悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

文字の大きさ
24 / 41
第五章 星空のステップ

23.嵐は二度やってくる

しおりを挟む
意外な来客の冷ややかな目線を前にして、僕は固まってしまう。

「リョーコ様…。」


「ノックくらいしなさいよぉ。」


お姉さまは立ちあがり、リョーコ様の前に立ちふさがった。


「しましたけど、返事がなかったものですから。」


そう言って、彼女はまた眼鏡を直す仕草をした。
レンズの奥には氷のような瞳が睨んでいる。


「生徒会長の腰巾着が何の用なのぉ?」

「あなたに用はありません。そちらの妹さんに用があるんです。」


(僕に?)


また何か気に障ることでもしてしまったのか。
わざわざここに出向くくらいのことをぼくはしでかしたのかと頭を巡らせるが、何も心当たりがない。

つかつかとこちらに来るリョーコ様は、冷風も一緒に連れてきて僕は小さく身震いをした。


「チカさん、でしたっけ。今日、仕立て屋からドレスを受けとりましたよね。」

(仕立て屋…?)

「あ、はい。」

「中身は確認したのかしら。」

「えっ?…いえ、中を見ないようにと言われてましたから。」


「ちっ。」


…今リョーコ様のほうから舌打ちがが聞こえた気がした。
いやいや、こんなしっかりした方がそんな品のないことするはずがない。


「あなたね、アリア様のドレスが入った箱を間違えて持ってったんじゃない?」

「え?」

「ちっ、だーかーらー。」


(あ、間違いなくリョーコ様の舌打ちだ。)


「アリア様のドレスが仕立て屋には無かったのよ。カウンターにあった箱を全部確認しても無かった。私の直前に来たあなたが間違えて持ち帰ったんじゃないの?」

「…そんな、今確認しま…」

「あっほんとだわぁ。このフリフリは私のじゃない。」


お姉さまは先ほどクローゼットの上に置いた箱を下ろし、蓋を開けて中に入っているドレスをつまんで持ち上げた。


「触らないでくださいっ。汚らわしいっ。」

「汚らわ…!?なんですってぇ!?」

「用は済みましたから。失礼しますっ。」


リョーコ様はお姉さまの手からアリア様のドレスが入った箱をぶん取り、ヒールを鳴らしてさっさと部屋から出ていった。

ーーコツン。

今、ヒールの音に混じって何か小さな金属音が聞こえた気がした。


「あ、嵐のようなひとでしたね…。」

「不躾けなひとの間違いじゃないのぉ?他人の部屋を土足で踏み荒らしてっ。」


お姉さまはぷんすか怒って、何故か僕に抱きついてきた。ものすごい腕の力と、顔に押し付けられる柔らかな弾力に、僕は窒息しそうになる。


「お"姉さまぐるじい…。」

「あっ、ごめんなさいねぇ。暴れないように制御してたの。」

「ぜぇっ、お、お役にたてたならいいです…。」


お姉さまは、もう暴力的なことはしないと決めたときから、今みたいにカッとなったときは衝動的にならないように僕に抱きつくようにしている。

彼女なりの反省と解決方法なのだ。


「明日、またドレスを取りに行ってきますね。」

「チカは明日、あの小娘の手伝いをするとか言ってたじゃない。今度は中身を確認したいから私が行ってくるわ。」


「そうですか?では、お言葉に甘えて…。」


翌日、僕はローズの部屋に行った。
お土産にミニパンケーキとフレンチトーストを入れたバスケットを持って。


「えっ、これチカが作ったの?ありがとうっ!」

「簡単なものだけど、良かったらおやつにメガイラ様と食べて。」


ローズはバスケットの中を覗いて、甘いパンの香りに癒されている。
床にはドレスと散らばった裁縫道具が置かれていた。


「ごめん、散らかってて。足元気をつけてねっ。」

「うん。これがローズのドレス?」


淡い黄色の布がスカート部分に被さるようにたっぷりと使われている。
ブティックで見たシンプルなドレスとは思えないほどに可愛らしく仕上がっていた。


「そうだよ。細かいところの仕上げがまだで…。ほんと、手伝いに来てくれてありがとう。」

「もう明日がダンスパーティーだもんね。頑張って今日中に仕上げちゃおうか。」

「時間がたつの早すぎるよぉ~。」


ローズは半泣きになりながら腕につけたピンクッションから針をとった。
妹は一日中お姉さまに付きっきりであまり自由時間がないのに、ここまで時間を見つけてコツコツ進めてきたローズに感心する。

日に日に目の下のクマが濃くなるローズを見かねて、少し前に僕から声をかけた。
ダンスパーティーをすごく楽しみにしていたことを知ってたから、なんとか完成まで手伝ってあげたかったのだ。


「チカ見て…。つ…ついに!!」

「終わったね…。」


チクチクと手作業で進めたドレスは、やっとローズの納得する形になった。
白いサテン生地にたっぷりとドレープを描いて重なる黄色のオーガンジー。飾りに縫い付けられたビーズが所々キラキラと光っている。


「自分で言うのもなんだけど可愛い~!!」

「ローズ、お疲れ様。」

「ありがとね、チカ!」


窓の外はもう真っ暗になっていた。
そして、いつの間にかテーブルにすわってパンケーキを頬張っているメガイラ様。


(ええ!?いつからそこに…!?)

「チカさん、ローズを手伝ってくれて感謝するわ。」


ふっと小さく笑う。いつも表情を崩さないから、そんな顔をするメガイラ様を初めて見て驚いた。

明日のダンスパーティーはいいものになるだろう。
そんな予感がした。



「お姉さま、僕は先に会場準備に行きますね。」

「はいはい、また後でね。行ってらっしゃい~。」


お姉さまはこちらも見ずに、ベットルームから手だけ振る。自分の支度に忙しいみたいだ。

ホールへ向かうと、そこにはもうたくさんの妹たちが集まっていて準備を始めていた。
指揮をとっているのはリョーコ様。すでにドレスに着替えていて、まるで美人で仕事ができるボスって感じがする。


「あっ、ローズ!」

「チカ!こっちこっち!」


ローズのとこに駆け寄ると、大皿に乗った料理をおおきなテーブルに並べている最中だった。
僕も作ってきた一口大のサンドイッチをテーブルに置いた。

地域の人達を妹達が持ち込んだ料理でおもてなしするのだ。
ここぞとばかりに腕を振るった妹達の力作がテーブルを彩っている。


「肉料理にパイにケーキにマカロンも…。みんな料理がうまいね。」

「すごいよねぇ。私裁縫はできるけど料理はさっぱりだからさ。お姉さまに協力してもらってなんとかできたよ…。」


ローズはグラタンの大皿を指差した。
少し焦げ付いているが、それが逆に美味しそうにも見える。


「あとで食べてみようかな。」

「ええっ!?後悔しないでよー?」


「そこ!喋る前に手を動かしなさい!」


会場を監視する指揮官にピシャリと言われ、僕たちは慌てて作業に戻った。
しっかり者のリョーコ様に妹たちをまとめる監督役はぴったりだ。


(今なら渡せるかも。)


僕はホールの壇上にいるリョーコ様のところに向かった。


「リョーコ様、あの…。」

「なに?忙しいのよ。あなたに構っている暇はないわ。」

「お渡ししたいものがあって…。」

「聞こえなかったの!?忙しいってー…!」


ーービリッ


一瞬なにかが破ける鋭い音がした。
彼女の手に持っていたペン先がドレスに引っかかっり、胸元に稲妻模様を描いたのだ。


「ーーー!」

「リョーコ様っ!」


リョーコ様のドレスがはだけて肌が#露__あらわ#になる。
僕は咄嗟とっさに彼女を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...