悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

文字の大きさ
28 / 41
第六章 ページをめくって

27.副会長ミネルウァ

しおりを挟む
「あれ?チカ、セレナ様は?」

「高熱でお休み。この前の庭でやった授業のせいかも。」


休み前、自分の司る力を強化する魔術の練習授業があった。
お姉さまにとっては簡単すぎたらしく、早々に飽きて雪だるまを作って遊んでたのが仇となったんだろう。


「あぁ~。こんな寒いなか外でやんなくてもいいのにね。…あっ、生徒会のひと来たよ!」


今日は久しぶりの集会。
ローズと話していると、いつの間にか壇上に女性が立っていた。

アリア様のときのような威圧的な雰囲気は一切なく、ローズに教えられるまで講堂に入ってきたことすら気がつかなかった。


「んんっ…。皆さんごきげんよう。副会長のミネルウァです。今回の課題の発表と採点を勤めさせていただきます。」


オリーブ色の髪。綿で作られた着心地よさそうな緩やかなワンピース。穏やかで丁寧な語り口。
生徒会長とは違って、優しげで控えめな印象だ。


「…課題は、『自分を表す本を見つける』ことです。」


(ん?いま課題の発表した?)

ためもせず、すぐ課題を教えてくれたミネルウァ様に生徒達はぽかんとしている。
前回のときのみたいな盛り上がるパフォーマンスをどこか期待してたのかもしれない。

ミネルウァ様は説明を続けた。


「図書室、街の本屋、お持ちのもの、入手先はいずれでも構いません。大事なのは自分というものを説明するに足る本であることです。」


(それにしても、ミネルウァ様は自分を表してる本だってどうやって判断するんだろう?)


ーーバサッ…
突然、羽が風を切る音がした。

真っ白なフクロウが生徒達の頭上を飛んでいき、ミネルウァ様の元に止まった。


「その本があなたに合うかどうかは、この子が教えてくれます。」


(ふ、フクロウが??)


ミネルウァ様はフクロウを優しく撫でる。


「知恵は本だけから身につけるものではありません。しかし、本は知恵を与えてくれます。
私は毎日図書室にいますから、いつでもお越しください。
あなた方の物語を読めるのを楽しみにしていますよ。」


そう言い終えたミネルウァ様からフクロウが飛び立ち、彼女も壇上を降りていく。

生徒の一人が手をあげて呼び止めた。


「あのっミネルウァ様!課題の期限はいつまででしょうか?」


ミネルウァ様はハッとして、ゆっくりと言った。


「ああ…、言い忘れていました。私の転生日までです。つまり、1ヶ月後ですね。」


"転生日"。
その言葉を聞いたとたん、講堂は生徒達のどよめきに包まれる。


『転生日…!?あの副会長が転生!?』

『この学園から本物の女神が生まれるなんていつぶりかしら…。』

『意外…アリア様が先に転生されるかと思ってましたわ!』


当の本人はというと、そんな状況を気にも止めず言い終えるとマイペースに講堂をあとにした。


(なんかアリア様とはまた違うキャラのひとだったな。)


生徒会=威圧的、圧倒的なオーラというイメージが僕のなかで作られてた分、副会長ミネルウァ様の印象はギャップがあった。
生徒会のなかでもアリア様しかよく知らないから、イメージが偏っていたのだろうけど。


「噂に聞いてた通り、見た感じは物静かな副会長さんだったな。」

「ローズはミネルウァ様のこと知ってたの?」

「もちろんっ。私を誰だと思ってるの?」


(…そうだ、ローズはゴシップに魅入られた天性のミーハーな女の子だった。)


「ミネルウァ様は、控えめな性格ながら実際は生徒会のブレーン、影の立役者っていうひとらしいよっ。
学園で飼ってるフクロウを使って生徒達の情報収集してるとかしてないとか…。」


「へぇ、あの子は学園のフクロウだったんだ。」

「気になるとこそこっ!?」


一見、優しげで控えめなミネルウァ様が副会長の名に相応しいやり手だというローズの言葉も、転生するという事実の前なら信じられる。


「ローズ、話はそこまでに。あまり噂に振り回されてはいけないわ。」


メガイラ様はローズの頭を優しく撫でた。
噂好きの風船が脹らみすぎる前にコントロールできるのはローズのお姉さま、ただ一人。


「はぁーい…。チカ、また知りたいことあったら聞いてね。」

(まるで情報屋だな。)

「うん、ありがと。」


「チカさん、セレナにお大事にと伝えておいてくださる?」

「もちろんです。ありがとうございます。」


気のせいか、メガイラ様の表情に元気がない。
普段そんなに表情豊かな方ではないから、思い違いかもしれない。


(お姉さまのこと、心配してくれてるのかな?でも、メガイラ様と親しいなんて聞いたことないしなぁ…。)


部屋に戻るとお姉さまは寝息をたてていた。
保健の先生がくれた薬は、ベッドサイドに手をつけず置かれたまま。

まずいからとワガママ言わずに飲んでほしいところだが、頑固なお姉さまはこんな状態になっても言うこと聞いてくれない。


(昨日より苦しそうでないことがなによりの救いだな…。)


僕は汗ばんだお姉さまの額を濡らしたタオルで拭きながら、先ほどの集会のことを思い出していた。


(転生…。転生できる可能性があるのは理解できていたけど、実際にする生徒を見られるなんて…。ミネルウァ様はどうして転生を選んだのだろう。)


「……ん、チカ?」

「あ。起こしちゃいましたか?」


一旦タオルを置こうとする手を、弱々しい手で握られる。


「熱いの…。やめないで。」

「…わかりました。」


今回わかったこと。
熱があるお姉さまは、いつもの数倍艶やかさが増してしまうこと。
言い方ひとつにしても、何故そんな色気が出るのだろうか。


(…やりにくいなぁ。)


僕はもう一度お姉さまの額にタオルをあてると、次はとんでもないことを言い出した。


「ね…チカの手のほうが冷たい。」


そう言って、僕の手を直接その肌へ触れさせた。
首へ誘導させ、そして徐々にその下のほうへ導いてゆく。
身体が汗と熱でしっとりとしてることが指先から伝わるだけでなく、目にも入ってくる姿でよくわかる。


(病人だから…。体も拭いてあげないとだよね。うん、しっかりしろ僕…!)


目をそらしながら、今のこの状況を処理しきれずパニック状態の自分を戒める。


「チカ…。」


手はついに弾力のあるそれに触れた。


「~~~!!!」


限界突破。
気がおかしくなる前に離れなければと逃走意識が働いたとたん、お姉さまの手はパタリと落ちた。

先に限界がきたのはお姉さまのほうだった。


「…助かった。」


すやすやと寝息をたてて眠る女神様の手を布団のなかへ入れて、僕はしばらく寝顔を眺めていた。


「寝顔だけは天使な女神様なのに。」


外は雪が降り続いている。
降り積もる雪がお姉さまの熱を冷ましてくれたらいい。

元気になったら、課題のことを話そう。
副会長のミネルウァ様と転生のことについても聞いてみよう。


『あなた方の物語を読めるのを楽しみにしていますよ。』


(…お姉さまの物語はどんな?)


僕は子供のような顔をして眠るこの女性のことを、知っているようで本当は何も知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...