狼と人間、そして半獣の

咲狛洋々

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獣語 躍動編

笑う狐

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 リンの軽口に、ファルファータを貶された孝臣ケードは怒りのままにリンを貶す言葉を吐いた。その事でリンと決定的な亀裂が入ってしまい、ファルファータ、マグ、カシャは頭を抱えてしまった。激怒したリンは城に帰ると言いギルドから出て行ったが、ウルベドとの戦いで疲労から孝臣ケードは倒れてしまい、ギルドから近いファルファータの屋敷で休んでいた。物の数十分だけであったが、回復した孝臣ケードは狼狽していてファルファータもどうしたら良いか分からないでいる。


 ファルファータの部屋から見える王宮へ続く道を、尾を叩きつけながら歩く背中を見下ろし孝臣ケードはカーテンを握りしめた。
色々感情やらなんやらがこんがらがって、尖った言葉を吐き捨てた。俺の悪い癖だって親父からも知久からも言われてたのに。何で…あんな事言っちまったんだろう。


「ケード、あの人はこうと決めたら意見や態度をそうそう
変えない…あの様子じゃ怒りは簡単には収まらないだろうな…
ギルマスと合流するまで耐えるしかない…流石の大臣も手を引けばどうなるかぐらい分かってるよ……多分」

「…」

「孝臣…私がきちんと説明していなかったのが悪かったんだよ…それにね…あの子と私は縁を切ってるに等しいから…もう気にしなくて良いよ」


困り顔で微笑むファルファータに、孝臣は自分の頭を殴りつけた。
こんなんでいいのか俺。
知らなかった事を盾にいつまでもこうやってファルファータや皆に庇われて、ファルファータや子供を守る?そんな事出来るわけ無い。
自分の蒔いた種は自分で何とかしなきゃ、男じゃねぇよな?


「カシャ隊長、ファルファータ…頼む…一つだけ頼まれてくれないか?」

「「?」」


 全く腹立たしいにも程がある。僕がサリザンドとラブラブな時間を置いてまでカイサンから戻ってきたのは誰の為だと思ってる?全部お前達の為だろうが‼︎あーっ!本当に腹が立つ。リンはさっさとロードルーに戻り、トーマスへ報告したらカイサンへ戻ろうと決めた。孝臣の言っている事を、頭ではああ言われても仕方が無いと分かっていたが、この見栄っ張りで強情な性格が素直になる事を受け入れなかった。


「なんだい!なんだい!言いたい放題言ってくれちゃってさ!」


すると、背後から追いかけてきたマグが声を掛けた。


「リン会長!待って下さい!会長!」

「煩いっ!僕は今頗る機嫌が悪いんだ!喰われたく無かったらあっちに行け!」

「そんな子供みたいな駄々を捏ねてる場合ですか‼︎ケードが襲われたらそれこそ終わりなんですよ⁉︎」

「いーんじゃない?あいつが攫われた所で僕は痛くも痒くもないね!実際、あいつがターゲットになったからって僕の商会はなんの損失も被っていないんだ!あぁそうだ!僕が殺さなくてもウィラーがやってくれるね?手を汚さずにすむよ!マジで嬉しいよ!」


歩みを進めるリンの背中を睨み、マグは足を止めた。


「本心ですか?」

「は?何だよ?」

「もし、本当に彼が攫われ…殺されたとして。本当に喜べますか?」

「……まぁ~ね~。気にしないんじゃない?」

「いや…貴方は人一倍後悔する筈ですよ。彼のスキルと属性を知っているんだから」

「…何が言いたいんだよ」

「俺は…その、理屈じゃないんですけど…ケードの分離破壊…これはウィラーの望む神の国への門や…神の国その物を破壊出来る物なんじゃないですかね…そこが本当に大陸やら海やらのある国なら論外ですけど…精神的な…いや、魔力により形成された何かなら…ケードは最強の武器だと言えませんか?それを…手放して後悔しないなんて…アホな俺でも間違ってる…そう思います」


「はぁ…本当にさ。マンリーってムカつくんだよね」

「はい?」

「フェフの心の機微や、言葉や視線、口調、指先…それ等に本心が隠れてる事を全く気付かない…それどころか怒りに火をつける事を平気で言う…全く腹が立つ生き物だよね?マンリーってさ‼︎」


ぷんぷんと腹を立て、リンは腕を組み靴の爪先をタンタンと鳴らした。
その姿に、マグは嘴をカカッと震わせ笑った。


「そこがフェフには堪らないんでしょ?」


やはりこの人は言葉が通じない獣人じゃ無かった。
良かった…。これで何とかケードを守れそうだ。
リンはバツの悪い顔をして明後日の方角をみていたが、その表情は振り上げた拳の下げどころを探っている様に見えた。



「リンさんっ!」


ファルファータの家の玄関から孝臣ケードが駆け出して、マグとリンの側に駆け寄った。


「リンさん…すみませんでした。俺、俺こそ何も知らないのに酷い事言って…リンさんの気持ちを知らないのは俺だった!ごめんなさい‼︎」


頭を下げた孝臣ケードに二人は顎が地面に着きそうな程驚き目を丸くした。


「お、おい…ケード…お前なんだそれ!」

「…俺なりのケジメです」


つるりと丸坊主になった頭を見て、マグとリンは意味が分からない。そんな顔をしている。

え?何…どう言う意味なんだよ。
何故この男は髪を剃り落とし丸坊主になっている?
丸坊主に何の意味があるの?え?何これ…。



二人は全く意味が分からず呆然としていて、孝臣ケードは頭に手を当てた。

「これまでの…俺の偏った物の見方を剃り落としました。これでリンさんを傷つけた事が許されるとは思ってないけど、もう二度と俺の考え方を押し付けた物言いはしない!もう一度、もう一度だけ俺を知ってもらう機会を下さい!」


頭を深々と下げた孝臣ケードの地肌に太陽の日差しが反射し、その光がリン達を照らした。


「ふっ…ふはっ…ふふっぐふっ…あはっ…はっ!」

「カカカッカッ‼︎グルッツ‼︎ギュギュッ」

「…リンさん?マグさん…あの…」


頭を下げたままで上目遣いで二人を見たが、二人は口をフルフルと震わせ目元もビクビクと痙攣している。


「や、やめっ!やめろっ!こっちみんな!その上目遣いやめろ!」

「は…はぁ?」

「ケッケード…たのっ…頼む!う、後ろを向け!」


言われるがままに二人に背を向けたが、孝臣ケードは何とか許しを得たくて振り返った。


「見返りっ!やめっ!やめろっつってんだろ!その目で!頭でっ!
はひっ!ひぃっ!あはは!あははははははははははははっ!」

「ギャギャギャッ!ギュギュッ‼︎グェッ!カカカカカカッ!」


笑いは、それまでの刺々しかったリンの心にある孝臣ケードへの苛立ちを消しさった。そして彼の肩にリンは手を置くと、震える声で許すと言い抱きしめた。


「分かったからっ!ふふっ、くふっあはっ!許っ…許すっ…から!髪っ!どうにかしてよ!」


謝罪の定番が世界を救う…かもしれなかった。












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