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第37話 同僚もたまに何を言っているのかわからない
しおりを挟む怒涛の三連休から4日が経った金曜日の昼休み。
「最近どうなの?」
「なにが?」
「なにがって、お隣のJKちゃんとの進捗具合よ」
会社の近くで和食ランチを堪能していると、涼介がコンビニ袋のような軽さで訊いてきた。
「進捗具合ってのは、何かしら目的がある前提で使われる言葉だと思うんだけど」
「細かいわ! どこまで仲が進展したかを聞いてんの」
「どこまでって……普通に夕食作ってもらってるだけだから、進展も何もないと思う」
「毎日?」
「まあ、一応」
「それは普通と言わねー」
涼介が小物感溢れる笑みを浮かべて首を振る。
「もはや通い妻じゃん、それ」
「通われてるのは否定しないけど、彼女はただの友達だよ」
「どうだか」
怪しい通販を目にしたような反応をする涼介。
疚しいことは何もしていないはずなのに、取り調べを受けているような気分になる。
「二人でどっか行ったりはしねーの?」
「この前の三連休に高尾山に登った」
「へええ! いいじゃん高尾山。俺も付き合う前、志乃さんと一緒に登ったなー」
「ああ、彼女さんと。よく登れたね」
「いや、あのレベルじゃ登山と呼ばんだろ」
さも当然といった風に返された。
僕は命を削りながら登頂したというのに。
「これだから運動ができるやつは……」
「まー、お前には厳しいかもな! 運動とか全然してないだろうし」
「ほっといてよ。というか、あのケーブルカーの角度急すぎじゃない?」
「わっかる! あれ、下手したらラッキースケベ起こるよな」
不覚にも、箸を落としてしまった。
なんと迂闊な。
「なに慌ててんの」
「なんでもないから気にしないで」
「さてはあったな? ラッキースケベ」
箸を拾う最中、心臓が冷水をぶっかけられたかのように縮こまる。
あの時のシチュエーションを思い起こした上で、僕は断言する。
「ラッキースケベではない」
「なんだ、胸揉んでないのか」
「とんでもないことをさらりと言うね君は」
「ならあれか、あの傾斜でバランスを崩したJKちゃんが飛び込んできたとか?」
また箸を落としそうになった。
「だからなんなのその推理力は?」
「マジかよまた当たった!?」
ひゃっほいとガッツポーズを掲げる涼介。
嘘でもいいから否定しておけばよかったと後悔する。
事を流そうと定食をつつこうとするが、それよりも前に涼介が前のめりに訊いてきた。
「でっ、どうだったのその時は?」
「どうもなにも無いよ、突然の出来事過ぎて、頭が真っ白になったし」
「お前じゃなくてそのJKちゃんだよ」
「彼女は……謝ってた」
「じゃなくて! いつもと雰囲気が違ったりしてなかったかって話」
訊かれて、腕を組み、思い起こしてみる。
当時の状況を頭の中で映像化させると、妙にむず痒くなってきた。
確かに、あの時の彼女はいつもと違っていたような。
「顔が赤かった気がする」
言うと、涼介は「ほーん、ふーん」と、気色の悪い笑みを受かべて椅子にふんぞり返った。
心を見透かされているようで気分が悪い。
「……なに?」
「いやぁ、べつにぃ? なんでJKちゃんは、顔を赤くしたんかなーと思って」
ニタニタとわざとらしく笑う涼介の発言について考えてみる。
「車内の人口密度は高めだったから、暑かったのかな」
言うと、涼介は椅子からすてーんとずり落ちそうになっていた。
「おまっ、なんつーベタな……」
涼介が珍しく、大きな溜息をついた。
「お前みたいなやつが少子化を促進させるんだな」
「さっきの話がどう展開されて日本の社会問題に繋がるの?」
「教えね」
「どうして」
「なんか腹たってきたから」
涼介は苦い笑みを浮かべた。
さっきからなんなんだ。
「まーでも、楽しそうでなによりだよ」
「楽しそう? 僕が?」
「少なくとも、俺にはそう伝わってくるぞ」
「そう、なのか?」
「初めて感情をインストールされたロボットかよ」
涼介の表情に苦味が増す。
「楽しい、のかはわからないけど、よくわからないことは増えたかな」
「よくわからないこと?」
「うん。彼女と一緒にいると時々、妙に胸がざわつくんだ」
「ほうほうほうほうほーう?」
涼介がフクロウのモノマネをし始めた。
僕は眉を寄せ不審者を見る視線を向ける。
今日の涼介は一段と忙しない。
なにか良いことでもあったのだろうか。
「ざわつきってのは、具体的には?」
「……鼓動が速くなるというか、息が詰まる感覚というか……あと、体温が上昇する」
「そうかそうかそーうか! んでんで? お前はその高鳴りの正体をなんだと?」
そんな面白い話でもなかろうに、なぜ彼はこんなにも瞳を輝かせているのだろう。
僕は彼に投げかけられた問いについて真面目に黙考し、頭にポッと浮かんだ回答をそのまま口にしてみた。
「不整脈?」
「お前今日ここ奢れ」
「なんでそうなるの」
「そのJKちゃんに代わって俺がお前に罰を与えないといけないと思った」
「意味がわからん。というか冗談だから。もし不整脈だったら、彼女と一緒にいるとき限定で発症している説明がつかない」
「なんだ、冗談かよ」
「実際のところ、よくわからないんだ。初めてだよ、こんなの」
僕が胸の内を明かすと、涼介は深く、深ーく溜息をついたあと、「あのな」と前置きして、
「いや」
しばし考え込むように顎に手を当てたかと思うと、神妙な顔つきをして椅子に座り込んだ。
「なんか自己完結してたようだけど、心当たりがあるの?」
涼介はふっと目を細め薄笑いを浮かべた。
「まあ、頑張れや」
ポンと肩を叩かれた。
「いや、エールよりも答えが欲しいんだけど」
言うと、涼介が付け足す。
「俺は何も言わんことに決めた。こういうのは外野あれこれ言うより、自分で段階を踏んだ方が良い」
「先の階段が見えなくて踏み外しそう」
「そん時は下から上に放り投げてやるよ」
爽やかフェイスにニッカリとした笑顔を受かべる涼介に、僕はムッと顔をしかめた。
「そんな顔すんなって。心配しなくても、いずれ自然とわかるようになるからよ」
涼介の発言の4分の1も理解できなかった。
ただ、とりあえず自分で考えろと言っていることはわかった。
話を広げておいてなんと無責任な、と思う。
この話は終わりだと言わんばかりに、涼介がプチトマトを箸で掴んで口に放り込む。
僕もこれ以上は追求せず、残りのカロリーを掻き込む作業に戻るのであった。
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