後発オメガの幸せな初恋 You're gonna be fine.

大島Q太

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31.友の覚悟

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俺とヒナタもツバサが心配で駐車場まで見送ることにした。ツバサは横山さんにダウンだのマフラーだのでぐるぐる巻きにされていた。それが右京おぼっちゃんの命令だからだそうだ。

駐車場には右京さんが迎えに来ていた。ツバサの足が速くなる。そのまま右京さんに突進し、ばふんと抱き着くツバサはいつも知ってるお兄さん然としたツバサではなかった。あれが夫に見せる顔か。俺らもあっけにとられて顔が赤くなる。

右京さんは自分のマフラーを解いてツバサをさらにぐるぐるに巻いた。その過保護っぷりに笑うと俺たちに気付いてお辞儀をしてくれた。慌ててお辞儀を返す。横山さんはそのまま右京さんに声をかけて車に向かった。
右京さんは想像よりもずっと大人っぽい人だったが。ツバサに笑いかける笑顔がとてもやさしいものだった。さすが、ツバサをぐるぐる巻きにするよう命じたおぼっちゃんだ。
ツバサは手を振り車に乗り込んで帰って行った。

見えなくなるまで見守った。車の音が聞こえなくなってあたりが静かになった。
「僕もさ、あっくんの隣であんな風に笑ってんのかな?」
ヒナタが白い息とともにぼそりとつぶやく。
「少なくともあっくんは幸せそうな顔してるだろ?」
俺はヒナタを見下ろす。ヒナタはコクリとうなずいてニヘラと笑った。
「だったらしてんじゃないか?」
見送りも終わり手をポケットにつっこんだまま寮の玄関まで走った。実家から柚子ジャムをもらったから柚子茶にしようと提案すると、ヒナタは嬉し気に跳ねて走った。

その週には共通テストもあり。航兄と穣君は自己採点だと大学のボーダーをクリアしたらしい。2月末の試験を受ければそれで大学が決まるそうだ。

1月後半になるとヒナタがヒートのために学校を休んだ。
一人教室で窓の外を見ていると色々と考えてしまう。みんな着々と将来に向かって動き出していることに少しだけ焦っている事。何に焦ればいいのかも分からないのに。

分かることはこの冬を超えたら皆それぞれ変わることだ。

そして、それは俺もで着々とその日が迫っていることを思う。だけど、至君はいつも優しくて俺を一番に考えて接してくれた。何も分かっていない俺に根気強く接してくれた。そんな彼を自分は受け入れることができるのが嬉しいのだから、大丈夫。きっと大丈夫。

腕時計を撫でると気分が落ち着くようだ。

ヒナタがヒートを開けて学校に来た。
寮の前で待ち合わせをすると。いつも通り挨拶を交わして教室に向かう。授業はテストのみだったので早々に俺の部屋にヒナタを引き込んだ。
ヒナタはいつもの通りテーブルの前の座布団に座る。俺はヒナタが好きだと言っていたスノーボールクッキーとティーバッグの紅茶を出した。
「あれ?ヒナタ髪切った?」
ヒナタはコクリとうなずいて。
「うなじ噛んでもらうのに長いと邪魔かなって…」
隠す用の薄くなったチョーカーを撫でている。俺も思わず自分のうなじを撫でた。あぁ、俺も切りに行った方が良いかな。
「透君。僕も4月から通信に切り替えるよ。3月からあっくんと暮らす。決めた」
俺はうなずく、3月…思ったより早くだ。

「ヒナタはほんとに強くなったな」
スノーボールクッキーに手を伸ばし口に入れる。甘くてほろほろと口の中で崩れた。荒く刻んだクルミとアーモンドの食感が残る。ヒナタもパクパクと食べている。

「僕さ、ほんとはツバサみたいにオメガで良かったなんて思ったことなかったんだ。アルファが怖くて。フェロモンとか。ヒートとか。問答無用に僕自身を変えられてしまうなんて怖いって思ったから。でも、透君が僕よりも後にオメガになったのに頑張ってオメガ性を受け入れるって頑張ってるのを見て。自分が情けないなって思ったんだ。あっくんも最初はアルファだからって怖かったけど。それはオメガだから自分を受け入れられないって思ってるのと同じだなって。だから、あっくん自身を知ろうって思った」

ヒナタは一気に言って紅茶を飲んだ。俺も気恥ずかしくて同じように紅茶を飲んだ。ヒナタはまた目に光を灯して言う。
「僕はこれからどんどん変わろうと思う。あっくんがお医者さんになるなら僕もお医者さんを目指そうと思ってる。透君、こんな風に変わりたいって思えたのは透君のおかげだよ」
ヒナタは照れくさそうに笑う。こういう屈託なく真っすぐに言葉を投げてくるのはヒナタの良いところだ。
「前も言ったけど。俺は二人がいて…ヒナタと出会えてよかったと思ってる。ありがとう」
ヒナタはまたうなじ辺りを撫でてふわりと笑った。
「透君も覚悟したら良いよ」
そう言って少しかっこいいキメ顔をして見せた。
「あぁ俺は少しでも前に進みたい。焦ってるわけじゃなくて後悔したくないだけだけど」

ヒナタはそれから俺がヒートに入るまで、俺の部屋でお菓子作りを練習した。作り始めてみるとヒナタは器用できっちりした性格だからか、すぐに作れるようになった。一緒にレシピを検索してどんどん作れるようになった。少し控えめだったヒナタが今は積極的に変わろうとするなんて俺はすごいものを見せられている気がする。

俺もちゃんと変われたかな。
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