聖なる幼女のお仕事、それは…

咲狛洋々

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第一章 転生と始まり

11 それは神様を宥めること 蹂躙に待ったをかける

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「「王が愚かであれば魔神の蹂躙が始まるだろう」」

 え。なんですと?魔神の蹂躙?それは……なんて言うか、大事だね。うん、ヤバイね。

「いっそのこと魔神に滅ぼさせるか」

ふぁっ⁉︎え、何て言った?滅ぼさせる?嘘でしょ。パパさんやアルバートさん居るんですけど!

「それも良いな。聖は我等が元にあるのだ、今更この地に用は無い。新たなる地を聖の加護星として与えればフェリラーデも喜ぶだろう」

いやいや、喜ばないでしょ。リットールナ大事だったのであって、私が大事な訳じゃ無いの分かってるよね?それに神様業務とか勘弁なんですけど。幽霊とか怖い方だし。

「クローヴェル、あそこはどうだ?」 

「メルテルスか?あぁ、あそこは獣人の世界だが異世界転移の者も多いからな。良いのでは無いか?」

「だが男しかおらぬのではなかったか?」

「なら許可出来ぬ」

「レネベント達に探させよう」

 聖を無視してどんどんと話を進めるトルトレスとクローヴェルは、眷属達に声を掛けフェリラーデの神体しんたいが出来上がり、魂が無事収まった事を告げた。すると、どこからとも無く赤や青、緑に黄色、白の花弁が聖の上に舞降ってきた。それらはどんどん積もり、聖の首元まで積もってゆく。

「……喜んで貰えて何よりです」

 光の速さで話が進む展開に、私は目眩を覚えた。私の何気ない「殺される」という失言の所為で、リットールナが滅びるなんて……許さないとかどうこうの前に、怖すぎる。自分の所為で何万人と言う人が死ぬのに、あはは、うふふとどの国にしようかな、神様の言う通り!なんて馬鹿なことやってられるかぁ!

「皆んなありがとう!だけどっ!待って!」

「「どうした聖」」

「どうしたじゃ無いよ!私は滅ぼしたくないよリットールナを!だってパパさんとアルバートさんが居るんだよ?」

「それがどうした?」

 トールさん!何でそんなに残酷なの?クローヴェルさんも訳が分からないって顔してるけど、神様なんだよ?2人とも。

 ぐぬぬと、私が拳を振るわせているのを二柱は不思議そうに見ている。神から視点で言えば、人間なんて救う価値無いと思ってるのかもしれないけど、心は私も人間なんだよ!

「どうしたら魔神の蹂躙止められる?」

「「……?」」

いや、キョトン再びじゃないし!分かるでしょ?

「私は確定もしていない事の為に、リットールナを滅ぼしたくはないよ」

「何故だ?確定していなくとも、あの王がその様に望んでいるのだろう?」

「クローヴェルさん、そうかも知れないけど。それでもただ拳を握っただけで、殴るつもりだろうから、殴られる前に殴ってやる!なんて事が許される訳がないじゃん」

「神に向かって拳を振り上げる算段がある時点で有罪だ」

「トールさん!」

 アルバートさんが神々を蔑ろにする事は反逆だと言っていたのが良くわかるよ。寛容さが無いんだよなぁ~2人共。しかし、どうしよう。私程度の語彙力と説得力じゃ2人を改心させる事は難しい。あぁ言えばこう言うで丸め込まれそうだし、さっきみたいな力を見せつけられたら……私、間違いなく流れに乗っちゃう。そんでもって、ずっとぐちぐち言う筈。「パパがいたら、アルバートさんを助けていたら」って。神様相手に、通じるのかな……実際これが通用したのはパパさんだけだったし。うぅっ。やるしかない!

 聖は、その短い足を必死に伸ばし、爪先立ちでトルトレスの太腿にしがみつくと、上目遣いで乞い願った。

「トールさん。お願い……私の味方でいてよ。リットールナを滅ぼしたら、私トールさんを嫌いになっちゃうよ……そんなの嫌だよ」

鼻梁に皺をぐぬぬっと寄せると、次第に目頭に涙が溜まってゆく。聖は強制的に欠伸を引き起こすと、唇をきゅっと結ぶ。すると口元がピクピクと痙攣し始めた。

「聖……」

 さらりと揺れる金の髪が簾の様に聖を覆い隠し、まるで密室の中で見つめ合うよに2人の世界が出来上がった。

「泣くな、あぁ……そのフェリラーデの瞳で見つめられると、我は抗えぬ。はぁ……約束してくれ」

「ぐすん」

 早くっ!涙が引っ込む前に条件言って!

「何?トールさん」

「きっと、未来永劫……我は其方の願いを拒めぬ。何をしようと構わぬ。だが約束してくれ、2度とその魂を失うまで愛を分け与えぬと。そして最期の時は我等の腕の中であってくれ。もう、愛する者が死にゆくのを遠くここから見ているだけは辛いのだ……フェリラーデには後悔しかない。聖、お前を我等の後悔にはしたくは無いのだ」

 あぁ、この神様はフェリラーデを生み出した事、クローヴェルと争ってフェリラーデを自分だけの物にしようとした事を後悔してるんだ。きっと、わたしに恋人とかそんな事を望んでいるんじゃない。家族の様に、兄妹の様に……親子の様な変わらない、絶対的な絆が欲しいんだろう。
 クローヴェルさんもいつかは消える。その時までに、2人に共通の何かを欲しているんじゃない?それが、私なんでしょ?その気持ち……お兄ちゃんだけが唯一信頼出来る人であった私にはよく分かるよ。絶対に裏切らない味方がもう居ない、残されたのは大好きだったって気持ちだけ。語り合える人は……いない。そしてお兄ちゃんの顔は朧気になってしまって、今ではどんな顔か思い出せない。それは……とても悲しい。だから、先に私が死んだとしても、クローヴェルさんと語る事ができる思い出が欲しいんじゃない?そう、楽しくて、綺麗な思い出がさ。

「トールさん。最初はね、マジ無いわこの神様って思ったの」

「ん?」

「人の話聞かないし、勝手に解釈するし、説明足りないし、話きかないし、神力しんりょく怖いし!」

「ひ、聖?」

「でもね、一緒だったよ」

「……何がだ」

「笑顔や感情が。神様も人間も変わらないね……きっとフェリラーデさんの力のせいかな?2人をぎゅってしたいの……寂しくさせてごめんねって、大好きだよって言いたいの」

「聖」

「私はさ、こう見えて結構、いや大分下衆ゲスいし、短絡的だし、直情的で後先考えてないし、ポジティブな方なのに恨みは末代までが信条でさ……簡単に友達つくっておいてフェードアウトする様な人間なの。だから大切にする人間は極力少なくしてるんだ。今は同情なのかもだけど、でも確かに2人に何かしてあげたいと思ってるんだ」

「そうか」

 綺麗な金の瞳が、星々の光のせいか、涙のせいかキラリと光って揺れている。寂しそうなのに、嬉しそうな顔をしながら、冷たい温度の無い手で私の頬を包んでいる。かなり首が痛いんだけど、雰囲気ぶち壊したく無いから頑張るね。

「トール……トールさん、友達になってくれる?フェリラーデさんが残したで、トールさんを大切にしたいの。兄妹の様に仲良くなれたら嬉しいんだけどな」

 自家発電の欠伸による涙なのか、本当の涙かもうよく分からないけれど、トールさんとクローヴェルさんの孤独が少しでも癒されるならいいな。

「ありがとう聖。我の永遠の愛シェムシャナマを其方に……愛しい我が……妹よ」

 互いに分からなかった愛の形が定まったからなのか、トルトレスと聖の神魂しんこんが、互いに結ばれる様な拘束感を聖は感じ、驚きぴょんと跳ね上がった。

「なっ、何今の?」

「聖、それは通常神魂しんこんが上神する際の創造神からの祝福だ」

「クローヴェルさん?え、私神様になっちゃったの⁉︎」

ちょっと!そういう所!それがアウトなんだってば!報告•相談•連絡!事前に言ってよ!私神様とかまだするつもり無かったんだけども⁉︎よく事情もわかんないしさ、おいおいでって思ってたのに。

「いや、上神じょうしんした訳では無い。其方の神魂がトルトレスと結ばれたのだ。これで其方はトルトレスと同様の神力しんりょくを扱える存在となった」

は?え、何?今の所人間(自称)なのに、リットールナの主神と同格になった。そういう事?嘘よね……嘘っていってぇ!これじゃ本当に人間やめなきゃいけないじゃない!もしリットールナに戻ったらられるんじゃないの?

「え、私殺されるんじゃない?」

「ふはっ!トルトレスと同格の其方に誰が手を出せる?刀を振れば刀が折れるぞ?くくくくっ!それに、修練なくば力を使うなど100年掛かろうと無理であろうな」

「マジかい」

「しかし、聖。トルトレスだけを大切にするのは狡いのではないか?トルトレス同様、其方を大切にしたいと思うのは我とて同じなのだがな」

はいはい、そんな悲しい顔で笑うな!
分かってるよ。クローヴェルさんはフェリラーデさんを大切に思っていても、やっぱり一番はトールさんなんだよね。自分の死後を憂う位、大切なんでしょ?

「クローヴェルさん、私とクローヴェルさんは同志なの。大切なトールさんの心を守る仲間。だから出来るだけ長く、2人で支えてあげようね」

羞恥心を投げ捨てて、私は歯が浮いて抜け落ちるほどくさいセリフを連発しているから心はだいぶ限界だけど、本心でもあるからとても穏やかな気持ちだった。ぎゅっと抱きしめたクローヴェルさんの胸元に頭を預け、私は笑ってしまった。

「えへへ」

「聖、我の事も愛しているか?」

「ふふっくふふっ!」

「どうなのだ」

「愛は結婚相手だけにしときたいから、私は大好きをあげたいな!大好きだよ!クローヴェルさん」

「ふむ、それも悪くは無い。ならば我の事はクロウと呼ぶといい。それに、クロウお兄ちゃんと言うのも悪くない……と、思わぬか?」

 照れないで!こっちも恥ずかしくなるから!

「うん、いいね。でも、お兄ちゃんって言うのは結構恥ずかしいからさ、もしこれから他の神様や人間に会う事があったら、その時はトールさんとクロウさんって呼ぶからね?」

「「恥ずかしい?」」

ほんと、仲良いよね?君達。喧嘩してたとか嘘でしょ。

「そう!恥ずかしいの!30歳手前の私にはね!」

「「30など赤子や神魂しんこんの欠片も同然ではないか」」

「……ですよね~~」

 さて、魔神によるリットールナ蹂躙は王様が私の存在を知らなくても、神との縁を切った時点でフェリラーデさんの祝福と言う名の浄化作用は消え、魔獣の汚染された魔力が溢れ、魔人となった人が出てくる。そこから魔神へと変貌する者が出た時点で始まってしまう。それに、私と言う存在が公の物となったら、人による世界統治を目指す王様はどんな手を打つだろう。聖女の子供として操り人形にするか……姪として王族にさせられるのか。どちらにせよ良い扱いはして貰えそうにないよね。

「トールお兄ちゃん、クロウお兄ちゃん……私、パパさんやアルバートさんも2人と同じ位大切なんだよね」

「「ほぅ、人の子が我等と同等なのか?」」

「うっ!だって、私が困ってた時2人は助けてくれなかったじゃん。育児放棄で死にかけてたんだけど」

 そうよ。何であの時真っ先に来てくれなかった訳?

 トルトレスとクローヴェルは互いに遠くを見つめ、時折チラチラと双方の顔を見ている。そして、クローヴェルがトルトレスの袖をツンと引っ張り「お前が悪い」と言い、トルトレスは「貴様が実行したのではないか!」と声を荒げた。

「もしかして、魔神の魔力に汚染させて……そのまま死なせてこっちの世界に魂だけ呼べば良いとかって思ってなかったよね?」

「「‼︎」」

最低ーー!この兄2人最低なんですけど⁉︎おんどりゃーフェリラーデさんとの約束がとかって偉そうな事言っておきながら欲求に忠実過ぎない?信じらんないよ。

「なっ、何を言う!ち、違うぞ?それを言ったのはクローヴェルだ!」

「なっ!トルトレスがあの神体しんたいがあると、下界ではまともに朽ちぬ故、魔に落とさねば魂を回収出来ぬ、天上界で有限な神体しんたいではあっという間にフェリラーデの死の再現となって嫌だと嘆いたではないか!」

「ほほぅ、こんっなに可愛い妹の身体が魔神に汚染されてんのにそれを喜んでたってわけね!良い兄を持ったもんね私も!信じらんない」

 未だ短い手足に、肉付きの良い身体。威嚇して、ガチギレした所で説得力もない訳で。これが神体しんたいなのだと言うのだから呆れて物も言えない。この世界だとあっという間に大人になるのだと思ってたけど。これじゃ国王様ともまともに話も出来ないじゃん!

「トールさん、私……リットールナに、魔神の蹂躙が無い事を確認出来るまで、いたら駄目?」

 トルトレスとクローヴェルはむっとした顔をしていたが、きっともう心に決めているのだろうと言い、聖がリットールナに戻る事を許可した。しかし、次に天上界に戻る時はフェリラーデの役目を担ってもらう事を約束しろと詰め寄った。

「……えぇ……私が愛の神様やるの?それって皆んなが可哀想なんだけど」

「大丈夫だ。我等の心の棘を溶かした其方だ。それに、下界できっと多くを学ぶだろう……その時、きっと其方は立派な女神となれるだろう」

「やれるかなぁ。っていうかやりたく無いなぁ」

「ならば我が伴侶となるか?そうなれば神魂しんこんの消滅もない。永遠に2人だけだ」

うっ!そ、それはキツイぞ?この世界に永遠って!地獄じゃ無いですか!

「が、がんばりまふ。それとさ、ここだと問題無いんだけど、この身体、神体しんたいなら少し大きめに成長させるとか出来ない?リットールナだとさ、やっぱり3歳児程度の身体じゃコミュニケーションがね」

「「?」」

「ん?」

「「ん?」」

いや、鸚鵡返しされても。

「「その体は其方の精神と神力しんりょくが成長すれば、それに応じて成長するぞ?」」

「はぁぁぁ⁉︎私が、このアラサーの私の精神年齢が3歳児ってか!いや、きっと神力しんりょくだ!そうだ、だって生まれてそんな歳月経ってないしね!いや、そうよ。生まれて直ぐに大人な子供とか無いよね?うん、絶対そう!」

「聖女は別に人間の子を孕んだ訳では無いぞ?神核しんかく神力しんりょくをその身に宿したのだ。そもそもそなた、人の子だとでも思っておったのか」

……。フェリラーデの願いを叶える為に、加護やら祝福やら、神力しんりょくやらを集めたのはさっき聞いたけど、王弟と聖女がほにゃららして、出来た私に力を込めた。そう思っていたんだけど……そもそもそんな関係に無かったの?

「え?聖女の旦那が父親じゃないの?」

「彼奴はフェリラーデの敬虔な信徒だったからな。聖女に力を貸したに過ぎんのではないか?その感情までは興味が無かった故知らんが」

「くっ‼︎何てこったい!うううっ!なんがしたかったとね!聖女さんは!こげん、めちゃくちゃひちゃかちゃな状況、ぜんっぜん理解できんとやけど!あぁっ!」

「……聖、何を言っておるのか分からんのだが」

「知らんでよか!封印しとった博多弁まで出てきたやん?そらそうたいね!国王さんも疑うに決まっとーやん!神になるつもりなんか、国王を差し置いて?そげん思うに決まっとーやん!そんでもって教会も腹かくにきまっとーやん!なんばしよっとかってぇ~聖女~!」

「……気は済んだか?聖」

「う、うん。ごめんね?興奮しちゃった!テヘッ」

「「……」」

「だって……聖女のした事の所為でかなりパパさんとアルバートさん困ってるんだもん。当然私もだけど」

「まぁ、よい。だが、天上界に居れば、下界の時の速さは止まっておるのと同じ位遅い。今戻れば人の子であれば5歳程度には成長しておるのではないか?……それより、クローヴェル、そろそろ応えてやれ。先程から煩くて敵わん」

 トルトレスは、聖を抱締め離さないクローヴェルに、しっしっと手を払うと、急に現れた金色の玉座の様な椅子に腰を下ろした。

「はぁ、仕方ない。それにしても、何と品の無い祝詞か。応えたくないな。それに、この者は一向に成長せぬな」

「何?」

「其方を返せと、我等に出てこいと人の子等が降下の儀式を行っておる」

その言葉を聞くやいなや、聖はクローヴェルが足元で揺蕩う光の渦を覗き込んだ。

「パパさん?あぁっ!パパさんがいる!アルバートさんも!華麗なお嬢様もいる!」

 いつの間に、ここまで彼等が心に住み着いていたのだろうか、必死に乞い願う思いが緑色と赤色の魔力となる程、彼等が自分を想っていてくれた事に、聖は唇を震わせた。

「うっくっ……うぅっ。何でそんなにボロボロなのぉ?うえっパパさん、顔怖いしっ…うぅっ、アル、アルバートさんっ死にそうじゃん」

「帰りたいか?」

その言葉に、聖は振り返る。
しかし、二柱の顔を見る事が出来ず、ただ彼等の足元を見た。

「帰りたいけど、2人を置いていきたく……ないよ」







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