聖なる幼女のお仕事、それは…

咲狛洋々

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第三章 魔法と神力と神聖儀式

4 それは愛を知ること 〜初恋は2人の父親と

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「娘というのは父親が初恋というのは本当ですか?」

はっはっはわぁぁーーーー!
なっ、何で?何でそんな事を聞くの?
分からないっ、あれが夢だったのか現実だったのか。
聞くに聞けないよ!もし現実だったとして「そうだよ」と言えばパパさんはめちゃくちゃ困るよね?でも夢だったら……喜んでくれるかな。どうしよう。

「んんっ、ど、どうだろう?よ、よく聞くよね!娘は父親に似た男性を選ぶって」

はっ、はっ、し、心臓が保たん!
ドラマみたいに今ここで気を失いたい‼︎

「そうですか」

 ハリィはその言葉を聞くと、フロリアを部屋に残して厨房へと向かった。フロリアはベッドの上で布団に包まると頭を抱えた。

 何してくれちゃってんのわたし‼︎意識しまくりでまともに顔が見れないんですけど⁉︎いやいや、っていうか私は私を聖だと思ってたし、思ってるけど、夢で見た様な感情や思いは無い。私は誰?

「えぇ……勘弁してよ。イケメンパパとハッピーライフを送る予定だったのに!恋愛要素とかマジ要らないんだけど!」

 そうだよ。私にだって彼氏はいたもん。
……でも、元彼は私の好みの男性だったろうか?思い出せない前世の出来事。仕事の事や、家族の不和、友人関係は分かっている。でも、事細かな過去を思い出そうとしたけれど、ぼんやりと霞がかって良く思い出せなかった。

「え?マジ?……私って、誰?」

ガチャっと音がして、誰かが部屋に入ってきた。フロリアは布団を被り直すと丸まりその人物が誰かを確認しなかった。

「ねぇパパ?私って誰?」

「あ?何言ってんだお前」

「‼︎」

ガバリと起きると、そこにはシャツを羽織ってスラックスを履いただけのアルバートが立っていた。

「あ、あるばーとしゃん!うぁぁぁぁん!助けて!」

「⁉︎お、おいっ、なんっ何だ突然!抱きつくなっ!」

「うっ、うっ、私、聖?フロリア?誰?」

「はぁ?」

 泣き縋るフロリアを、アルバートは面倒臭そうに抱き抱えるとベッドの上にドサッと落とした。フロリアはアルバートを見上げる。彼の目はいつもより優しい目をしていて、普段とは違う雰囲気にフロリアは怯える猫の様に枕元の天幕に隠れた。

「何だよ」

「なんか……すっごい怒られる前触れみたいで嫌なんだけど」

「はぁ。ハリィが俺にフロリアを見ていろと言ってきたから代わりに来ただけだ。それより、何で泣いてんだ」

「……」

 ひょっこり顔を出しながら、話すべきかどうか悩みつつアルバートの顔を見る。しかし話出す勇気が出ず違う話題を問いかけた。

「そう言えば、何でアルケシュナーの所に行ったの?それって自殺でもしたって事だよね」

「あぁ、あれか。まぁそうだな」

「そんなにユミルさんが好きだった?」

「……あぁ。大切だったよ。あいつが聖女になればこの世界を守る祝福は今も全盛期同様の守りとなっていただろう」

「そんな意味じゃない……事は分かってるでしょ」

「はぁ。俺があいつを女として愛していたか?答えはノーだ。そんな感情を抱ける程俺は大人でも無かった」

「そう」

「だが、家族として大切な奴だった。あんな無惨な目に逢っていい女じゃ無い。誰より愛され幸せであって欲しかったし、それを俺は見届けて親父の罪を贖いたかった」

「お父さんの罪?」

「親父がユミエールナのお袋さんとの事をちゃんとしていればこんな事にはならなかったし、俺は素直に姉としてあいつを慕ってやれた」

「だからってアルケ達の所に行くなんて」

「聖騎士の代えは探せばどこにでもいる。だが聖女の代わりは簡単には見つからんからな」

 それだけだろうか?本当にそんな理由で死を選べる?

「お前がハリィの為ならばなんでもやれるのと同じ様に、俺もあいつが幸せになる道があるならそれを守りたいと思っただけだ」

「いつそんな事をしたの?」

「ユミエールナが再捕縛された日だ」

 アルバートさんになら、私のこの気持ちがわかるかな?
パパさんを私はパパとして大好きなのか、恋愛対象として見ているのかが分からない。

「アルバートさん。お話しきいてくれる?」

「あ?何だ。急にしおらしくなって」

 私は夢か現実か分からない事を吐き出した。実際私はパパさんをハリィという男性としては見ていない。きっとパパさんもそうだろう。
 話を聞いたアルバートさんは笑うでも、茶化すでも無く真面目に話を聞いてくれて、聞き終えると何かを考えていた。

「……あぁ、未熟ってそういことか」

「?」

「俺はこう思っている。愛情はどれも同じだし、お前は聖でありフェリラーデ神の残したフロリアだ」

「は?」

「そうだな……ユミエールナが何故あんな行動に出たのか。俺がどうしてアルケシュナー神の元へ行ったのか。どう理解する」

「それは、ユミルさんはアルバートさんに迷惑かけたくなくて、でも忘れられなくて国王さんの所に行ったんでしょ?それは……愛だから?んん?愛してるならアルバートさんの側にいたらいいのに。いや、でも状況が許してくれなくて……えと」

 フロリアはアルバートの顔を見た。アルバートは無表情でただその答えを待っていた。

「2人を愛しちゃったから?アルバートさんはそんなユミルさんを誤解してたからアルケの所に行った……かな?」

「……」

「え?違う?わかんない」

「……家族である事を求めた俺と、俺と家族を作りたかったあいつ。求めた物が違うのに、交わる事なんて血の繋がりを無視したとしても無かったんだ。愛に縛られるな、どうありたいかを考えろ。愛なんてどんな形になってもそこにあるんだから」

「だから、今の私はパパを親としたいって事なのか、奥さんになりたいって事なのか……その感情も私の物なのか、聖としての物なのか分かんないんだよ!」

「愛に綺麗も汚ねぇも無い。ましてや家族愛も恋愛も根幹は一緒だ。そこに欲が絡むか絡まないかでその呼び名、して欲しい事やしてやりてぇ事が変わる。いずれお前が成人して誰かに全てを曝け出したいと願い、抱いて抱かれて、奪い奪われたいと思うなら恋慕だ。だが、守り慈しみ、幸せを願い、一番の理解者でありたいと思うなら、それは親愛だ。勿論その両方を持って誰かを唯一とする事もあるだろうが、お前はそこまで器用じゃない。なら未来の2人の姿が今お前にはどう見えているのか、それを導にするしかないだろう」

「パパとどうありたいかなんて分かんない。パパが大好きって言ってくれると私もそうだなって思うし、パパがもし他の子を私と同じ様に可愛がったらとっても嫌。でも奪い奪われとかそんな事考えてないよ」

「もしもハリィが死んだとして、お前はどうする?神とかそんな事は抜きでだ」

「死ぬ?パパが?」

「そうだ。2度と会えない。残されたのはお前だけ、その時お前はどうする」

「……そんな事絶対にさせない!死ぬ前に何が何でも助ける。お兄ちゃんたちが助けないなら私はフェリラーデになって守るよ。3神5形威?そんなの怖くない!何なら彼等とだって戦う」

「そうじゃねぇよ。後を追いたくなるのか、あいつの為に幸せを掴もうとするのか、それを聞きたかったんだよ。はぁ……俺はな、あいつの死は家族、一族の死だと恐れていた。あいつは俺が死んでも支えてくれる陛下が居る。俺は家族、一族の尊厳はあいつが生きている方が守られると思ったんだ」

 ユミルさんが生きていれば国王さんが一族纏めて守ってくれるだろうと思ったとアルバートさんは言った。アルバートさんの中でユミルさんはその一族という括りの中にある存在で、唯一じゃなかったって事なんだろうな。

「俺はお前じゃないから、その感情が恋慕なのか、家族愛なのか、友愛なのか。そんな事は分からん……だが、そんな感情は簡単に理解出来るものでも、腑に落ちる物でも無い。いつかお前の中でその答えが出た時、ハリィへの気持ちが何なのか分かるんじゃないのか。今は家族でありたいと願っても、共に家族を作りたいと願いが変わるかもしれんしな」

「なら今は考えるなって事?」

「そうだ。今は育んで行くんだ。感情を、想いを、願いを。そして出来る事を増やして、いつかお前がハリィの背中を押せるようになれ。もしくは、お前があいつの胸に飛び込める様に蓄えるんだ」

 フロリアはその言葉を聞いてアルバートに抱きついた。モヤモヤとしていた感情がすっと何かに収まって行く気がした。

「どちらに気持ちが定まっても、お前はハリィの幸せを願うだろ?」

「うん。うんっ……そう。パパが誰かを見つけたら応援してあげるし、パパがそばに居てって言ったら側にいる」

「答えは出てるじゃないか。その時の為にお前は視野を広げ、与えられた力を使える様に努力すべきだ」

 パパさんとは違う頼もしさに、私はアルバートさんの首にしがみついた。

「アルバートさん、ユミルさんは幸せになれるよ。私、多分沢山祝福しただろうから」

 背に回された腕に力が入る。ハリィとは違う強い腕に、フロリアはきっと異性を感じるならこういう時なんだろうなと思った。

「あぁ、ありがとう。俺もお前に救われたんだ」

「力になれた?」

「あぁ、なったよ。お前が、罪を犯したとしてもあいつの想いを大切にしてくれる奴で良かったよ。俺の胸の 痞つかえを取り除いてくれた」

「パパとは違うけど、アルバートさんも私の大事な人だからね?もうアルケの所に行こうなんてしないで」

 思い出しても涙が出る。ユミルさんの最期の時、国王さんの言葉、アルバートさんとユミルさんの会話。そのどれにも愛があって、私はその愛を正しく伝え合える時間を作る事が出来て良かったと思った。

「その時はお前に願うよ。助けてくれってな」

「うん!アルバートさんがちゃんと誰かを愛した時は教えてね?2人に最強の祝福をあげるから!」

「……そうだな」

 誰かを愛してあの様に傷付くならば、愛など要らぬと伴侶など見つけようとも思わなかったアルバートだったが、フロリアが永遠に解けぬを与え幸せそうに未来へと向かったユミエールナを見て、誰かを愛せるかもしれないと思った。

「その時は、お前に祝福して貰うかな」

「うん!沢山、たーーっくさん祝福する!2人の子にも、そのまた子供にも、幸せになります様にって祈ってあげるね!」

「はっ、太っ腹だな」

 抱きつくフロリアの体温が、シャツの開いた胸元に直に伝わりアルバートは穏やかな気分に満たされていた。

 いつぶりか、女を抱いても虚しさしか無かったのに、子供に抱かれて満たされるとは。情けねぇなぁ、俺も。
 だが、こいつは俺を異性と見てるのか?はっ、面白いじゃねぇか。こいつが俺に惚れたらどう出る?馬鹿みたいに尻尾でも振るか?いや……こいつもユミエールナの様に誤魔化し続けるのかも知れない。
 その前に、こいつの記憶力の無さは何とかならない物か?全部丸聞こえだってのにな。

「それ位、アルバートさんが大好きなんだよ?パパとお兄ちゃん達の次にね」

 みたいだな。俺はお前が怖がってるのを知っていて怖がらせていたんだが、そう来るんだからな。

「そうか。なら明日からの指導をビシバシしても許されそうだな」

 その言葉に、フロリアはアルバートから離れると扉を開けて大声で叫んだ。

「パパーーー!パーーーパーーーー!今すぐお家借りてーーー!出て行くー!こんな所今すぐでてくー!」

「あははははは!馬鹿めっ、あいつは俺の部下だぞ?お前の指導はあいつもやるんだよ!」

「ぎゃーーー!」





「そうですか。それでハカナームト神は貴方にフロリアを一任したのですね」

 食事を終えたフロリアだったが、眠れないからと、ラナとロアを呼べと言った。しかし、やはりロアと既に挨拶を交わしていたことを知り、夢では無かったと知ったフロリアは絶叫して部屋に閉じこもってしまった。今は何を言っても気不味いのはお互い様だとアルバートはハリィを自室に呼んでいた。

「その様だな。お前に任せたならあいつはお前の為に善悪関係なく力を使うだろう。お前がやめろと言っても、お前の為なのだと形振り構わず力を使い、時に上神死ぬ事すらも容易く選択するに違いない」

「はぁっ……やはり私は育て方を間違っていたのですね。確かにあの時、女として私を見ているのか?と聞かれた時は拒否してしまいそうになりました。娘を返せと言いたくなった……でも、ヒジリィ様がバイバイと言った時、違う、そうじゃない、貴女も大切なんだと言いたかった。けれど、言えなかったんです。直ぐに体が戻ってしまって」

「お前、どうする。5年後、全ての覚醒を終えてあの姿にフロリアが固定されたら」

「……」

「娘として見れるか?」

「も、勿論ですよ。どんな姿になっても、あの子は私の娘だ」

「そう、思い込もうとしてないか?確かにこの一年、あいつは幼児だったがな、元々成人した人間なんだ。ただ守られるだけの存在じゃ無かった筈だぞ。恋人も居たようだし、年頃の王子や子息達に言い寄られ仲が深まれば簡単にそっちに行くぞ」

「……」

「それに、5年と言わず来年にでも覚醒が終われば俺か陛下が事実上親になる。そうなった時、お前はどの立場であいつの側に居るつもりだ」

 そう、後見人としての役割はヒルトもしくはアルバートに何かあった時の保険であり、今のハリィにフロリアに関しての権限は何も無かった。ハリィは天を仰ぐと目を瞑る。花の様に甘く美しく、欲望を誘うあの姿。微笑み何かを強請られたなら、きっと全てを差し出してしまう。そう思うと、ハリィはそもそも選択肢など無かったのだと絶望した。

「譲れない」

「だろうな」

「でも、娘の様に愛したい」

「そうしたら良いだろ。お前好みに育ててお前が摘めよ」

「背徳感で気が狂いそうです」

「なら俺が嫁にするか。単純で馬鹿で、情に脆くて扱いやすいからな。死なねぇっても使えるな。前線で戦わせて援護に徹すりゃ戦力を減らさずに済む!魔神戦ではバンバン戦力として使えそうだ」

「アルバート‼︎」

「はっ、冗談だよ。でもな、俺もあいつを気に入っている。違う意味だが……ぽっと出のクソガキ共に奪われる位なら俺が摘んで有効活用する。それが嫌ならさっさと覚悟を決めるんだな」

「……」

「後、ハカナームト神からの命令だ。早く冬の結を解くか、雪解けさせろとな」

「はぁ……アルバート。どうすれば爵位って得られると思います?」

「おいっ!そんな事でお前、今まで何もしなかったのか?」

「そうですよ。だって、爵位が無ければフロリアが貴族社会に入った時、宮廷騎士貴族パレスナイトなんて飾りの爵位しか持たない娘として馬鹿にされるでは無いですか」

「おまっ、ほっ、本当に馬鹿だな!」

「だって」

「だってじゃねぇよ!黒騎士に移動すりゃ自動的にお前自身に陞爵が許されるだろうが!」

「あ」

「あ、じゃねぇよ!お前がまず貴族について学び直せ!」

「でも、貴方の側を離れないと決めていますしね。陛下に相談してみますよ」

「だから!勉強しろよ!黒騎士は最長5年の任期しか無いだろうが!その後は元帥補佐としてでも戻ってくりゃ良いだろうが!俺は5年と待たずに司令官になるぞ」

 その言葉に、ハリィはウィスキーの入ったグラスを取りぐっと飲み干した。

「明日、陛下に謁見を願います。そしてマリーナとの婚姻を解消します」

 ハリィはポケットの中に忍ばせていた魔石を取り出すと、じっと見つめ何かを決心した様に口付けた。

「まだあの子には何も言いません。父親としてあの子を愛します。ですが、私以外を隣に立たせはしません。アルバート、貴方であっても」

 アルバートは、ニヤニヤと口元を緩ませながらタバコに火を付けると思い切り煙を吸った。

「ふーーっ。なら、お前の気が緩まねぇ様にあいつの前に立って俺を男の基準にさせようか。お前が気を抜けば俺は攻め込むからな」

「望む所です。私以上にあの子を愛せない貴方に、フローが惹かれるなんて思わないで下さいね?義父おとう様」

 2人は互いの胸ぐらを掴むと「勝負だ」と言い手を離した。
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