フリンダルの優しい世界

咲狛洋々

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「フリンダル。貴方は世界なのです」

「世界?」

「そう。貴方を構成していたのは世界を形取る公式」

「私はフリンダルじゃないの?」

「いいえ、貴方は間違いなくフリンダルですよ」


足元には夜空があった。
そして、人の営みが灯す色取り取りの灯りが世界を形どっている。
フリンダルはグレース神より見せられた、全ての記憶を思い出そうとしているが、全く思い出せず混乱していた。


「分からないわ。グレース様……何故私は人になったの?私を産んでくれたのは誰?」

「それは、魔法公式は事象の全てを記した物だから……だから、全ての起点となる人になったのです。そして、貴方を産んだのは薔薇姫。もうこの世には居ない人です…」

「薔薇……姫……そっか死んじゃったんだね」


母の死を聞いても、何故かフリンダルは悲しく無かった。その事に、フリンダルは怖くなった。自分の生みの親が死んだと言うのに、人の死を悲しめない。以前では考えられなかった事だった。

ちょっと前まで、沢山人が傷付いたら悲しかったし、死んじゃったなんて聞いたら本当に悲しかったのに。


「それが人間という物です。本当に大切な者、身近な者の死で無くては実感出来無い。貴方は聞きましたね?何故〈人〉なのか。フォンラードも、ビクトールも……彼等人の子は元々貴方と同じ事象を生み出す〈世界〉でした。ですが、事象は絡み合い、形を成して……そして今や欠けてしまった。欠けたものが何なのかも気付かない程、少しずつ、少しずつ欠けて……誰もが病んでいるのです。それはとても悲しく、恐ろしい事です」


フリンダルは己の手のひらを見つめ、それでも自分が存在する意味は何なのであろうかと考えていた。


「貴方の存在は、水面に起きた小さな波紋に過ぎない。ですが、その波紋は必ずや人々の気付きとなります……何も心配しなくて良いのです。ただあるがまま、喜び、悲しみ、慈しみ……人生を謳歌なさい。フリンダル」

「何かした方がいい?」

「いいえ。何も」

「そっか。私は私でいいのね?」

「えぇ、そのままで良いのですよ」


あるがままを受け入れなさい。
私達、神の加護は貴方にはもう必要ありません。
貴方と会う事はもう無いでしょう。
ですが、忘れないでフリンダル。

世界は厳しくも優しい、貴方自身なのだと。


 気が付けば、フリンダルは祭壇の下で眠っていた。しかし、身体のあちこちが酷く痛み、動けないでいる。フリンダルは母や兄達を探した。しかし、この部屋には誰も居らず、フリンダルはか細い声で母を呼んだ。


「か……さ、か……さん…」

「フリン!母さん、フリンが目覚めた!メロ!起きろ!」


霞む目を凝らし、頬を舐める兄達を見た。兄達はフリンダルを鼻で押して背を起こすと、母親の背中に乗せた。


「フリンダル。少し痛むかもしれないけど、我慢するんだよ」


目を開く事も苦しく、フリンダルは目を瞑り、全てを成り行きに任せて今はただ眠ろうと思った。目が覚めたら、きっと今まで通りであるように祈りながら。




⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



「なっ!」


狼が増えていた。一番大きな母親、俺に養えと噛みつこうとした自称兄の狼。そして何故かまた、六頭も狼が増えている。


「ビクトール殿、フリンダルの加護が無くなりました」

「……は、はぁ」

「おい!腑抜けた返事してないで、フリンをベッドに寝かせてくれ!」


何だ?何なんだ!どう言う事なんだ⁉︎
こ、これがフリンダルなのか?

 ビクトールの目の前には、髪が伸び、すっと伸びた手足をだらりと垂らす少し成長したフリンダルがいた。幼かったフリンダルの名残はある物の、あの甘く蕩けるような妖精の様な雰囲気は無く、乙女一歩手前と言った少女がそこに居た。
ビクトールは、フリンダルを抱き抱えると買ったばかりの屋敷の自分の部屋に連れて行き、それまで自分が寝ていたベッドにフリンダルを寝かせた。


「おい、説明しろ。何故フリンダルはこんなにデカくなっているんだ」

「加護が無くなったからです」

「加護?加護があると幼いままで居られるのか?」

「貴方と出会うまで、あの子の成長は止められていました。本来ならば、既に14、5歳の筈です」

「……なぁ、フリンダルを産んだのは誰だ。まさかお前と言う訳では無かろう?」

「薔薇姫ですわ」


その言葉を聞いて、ビクトールは息を飲んだ。そして壁に背を付けると、ずるずると床に座り込み頭をガシガシと掻きむしった。

薔薇……姫……だと?まさか、アンナ……?アンナ‼︎くそっ!アンナだと⁉︎やってくれるじゃ無いかグレース神‼︎


 アンナ•ロザリー•ハードナー•エイン。彼女は前国王の王妹で、現国王の叔母にあたるのだが、彼女は16年前に隣国ユールーンに嫁いだ姫であった。彼女はトッドランドの叡智と謳われる才女であり、その華やかでいて、清純な容姿から〈薔薇姫〉と呼ばれていた。

 そんな彼女の名を思い出して、何故ビクトールが混乱しているのか?それはビクトールが唯一愛し、結婚を望んだ相手であったからだった。だが、彼と彼女が結婚する事はなかった。
トッドランドとユールーンは、長い間民族紛争や宗教戦争など、大小様々な事で争ってきた。しかし、双方疲弊した国民を目の当たりし、時の国王達は互いに友好の証として、第一皇女を妻に迎える事で和睦する事にした。
 
 唯一愛した女性は、国の為に隣国に嫁ぐ事を了承し、その事を最後までビクトールには伝えなかった。だが、どうしてここまでビクトールがアンナを憎むのか。それはアンナがビクトールと一夜を共にして、永遠を誓った2ヶ月後に嫁いだからだった。当時の国王も、祖父、父もその事を知りつつビクトールには何も教えなかった。国王も、アンナの強い頼みとあって、国民にもその事を告げず、ビクトールから逃げる様にユールーンに輿入れした。それをビクトールが知ったのは、彼女との愛に満たされ迎えた自分の誕生日の朝だった。彼は何かの間違いであって欲しいと願いながら彼女を追いかけたが、既に時は遅く、輿入れの隊は隣国に入っていた。


俺を裏切り、騙し、捨てた女が産んだ子。それがフリンダルだと言うのか⁉︎『血液検査をしても…』まさか、あの日に出来た子だと……?嘘だと言ってくれ!勘弁してくれ……。もうあの女の事は思い出したくも無いと言うのに!


「薔薇姫が隣国へ嫁がねばならなかった理由をご存知ですか?」

「……和睦だろ」

「それだけでは無かったのです」

「彼女は貴方との子、フリンダルがお腹に宿った事を知りました。ですが、病に犯され母子共に残り僅かな命である事を知った。彼女は願いました……貴方の為にフリンダルだけでも産みたいと」

「なら何故嫁いだんだ!俺に何故何も言わず、裏切った……」

「神は憐れんだ。薔薇姫の切なる願いを叶える代わりに、世界に散らばる貴方の生み出した法則の欠片を受け入れる器として、お腹の子を求めた。そして、運命は動き出し……フリンダルが長い長い輪廻を回り集めた欠片が子に宿った。何故ユールーンなのか?それは世界に散らばった法則の最後の欠片があの国にあったからなのです。彼女は何としてもユールーンに行かねばならなかった……貴方を傷付けても。貴方に2人の愛の結晶であるフリンダルを授ける為に」


 これは何かの罰なのか。もう、憎み切れぬ程憎んだ女の産んだ子を、俺に養えと言うのか?神はどこまで傲慢なんだ。何故なんだ、何故フリンダルなんだ⁉︎俺はあの子を受け入れた。だが、それはあの女とは無関係だったからだ。こうなって、俺はこの子を育てられるのか?







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感想 1

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みんなの感想(1件)

せち
2024.02.01 せち

泣いてしまいました😭
続きが気になりすぎます😭😭✨

解除

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