悪魔で女神なお姉さまは今日も逃がしてくれない

はるきたる

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最終章 姉と妹

39.ふたつの道を選ぶとき

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「僕が、生きている…?」


その言葉をすぐには理解できない。
でもアリア様の真剣な眼差しからわかる。決してからかっているわけではないと。


「それは…本当なんですか?」

「うん。そのはずだよ。ミネルウァがそんな嘘つく理由ないもん。」


「…ミネルウァ様はなんて?」


アリア様は、僕を落ち着かせるように優しい声で話始めた。


「ミネルウァは、ちーちゃんのエゴを見たときからそんな気がしてたんだって。
死者とも、天界人とも違う生命力を感じたみたいだよ。」

「生命力?」

「うん、すごく強いエネルギーみたいなものらしい。ちーちゃんの課題を判定した時、フクロウもそのようなことをミネルウァに言ったみたい。」


集会前、ミネルウァ様がアリア様に伝えたことを教えてくれた。



『アリア、今のチカさんは間違いなく"生きている"わ。』

『ミネルウァ、それどういうこと?生きてたら天界にいられないでしょ?』

『普通は…。けど、この子がそう言うんです。チカさんが何故ここにいるかはわからないけど、生きているのは本当…。』


『待って待って。もしそうだとするよ?
一時的に魂が天界に来ているとしても、そんな状態でずっとここにいたらちーちゃんは危険じゃないの?』

『ええ。きっと、このままでは元の世界の肉体は死んでしまう。
だから私、チカさんが戻れるよう神に頼んでみます。』


「…ミネルウァはね、転生という神に触れ合うことができるタイミングで、ちーちゃんが元の世界へ戻れるように頼んでくれたの。
きっと、今日にでも何らかの反応があるはずだよ。」


「そんな…突然言われても。」


いきなり、この世界に居られるのは今日までと言われてもどうしたらいいのかわからない。

僕はここで多くの時間を過ごし、色んなひと達に出会ってきた。


「選ぶことは、できないんですか?
例えば今まで通り天界に居続けるとか…。」

「ちーちゃん…自殺するつもり?」


アリア様の表情が厳しくなる。
僕は見たことのない彼女の表情に一瞬怯んでしまった。

そうだ。生きている僕がこのままここに居続けることしたら、元の世界の肉体から完全に離れることを選んだということ。

(アリア様の言う通り、本当に自殺行為だ。)


「…軽く考えないで。どうするか選ぶのはちーちゃんだけど、納得のいく答えにしてね。」

「…わかりました。」


時間はない。
たった今突き付けられた事実を飲み込めないまま、生徒会室の扉を閉めた。


(今日中に決めないと…。)


お姉さまに何て言う?
いや、何も言わずにここに残れば明日からも同じ日常だ。
でも本当にそれを選ぶのが正解なのか。


(どうしよう…。)


「…チカさん?生徒会室に何か用?」


扉の前で立ち尽くす僕に、授業終わりのリョーコ様が話しかけてきた。


「あ、もう用は終わったんです。それじゃ、また…。」

(…また、はないかも。)

「リョーコ様、色々とお世話になりました。ありがとうございました。」

「?、いきなり何よ?」

「いいえ、それじゃ!」


不思議な顔をして眼鏡を直すリョーコ様を後にしながら、僕はダンスパーティーのときを思い出した。

あの事件がなければ、彼女の強さと繊細さを知る機会はなかったかもしれない。


気がつくと、ついクセで下級生の教室の前に来てしまっていた。
メガイラ様とローズがちょうど教室から出てきていた。


「あ!チカ!」

「ローズ…、メガイラ様…。」

「どうしたの?思い詰めたような顔をして??もしてかしてセレナ様となにかあった?」

「ローズ、無闇にそういうこと聞かないの。」

「はーい…。ごめんねチカ、どうかしたの?」


よくローズとメガイラ様のこんなやり取りを聞いたっけ。

ローズとは、学園に来たばかりのときに知り合ってから色んなことを一緒に経験したな。
初めての同世代の友達ができたみたいで嬉しかったし、楽しかった。


メガイラ様は、最初は近づきにくい感じだったけど、なんとなく僕と近い雰囲気で親近感が沸いたんだ。それにエゴに行って人間味のある方だって知った。


「…ううん、何でもないよ。ローズと会えなくなるかもしれないから、寂しいなって思ってただけ。」

「えっ!セレナ様が副会長になったからって、学生寮は一緒の棟なんだからまたいつでも会えるよっ!」

「そうよ。セレナの世話に疲れたらいつでも部屋にいらっしゃい。
私と話する約束もあるし…それに、またパンケーキとフレンチトースト持ってきてくれると嬉しいわ。」

「ふふ。そうですね、その時はたくさん焼いて持っていきます。」


(その時がきたら、きっと…。)


次の授業に行く二人を見送り、僕は上級生の教室がある階へ向かった。

ちょうど教室を移動する生徒達で廊下は混雑している。
そんななかでも、彼女がどこにいるかすぐにわかるんだ。


「お姉さま…。」


ウェーブがかった長い銀色の髪を揺らし、その女性ひとは振り返った。


「チカ!」




それからいくつかの授業の間、お姉さまの前ではいつものように振る舞った。

けれど、選ばなければならない行く末が片時も頭を離れなかった。



「あーもうヘトヘトよぉ~!」


学生寮に戻ったお姉さまは、慣れない上級生の授業に疲れたようで速攻でベッドにダイブした。


「お姉さま…、僕が教えたお姉さまに抱く恋の意味を覚えてますか?」

「当たり前よぉ?」


僕はベッドに腰掛けてお姉さまを見る。
いつしか看病した時みたいだ。


「チカは言ったわね。『姉妹としても、恋愛としても、両方の意味でお姉さまを想ってます。』って。

…それが、どうかした?今さら訂正はなしよ?」


「すみませんが、その訂正です。」


シワシワのシャツ1枚の姿のお姉さまと、初めて出会った真っ白な空間。それから、学園へ連れられてきてわけもわからないまま手探りで"妹"をこなしてきた。

いつしかこなすんじゃなくてお姉さまの妹でいられることが嬉しくなった。
お姉さまと出会って、色んな自分に出会うこともできた。

だからこそ、僕は行かなきゃいけない。


「お姉さまを想う気持ち、恋愛の意味としてのほうが大きいのかもしれません。」

「チカ…。」


僕はお姉さまに近づき、そっと唇を重ねた。
さよならの意味をこめて。



「…セレナお姉さまのこと、好きになってしまったんです。」


僕の瞳に映るのは、ずっとあなたしかいなかった。

これで、決意は固まった。
僕はベッドから降りようと体を動かす。

離れようとする僕を引き留めて、今度はお姉さまからその唇を重ね合わせた。


何度も、何度も。


お互いを求めるように。


何も言わなくても、伝わっていたのかもしれない。
これがお姉さまと過ごす最後の時ということが。
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