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《Kaffeepause ☆カフェブレイク☆Cafépause》
【番外編】《塔の王子達を殺したのは誰なのか》その3
しおりを挟む※『リチャード3世伝』を書いたトマス・モアと、彼の師ジョン・モートン枢機卿のステンドグラス。
ところで、もう一度いったん話をもとに戻しますが、広く知られている2人の王子を殺したのはリチャード3世であるという話はどこから来たのでしょうか。
それはヘンリー7世の時代にジェームズ・ティレルという男が、自分が絞首刑になる直前に、
「リチャード3世が2人の王子を殺害するように指示したので、自分達が実行した」のだと自白した---あるいは自白させられたからですが、これはいつの話だったかご存知ですか。
彼の処刑は1502年5月です。リチャード3世が戦死したのは1485年8月で、17年もの時を経た後でしたが、これは妙に思いませんか?
なぜティレルは17年も前の話を今更告白したというのでしょうか。
しかも驚くことに、実はこの告白自体が本当にあったのかどうか、本当は誰もわかっていないのです。というのは、この頃の非常に著名な歴史本といえばトマス・モアの『リチャード3世伝』とポリドール・ヴァージルの『英国史』なのですが、この「ティレルの自白」はトマス・モアの『リチャード3世伝』においては、ティレルの死刑執行後から数年後に記載されているものの、当時のその他の書物にはもちろん、またポリドール・ヴァージルの『英国史』には、ジェームズの自白については全く記載されていないのです。
ここでポリドール・ヴァージルとは一体誰なのか説明すると、イタリアの人文主義学者、司祭、外交官であり、50年イギリスに居住していまた。彼は、偉大なる歴史家でイギリスの影響力のある歴史書『英国史』を著述、「イギリス史の父」とも呼ばれています。
そして一方トマス・モアは、彼もまた大変に有名なイギリス人の法律家、思想家、人文主義者であり、政治・社会を風刺した彼の書物『ユートピア』は有名ですが、最後はヘンリー8世により反逆罪で処刑された悲劇の人でした。この人物はヘンリー8世の離婚は認められないと異を唱えたことにより、ヘンリー8世の逆鱗に触れ、結局は処刑されてしまった悲劇の人で、この件から意志の硬い、骨のある人物のように見受けられますが、その彼が書いたと言われる『リチャード3世伝』---でもこれは彼が全部を本当に書いたものかどうかはわからないようです。
というのも、この『リチャード3世伝』はもともとモアの書類の中から発見されたそうなのですが、当時印刷技術がない時代に書物を書き写すのは普通のことでした。モアは既に書かれた書物を書き写し、それに多少手を加えただけかも知れないという説もあるようで、そのもともとの著者はジョン・モートンだったではと言われたこともありました。
なぜならトマス・モアは、 12歳から14歳の間、つまり1490年から1492年頃までモートンの家庭で小姓を務めていて、モートンから様々なことを学びました。またモアの歴史に関する大きな情報源はモートンでした。
なので、『リチャード3世伝』の話はモアはモートンから伝授されたことをまとめたという可能性は非常に高く、そしてこのモートンはリチャード3世を憎んでいました。
「彼は法律家から聖職者に転向した人物だが、史上最高の風見鶏だったのさ。まず、ランカスター側につき、エドワード4世が帰ってきて形勢が逆転するまで様子を見ていた。次に自分一人でヨーク側と和平を結び、次にエドワード失脚ののちには、ウッドヴィル家(エリザベス側)に戻り、次にヘンリー・チューダーにつき、最後はヘンリー7世の大僧正として枢機卿の帽子をかぶって終わった」とジョセフィン・ティは『時の娘』の中で、主人公グラント警部の言葉として彼をこのように評していますが、あの政権が反転し続けた時代に、高い地位でありながら、ランカスター朝、ヨーク朝、そしてチューダー朝の3世代の王朝を無事生き抜き、大出世までしたこのジョン・モートンのことを実際に信用に値する人物と信じてしまって良いのでしょうか?
大抵の王とはうまくやっていた彼でしたが、リチャード3世に反旗を翻し、投獄され、一度全財産を没収されたことがあります。
その後フランドルに逃亡し、そこからリチャード3世への反対運動を続け、ヘンリー7世のフランスへの逃亡などを助け、その功績もありヘンリー 7 世はボズワースの戦いでの勝利直後にモートンをイングランドに呼び戻し、 1486 年 3 月 6 日、モートンは大法官に任命されたのでした。
彼は偉大な人物だったと評される一方、フランスの蜘蛛王ルイ11世との金銭関係での癒着もあり、なかなかお金に対する執着もすさまじく、その彼が全財産を没収した「リチャード」がどれほど「憎し」という心境だったのは理解できます。
その理由の1つは、自身も金に目がくらんでいて融通のきくエドワード4世と違い、直情怪行のリチャード3世はもともとジョン・モートンのフランスとの癒着には眉をひそめていたそうで、エドワード4世崩御の前、リチャードはこの2人を恥知らずと感じ、それもあり、さっさと自国の領土ヨークシャーに完全撤退していたようです。
そもそもジョン・モートンは最初からリチャード3世が嫌いだったのです。
その彼の話を聞いて過ごしていたトマス・モアが、尊敬する師であるジョン・モートンの全ての話をそのまま鵜呑みにし、書き上げたのが『リチャード3世伝』であり、その『リチャード3世伝』を元に戯曲となったのがシェークスピアの『リチャード3世』だったのです。
例えばリチード3世のが肩が曲がっているという最初の記録は1491年だったそうです、もちろん『リチャード3世』にもそのように描かれていますが、彼の死後30年くらいで描かれたと言われているウィンザ-城の彼の肖像画はどうでしょうか。
実はこの絵も確かに彼の肩が盛り上がっているのですが、なんとこの絵自体もそのように描きかえられたということが後世になって、X線照射によってわかったそうで、オリジナルのものはリチャード3世の肩の骨が盛り上がってなどいなかったのだそうです。
彼の行い、性格のみならず、彼の容姿までもそのように描き直されているなんて、トマス・モアの『リチャード3世伝』とシェークスピア『リチャード3世』が後世の人々に与えた影響の強さに恐れ入ります。
しかも時は、共にヘンリー7世からエリザベス1世のチューダー朝の時代でした。
例えばイタリアのヒュ-マニストであったピエトロ・カルメリアーノはもともとの書物においてはリチャ-ドを賛美して書いていたのですが、ヘンリー7世の時代にはその部分はリチャードの名前はヘンリー6世の嫡男エドワードの名前に書き直されていたそうで、生存中と死後のリチャ-ドへの評価は全く反対であった証明とも言われています。
時は中世の封建時代でした。封建時代の国王の権力がどれほど強大なものか現代の私達には多分想像も出来ないほどだったでしょう。
国王への批判は、そのまま拷問の末の八つ裂きの刑という処遇になるのは明白なことでした。生まれた赤ん坊の時から、権力へのへつらいは当然のこと、いえ、そうしなければどれほどの財産家でも高い地位の貴族でも、一夜のうちに監獄へ送られ、一家全員斬首という宣告を受けても誰一人助けてくれない世の中だということは、国民全員の共通の認識だったのです。
なので、結論から言うとトマス・モアの『リチャード3世伝』とシェークスピア『リチャード3世』は史実としては全く信用できない、チューダー朝のプロパガンダ本と言っても言い過ぎではないかと思います。
なのでこの本に書かれている「2人の王子を殺したのはリチャード3世」であるという説は、そもそも最初からフィクションであり、創作物語であると言っても良いくらいで、これらの本にそう書いてあるから、真実なんではないか、というのは見当違いな考えであると言うことはおわかりいただけたと思います。
ですが、
「それでもだからといって、2人の王子を殺したのはリチャード3世じゃないとは言えきれないのではないか」という意見も出てくることでしょう。
今回あまり進展もなく思われたら申し訳ないのですが、どうしても一度はこの話を検証したく、それをしないままに先へ進みたくなかったのです。
次回は、これらの事を踏まえた上で、もう一歩踏み込んだ説をご紹介させていただきますね。
もう少しお付き合い頂けますと有り難いです。
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