悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

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第六章 ページをめくって

28.眠り姫と居眠り姫

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お姉さまが熱を出してからもう数日たつ。

熱は一向に冷める気配はなく、ただただベッドで眠り続ける姿を見ているしかできない自分に腹がたっていた。


「先生、お姉さまは大丈夫ですよね?よくなりますよね?」

「大丈夫よ。この子は元々体力あるほうじゃないから、ちょっと気を緩めるとダウンしちゃうだけ。」


保健室の先生は、毎日お姉さまの様子を見に来てくれる。
以前も何回かこんなことがあったと教えてくれた。先生が調合した薬を飲めばよくなるはずなのに、いくら頼んでも拒んでいたからいつも長引いたのだと。


「せめて、薬は飲んでほしいわね。」

「僕からもお願いしてるんですけど、全然飲んでくれなくて…。方法を探ってはいるんですけど。」


お姉さまが好きなお茶に入れたり、お粥に入れてみたり、時にはひたすら懇願してみたりしたが、答えは全てノーだった。


「まぁまぁ、力を抜きなさい。あなたは妹としてよくやってるわ。」


先生が僕の肩をぽんっと叩くと、少し肩が楽になった気がした。
僕は考えすぎて余計な力が入ってたみたいだ。


「お姉さんに献身的なのはいいけど、自分のことも忘れずにね。最近、特別課題が出たって聞いたわよ。」


そうだ、課題のことも考えなければ。
今回は自分を表す本を見つけること。僕もできるんだというところを見せたい。


(お姉さま…。僕、頑張りますね。)



ー図書室ー


扉を開けると、目の前には別世界へ来たような光景が広がっていた。

中央は大きな円形の吹き抜けになっていて、囲うように本棚が設置されている。それが下からかなり上の方まで何階も続いていて、ここから見上げても終わりが見えない。


(このなかから見つけるのかぁ…。)


とりあえず近くの本棚をうろうろして、気になったものは手当たり次第に見てみることにした。

いくつか本を持って窓辺の椅子に腰かける。
体力をつける方法、天界の料理、家庭向けの医学者…無意識にお姉さまを考えて本を選んでしまっていた。


(自分を表す本って言っても、そもそも自分自身がそんなに掴めてないから結局こうなっちゃうよね。)


パラパラと本をめくる。
目で文字を追うだけで、頭にはほとんど入ってこない。気がつけば瞼が落ちていた。


以前と同じ夢を見た。


銀杏の木。お皿を持つ少女。


いつもならここで目覚めるはずだった。

女の子はゆっくりとこちらに目線を合わせ、口を動かした。


『いつ帰ってくるの…?』



(この子は…。)


そこでハッと目が覚めた。
誰かに肩を揺すられたのだ。


「起きてください。もう閉まる時間ですよ。」

「…あ、ごめんなさいっ。」


窓の外は暗くなっていて、図書室内も音楽が流れている。閉館の合図だろうか。パラパラと出口に向かっていく生徒達も見える。

僕は慌てて起きて本を集めようとしたが、手が滑って床に落としてしまった。


「はい、これ。」


起こしてくれた女性が落ちた本を拾ってくれた。本を受けとり、お礼を言おうと改めて女性の顔を見ると…。


「ありが…あ!」

「はい?」


女性は小さく首をかしげた。
その髪色、丁寧な口調に柔らかい雰囲気を醸し出すタレ目。彼女は今回の課題を伝えた張本人、副会長のミネルウァ様だった。


「ミネルウァ様…!ありがとうございます。」

「いいえ。課題に励んでいるようで何よりです。」


僕の手にもつ何冊もの本を見て、優しく微笑んだ。


「あ、これは、違うんですっ。違うというか、自分のこともよくわからないから目についた本を持ってきただけで…。」

(何早口でめちゃくちゃ言ってるんだ僕はっ。)


副会長だからか、このひとの独特な雰囲気からか、緊張していつものように話せない。
優しくて無垢な方や、控えめな性格の方の前だと、小動物に初めて触るときのように変に力が入ってしまう癖がある。


「まぁそうなの。」

「は、はい。」


ミネルウァ様は少し黙った後、そのまま後ろを向いてゆっくりと立ち去っていった。


(う、う、うわぁああああ!!)


僕はというと、おかしな挙動をしてしまった恥ずかしさのあまり心のなかで叫びながら、勢いのあまり本を全て借りて部屋に逃げ帰ったのだった。



翌日も熱が下がらないお姉さま。
僕はベッドの横の椅子に座りながら、昨日図書室で借りた本を読み返していた。


(改めて読むと意外と面白いし、ためになる…。)


天界の料理の本には、身近な和食から、見たこともない食べ物まで載っている。

料理の横にはルーツも書いてあって、和食は世界のある特定の地域に生活していた人間から伝わったのだと記載してあった。

また、一部の天界の地域ではそれが主な料理となっているとも。


(この天界にも、国みたいなものがいくつかあるのかな。)


もしそうだったら、ここ以外の天界にも行ってみたい。
いつしか軽食屋で見かけた旅人のように、僕もどこか遠い地域へ旅することができるかもしれないんだ。


(この学園は長期休みあるし、お姉さまと旅行するのもいいな。一緒に知らない土地に行って知らない物を見て…。)


考えると楽しくなってくる。
でも、まずはベッドに横たわるお姉さまをなんとかしなくては。
楽しみを考えるのは、この学園でしっかり学び、妹の役目も果たせてからにしよう。


桶の水を変えて、お姉さまの身体を拭く。
この前みたいに起きてるときは変に暴走しちゃうからやりにくいけど、静かに寝ているときはドキドキしながらも作業感覚でささっとやってしまえるのだ。


「新しい服で気持ちよくなりました?」


寝巻きを着替えさせて、布団をかける。
心なしかお姉さまの表情が少し楽になったように思えた。


「慣れた手つきじゃない。」


保険医の先生は知らないうちに部屋に入ってきていた。僕のことを見ていたみたいだ。


「ノックしたんだけど、返事がなかったから入ってきちゃったわ。」

「すみません、集中してたみたいで全然気がつきませんでした…。」

「いいのよ。今日は落ち着いてるみたいね。」


先生はベッドに腰かけてお姉さまの容態を見る。そして、ベッドサイドに溜まってゆく開封されない飲み薬を見てため息をついた。


「日に日に顔色も良くなっているし、本当に熱さえ下がれば体調も元に戻りそうなんだけどねー。」

「そうですね…。」


「チカさん、ひとつ考えがあるんだけど。」

「考え?」

「薬飲ませるよりも、飲みたいって思わせるほうがこの子にはいいかも。」

「そんなのどうやって…。」


意味ありげに僕を見てくる。

(…その目はなんだろう。)


「妹なら、セレナさんがなにに一番飛び付くかわかってるんじゃない?」

「つまり、それをエサに飲んでもらうわけですね?」

「あったりー!頑張れ妹よ!」


先生は僕の肩をポンポンと叩く。
このひと薬飲ませること僕に投げたぞ。なんて無責任な保険医なんだ。


(お姉さまは何に飛び付く?)


課題のこともわからずじまいな僕にそんな難問出されても…。


「あ。」



僕は持っていた。お姉さまが飛び付くエサを。

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