召喚勇者はにげだした

大島Q太

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16.思わぬ来訪者

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リーンハルトが山を下りて5日目。
コインと聖剣で鉄板焼パーティーをしていたときだった。
何が便利って、聖剣は火のないところに熱を出せる。キャンプ初心者にもやさしい設計だ。

コインとお肉を堪能していると、思いもよらない来訪者が現れた。

派手派手しい金の甲冑に身を包み、赤いマントをひるがえしながら現れたのは、熱血処女厨「ミスジ」だ。逆だったミスジ「処女厨 熱血 第二王子」だ!

「見つけたぞ、勇者コジン・ジョウホウ!」

その名前、久しぶりに聞いた。

この世界の馬に当たる2足歩行のトカゲのようなものから下りるとどーんと俺を指さして高笑いを始めた。コインをぐっと抱きしめて見上げると、ミスジは俺の頭の横を見てニヤリと笑った。

あ、やめて。久しぶりに思い出した。こいつらには見えるんだ。

「どうやらリーンハルトとはまだ合体してないみたいだな」

セックスのことを合体って言う人を釣り人以外で初めて見た。いきなりのセクハラだ。ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、リーンハルトの名前が出たのでぐっと我慢した。

「リーンハルトは王宮聖騎士団の所属になった。俺はあの子からお前の話を聞いてもしやと思ってここに来たんだ」

驚いて目を見張ると、ミスジは意地の悪い顔をした。それよりも王宮聖騎士?


(王宮聖騎士とはこの王子たちの伴侶候補ということです)
唐突な、魔導書グリモワールだ。説明ありがとう……落ち込む。


リーンハルトは心変わりしたってことか?リーンハルトはコイツに俺の居場所を言ったのか?
コインをぐっと抱きしめてうつむくと、ミスジが俺の前髪をつかんで上を向かせる。

「お前が逃げたせいで、魔獣王が暴れている。俺の国が危機に瀕してんだ。なのにこんな山奥で遊び暮らしやがって」

ミスジが掴んだ前髪を乱暴に引いて俺の顔を左右に振る。

「俺だってこんな、黒目が小さい、色気のない男なんかに興味はないんだ。俺を振ったみたいに逃げやがって。俺の好みはリーンハルトみたいなたくましくて毛深い男なのに」

ふったみたいじゃなくて、ふったんだよ。
でも、たしかにリーンハルトは毛深い。なんでお前がそれを知ってるんだ。

俺と好みが一緒ってなんか嫌だ。


ミスジの手首をぐっと握って前髪をつかむ手を開かせた。こいつ、黙っていれば好きかって言いやがる。睨み上げると、ミスジも受けて立つように睨んできた。



「なんでこの国が縁もゆかりもない異世界人を勇者として呼び出すのか教えてやろう。お前ら勇者は魔獣王のいけにえなんだよ」

顔から表情が消えていくのを感じる。ミスジはなおも睨みつけてくる。不意を突いて横腹を殴ってきた。とっさに避けられなかった。コインをかばうのに精いっぱいだった。
そして、テレビが消えるみたいに目の前が黒く暗転した。


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