体もそれと同様だ。存在とは、この世に生きる全ての人間が持っている、それと同時に絶対になくしてはいけないものなのだ。

 綾斗「ああ、それでもいい...それだけの事を俺はやってしまったんだ。」
 
 そうだ、俺に躊躇してる時間などない。俺は、一人間のの存在を消しているのだ。そんな俺には、選択肢などは無い。いや、あってはならないのだ。

 男の子「本当にいいんだね。僕はもう止めない。これで君が救われるのなら」
 綾斗「ああ、これで俺は自分の犯した罪を少しは償うことができる。ありがとな」
 男の子「もう、決意できたみたいだね。最後になにかやりたいことある?」
 綾斗「いいのか?」
 男の子「ああ。けど、できる事は限られてきちゃうけど、、、」
 綾斗「ちなみに、美香に何かを伝えることは可能か?」
 男の子「ぼくから直接は無理だけど。手紙なら可能だよ。」
 綾斗「十分だ。けど、手紙なんて残したら、俺の存在が完全に消えたことにならないんじゃないか?」
 男の子「それに関しては大丈夫。手紙は読んだその日しか記憶に残らないから。つまり、手紙を読んだ次の日は、その内容も手紙もなくなっているってこと。」
 綾斗「なんか、手間かけさせてわるかった」
 男の子「いいよ。気にしない♪気にしない♪。あっ、それとあと一時間ぐらで夜が明けちゃう。」
 綾斗「何か関係があるのか?」
 男の子「実は、夜が明けるまでがこの契約のタイムリミットなんだ。」
 綾斗「まじかよ、、そういうことは早く言えよ。ヤバいだろ。」
 男の子「てへっ♪うっかり。」
 綾斗「おいおい、そんなんで大丈夫なのかよ。」
 男の子「まー、そこは、、、っね。ってことで頑張ってねぇー。終わったら呼んでねぇー。」
 綾斗「おっ、おい。逃げんなぁー」

 男の子は、ごまかすかのように消えていった。

 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

zr0
2015.12.29 zr0
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。