狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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太陽の国 獣語

獣に愛を(2)

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 これ以上、リンの部屋にいてもなにも出来ないと、ドーゼムは

サナ達と部屋を出て、カシャとロイが警備をする使節団用控の間に

場所を移す事にした。



「おいサナ、一から説明してくれ」

「…はい。簡単で良いですか?正直私も面倒臭いのと、かなり長くなりそうなんで…」



その言葉にドーゼムは笑って構わないと告げる。



「まず…どこから説明しましょう…リンさんがファルファータさんを苦手な理由ですが…」

「自分より全てが秀でている、勝てない、相手にされない…これがファルファータさんを嫌う理由です」



サナの言葉にナナセ達は内心はてなが飛びまくっていた。

そんな事であそこまで茫然自失になるのか?ドーゼム達は頭を抱え

絶句している。


「それが根底にあって、ファルファータさんがリンさんを思ってしていた事がリンさんには全て逆に映っていたんです。そして、知らなかった事実を知って、リンさんは自分の無力さに打ちひしがれているんですよ」


「サナ、分かる様に説明してくれ。リンがファルファータを嫌う理由は分かった。でも何が理由であんな風になった」


サナは肉球をしゃぶる様に口に咥えると、目を細めてどう伝えれば

理解できるのかを考えている。ナナセはサナの頭をそっと撫でると

抱きしめ慰めた。


「サナさん、まとまって無くてもいいんです。ゆっくりでいいですから…手…ベチャベチャですよ?はい、これで拭いて下さい」

「はっ!思わず…猫の習性が…」


サナはそれでも手を舐め耳や鼻を擦っていた。



「はぁ…えと…実際にリンさんの家族を殺したのはシュン殿では無かったんです。リンさんのお父上と兄君達がシュン殿を襲って、それを止に入ったファルファータさんが怪我をして…皆が混乱している時に…獣戦士に殺されたんです」


「なっ…それが何でファルファータが正妻になって、しかもシュンが殺した事になっていたんだ」


「でなければ、親族皆殺しの刑になっていたからです」

「この国では…高官を殺すのは最も重い刑が課せられます…幸いといいますか…シュン殿の妻子はリンド殿が催した武闘大会で殺されていますから…その仇討ちだと言えばボルチェスト家の闇討ではなく、シュン殿が襲ったと言い訳できます。そして断絶と一族の処刑は免れますから…シュン殿は…ボルチェスト家の没落だけは…止めたかった様です」


「…あのシュン•ジュンユエが?ボルチェスト家を守るだって?そんな事有り得るのか?」


ドーゼムはきっちりと整えていた髪をグシャグシャと崩すと、チラリと

控の間に居たリルドに目をやった。


「ここからは僕が答えます…」


リンを少し鋭く尖らせた様な相貌のリルドは、ナナセの所まで来ると

頭を下げて手を取った。


「その前に、ナナセ殿…昨日はバシャ殿下をお守りくださりありがとうございました。彼は私のだった一つの希望なのです…とても聡明で得難い王の資質をお持ちの方です。貴方が助けて下さった事、殿下の友として、一臣下として心よりお礼申し上げます」

「え、と…いえ、私がもっと早く王子の手を取っていたら、あんな傷すら負わずに済んだんです…ごめんなさい…」

「いえ、貴方の立場なら殿下を見捨てる事もできた筈です。それでも、手を取って下さったではありませんか、ありがとうございます。ナナセ殿」


柔らかく微笑むその顔は、とても良くファルファータさんに似ていて、

やっぱり…ファルファータさんがリンさんの言うような親には到底思

えない。そう思うのは第三者だからだろうか?

それに、ファルファータさんとリルドさんが国境の人やロードルーの

騎士を襲ったのにだって理由があった。もちろん、理由があるからと

言って襲っていい訳じゃないけれど、この世界は基本命のやり取りに

抵抗を持たない人が多い。それだけ、情が深いという事なんだろう。



「それで…何故ファルファータさんはシュンさんの奥さんになったのでしょうか?」


「…シュン父さんと母さんは正式な夫婦ではないんです。あくまでも内縁関係として夫婦と公言しているだけで、書類上母さんはまだボルチェスト家の人間です。シュン父さんは壊れた母さんを放っておけなかった…それだけです。そもそもシュン父さんは中立だったんです。」


「中立?」


「ええ、リンド父さんの考えに一部容認の考えを持っていましたし、シュン父さんは見た目に反して無意味な殺生を嫌う獣人なんですよ」

「しかし、兄の気性をご存知ならお分かりでしょうが、ボルチェスト家の人間は…結果の為ならどんな手も使いますし、それに掛かる損失も、被害も已む無しと考えます。なのでシュン父さんとは最期まで相容れなかったんです」


「けどな…俺はギルマスとして世界の情報を見てきた。シュンはハッキリ言って黒だ。しかも、どう見繕ってもそれが正義の為だなんて言えない事ばかりだぞ」


「えぇ…他国にとってはそうでしょうね」


リルドはそれまでの柔和な笑みから、打って変わって能面の様な

感情の読めない顔になっていた。


「私だってね、その全てが正しいなんて思ってはいませんよ。けれど、それは他国とて同じでしょう?私はリン兄上とのやり取りを影で聞いていましたが、兄上はシュン父さんの所為で人口が減ったと言った…けど、事実は違う…」


リルドの言葉に、コイツは興奮し始めるなと思ったドーゼムはクロウを

抱き上げると、トントンと背中を叩きながら身体を揺らし、リルドに

少し声のボリュームを落とす様に言った。


「悪りぃな、朝早かったから、俺の嫁さんがもうすぐグズリそうなんだよ」


「…はぁ?」



ドーゼムの言葉に、一瞬『幼児性愛者』と言いそうになったが、他人の

嗜好に口を挟むまいとリルドは口を噤んだ。


「勘違いするなよ?俺とクロウは運命なんだ…羨ましいだろ」

「え⁉︎まさか‼︎本当に実在するのですね…しかも…半獣ですよね?その子…」

「まぁな、半獣でも何でいい。俺はクロウ意外目に入らないからな。なぁー、クロウちゃーん」

「どじぇむのおじちゃん くろうねんねする ちゅー」

「そうか、おやすみ」


ドーゼムの頬にクロウが鼻を押しつけた後、ドーゼムはクロウの額に

キスをした。目を閉じるクロウを見つめるドーゼムをリルドはじっと

見つめている。


「なんだよ?俺がイチャついたら可笑しいか?」

「い、いえ…そうではないのです。きっと…母さんと父さんもそんな風に愛し合っていたのだろうなと…」

「くっ、くくっ、はっ!いや、ひひっ、すまない!」


突然声を殺して笑い出したドーゼムにみな驚いて首を傾げている。


「お前は両親を美化し過ぎだ、あの二人は俺が知る限りでも最も愛と縁遠いカップルだったと俺は思うぞ?」

「ドーゼムさん!言い過ぎですよ!二人の事は二人にしか分からない物ですよ!」


ナナセがファロの腕を掴んで寄せると、「そうだろ?ファロ」そう

言って微笑んでいるから、リルドはなんだか居た堪れなくなってしまい

咳払いをした。


「話を戻しますが…」

「母さんがトルザーダの村を襲ったのは…獣人約500名を殺して薬にしていたからです…そして私がロードルーの騎士を殺したのは、その手引きをしていたからでした。なにより結果としてそれを斡旋していたのが兄上の行っている政策…獣人雇用斡旋政策です」

「兄上は獣人に技術を身につけさせるために、各国の農家や生産職の商会などに獣人を斡旋していました…しかし、そこで生きている獣人は出国した獣人の1/10程。残りは…奴隷として売られ、使い潰され死んだり、薬にする為に殺されていました…兄も知っていた様ですが…」

「その事実を隠してでも、獣人が決して敵ではないという評価を得る事を優先させていた様に思います」

「兄上はそれらに目を瞑ってでも、獣人を商品として世界に流通させる事を第一にドルザベル王と通商条約を結ぼうとした…シュン父さんには、それがどうしても許せなかった」

「それに、罪を犯した人間を各国では処罰出来ません。何故ならその様な法律が無いからです…未だ獣人に人権は無い…それでも…あなた方はシュン父さんと母さんは刑を受けるべきだと思いますか?」



その言葉は、私のリンさんへの評価を落とすのには効果があった。

ドーゼムさんや、サナさんからリンさんの人となりは聞いていた

けれど、ここまで目的の為には手段を選ばない人とは思わなかった。

何が間違いで、何が正しいのかは言えない。もしも、獣人が獣人に

犯した罪がリンさん達にその様な道を選ばせたのだとしたら、どちら

にも罪がある。この捩れた関係の修復は無理なんではないかと、

心が重く沈んでゆくのが分かった。



「で、それをリンに突きつけたのか?」


ドーゼムは静かに威圧する様にリルドを睨んだ。


「勿論です。兄上とて、シュン父さんの罪を突きつけ追いやったのですから、当然自分にもそれが返って来るのが当たり前の話では?」


「…分かった。俺の権限でこの件からギルドは手を引く。明日以降のギルドへの獣人登録は行わない。冒険、商業両方だ。ついでにザーナンドへのクエストアイテムの流通も、買い上げも止める。それに、ザーナンドからの薬草輸入を止める。これで各国は混乱の坩堝だ…これでいいか?各国が獣人を雇う事は今後無いし、現在各国にいる獣人でギルド正会員で無い者は滞在許可を失う。ザーナンドに帰国する以外に道はないだろう」

「獣人が他国を頼らずどこまでやれるのか、腕の見せ所だな」


ドーゼムはクロウを抱き直すと、部屋を出る為カバンを持って歩き

出した。その背にリルドは問う。


「……何故…なんですか…各国は兄上のやり方を正しいと思っているのですか?」

「…あのな、俺にはお前らがどんな未来を描きたいのかが見えねぇんだわ。確かにリンのやり方は苛烈だ…でも、描く未来の為に傷を、罪を背負う覚悟はしてる奴だ。何も思わず罪を見逃す様な奴じゃねぇよ…各国で獣人を害した奴等がどうなってるか知っているか?」

「……いえ、知りません」

「リンがクエストとして、依頼を毎度出してる。そして、見舞金を遺族に支払っているのはロードルー国王や各国の王族だ」


その言葉に、サナ以外の皆が驚き言葉を失った。






















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