悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

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最終章 姉と妹

37.転生式とサプライズ

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「まだ間に合いますか!?」


ロングケープを羽織り、上級生に囲まれてゆっくりと図書室から出てこうとするそのひとを僕は呼び止めた。


「待ってましたよ。さぁ…。」


差し出した本の上に、彼女は手を重ねた。





夕陽がステンドグラスに差し込む頃、生徒達は講堂に集まっていた。

彼女達のお喋りが講堂内に反響する。
皆が気にしているのは課題の答え合わせより、むしろ別のことにあった。


「チカ、課題どうだったー?私全然だったよ。」

「ああ、それが…。」

「それよりも、今日はミネルウァ様の転生日だよねっ!私生徒の転生に立ち会うの初めてだからドキドキしちゃうっ。チカはどう思うっ!?」

「えっ?えっとどう思うって…。」


ローズも他の生徒と同じく、気になるのは転生のことのようだ。
いつも以上にお喋りが止まらない。


「そんな大したもんじゃないわよぉ?」


お姉さまが僕達の話題に口を出して、ローズのお喋りをストップさせた。
続けてメガイラ様もそれに反応する。


「あら、セレナ嫉妬してるの?」

「メガイラと違って私はしようと思えばいつでも転生できるんだからぁ。」

「ふっ、万年下級生なのに。」

「その言葉そのままお返しするわよぉ?」


(また始まったよ。)


二人はどうして一緒にいるとこう悪態つくしかできなくなるのか。

ミネルウァ様が登壇して、やっとお姉さま達の言い合いは収まった。


「ごきげんよう。副会長のミネルウァです。
…このひと月の間、今までで一番『自分とは何か?』と考えたのではないでしょうか。皆さんにとって有意義なものだったと思います。
図書室も私が委員をしていたなかで一番賑わっていて、とても嬉しかったです。」


確かに課題がなければ、あんな立派な図書室を活用する機会もなかったかもしれない。

ミネルウァ様はすごく生き生きとしている。自分のお気に入りの場所を皆に自慢できたみたいに。


「今回の課題は、校長先生から直々に依頼されたものでした。
最後に私が伝えられることは何か考えてアイデアを出したつもりです。

それをひと月という短い期間で受けとめるのは大変だったでしょう。…」


話しぶりから、学園に思い入れがあるのが伝わってくる。
そんなミネルウァ様の最後の言葉だというのに、うちのお姉さまときたらあくびをしていた。


「ふぁ…。ミネルウァってば、ほんと話長いのよねぇ。」

「お姉さま!しっ!」


このひとはこんな時でも相変わらずだ。小声で注意すると、お姉さまはニヤリと笑つて大きな声で言った。


「ミネルウァ!早く本題に入りなさいよぉー!」


「なっ…!?」


(何してるんだお姉さまは!)


ミネルウァ様は少し驚いた表情でこちらを見た。周りの生徒の目線が痛い。

慌てる僕をよそに、お姉さまはスッキリした顔をしているし、メガイラ様は笑いを堪えている。


「…ふふ。そうですね。
では、課題の答え合わせといきましょう。」

(笑ってる…。)


戯れるように頬笑むミネルウァ様。全く動じてない。



「自分を表す本を見つけるには、自分の内側に気がつき、理解した上でないといけません。

…と言っても、難しいですよね。
この課題には明確な正解というものはないのですから。」


(正解がない…!?)


僕と同じく、周りの生徒達も動揺している。
それじゃあ、何のためにミネルウァ様はこんな課題を出したんだろうか。


「…あ、ひとつの正解ではない、ということですよ。」


生徒達の様子を見て、ミネルウァ様は噛み砕いて話してくれた。


「皆さんが見せてくれた様々な物語のように、個々人で答えは違ってくるのです。
そして、その時々によっても。

時として変わらぬ部分もあれば、変わる部分もある。
そのことに気がつけたのなら、"今の"自分を表す本を見つけることができたでしょう。」


(変わらない自分と、変わってゆく自分…か。)


「…課題については以上です。では、一旦休憩としましょうか。」


この後ミネルウァ様の転生式を行うようだ。

集会が始まる前は生徒達のお喋りは転生の話題ばかりだったのに対し、今はミネルウァ様の課題についてそれぞれの思いを話している。
 
お姉さまもその内の1人だ。


「ミネルウァは最初からこのつもりだったのね。」

「というと?」

「自分が最後に出す課題は、どれくらいの生徒が達成できるかどうかより、生徒自身に目を向けさせることを重視した課題にしたかったのよ。」

「僕もこの課題は、学びのためっていうよりは、僕達に向けたメッセージのように感じました。
でも、ミネルウァ様はどうしてそんなことを…。」


「さぁ…。きっと、これがあの子のやり方なんでしょう。大切なことを伝えるための。
ルイがそれを課題にとして了承したってことは学園にとってもいいものだと判断したんじゃないかしら。」



壇上の数えきれないほどの蝋燭に火が灯された。
それを合図に生徒達のお喋りは止み、講堂は静けさに包まれる。

アリア様とミネルウァ様を先頭に、生徒会の面々が壇上に上がった。
脇には先生達とルイ校長の姿もある。


「今から、女神養成学園イヴの転生式を行います。
転生する生徒は、上級女神見習い生のミネルウァ。」


いつものアリア様の口調と違う、堂々としていて威厳のある話ぶりだ。講堂内は粛々した雰囲気に包まれる。


「ミネルウァ、最後に生徒達に挨拶を。」


アリア様に促され、ミネルウァ様は一歩前へ出た。


「…偽りのない本当の自分を知るのは勇気のいることです。それに挑戦し続けることを忘れないでください。
決して、そこで終わりではないのですから。」


ミネルウァ様が言い終えると、ケープが肩から落とされた。
同時に蝋燭の火が一斉に消え去る。

淡い月明かりだけがステンドグラスを通して講堂内を照らしていた。


僕の手元に白い何かがふわりと落ちてきた。


「羽…?」


前を見ると、ミネルウァ様の背中には大きな白い翼が生えていた。

そして、お揃いの白い羽を持ったフクロウが彼女のもとへ飛んでゆく。


光の粒がミネルウァ様を包み、そして儚く消えていった。


講堂内の明かりがつけられた頃には、もうその姿はここになかった。


一瞬の出来事のようで、頭が追いつかない。ただ、最後に頬笑むミネルウァ様はとても、とても綺麗だった。


「しれっとフクロウも連れていったわねぇ。」

「あ、そういえば…。
ていうか、お姉さまは通常運転ですね。」

「転生なんて見慣れてるものぉ。私のときはもっと派手にやるわよぉ!」


お姉さまはどこまでいってもお姉さまだ。
転生の日が今から楽しみでもあり、本当にそうなったときのことを思うと寂しくもある。


「転生式はこれで終わり。
…でも!まだ集会は終わりじゃないからねー!」


アリア様はぴょんぴょん跳び跳ねて皆の注目を集めた。元の口調に戻ったからか、場の空気もコロッと明るいものに変わる。


「今日はミネルウァに変わる、新たな副会長の任命をします!」


(いきなりだな!)

間髪いれずに何やら重要な発表をするから、生徒達もついて行けずポカンとしている。
そんな下級生や妹達とは違い、お姉さまや上級生の皆さんは、アリア様のこの調子になれてるのか普段通りだ。


「アリア様、これを。」


リョーコ様に紙を手渡されたアリア様は、その内容を読み上げる。

僕が、いや、上級生下級生問わず、おそらく誰もが予想をしてなかった内容だった。




「生徒会会長、アリアドネが命ずる!


新たな副会長は…

下級女神見習い生、セレナ!!」
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