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春
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しおりを挟む俺はフリンダルと別れたあの日から、忘れ物を取り戻す様に職を得て、それまで避けていた実家へも顔を見せる様になった。そして、父親に研究を遠方の地でする中で、付き合い別れた女性がフリンダルを産んで死んでいた為、引き取ると嘘をついた。
ビクトールの父親は、彼のその言葉に激昂した物の、このままだと一生独り身で、孫など夢のまた夢だと思っていた為、最終的にはフリンダルの認知を了承した。それからという物、ロンバトラー公爵家は慌ただしくなった。長男、次男は結婚はしているものの子宝に恵まれず、2人とも子供はもう諦めていた事もあり、ビクトールに子供が居たと聞いて驚きつつも、姪が出来た事を夫婦揃って喜んでいた。
「ビクトール」
「なんだ」
「お前、本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「花すら育てた事の無いお前に子供を育てられるとは思えないんだがな」
「……俺の子だ。なんとかする」
「それにしても、お前がどこぞで女を孕ませるとはな。安心した様な、不安しか無い様な。微妙な気分だよ」
ビクトールは兄のルーデンスの言葉を聞き流しながら、領地の報告書を見ていた。一度は領地に住む事を考えたが、フリンダルを育てるにはフォンラードの大学の側が良いだろうと、王都に家を購入した。
着々と準備は進んでいたが、一つまだ済ませていない事があった。
それはフォンラードにフリンダルを実子として迎え入れる事を、何一つ相談していなかった事だった。
はぁ……。何と説明するかな。
あいつのあの様子では、フリンダルを養子に迎えるつもりだったんだろうしな。だが、あの日みた光景を、記憶をなんと説明するか。
「ビクトール•ロンバトラー。貴方はあの子の生みの親なのです、貴方が人生の全てを掛けて生み、守った子供……今世で出会えたのは私達神の祝福でも、采配でもありません。人々の営みが、歴史が……やっとあの子を世界に迎え入れる準備を終わらせたのです」
「どういう意味だ。俺は……本当に、ミャコル•レイビンスリーだったと言うのか?」
「まだ、思い出せませんか?」
「いや……俺は俺だ。レイビンスリーでは無い」
「貴方の過去の一部が、その男であったと言う事実は変わりません。ですが、ミャコルは全てを手放し死を受け入れましたからね。貴方には残っていないのかもしれません」
「何がだ?」
「心残りや憂いといった感情です。だからこの事実を受け入れられない」
「いや、流石に俺にもそんな感情はあるぞ」
「そうですか?貴方の人生は全てに置いて前進しかありません。それはきっとミャコルだった貴方にとって叶わぬ事だったからでしょう。ですが、貴方にも欠けた部分がある。それは目的が無いという事。遊興に等しい研究も、本当はどうでも良いのではありませんか?ですが、これからは貴方の人生は完璧な物となるでしょう」
「それは……フリンダルと出会ったからか?」
「えぇ、そして彼女の幸せを見届けるのです。良いですか?間違っても彼の子としてあの子を委ねてはなりません。それだけは許してはなりません」
「なぜだ?俺が育てるよりもマシだろう?」
「それではまた、誤った流れが生まれてしまうからです」
「……どうあっても俺の子として育てろと言うんだな」
「実際、貴方の子なのですから。魔力検査、血液検査をしてもその結果は変わらないでしょう」
「な⁉︎……はぁ……これだから神は傲慢なんだ」
ニコリと微笑む女神の美しい顔も、この時ばかりは悪魔の様にビクトールには映っていた。
窓の外を眺め、宵闇の神グレースの言葉や記憶。そして、突然現れたフリンダルの親だと言う狼の言葉を思い返す。
彼女は自身を守護者と言い、俺がフリンダルを見つけるまで守って来たのだと言う。挙げ句の果てに、兄だと名乗るガキまで現れて、フリンダルの兄として自分達家族も引き取れと言い出した。勝手に親にされた挙句に、犬共を飼えというのか⁉︎勘弁してくれ。
だが心の何処かでフリンダルを受け入れていた。
全ての面倒で、理不尽な運命を俺は納得してしまったのだ。ならば、神の言う通り前に進むしか無いのだろう。
だが、疑問は尽きない。俺がレイビンスリーの生まれ変わりであったとして、フリンダルは何だ?レイビンスリーに子供はおろか、配偶者も居なかった。そんなレイビンスリーに子供?あの子は実態の無い術式だとでも言うつもりか?馬鹿馬鹿しいにも程があるだろう?
「仕方がないんだろうな。あの時の言葉には、流石の俺も絆された。『嬉しい、ありがとう、大好き』…か」
華奢なフリンダルの肩の細さの感覚がまだ残る手の平をビクトールは眺めながら、これからフォンラードに会って説明をしなくては。そう思った。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「なんて……言った……?」
私は今自分の耳を疑っている。
目の前に座り、優雅にお茶を飲む我が親友の言葉が理解出来ない。
「まぁ、お前も理解は出来ないのだろうがな。俺の方がもっと理解出来ていないんだ。そこは分かってくれ」
「いや、なら何でそんな事になるんだ!」
「俺が知りたい位だよ!だがな…あれを見せられちゃ、信じるしかないだろう。しかも親だと言う狼まで現れる始末だ……今だって俺は騙されているのかと思っているよ」
親の狼?母親か?すると、何だ?あの時言っていた生みの親というのはビクトールの事なのか⁉︎
「おい、ビクトール…まさか生みの親って君の事なのか?」
「何で……その事を知ってるんだ」
「君と言う奴は!なんて奴なんだ‼︎」
急に怒り出したフォンラードを、ビクトールは怪訝な顔で見ていた。まさか、本当に俺がどこぞの女に産ませたとでも思ってやいないだろうな?ビクトールはうんざりとしつつも、これまでの事を話して聞かせた。
「な!おまっ、お前がレイビンスリーの生まれ変わり⁉︎あははははは‼︎嘘だろ?」
「俺が一番そう思っているよ!」
「成程…だから、彼女はあぁ言ったのだな」
「彼女?」
「あぁ。フリンダルの母親だ……あれから、フリンダルは学校には来ていないんだが、その理由を彼女はこう言ったんだ〈きちんとした家庭を得る為に神との対話が必要〉だとか、〈戸籍を得る為に然るべき者を納得させる準備をする〉と言っていたんだ」
「それは何か?俺の家の事か?」
「という事だろうな?差し詰め宰相補佐である御父上の事ではないか?」
準備をする?全て俺がしたことでは無いか⁉︎何か?あの狼が夢にでも現れ父を説得したとでも言うのか?はぁ……何故おれは国に戻って来たのかね?あのままテュルケーに滞在しておくべきだったよ。
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