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第六章 ページをめくって
26.雪と熱
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『昔々、あるところに自由に憧れる女の子がいました。
けれど、その女の子は私利私欲にまみれた大人たちに囚われていて、自由を手に入れることは不可能でした。』
「この子は今、どう過ごしてるんでしょうか…。」
窓辺に本を置く。
彼女は最後の課題を何にするか考えていた。そっと目を閉じて、しんしんと降り積もる雪をその体に感じながら。
「お姉さま!お姉さまってば!
休みだからってずーっと寝てたら、次の日起きられなくなりますよ?」
時計の針はとっくに14時をまわっている。
いつまでもベッドのなかで丸まって出てこないお姉さまを起こそうと小一時間ほど奮闘してるが、成果は一向にないままだった。
「うるさいわねぇ…。」
顔にかかってるくしゃくしゃになった髪の隙間から長い睫毛が覗く。
お姉さまは休日の日は決まって長く寝ているのだが、今日ほど起きなかったときはない。
(ここに来てどのくらい経ったっけ。)
窓から見えた美しい紅葉も、いまは重そうに雪を乗せた枝になっている。
「寒いわぁ…。」
ふかふかの布団や毛布を何枚も重ねて丸まるお姉さまは、まるで冬眠中の動物みたい。
(冬はなかなか起きられないのかな…。無理に起こすこともないかもしれない。)
僕はお姉さまを起こすことを一旦諦め、用事を済ませに行くことにした。
妹の自由時間は少ないから、こんなときでないとあの人を捕まえることはできない。
学生寮の一番奥。
突き当たりにある部屋の扉をノックした。
ーーガチャ
「あれ?ちーちゃんだ。」
「お久しぶりです、アリア様。」
出迎えてくれたのは、この部屋の主であるアリア様。ここへ来たのはずいぶん前のことだったから、少し迷ってしまった。
「ありちゃんでいいのに。皆そう呼ぶようになっちゃうんだよねー。」
(そりゃあ生徒会長をありちゃんと呼ぶ方が勇気いるからね…。)
「リョーコ様はいらっしゃいますか?」
「りょーちゃん?今呼ぶから中に入っててー。寒いしホットみるくいちごでも淹れるよ?」
「お気遣いなく。すぐ済みますので、ここで待ちます。」
少しするとリョーコ様が扉を開けた。
料理をしていた最中だったのか、エプロンを身につけ、砂糖の甘い香りをまとっている。
「お忙しいところすみません。」
「本当よ。あなたが私に何の用かしら。」
「これをお返ししたくて…。」
僕はポケットから金色の小さな物を取り出した。
ロケットのチャームがついたネックレスだ。
「っこれ…!」
「以前、僕の部屋にいらした時に落とされたんだと思います。なかなか渡す機会がなくて…。」
「…中、見たの?」
「……すみません。それでリョーコ様の物だと気がつきました。」
拾ったときはお姉さまの物かと思った。しかし、ロケットを開けてみるとアリア様の写真が入っていたのだ。
「そう。もう見つからないと思ってたから、あって良かったわ。」
(あれ、怒らないんだ。)
「何?」
「あ、中を見られたこと咎めないのかなと。」
「落として見られることも想定の上で持ち続けていたもの。それに、あなたにだったらまだ許せるわ。」
ダンスパーティーの時も思ったが、リョーコ様は責任感が強い人だ。
「…その、写真って珍しいですね。ここでは絵画しか見たことないから驚きました。」
「これはね、アリア様と遠くの土地の学園へ訪問に行った際に撮ってもらったものなの。そこでは見たことない物がたくさんあって、ここら辺の地域より発展していたわ。」
(天界でも発展しているところがあるんだ。)
「アリア様はよその学園に負けないように日々尽力しているの。私はそれを支えなくては。」
このほかに学園があるということは、そこでも女神を育成しているんだろうか。
よい女神を育てるのも、生徒会の手腕にかかってるのかもしれない。
「リョーコ様、頑張ってますね。」
「…なっ、何よいきなり!?」
リョーコ様の顔がみるみる赤く染まる。
普段の厳しい表情とのギャップもあり、何だか他の生徒と変わらないごくごく身近な女性に思えた。
「あっ、あなたも頑張りなさいよ!休日明けに課題が始まるんだから!」
(それ、僕が聞いていいのかな。)
「ありがとうございます。頑張りますね。」
「…あと、ダンスパーティーのときはありがとう。ドレス、初めてアリア様に褒められたわ。」
目をそらしながら眼鏡を直すリョーコ様。
動揺する姿を見るのは2回目だったが、前とまた印象が違って今日のリョーコ様は可愛いらしかった。
(ともかく、ようやく渡すことができてスッキリ。)
部屋に戻ってもお姉さまはベッドで丸まったまま。
様子を見にそっと近づくと、急に手が伸びきて僕を布団と毛布の洞穴へ引きずりこんでしまった。
「わっ!?お姉さま?起きたんですか。」
「…さっきね。起きたらチカがいなかったわ。どこ行ってたのぉ?」
すぐ近くにお姉さまを感じるのに、薄暗くて顔がよく見えない。
お姉さまがこうやって表情を見せないときは、いつも何かしら思ってるときだ。
「リョーコ様のところへ。」
「は?リョーコ…ああ、アリアの妹ね。」
(お姉さまは同じ学園の生徒に興味なさすぎじゃないか?)
「うるさいわ。そのリョーコと何してたのよぉ!」
お姉さまは声を荒げながら布団のなかでモゾモゾと暴れる。
「何って…ぷはっ。」
僕は苦しくなって布団から顔を出した。
お姉さまはよくそのなかで潜水できてるものだ。
お姉さまお手製の洞穴から這いずり出ようとすると、僕の背中にお姉さまが乗っかってきた。
「逃がさないわよ?」
「布団から出たいだけですっ。」
蒸れた熱が身体にまとわりつく。
冬だというのに、一日中ベッドで丸まっていたからか、お姉さまの身体は真夏のような熱を帯びていた。
「チカの身体はひんやりして気持ちいいわぁ。」
「あっ…。」
お姉さまは僕の背後から覆い被さってる。
喋るたび首もとに息がかかってくすぐったい。
僕の出した声に気づいて、今度は直接首に唇を這わせてきた。
「んっ…。なにを…。」
「チカを温めてあげるの。」
ゆっくりと、熱く、降り積もる刺激。
徐々に冷えた身体を侵してくる。
(熱い…。)
「ここも温めてあげる。」
背中にも熱い刺激が落ちてきた。
いつの間にか服の背面のジップが下げられている。
(ーー!!今日のお姉さま行き過ぎてない!!?)
「……あら?」
お姉さまの手が止まった。
途中でジップが布を噛んだようだ。
僕がホッと胸を撫でおろしていると、お姉さまは何重にも重なった布団のなかからやっと外に出てきた。
「なんでこんな面倒な服着てるのよぉ。」
「…っ、僕があまり服持ってないからって、お姉さまが、くれたんじゃないですかっ。」
「ああ、そうだったわ。チカに着てほしくてあげたんだった。」
「どういう意味です?」
探るような怪訝な表情で見つめると、耳元でそっと秘密を教えるように言った。
「一人じゃ脱げない服だもの。」
(~~!このっエロ悪魔っ!)
言い返そうと振り返ったると、お姉さまは僕の上にバタリと倒れてきた。
「……熱いわぁ。」
「……?お姉さま…?」
顔が汗ばんで赤みを帯びている。それに、この異常な体温の高さは絶対に布団に潜ってたせいではない。
「…!熱がある…!」
けれど、その女の子は私利私欲にまみれた大人たちに囚われていて、自由を手に入れることは不可能でした。』
「この子は今、どう過ごしてるんでしょうか…。」
窓辺に本を置く。
彼女は最後の課題を何にするか考えていた。そっと目を閉じて、しんしんと降り積もる雪をその体に感じながら。
「お姉さま!お姉さまってば!
休みだからってずーっと寝てたら、次の日起きられなくなりますよ?」
時計の針はとっくに14時をまわっている。
いつまでもベッドのなかで丸まって出てこないお姉さまを起こそうと小一時間ほど奮闘してるが、成果は一向にないままだった。
「うるさいわねぇ…。」
顔にかかってるくしゃくしゃになった髪の隙間から長い睫毛が覗く。
お姉さまは休日の日は決まって長く寝ているのだが、今日ほど起きなかったときはない。
(ここに来てどのくらい経ったっけ。)
窓から見えた美しい紅葉も、いまは重そうに雪を乗せた枝になっている。
「寒いわぁ…。」
ふかふかの布団や毛布を何枚も重ねて丸まるお姉さまは、まるで冬眠中の動物みたい。
(冬はなかなか起きられないのかな…。無理に起こすこともないかもしれない。)
僕はお姉さまを起こすことを一旦諦め、用事を済ませに行くことにした。
妹の自由時間は少ないから、こんなときでないとあの人を捕まえることはできない。
学生寮の一番奥。
突き当たりにある部屋の扉をノックした。
ーーガチャ
「あれ?ちーちゃんだ。」
「お久しぶりです、アリア様。」
出迎えてくれたのは、この部屋の主であるアリア様。ここへ来たのはずいぶん前のことだったから、少し迷ってしまった。
「ありちゃんでいいのに。皆そう呼ぶようになっちゃうんだよねー。」
(そりゃあ生徒会長をありちゃんと呼ぶ方が勇気いるからね…。)
「リョーコ様はいらっしゃいますか?」
「りょーちゃん?今呼ぶから中に入っててー。寒いしホットみるくいちごでも淹れるよ?」
「お気遣いなく。すぐ済みますので、ここで待ちます。」
少しするとリョーコ様が扉を開けた。
料理をしていた最中だったのか、エプロンを身につけ、砂糖の甘い香りをまとっている。
「お忙しいところすみません。」
「本当よ。あなたが私に何の用かしら。」
「これをお返ししたくて…。」
僕はポケットから金色の小さな物を取り出した。
ロケットのチャームがついたネックレスだ。
「っこれ…!」
「以前、僕の部屋にいらした時に落とされたんだと思います。なかなか渡す機会がなくて…。」
「…中、見たの?」
「……すみません。それでリョーコ様の物だと気がつきました。」
拾ったときはお姉さまの物かと思った。しかし、ロケットを開けてみるとアリア様の写真が入っていたのだ。
「そう。もう見つからないと思ってたから、あって良かったわ。」
(あれ、怒らないんだ。)
「何?」
「あ、中を見られたこと咎めないのかなと。」
「落として見られることも想定の上で持ち続けていたもの。それに、あなたにだったらまだ許せるわ。」
ダンスパーティーの時も思ったが、リョーコ様は責任感が強い人だ。
「…その、写真って珍しいですね。ここでは絵画しか見たことないから驚きました。」
「これはね、アリア様と遠くの土地の学園へ訪問に行った際に撮ってもらったものなの。そこでは見たことない物がたくさんあって、ここら辺の地域より発展していたわ。」
(天界でも発展しているところがあるんだ。)
「アリア様はよその学園に負けないように日々尽力しているの。私はそれを支えなくては。」
このほかに学園があるということは、そこでも女神を育成しているんだろうか。
よい女神を育てるのも、生徒会の手腕にかかってるのかもしれない。
「リョーコ様、頑張ってますね。」
「…なっ、何よいきなり!?」
リョーコ様の顔がみるみる赤く染まる。
普段の厳しい表情とのギャップもあり、何だか他の生徒と変わらないごくごく身近な女性に思えた。
「あっ、あなたも頑張りなさいよ!休日明けに課題が始まるんだから!」
(それ、僕が聞いていいのかな。)
「ありがとうございます。頑張りますね。」
「…あと、ダンスパーティーのときはありがとう。ドレス、初めてアリア様に褒められたわ。」
目をそらしながら眼鏡を直すリョーコ様。
動揺する姿を見るのは2回目だったが、前とまた印象が違って今日のリョーコ様は可愛いらしかった。
(ともかく、ようやく渡すことができてスッキリ。)
部屋に戻ってもお姉さまはベッドで丸まったまま。
様子を見にそっと近づくと、急に手が伸びきて僕を布団と毛布の洞穴へ引きずりこんでしまった。
「わっ!?お姉さま?起きたんですか。」
「…さっきね。起きたらチカがいなかったわ。どこ行ってたのぉ?」
すぐ近くにお姉さまを感じるのに、薄暗くて顔がよく見えない。
お姉さまがこうやって表情を見せないときは、いつも何かしら思ってるときだ。
「リョーコ様のところへ。」
「は?リョーコ…ああ、アリアの妹ね。」
(お姉さまは同じ学園の生徒に興味なさすぎじゃないか?)
「うるさいわ。そのリョーコと何してたのよぉ!」
お姉さまは声を荒げながら布団のなかでモゾモゾと暴れる。
「何って…ぷはっ。」
僕は苦しくなって布団から顔を出した。
お姉さまはよくそのなかで潜水できてるものだ。
お姉さまお手製の洞穴から這いずり出ようとすると、僕の背中にお姉さまが乗っかってきた。
「逃がさないわよ?」
「布団から出たいだけですっ。」
蒸れた熱が身体にまとわりつく。
冬だというのに、一日中ベッドで丸まっていたからか、お姉さまの身体は真夏のような熱を帯びていた。
「チカの身体はひんやりして気持ちいいわぁ。」
「あっ…。」
お姉さまは僕の背後から覆い被さってる。
喋るたび首もとに息がかかってくすぐったい。
僕の出した声に気づいて、今度は直接首に唇を這わせてきた。
「んっ…。なにを…。」
「チカを温めてあげるの。」
ゆっくりと、熱く、降り積もる刺激。
徐々に冷えた身体を侵してくる。
(熱い…。)
「ここも温めてあげる。」
背中にも熱い刺激が落ちてきた。
いつの間にか服の背面のジップが下げられている。
(ーー!!今日のお姉さま行き過ぎてない!!?)
「……あら?」
お姉さまの手が止まった。
途中でジップが布を噛んだようだ。
僕がホッと胸を撫でおろしていると、お姉さまは何重にも重なった布団のなかからやっと外に出てきた。
「なんでこんな面倒な服着てるのよぉ。」
「…っ、僕があまり服持ってないからって、お姉さまが、くれたんじゃないですかっ。」
「ああ、そうだったわ。チカに着てほしくてあげたんだった。」
「どういう意味です?」
探るような怪訝な表情で見つめると、耳元でそっと秘密を教えるように言った。
「一人じゃ脱げない服だもの。」
(~~!このっエロ悪魔っ!)
言い返そうと振り返ったると、お姉さまは僕の上にバタリと倒れてきた。
「……熱いわぁ。」
「……?お姉さま…?」
顔が汗ばんで赤みを帯びている。それに、この異常な体温の高さは絶対に布団に潜ってたせいではない。
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