悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

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第五章 星空のステップ

22.秘密の衣装

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「いい…!いいよ、チカ!」


胸元があいたロングドレス、ぴったりと体のラインが出るドレス、ふわっと広がるボリューミーなドレス…

僕はローズの着せ替え人形になっていた。


(つ、疲れた…。)

「あとあれもいいと思うなーっ。」

「い、いや、僕はもうこのへんにしとくよ。
ローズはどうする?今着てるのとかいいと思うよ。」

「本当?私もこれいいなって思ったの。値段は手頃だけど、そのかわり飾りっけ無さすぎなのが惜しいんだよね。」


ローズの着ているドレスは、ベーシックでシンプルなデザインで飾りが少ない。
ちょっとしたお呼ばれに着ていくのにはいいけど、ダンスパーティーには地味かもしれない。


「…そうだ。さっきの布屋さんで、ローズが気に入ってた布あったよね?そのドレスにあの布で飾りをつけたらどうかな?」

「それいいかも。私、裁縫は得意だから自分で縫い付ければいいし、お金も足りそう!」


ローズは早速、店員さんを呼んでアレンジについて相談し始めた。
僕は先に着替え終わって店内をうろついていた。

(たくさん試着したけど、しっくりきた物はなかったなぁ…。…ん?)


僕はショーウィンドウに立っているマネキンが着ていた衣装に目をつけた。
近くにいる店員のほうを見ると、すぐに駆け寄ってくる。


「何かお目当てのものがございましたか?」

「はい。あれがいいんですけど…売り物でしょうか。」

「えっ?あちらですか?売ることはできますが…。お客様が着られるのですか?」

「はい。お願いします。」

「まぁ…!では、試着室にご案内しますね。腕がなりますわ!」


試着室から出ると、ちょうどローズも店員との話も終わったようで制服に着替えて待っていた。


「ではチカ様はこちらで衣装直しますので、また後日お越しください。」


店員さんに見送られ、僕たちは足早に布屋に向かってローズの欲しがっていた布を買った。


「ごめんね、行ったり来たりで。」

「ううん、いいドレスになるといいね。」

「チカはまた今度取りに行くんだよね。どんなのにしたの?」

「それは…当日まで秘密。」

「気になる言い方だね~。」


もうすっかり暗くなり、夜空には金色の月が輝いている。僕たちは初めてのダンスパーティーに浮わついた気持ちになりながら帰路についた。

…その気持ちは学生寮についたとたんに吹き飛んだが。


「お姉さま…!」

「メガイラ様…!」


学生寮の扉を開けると、目に飛び込んできたのは玄関ホールで仁王立ちしてる二人の女神様だ。
お姉さまの眉間には皺がよっている。


「あなた達?随分遅かったじゃないのぉ。」

「ローズ、私が伝えたのは仕立て屋に衣装のアレンジを依頼すること、あなた自身の衣装を選んで来ることよ。その2つだけなのに何故こんな遅くなるの?」


ローズのお姉さまのメガイラ様は表情を崩さず淡々と喋っている。それがとてつもなく怖いのだけど。


「ごっ、ごめんなさいっ。ドレス選びが楽しくなってしまって時間が経ってしまいましたっ。」

「心配させないの。」


ペコペコ頭を下げるローズに、メガイラ様一言だけそう言って部屋に戻っていった。ローズも慌ててあとをついて行く。


(メガイラ様は多くは語らない方なんだな…。一方うちのお姉さまは。)


「チカ!心配になるから、遅くなるなら前もって言いなさいよぉ!街中までは私の目は届かないんだからっ!今何時だと思ってるのぉ!!」


「ごめんなさい…。」


ガクガクと僕の肩を揺らしている間も、お姉さまはノンストップで喋り続けている。
これは相当心配させたみたいだ。

その日は寝るときまでお姉さまにベッタリくっつかれ、申し訳ないやらドキドキするやらでうまく寝つくことができなかった。




ーー2週間後。


「チカ、そこでくるっと回って。」

「はいっ…あっ。」


足がもつれてバランスを崩し、倒れそうになる。お姉さまに腰を支えられたから転ばずにすんだが、これがダンスパーティー本番だったら笑い者だっただろう。

ローズとメガイラ様もダンスルームで練習している。
僕がつまずいてお姉さまに支えられるたび、そちらのほうから熱視線を感じるのは気のせいだと思いたい。


「何度やっても同じところで失敗するわねぇ。見てなさい、こうやるのよ。」


お姉さまが長い髪をふわりとさせながら、くるっと回った。僕とは比べ物にならないくらい美しく、練習していた生徒達も動きを止めて目を奪われていた。


「…がんばります。」

「そうよぉ!そのいきよぉ!」


(あ、いつものお姉さまだ。)


目を奪われていた生徒達も我に返り、練習を再開した。

皆がこんなに練習に気合いが入るのは、地域の殿方もダンスパーティーに来るからだ。


授業で聞いたり、街に出てみて知ったが、天界ここでも結婚や出産というものがあるらしい。
死後の世界でも死があるかは謎だが、その他はほとんど人間の暮らしと変わらないみたいだ。


もちろん、生徒のうちに結婚する者もいれば、女神を目指すのを止めて卒業後家庭を持つものもいる。

普段、学園でしか生活しないお嬢様たちは、外のひとたちを新鮮に感じるのだろう。



「お姉さま、昨日は衣装を合わせに仕立て屋に行かれたのですよね?」

「ええ。また今度チカに受け取りに行ってもらうわ。」


(じゃあ、その時にどんなドレスか見れるのかな。)

「当日まで見るのはダメよ。当然、受けとるときも。」

(ダメかぁ。)



でも、ダメと言われると見たくなるものだ。
数日後、僕は仕立て屋のカウンターに置かれた複数の箱を見てうずうずしていた。


(どれにお姉さまのドレスが入ってるんだろう。)

「こらこら。見てはダメと言われただろう?」


箱に手を伸ばしそうになっていた僕を制止するようにおじさんは言った。


「わかってますっ。」

「これだよ。持ってきな。」


複数の箱のうち、ひとつを受け取った。おじさんは怪しげな目でじっと僕を見ている。


「中、見ませんってば!」


箱を抱えて外に出ると、ちょうど店に入ろうとするリョーコ様にばったり出会った。

(デジャヴ…。)

「ごきげんよう、リョーコ様。」


リョーコ様はぷいっと顔をそむけ、素知らぬ顔で店内に入っていった。


(ツンツン度、前回よりも増してない?…あ、帰るついでに自分の衣装もブティックに取りにいかなきゃ。)


部屋に戻ると、お姉さまはおじさんと同じ怪しげな目で僕を見てきた。


「…受け取って来ましたよ。先に言っておきますが、約束通り中身は見ていません。」

「ほんとにぃ?」

「本当に。」

「ふふっ。良くできましたっ。」


お姉さまはワシャワシャと僕の頭を撫でた。
照れた顔を乱れた頭を直すふりをして手で隠したが、お姉さまはニヤついてこっちを見てる。バレバレみたいだ。


「子供扱いしないでくださいっ。」

「してないなわよぉ。それよりほらっ。」


お姉さまは僕の手から箱をとってクローゼットの上に乗せた。


「チカはどんな衣装にしたの?」

「秘密です。」

「あら、見せないよぉ~。」


お姉さまは獲物を定めた猫のように僕に飛びかかる。
縦から横から迫り来る魔の手を避けながら、僕は紙袋をしっかり抱えた。


「ならお姉さまも見せてください。」

「それはダメよぉ。」

「なら僕もダメです。」


こんな押し問答を何度か繰り返してお互い体力消耗し始めた頃、部屋の扉が突然開いた。


「………お邪魔だったかしら。」


扉を開けた女性はそう言って眼鏡を直す。
僕たちは床上に倒れ、汗だくで絡みあったまま彼女を見上げた。


ダンスパーティーはもう目前に迫っていた。
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