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第二章 盾と剣
9 不安なのかさえ分からない程の不安
しおりを挟む深淵1の刻。周囲は闇に覆われて、静けさの中に聖琰が魔石を砕き割るゴリゴリ、ガリガリと言う音だけが響いている。私は4日も眠っていた為か全然眠れなくて、隣で寝息一つ立てずに眠るパパさんに布団を掛け直した。
宵闇に、厚く垂れこめる雲の隙間から月が見え、私はそれをじっと見つめていた。さっきまで、客室でアルバートさんやパパさんと、ダダフォンのおじちゃんの争い染みた言い合いを聞いていた所為か、まだ耳の奥におじちゃんの大きな声が残っている。そして、何よりもこれから死が待っているかも知れない場所へ赴かなくてはならない。その事が、私の体を不安と緊張でこわばらせた。
「司令官!聖戦は遊びではございませんよ!そこに聖を連れて行くなんて、本気ですか?」
「聖?その子供の名はフロリアじゃねぇのか?」
「……この子の中にある魂の名前です」
「ははぁん。このガキ、呼び戻しかよ」
「いえ、違います。多くは言えませんが、それで無い事は確かです」
その言葉に、私は「ん?」と言ったけれど、パパさんとアルバートさんは敢えて話をスルーしていて、私はそれを深堀する事が出来ず、ただ黙って話を聞いた。
「まぁいい。だが、ロヴィーナですらお前達に纏わりついている神力を感じた。お前達が不在の間、教会が出張って来たらどうするつもりだ。ここの屋敷に居る者達だけで守れるか?教皇がこいつを見たら、お前達の許可など得ずに連れ去るぞ。それにな、教皇は聖女、聖人を酷く恨んでいる。特に前聖女はあいつのカミさんの前途を奪った女だぞ?いくら血が繋がってなかろうと、聖女が産んだ子。それだけで神の捨て子として一生魔石の下の地下牢から出ては来れないだろうな」
え、そうだったの?聖女さんと教皇の奥さんってライバルだったの……でも結構前の話でしょうに。まだ恨んでるって、どんだけしつこいのよ教皇。しかも魔力補給にされるって……。怖すぎる!
「パパッ!」
「フロー、大丈夫です。絶対に私がそんな事させません、貴女をここに残すなら聖琰を残して行きますから」
いや、それだと何の為に私が応援したか分からないじゃない!
駄目、えんちゃんは絶対に連れて行ってもらわなきゃ。
「ダメだよ。折角レネベントさんが貸してくれた眷属なんだから。ちゃんと連れて行って!それに私死ににくいっぽいし」
「いえ、今回の聖戦で私は遊撃を任されておりますから、私よりも貴女の身の安全を確保しなくてはなりません!死に難い?それは絶対なのですか?」
「それは、わからないけど。いや、マジでパパさん死んだら私一人なんですけど!」
「だからこそ、貴女が安全である場所に居てくれなければ私は全力で戦えません」
パパさんと私は抱き合って、互いにお前の身を守れと譲り合い慰め合っていた。前世では経験しなかったいちゃいちゃだが、内容が内容なだけに照れや甘ったるい感情は皆無だ。
「だから言ってんだろうが。奪われる位なら側に置いておけよ、そのお嬢ちゃんには神が付いてんだろうが」
なんだかな。このおじちゃんは神様を警備システムかなんかと勘違いしてないかい?それに、ハカナームト神は私が人間界で死ぬのなんて本望なんだよ?守るどころか戦火の激しい場所に放り投げられる確率の方が高いと思う。うん。魔人の魔力汚染そのままにして放置してた位だからね!
「おじちゃん、勘違いされちゃ困るんだけどさ」
「何だよ」
子供の目の前でタバコすぱすぱ吸いやがって。駄目おじだ!絶対モテないでしょ。
「私とハカナームト神が繋がっているからって、私は万能じゃないからね?確かに、神様達と繋がりやすい体質をしてはいるけど、その力は使えないから私」
想像以上にポンコツだな、そう暴言を吐き捨ててダダフォンのおじちゃんはベッドにごろりと横になった。そして、私の神力を吸収した魔石を私にぽんと投げ捨てた。キラキラ光るその魔石に一体何の意味があるのあだろうか?
「おい、その魔石を砕いてみろ」
「無理」
「こらぁ!即答する前にトライしてみようとは思わねぇのかよ!」
いや、現実的に無理でしょ。道端に転がる石を砕けって言われて誰が砕けるよ。ケン●ロウかよ?
「司令官、無理を言わないでください。娘には無理です!見てください、この柔らかい花の茎の様な指を!こんなにか弱い手で魔石を砕くなんて出来る訳がないじゃないですか!ねぇ、フロー?」
パパさんの溺愛ブーストのかかった言葉に、ダダフォンのおじちゃんは気の遠くなる様な顔をしている。だけど、そんな事を無視して、尚もパパさんの甘い言葉は続く。
「どうしてもと言うのでしたら、私の騎獣に乗りましょう?ずっと、私の腕の中にいたらいい、そうすればいつでも私が守って差し上げられる。それに、魔石を砕く必要があるのでしたら私が砕けばいい……そうでしょう?フロー」
「う、うん。でも、おじちゃんは何か作戦があってアルバートさんと一緒に居ろっていってるんでしょ?」
「ん?あぁ、こいつアルケシュナー神の加護を持ってるからな。死神は近寄らないだろ。ハリィの側に居るよりは死から遠ざけられる筈だ」
私はその言葉に、アルバートさんを見たけれど、アルバートさんは眉間に皴を寄せて何も言うな、聞くな。そう言った。けれど、アルケシュナーの加護って絶対に得られない加護の一つじゃなかったっけ?それはアルケシュナー神が死を管理する神だから。
雷と氷を司る双子神アルケシュナー。体の前と後ろで其々別の神があって、表の雷神、裏の氷神と言われている。人は死ぬとアルケシュナー神の持つ秤に登るのだと言う。アルバートさんが加護を持っているという事は、その秤に登った……それは一度死んだと言う事?一体、何があったのだろう。アルバートさんは自分の事を殆ど話さないから、私は彼の事を何も知らない。もちろん、そんな事を知らなくても私はアルバートさんを信用している。パパさんを助けてくれた人だしね。でも、その理由をいつか、私が聞いたら教えてくれるかな?いや……きっと教えてはくれないんだろうな。お前には関係無いって言われるのが想像できる。
「でもおじちゃん、私の体は神体だからさ、物理攻撃では多分そうそう死なないよ?まぁ居ないだろうけど神力がある人や、教会関係の人が戦争に来て魔法をバンバン打ち込んで来たらわかんないけど」
「なら良いじゃねぇか。まぁアル坊やハリィで駄目なら俺が守ってやるよ」
「「それが一番不安なんです!」」
何気なく、私は床に転がる魔石を持って聖琰に渡して「砕いて」と言った。彼女は指先でパキンと割った。
「あっ!」
砕けた魔石から、神力が飛び散り花が舞う。私達はそれを見上げ呆然とした。これは天上界で見た花畑の花だ。
『なぁ愛し子よ。その光の中にフェリラーデ様を感じないか?』
「え」
『其方、まだ神力の扱い方が分からぬのだろうが、其方の中に残るフェリラーデ様の声を思い出せ』
思い出すのはのほほんとし、ツッコミ待ちのボケの様な女神だ。そんな彼女で思出せるのは……。
「むむむむっ!爆散!ド――――ンッ!」
『え?』
私は自分を賢いとか、知恵や勇気があるなんて思っていない。逆に空気が読めず状況判断が出来ない馬鹿野郎だと思っている。しかし、ここまで自分が馬鹿だとは思わなかった。
部屋中に舞い散る花びらの様な神力は、まるで粉塵爆弾の様に神力がバチンバチンと弾けて光がカッ‼︎と溢れ出た。その光は閃光弾の様で目がつぶれそうだった。
『馬鹿者ーーーー!』
「ぎゃーーーーー!目がっ!目がぁぁ!」
のたうち回る私とダダフォンさんを、パパさんとアルバートさんは溜息を零して見ていたに違いない。
「フロー、眠れなかったのですか?」
ベランダで空を見上げる私の後ろから、ガウンを羽織ったパパさんが声を掛けて来た。私は先刻の失敗から不安で吐きそうだと言うのに、パパさんはいつも通りで、それが何だか少し腹立たしい。私は振り返る事もせず垂れ込める雨雲の隙間から覗く太陽を見ていた。
「怖いですか?」
「怖いかどうかもわかんない」
「……では、不安ですか?」
「不安と言って良いのかな?私が何も出来ないのが表面化して、凹んでるのかも」
「大丈夫です。フロー、パパが力になります。不安など感じずとも良いのです。ただ、笑っていて下さい、それだけで皆勇気づけられる事でしょう」
俗に言うバックハグ。後身長が70センチあったら、立派なラブラブカップルだよ。だがしかし、ふわりとパパさんがブランケットで包んでくれたせいでまるでETの様じゃないか!そんな馬鹿な事を考えていた。
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