19 / 41
第四章 答え合わせ
18.未経験の気持ち
しおりを挟む「買い物好きのお姉さま…?あの服が僕のものではないとわかってたんですか?」
「あんなに買い物する生徒はこの学園に1人だけだし、最近彼女が妹を持ったと聞いたからね。」
「なるほど…。」
(お姉さまはそんな有名人なのか。)
「今日は早めの昼食をとろうと思ってね、久しぶりに食堂に来てみたんだよ。君は?」
「お姉さまに用事ができて時間ができたので軽食でもと。ここ、初めて来ました。」
「そうなんだ。いつも部屋で?」
「はい、お姉さまの希望で。校長先生も?」
確か以前会ったときに、あまり人前にでないと言っていた。
今日は気が向いたのかな。
「まあね。最近どうも昔を思い出して…。こうして歩き回ってるんだよ。生徒たちの目が気になるけどね。」
「若い男性は珍しいですからね。男の先生はおじいちゃん1人だけですし。」
「ははっ、君のほうがよっぽど若いじゃないか。」
(そうかなぁ…年齢的にはそうかもしれないけど、見た目は校長先生も十分若いのに。)
「また何か考えているね?これのことかな。」
校長先生は小指のリボンを指差した。
(違うけど、そういうことにしておくか。校長先生なら何か知ってるかもしれないし。)
「そうです。この課題、あと一歩のところなんですが、何が足りないのかわからなくて。」
「課題は基本的に教師達が決めてるからなぁ。」
「そうですよね…。」
「授業の課題は、だけど。
こういう特別な課題は、生徒会の発案を元に僕が考えてるんだよ。」
「え…!それは本当ですか!」
僕は目を見開き、自然と前のめりになった。校長先生が出したなら、今ここでヒントを得られるかもしれない。
「ああ。私にできるのは頑張ってっていう応援だけだけどね。」
僕の見開いてた目に瞼が落ちてくる。
つまり、校長はヒントを与える気はないのだ。
(そりゃ僕だけに教えちゃったら不公平だもんね。)
「見るからにガッカリするねぇ。」
「あっ、すみません。」
「君なら私の出した解答の答えに、自力で辿り着けるから大丈夫だよ。」
(えっ?)
「どうしてそんなことわかるんですか?」
このひともお姉さまみたいに何か能力を持っているのか、それとも校長ともあれば未来も予想できる力があったりするのか。
「それはね、私たちは同志だからさ。」
校長先生は微笑みながら、サンドイッチとロールパン、メロンパンが乗った僕のお皿を見る。
「…意外と、お茶目な方なんですね。」
「それは初めて言われたなぁ。」
彼のお皿の上にはベーコンエピとクロワッサンが乗っていた。
「チカー!チカ!」
馴染みのある声がした。僕のもとにお姉さまが駆け寄ってくる。
「こんなところにいたのね。お姉さまをおいて先に昼食なんてずるいじゃないの。」
「待ってる間にお腹が空いてしまって。大丈夫でしたか?」
「なんだかすごく怒られたけど大丈夫だったわ。あの先生とは付き合い長いもの。生徒会にも報告はしないって言ってたし。
」
(生徒会に報告?学生主体の学園ならではだな。)
「君は相変わらずだね。」
お姉さまは校長先生を見て、ぱっと顔が明るくなった。
「あら!?ルイじゃない!引きこもってないなんて珍しいわね!」
「君に言われたくないなぁ。昔はこもり姫って先生達の間で言われるくらいだったのに。」
(ルイ…?昔……??)
「お姉さま、校長先生とお知り合いだったんですね。」
「ええ。このおじさんとは古い友達なのよぉ。」
「おじさんはやめてくれよ。さすがに傷つく…。」
こんなにも誰かに偉そうにしないで、親しげに話しているお姉さまを初めて見る。
…チクリ
前に感じたことのあるような痛みが胸に感じた。
「私も何かごはん食べようっと。」
「また和食かい?パンも味噌汁に合うんだよ。」
「パン狂は黙ってなさい。チカの作る料理も主食はパンばかりだし飽き飽きなのよ。」
お姉さまは配膳のカウンターに駆けていった。
チクリ、チクリ。
針で繰り返し刺されるように僕の胸の痛みは増していく。
「あれ、どこか行くのかい?」
「具合が悪いみたいなので部屋に戻ります。申し訳ありませんが、お姉さまに伝えてもらえますか?」
「もちろんいいけど、大丈夫なの?」
「はい。失礼します。」
部屋に戻っても胸の痛みは消えない。
これは本格的に病気なのか。天界でも病気とかあるのかな。
ソファにうずくまってからしばらくして、お姉さまが部屋に来た。
「ルイから具合悪くなって部屋に戻っていったって聞いたけど大丈夫?」
「わかりません。原因不明の胸の痛みがして…。」
「ええ!?」
「あの、チクってする程度でそんな大袈裟なものじゃないので…。」
「何を言ってるのよ!心配だわ。」
「いや、本当に…。もう収まりました。」
お姉さまは怪訝な顔をしているが、本当に収まった。さっきの痛みはなんだったんだろう。
「よくあるの?」
「いえ、以前に一度あっただけです。」
「それはいつ?」
「中庭でローズと会ったとき…。」
「あ"?」
(怖っ!)
ローズの名前はお姉さまにとって禁句なのか、恐ろしく怖い顔をしている。これを見ても、あんなに飄々していられたローズは尊敬に値するレベルだ。
「小娘のときと、胸の痛みに何の関係あるのよぉ???」
(そんな怖い顔で詰め寄らないでほしい…。)
美しい顔だと怒ると迫力が何倍にも増して見える。
夢に出てきそうなくらいだ。
「ローズとの…いや、中庭での時は、顔を寄せられた時に、お姉さまの顔が浮かんだんです。」
「なんで私が出てくるのぉ?」
「わからないですけど、それで罪悪感というか、そんな感じで胸が痛くなったのかもしれません。」
「罪悪感ねぇ。キスしたら当然よねぇ。」
「え?してませんよ。顔を近くに寄せられただけです。お姉さま意外とあんなに近くなったことないから、罪悪感が沸いたのかも。」
「……してないの?」
「以前も申し上げましたが何もなかったですから。」
お姉さまは大きなため息をついて、ドサッと隣に腰掛けた。
「人騒がせねぇ。…だったら今回は何が原因なのよ。」
「うーん…よくわからなくて。」
「私を待ってる間もずっと痛かったの?」
「いや、食堂に来て校長先生と話してる時までは普通でした。お姉さまが来てから急に…お姉さま?」
衝撃を受けた顔をしている。そして顔を手で覆った。
「ショックだわ…私無意識に手が出てたのかしら…。」
「全然そんなことありませんでしたし、あってもきっと校長先生が止めますから。」
「そうよね。ルイが止めるわよね。」
チクリ
(ーーっ!)
「また、胸の痛みがしました。今お姉さまが校長先生の名前を呼んだ瞬間。」
「えっ?ルイのこと?」
チクチク
「…やめてください。名前を呼ぶの。痛いんです。」
「……もしかして、私とルイが一緒にいるところを見て胸が痛くなったの?」
「はい。きっと。」
またお姉さまは大きなため息をつく。
そして困ったような顔で笑った。
「それ、嫉妬よ。チカは嫉妬しているの。」
「…嫉妬?僕が?お姉さまと校長先生に?」
「ほんと、鈍感なのねぇ。」
「……こんな気持ち初めてですから。…って、笑わないでくださいっ。」
嫉妬ってこんな気持ちになることを生まれて初めて知った。本当に、お姉さまといると未経験のことばかり巻き起こって息つく暇もない。
「嫉妬するチカ、可愛いわ。」
「可愛くありません。恋ってドキドキしたり痛くなったり、こんなに面倒なものなんですね。」
「その恋はどっちの意味なのかしら?」
「えっ?」
どっちの意味というのは、絆か、恋愛かってこと?
僕たちは姉妹だから絆ってことじゃないのかな…?
(待てよ、お姉さまは課題の意味について、恋愛も間違いではないみたいなこと言ってたっけ…。)
「チカ、あなたの恋はどっちなの?」
顎を指先であげられて、僕とお姉さまは見つめあった。
「それは…」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる