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太陽の国 獣語
獣の人生(2)
しおりを挟むこの世界の医療は進んでいるのかいないのか…ナナセはなんとも言えない気持ちでいた。全裸でギルマスの魔力を浴びただけで、物の数分で全ての検査が終わったからだ。しかも、数値化されている訳でも無かったので、どうこちらの基準と違うのかが分からなかった。
朝食を食べた際、年齢の話になったけれどまさかこの世界の平均寿命が元の世界の倍以上だったとは。衝撃だったな…そして恐怖心も抱いてしまった。…私がファロを置いて、先に死ぬだろうという事実を知って
しまったからだ。勿論、誰しも死ぬ事から逃れる事はできないし、恐る事に意味は無い。
冒険者でいる以上、この世界で老衰死を迎えられることの方が少ない
だろうし。まぁ、ファロを私が看取る事が無くて良かったと思わなくちゃな。きっと…逆なら耐えられない。ファロを愛しているけれど、いや、愛しているからその辛さを引き受けるとは言えない。
「ナナセ?何を考えているんだ、呆けてないで服を着ろよ」
「え?あ、あぁ。すみません」
全裸のナナセは検査台から降りると、溜息と共に頭を掻いて検査室の端に置いた服を手に取った。
「しっかしなぁ、平均寿命が80かぁ…身体の細胞や筋肉、魔力の流れを見る限りじゃこっちの10代と変わらねぇぞ」
「という事は、寿命がこちらの世界に幾らかは引き延ばされていると言う事ですかね?」
「だろうな。まぁ、今度の休みに王都の知り合いの所にでも行こうと思うよ。調べてみたい」
「…もし、それがギルマスの好奇心からというのなら止めませんが、私を心配して、というなら大丈夫です。私は存外、自分の死について頓着していないので」
「頓着しろよ」
ジトリと睨まれて、ナナセは笑った。そしてフッと息を吐いて目を閉じ
元の世界でしていた黙想を軽く行うと、最近生産ギルドの管理長である
烏の獣人サファルに頼んで作って貰った剣道の胴着と袴を着てナナセは
首を回した。
長年着ていた胴着を着ると、やはり気持ちが締まって良いなと前紐をパンと叩いて、袴の裾から手を差し入れ胴着を軽く引っ張り整えると、ズレた腰板を調整した。最近切った髪を組紐で結んでナナセは帯刀ベルトを腰に巻いた。
「その格好も見慣れたな」
「そうですか。私はこれ仕事着だったので、やっと落ち着きましたよ。生活感が出ました」
「そうかい、そら良かったな。でも、動きにくくないか?」
「いえ、どちらかと言うと動きやすいですよ。腰を締める事で重心のズレが無くなって、下半身は余裕ができて踏み込みやすいですし。足捌きを見られずに済みますからね」
ふぅんと言うとドーゼムはマジマジとナナセの格好を観察して、ニヤリと笑った。
「なんか、エロいな」
「…何処にエロさを感じる要素が?」
「なんかよ、手を差し込みたくなるなぁ。この襟元とかズボンで良いのか?この隙間からとかな」
「はぁ…そうですか?まぁなんだって良いですけど。そろそろ、私はクエストに行ってきますけど大丈夫ですか?」
「おう、行ってこい。今日は何受けたんだっけ?」
「はい、今日は護衛ですね。商会ギルドの会長さんをザーナンド国境まで」
「お、リンが動くのか」
「え?動くってどう言う事ですか?」
「ザーナンドとの交易が始まるんだ。この前の戦いでザーナンドとの和平条約が締結されて、国交が開かれたからな。これから獣人商人なんかがわんさか流れ込んでくるぞ」
「それは、この国にとって良い事なんですか?好戦的な国だと聞きますけど…」
「そうだなぁ、好戦的に見えるのは国王の所為で国民は案外温和な奴らが多いぞ?」
「ファロもザーナンド出身ですけど、国を嫌ってます。戻るつもりは無いと言ってました」
「あぁ、あいつもザーナンド出身だったな」
「も?」
「俺もそうだし、この国の獣人の1/3はそうだろうな。300~400年前か?その当時の国王は圧政を敷く様なやつでな、国民は戦う事を強要されていた。誰も好き好んで人を殺したり、殺されたりする事を望んだりしないだろ…だから他国へ逃れる者が多かったんだ」
「反乱などは起きなかったんでしょうか?」
「起きても、上位種の力には敵わない」
「上位種…それは…」
「獅子族、熊族、鷹族、餓狼族、豹族まぁ…ここら辺だな」
「ギルマスも…ですよね?」
「…あぁ…俺の爺さんが三代前の国王の実弟だったんだ。けど別の弟が国王を殺しちまった…。爺さんはこの国の国王に助けを求めて逃げてきたんだ」
「うぇ⁉︎王族なんですか⁉︎ギルマス‼︎」
「まぁ、元を正せばな。けど俺はこの国で生まれ育ったからな、そんな実感もないし、俺はあの国の王族が好きじゃねえんだ…」
ここから先は…聞くべきじゃないな。
きっと私が想像もつかない様な苦しみなんかもあるんだろう。どの世界に置いても、戦争で苦しむのは国民ばかりだ…この世界は強い者が絶対の世界。けど、弱い者が大半の世界でもあるんだ。
いっそのこと知力、体力で一騎討ち戦で勝敗を決める…そんなやり方で
被害を抑えられたらなぁ。
「そうでしたか…おっと、いけない!行かなくては」
「おう、気をつけてな。今日はファロがクロウの面倒を見る日だったな?俺はちょっと隣街に行ってくる」
「はい、わかりました。もし、今日19時を過ぎても戻らなかったら、ファロに国境まで迎えに来る様に伝えて貰えますか?」
「おう。分かった、念の為に救援信号弾持って行っておけよ?」
「はい、それは勿論。では」
ナナセはギルド裏口から出ると、ぐっと左脚を下げ力を込める。上半身を屈め踵を上げると、爪先に闇を纏わせ駆け出した。弾丸の様に飛び出すナナセが巻き上げた砂埃を、ドーゼムが窓から眺めた。
「いやぁ、相変わらずナナセはエロいな」
「ギルマス、ファロさんの前で言わないようにしてくださいよ」
マックスに諭されて、ドーゼムは笑うと出掛ける準備を始めた。
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