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獣語 躍動編
カラハムの不安
しおりを挟むホテルの最上階、そのワンフロアを貸し切ったカラハム達は、防御結界や避難ポータルなどを設置し終えると、軽く昼食を取ってバシャとリンの到着を待っていた。そして本来ならばここを拠点にナナセ達も含めてウィラー討伐の作戦を立てる筈だった。
『カラハム隊長、陛下より急電です』
「何にがあった?」
『その……ウィラーを取り逃した。急ぎナナセ殿達と合流後ポータルを使用してこちらへ帰還せよ。との事です』
「なっ‼︎何だって?ウィラーを取り逃した?まさか、ウィラーはナナセ殿達の位置を把握しているのか⁉︎」
『空間魔法、精神魔法、転移魔法……後、呪法になりますが魂の離脱を可能にする憑依術を使用できる様です。一度こちらで捕縛しましたが、そもそも捕縛した肉体が依代、もしくは分身体だった様で肉体を捨て逃走しています。ナナセ殿の位置を把握出来ているのかは分かりませんが、空間魔法の使い手ですから影を放つ、もしくはアーティファクト等を使用し位置情報は常に把握していた可能性は高いです』
「いつだ?いつ逃げられた!」
『一昨日です。魔法にしろ呪法にしろ逃走距離はそうそう稼げる筈もないという結論が出た為国内全域にカイサンの魔道士による捜査が行われましたがウィラーの魔力残滓は国外にまで流れていた為、陛下より各地の騎士団に一斉帰還命令が降りました』
「ちょっと待て‼︎こっちにはウィラーの目的であるナナセ殿や人質にされると困る御仁達が揃ってるんだぞ‼︎何故昨日の内に連絡が無い‼︎」
『こちらも混乱していたんです……あの後ウィラーの配下を取り戻そうとする者達が現れ、その対応に各地への伝令が間に合わず……』
「くそっ!……分かった。もういい……ナナセ殿、リン殿と合流次第帰還する!」
通信を切ったカラハムは、急ぎ副隊長を呼び寄せると子供達をポータル付近に集め、いつでも帰還出来るように準備させる事にした。最近実用化されたポータルだが、画期的なこの道具には欠点があった。それは転移先が遠方であればあるほど、利用回数が減るという点であった。送るポータルと受け手となるポータル双方に移動者の魔力を必要とし、送る人数によっても必要量が変わる為、魔力量の多い魔道士やナナセ達の様な界渡でなくては長距離移動は困難であった。その為、子供達だけを先行して帰還させる事が出来ないでいる。
カラハムは背後できゃっきゃとはしゃぐクロウ達を見ながら溜息を吐いた。バシャールへの移動の為ナナセ達と別れてからこの五日間、全く連絡が無い事に不安を感じ、そしてその不安を解消する手立てすら断たれていた。そう、ルルバーナやベルドゥーサ達バシャールの要人と連絡がつかないのだった。
「ヤッセンを置いてきたのは失敗だったな」
「カラハム、ヤバいのか」
騎士隊紫軍副隊長レイブンが腕組みしたまま、通信機を設置した部屋の扉にもたれ掛かって声を掛けた。
「ウィラーの逃走、ウィラーの手先との小競り合い……ナナセ殿達と連絡が取れないこの状況……何でかな。陛下達の策は失敗する……そう感じてしまった」
「……俺がバシャール城に行ってくる。様子を探ってこよう。それに、到着予定日より2日も早く着いたんだ。ナナセ殿達もこんなに早く着くとは思っていないのではないか?」
「何度も通信を入れたんだ……前触れも出した。入国時に聖旨も見せた……当然ルルバーナ陛下には連絡が行ってる筈。なのになんの音沙汰も無いなんておかしいだろ。レイブン、お前は残ってくれ……3時間経っても俺が戻らなければ殿下達だけ先に帰還させてくれ……緊急の場合は信号弾を上げる。その時も至急帰還だ」
「……大丈夫なのか」
「分からない。だが俺達の任務は殿下達の護衛だ……決して無理に戦おうとはするな。退路の確保、帰還……この事を皆に遵守させてくれ」
「……俺はお前の心配してるんだけどな」
「レイブン‼︎俺達は今……俺達の事を考える時では無いんだ‼︎陛下の血筋を多く護る事、国家の剣と盾の足枷となるクロウ君を決してウィラー達に渡してはならない……その事だけだ」
レイブンはゆっくりと瞬きすると、カラハムの肩に腕を回し頭をコツンとカラハムの頭にぶつけた。
「それは当然の事だ……だけどな。俺達が死ねば殿下達の生存率は下がるんだ……お前こそ何があっても生きて戻ってこい。いいな」
「……分かってるよ」
カラハムは、騎士隊魔道士達と遊ぶウィリアムの前に膝をつくとその手を握った。ウィリアムはその表情にただならない状況であると察知した。
「カラハム隊長……行くのか?」
「流石我が殿下です……状況が思っている以上に切迫しております」
「分かった。俺達はどうしたらいい」
「此処に残るレイブンの指示に従って下さい。ただ、万が一分断され殿下達だけとなる事があれば……これに魔力を流し何処かにお隠れ下さい。宜しいですか?物音を立てずじっとしていて下さい……不可視の魔法が発動しますが、大きな音は漏れてしまいますから」
「カラハム隊長は?どこに行くんだ?」
「私はバシャール城へ向かいます……その……連絡が付かぬのです」
ウィリアムは、キョトンとしているクロウをチラリとみた。そして目を瞑るとカラハムの手をぎゅっと握り返した。
「俺だって父上の子だ。国民を守る義務がある……それに、クロウは俺とケーヤルンの弟と変わらない……隊長は何も心配せず行ってくれ」
カラハムは此処数日で一気に成長したウィリアムの姿を眩しげに見上げ、コクンと頷いた。ロードルーを出立した時は悪戯っ子で番長の様な態度だったウィリアムだったが、旅の中で大人を気遣い、率先してケーヤルンやクロウの面倒を見ていた。元々周りの空気に敏感で、自己肯定感の低い王子だったが、こうも成長してくれるとは頼もしい事だが、こんな成長のさせ方はしたく無かった、そう彼は思った。
「殿下。私は殿下のお側で、その成長を拝見しておりました。とても立派でございます。これより全権をレイブンに委譲いたしますが、最終決定権が殿下にもあります事を覚えておいて下さい。良いですね?」
「……俺に出来るかな」
「出来ます。いえ、やるんです殿下。ケーヤルン殿下にクロウ君を守るのでしょう?もしもリン殿達と合流出来ればその不安も幾分薄れるでしょうが、そうならない場合、決して我等臣下を守ろうとは思わないで下さい。逃げるのです、そのお命があれば、我等の勝利なのですから」
カラハムはウィリアムを抱きしめると、一礼して部屋を出た。そして慌ただしく動き出した騎士隊員を眺めながら、ウィリアムはケーヤルンとクロウを抱きしめた。
「お前達は俺が守るから」
「兄上……」
「おうじこわい?」
「うん……怖いよ。でも俺がお前達の兄だからな!絶対守ってやる」
「ぼくもおうじたちまもるよ!ままがおしえてくれたもん!こわいまじゅーもやっつけられるんだから!」
「クロウ、ケーヤルン。いいか?決して戦っちゃだめだ。俺達は敵から隠れるのが任務だ!絶対見つかっちゃダメだ」
「かくれんぼ?」
「あぁ!怖い奴が来たらかくれんぼ開始の合図だ。3人で隠れるんだ」
「「うん!」」
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