聖なる幼女のお仕事、それは…

咲狛洋々

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聖騎士団と聖女

4 それは歩き出すこと

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 現場のフロリアさん。そちらはどうですか?

はいはーい!聖女一歩手前のフロリアです!
私は今、聖騎士団にお邪魔しています!
何故今日こちらにお邪魔しているのかと言いますと、聖魔法を見せて頂く事と、なんと!私の魔法訓練の成果をこちらで見て頂く為なのです!ですがまずはご覧ください!この肉、肉、肉の筋肉祭り!鼻血が出そうな程美しい筋肉に囲まれて、私、かなり興奮しています!脳内アドバイザーのフェリラーデさんいかがですか⁉︎どの方も凄く無いですか⁉︎

「フロリア」

 はぁわー!あの方の背中の筋肉どうなっているんでしょうか!凄いです、抱きついて硬さを確かめたいです!

「フロリア」

 パパさんの筋肉もかなりの物ですが、インナーマッスルに重点を置いた物とは一味違いますよ!良いです!あの大腿筋の盛り上がりを見てください!

「フロリア‼︎」

「はわっ!な、何?お父さん」

「何じゃない。ぼうっとするな」

「ほぅっ」

 頬を両手で包み、フロリアは頬を赤らめ団員達の訓練を見ていた。丁度体術の訓練が終わり、長袖のタイトなアンダーシャツにピチッとしたスウェットの様な足首を紐で縛ったパンツを履いた団員達が、各隊の隊長の元に集まり訓練の採点結果を受け取っていた。

「パパ、あれは何もらってる?」

「あれは訓練の総評です」

「え?毎日あれ貰うの⁉︎」

「そうですよ。で、なくては驕る者が出ますし我々も部下の力量が把握出来ませんからね」

「どんな事書いてる?」

「そうですね……カミル!ゼファー!」

 ハリィはアルバートに抱えられたフロリアの頭を撫でると、1番奥で総評を見ながら話をしていた2人を呼んだ。フロリアは、聖騎士団で働くハリィの姿を知らぬ為か、急に目付きの鋭くなったその姿に驚きアルバートを見上げた。

「お父さん」

「?」

「パパいつもあんな顔?」

「ん?あぁ、ここだとそうだな。人1人殺してきた様な顔してんだろ」

「ほぅっ、そんなパパもかっこいい!」

「ハリィなら何だって良いんだろお前」

「まーね!」

 ハリィに呼ばれたカミルとゼファーは駆け足で近寄ると、敬礼してハリィの前に立った。しかし、フロリアはその2人の表情が少し強張っているのに気付くと、アルバートの腕から飛び降りた。

「パパ」

「フロリア様、ここでは名前か師団長とお呼び下さい」

「……うぃ」

 外に出る事が殆ど無かったからどういう状況だと言い方を改めたら良いか分かんない。私はパパさんを皆んなに私のパパだって言いたい。じゃ無いと本当にこれから先……繋がりが切れてしまいそうだし。それに私はアルバートさんをお父さんと呼びつつ、そう思った事はないしアルバートさんも私を娘として扱った事はない。外聞に繋がる事以外では基本的に放任だし、屋敷に居て授業の時意外に私に関わる事もない。そう、どんな時でもフロリアとしての私を大切にしてくれるのはパパさんしかいないんだもん。

「……ハリィさん」

「何でしょう、フロリア様」

「お兄さん達はベテランさん?」

「カミルは入団2年目で、ゼファーは入団して20年以上ですし第3師団の部隊長を務めたほどの実力者ですよ」

「へー……凄いんだね!」

 アルバートさんが司令官になって、パパさんが第一師団長になった事で部隊編成がされたと聞いた。第二師団の師団長さんはアルバートさん付きの文官になり、第3師団の師団長はラヴェントリン閣下の武官となった為、かなり大幅な再編成だったと聞いた。そして、このどう見ても学者の様な風貌で曲者にしか見えないゼファーさんがパパさん付きの武官なんだと言う。文官の間違いじゃないの?そう思うくらい神経質そうな見た目で、私を見るその爬虫類の様な目に生唾を飲んだ。

「シャナアムト神の瑞風に導かれし邂逅に感謝致します。第一師団補佐官のゼファー•ルグシャルフでございます、どうぞお見知り置きを」

「あっ、結びの神に従えしオ、オーフェンタール神のご加護によりお会い出来ますた事、か、感謝したしまふっ!カミ、カミル•ワーグナーと申します!」

 オドオドと噛みまくるカミルは、その場に居た100名近い騎士団員の中でも身長が1番低く、固太りの柴犬の様な体を縮こまらせ、純朴そうなその顔を赤くして頭をさげていた。そんな2人にフロリアは手を翳し返礼すると神力を流した。キラキラ光るその力を見た2人は、まだ秘匿されている部分の多いフロリアの存在を信じ切れてはいなかった。

「「フェリラーデ神の……神色」」

 薄紅色の光と、力を使うとフロリアの周囲に現れる聖蝶せいじょうを見て、それがまごう事なく聖女の力である事を理解した2人は跪き頭を下げた。そして、それらを見ていた他の隊員も跪いていた。

「ゴホンッ、皆立ちなさい。今日は皆の力を借りる為にフロリア様はお越しなのです。堅苦しくされると居心地が悪い……でしょう?フロリア様」

 お前のその態度が1番居心地悪いわ!とは言えない私は黙って笑うとパパさんのジャケットの裾を掴んだ。

 私、緊張してる。

 中には私がパパさんの側に居る事が気に食わない顔をしてる人がいるし、何でこんな子供に?暇じゃねーんだけど。そんな顔の人もいる。恨めし気に睨まれて混乱する。何故、どうして、何かした?そんな疑問ばかりが心を占めて行く。
 無様な姿を見せられないし、ここで成果を見せなきゃ王室や教会が騎士団では力不足だと言い出しかねない。そう、指導者の立場を其々の管轄に移そうと躍起になってるとダダフォンのおじちゃんが言ってた。皇太子オルヴェーンさんも何度も登城要請の手紙をアルバートさんな送ってきているとも言うから、パパさんの側に居たいなら死ぬ気で頑張れと言われたばかり。緊張するなと言う方が無理って物でしょ!

「ふぅっ、ふうっ」

 無意識に私の呼吸は深く、早くなって袖を掴む手に力が入る。足はプルプルと震えていて、折角パパさんが準備してくれた私専用の隊服が着れて浮かれていたのに。場違い、そんな風に思えて急に恥ずかしくなってしまった。

「フロリア様。息を浅く吸ってください。過呼吸になります」

「んっ、はっ、はっ」

 こんな目で見られたら事なんて無かった。
まるで『お前がいなければ』、そう言われている様な気がしてならない。何で私そんな風に思われないといけないの?

 騒つく騎士団員達、ハリィはフロリアを抱き上げると彼等に背を向けフロリアの背中をトントンと叩いた。

「フロー、大丈夫ですか?あぁっ、顔色が悪いですっ、今日は帰りましょう?まだ早かったんです。だからもう少しゆっくりと、そう言ったのに……可哀想に。苦しいですよね?」

 頷くべき?こんな醜態を見せておいて何もせず帰るなんて……。

「おい、お前達。いくら羨ましいからってそんな餌を前にした獣みてぇな顔してちゃ嬢ちゃんが怯えるのは仕方ねぇぞ。お貴族様の癖に行儀がなってねぇな」

 ダダフォンの声に、その場に居た隊員がビクリと強張り背筋を伸ばした。左前方の入り口からロヴィーナと共に現れたダダフォンの声は訓練場に響いていて、フロリアはハリィの肩越しにその姿を見た。

「お前達、後でたっぷり嬢ちゃんと話す時間を作ってやる。ハリィを妬んだって嬢ちゃんの1番がハリィじゃ仕方ねぇだろ。食ってかかるのはやめておけ?」

「ヴォルフ卿!」
「おじちゃん」

 ダダフォンの横にはロヴィーナが居て、またも苦手な人だとフロリアは顔を窄めたが、ロヴィーナは困った顔で笑って側に近寄ると膝を折って頭を下げた。

「時の神の動かしたる針の重なりは遠く、再び動き出したる事をお赦し下さったハカナームト神に感謝を。ご無沙汰しております、フロリア様」

「閣下?」

 急に重苦しかった雰囲気がピシリと正され、フロリアは緊張していた物が緩んで行くのを感じた。

 背中に感じるハリィの手の温もりがじんわりと感じ始めて、フロリアはやっと体の力を抜けた。

「パパ」

「大丈夫ですか?」

「ん」

 最後にぎゅっとハリィはフロリアを抱きしめ頬にキスをすると降ろしてやって、頭を撫でた。フロリアはハリィの太腿にしがみついて顔をひょっこりと出すとぎこちなくヘラリと笑った。

「こんにちは」

「はい、ご機嫌いかがでございますか?」

「緊張してます」

「緊張、でございますか。ふむ、こんな駄犬共に緊張するなんて。あぁ、駄犬では無く野犬に見えましたか」

 部下を駄犬、野犬と言うロヴィーナの顔は笑っていたが、皆その顔が笑っているのでは無い事を知っている。アルバートは頭を掻きながらどう仕切り直すか考えていた。

「アルバート、訓練の前に聖騎士達とフローが関わる時間を作った方が良いんじゃないか?」

 セゾンはサンルナサークルのペンダントを握って彼等とフロリアを見た。普段の聖騎士達は厳しい戒律や規則の中、騎士団に比べてかなり抑圧的な環境で生活している。その所為かイベント事に飢えている節があった。それまで王族警護等は騎士団が引き受けていて、基本的な祭事でも彼等は裏方として、その聖魔力の奉納を義務化されていて表に出る事は無い。また夜会等にも聖騎士団員として参加する事が無い為、本人の貴族位が低い者、平民の出の者達は今日という日を実は心待ちにしていた。しかし、いざフロリアが現れてみると、そこには番犬よろしくハリィが居て、その背後には番犬の飼い主の如く睨みを利かせたアルバートとセゾンが居て、彼等は不満だった。

「あん?何でそんな事をする必要があるんだ」

「はぁ。分かってませんね、彼等はフローと遊びたいんですよ。見てわかりません?あの目はフローに向けられた物では無く、ハリィや我々に向けられた羨望の眼差しなんですよ」

「はぁ。弛んでいる、ガキ1人目の前にして何たる様だ」

「娘をガキ呼ばわり。おやめなさい、貴方もフローもそろそろちゃんと家族としての形を作った方が良いですよ?」

「……」

「良いですか、そもそも親子とは」

「注目!元帥がお越しだ、我々は少しこの場を離れる。皆、悪いが娘の相手を頼む!ハリィ、誰か付けろ」

 セゾンの言葉から逃げる様にハリィに指示を出すとアルバートはロヴィーナの元に駆け寄った。セゾンは溜息と共に「困った物だ」と呟いた。そして後を任されたハリィは、団員の中から1番理性的だと評価している団員を指名した。

「カノン来いっ」

「はっ!」

 困惑気味の彼等の中から、アッシュグレーの髪色の男が列から抜け出てフロリアの側に駆け寄ると、ニコリと微笑み膝を着いた。

「フロリア様、この者は第一師団第二部隊の隊長です。貴女を怖がらせる様な事はしない男だと思います、もし不安があればお声掛け下さい」

「パパっ……ハリィさんは?側にいたら駄目?」

 見下ろすと、不安を堪えているのか、涙目で足元を見るフロリア。そのぷっくりとした頬に突き出した唇が愛らしく、ハリィはその場から離れられる訳が無い。そう思い、振り返りアルバートに声を掛けようとした。

ギンッ!
お前、自分の立場分かってるよな?
師団長。そう、お前は師団長なんであって、
娘に弱い父親じゃねぇんだよ!

 そう目で伝えるアルバートの顔を見ると、ハリィは溜息を零しつつフロリアと目線を合わせると心を鬼にした。

「フロリア様、今日は何をしにここに来たのか。お分かりですよね?私共は彼方におります。ですが、そろそろ聖女としての御心構えを私に見せて頂かねば……いつまでも幼子の様に守って差し上げる事は出来ぬのですから」

 この世界で生きてまだ5年とちょっとくらい。早熟なのは自覚してる、大抵の事は理解出来るし、子供らしく無いと自分でも思う。でも、流石にこの言葉には傷付いた。言葉にと言うのは語弊があるかな?手を離されたと言う事に傷付いた。あぁ、パパさんの【ずっと】は私の思う【ずっと】とは違うんだ、そう思い知った。

「……うん」

「結びの神フェリラーデ神のお許しを得て、結びを得ました事、人生最大の喜びにございます。第一師団第二部隊の隊長の任を預かりますカノン•ファーベルトと申します。本日、フロリア様のお側にてお守り致します」

 とても優しそうな人だった。
カノンさんはどちらかと言うと見た目ダダフォンのおじちゃんに近いけど、雰囲気や声とか物腰が柔らかくて昔のパパさんみたいだ。まだ30手前といった所だろうか。

「初めまして。フロリアです…」

「我々が恐ろしいですか?フロリア様」

「だって……」

 睨むんだもん。皆んな大きいし、Cはあろうかと言う胸筋の隙間から見える目が怖いんだもん。

「怒ってる?」

「怒る?我…我々がでございますか?」

「パパ取ったから」

「え……と」

 パパとは司令官であるアルバートの事だろうかと、カノンは視線を彷徨わせ、ハリィに答えを求めるかの様に見上げた。

「フロリア様。お言葉が」

「あっ……ハリィさん」

「ふっ、ふふっ、我々が師団長を取られたと?そうっ、ふふっ、お思いで?」

「違うの?フローハリィさん大好きだもん。皆んなのハリィさんなのは知ってるけど、でもっ……フローのだもん」

 ここで釘刺しとかないと!
パパさんは私のパパさんなんだから!
師団長だけど、それはお仕事だからなんだからね!

「ふふっ、あはっ!す、すみませんっぶっ!」

「カノン!」

「失礼致しました。フロリア様、我々が羨ましいと思うのは師団長にです。愛し子様は我が国の現人神、その様に神聖で斯くも愛らしい貴女様を独占されている師団長を皆、羨ましく思っているのですよ?」

 嘘だねー!子供だからって馬鹿にしてっ、私だって皆んなの目がそうじゃ無いって言ってる事くらいわかるんだから!

「何で?だってフローみんなと会うの初めてだよ?」

「全員ではございませんが、部隊長クラスの者はみな審問会に居りました。フロリア様の神々しくも美しい姿を我々は拝見しております」

「そうなの?」

「えぇ、それはそれは師団長や司令官、ヴォルフ元司令官を羨んだ物です。我々も何度、フロリア様とお会い出来る機会をと申し上げたか」

 え?そうなの?
あれれ?私誤解してた?

「フローの事、嫌いじゃないの?」

「まさかっ!」

 カノンは振り向くと、団員達がソワソワとしている顔を見て「失礼致します」と言うと抱き上げた。目線が団員と近くなり、緊張しつつも彼等の顔を見たフロリアは顔を赤くした。

「こ、こんにちは」

「「‼︎」」

 まるで子犬か子猫を見るかの様にふにゃりと、険しい顔を緩める団員。フロリアはカノンの首元にしがみつきながらハリィを見た。

「フロリア様、彼方に控えておりますので何かあればお声掛けを」

「……え、行っちゃうの」

「もう、大丈夫でございますよね?」

 少し寂しそうな目をしつつ、ハリィは笑って背を向けるとアルバート達に合流して訓練場の隅に歩いて行った。

「フロリア様、聖魔力を見た事はございますか?」

「うん。パ、ハリィさんとお父さんの聖鎧せいがいを見たよ?」

「そうでしたか。ですが、あれは神々が許した聖具。聖魔力とは言い難いかもしれません」

 聖魔力。光属性ではあるが、神々の加護や祝福を得た物では無く、己が身から生み出される属性魔力であり、属性を発動させる神々の力が不要な事から、まるで神の様だと【聖魔力】と名がついた。魔獣などの澱んだ力は魔力と加護の燃え滓の様な物であった為、加護や祝福を得た力を受け入れない。その為、純粋な属性である聖魔力や神力以外では攻撃すらできなかった。

「では、お見せしましょうか」

「良いの?」

「勿論にございます」

 柔らかく微笑むその笑顔に、フロリアの緊張はいつの間にか解れていた。





 













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