竜神様に見初められまして~虐げられ令嬢は精霊王国にて三食もふもふ溺愛付きの生活を送り幸せになる~

青季 ふゆ

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第4話 フェンリルのハナコ

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『きゅいっ』

 おかえり!
 とでも言うようなひと鳴きに、ソフィアの口元に笑みが浮かぶ。

「ふふ、ただいま」

 上半身を起こすソフィアに笑顔が浮かんだ。

 両手に乗るくらいサイズの、もふもふそうな白い毛並み。
 尻尾をふりふり、小さな耳をピクピクさせて、おすわりの体勢でソフィアを見上げている。

 ハナコ。
 それが、このもふもふにソフィアがつけた名前だった。

 多分、フェンリル。
 姿形は犬に似ているが、狐のような細い胴体と顔の造形からしてフェンリルだろうと思っている。

 ハナコは淡い光を纏って、この世のものとは思えない存在感を放っていた。

「ハナコ、おいで」
『きゅい~』

 ソフィアが両手を広げると、ハナコは嬉しそうに飛び込んでくる。

「ふわあ……癒される……」

 小型犬ほどの重さ。
 じんわりとした温もり。

  そして何より、もふもふとした毛ざわりが、ハナコが確かに存在している事の証拠であった。

 ──ハナコとは、六歳の魔力ゼロ事件から一年経った頃に出会った。

 確か、孤独で部屋で一人泣いている時に、本当に突然この部屋に現れた。

 最初ハナコは弱っているようで、纏っている光も小さかった。

 迷い犬だと思ったソフィアはすぐに、ハナコを抱えて父の元に駆けた。

 その時、父から言われた一言で驚愕の事実が判明する。

 ──お前、頭がおかしくなったのか? どこにも犬なぞいないではないか。

 なんとハナコは、父には見えなかった。

 父だけではない。
 母にも、妹にも、使用人も誰でさえ、ハナコを視認する事ができなかったのだ。

 最初はストレスから自分が生み出した幻かと思ったが、そうにしてはあまりにも感触や存在感がリアル過ぎる。
 ハナコが存在しているのは、確かな事実のようだった。

 それがわかった時、ソフィアは思った。

(この子は……私が守らないと……)

 自分が見放したら、この子は死んでしまう。
 そう思って自分に与えられた僅かな食事から色々と餌をあげてみたけど、どれも食べてくれない。

 困り果てていると、ハナコはソフィアに身を寄せて寝息を立て始めた。
 色々あって疲労が溜まっていたソフィアも、つられて眠ってしまう。

 次の日、目覚めると。
 『きゅいきゅいっ』と元気な様子で走り回るハナコがそこにいた。

 どうやらハナコは、ただの寝不足だったらしい。
 元気に走り回るハナコの姿を見て、ソフィアはホッと一息ついた。

 以来、ハナコはソフィアのそばにいるようになった。
 と言ってもずっと肌身離れずというわけではなく、ソフィアの周りに人がいなくなったタイミングが多かった。

 主に夜、この部屋で名前を呼べば出現する。
 ソフィアはこの子に、昔読んだ東洋の国の本の可愛らしい女の子の名前から取って『ハナコ』と名前をつけ、それはもう可愛がった。

 六歳で全ての味方がいなくなってしまい、ひとりぼっちだったソフィアの唯一の味方となってくれた。
 ハナコもハナコで、ソフィアにしか存在を認知されない、いうなればソフィアと同じ一人ぼっちなのこともあり、お互いにシンパシーを感じていたのかもしれない。

 ハナコがいたから、ソフィアは今までの数多の辛いことを乗り越えてこれたし、性格もひん曲がることなく真っ直ぐに育ったと言っても過言ではないだろう。
 
  ハナコの正体は何なのか。
 フェンリルというのも大昔の神話に出てくる架空の生き物なので、おそらく確定ではない。

 しかしそんなのは、ソフィアにとってどうでも良いことだった。

 自分に唯一寄り添ってくれる、大切な親友。

 それだけで、充分だった。
 
「聞いてよハナコ、今日、またマリンが……」

 胸の中でハナコを撫でながら、ソフィアは今日あった嫌なことを口にする。
 ハナコは相変わらず、気持ちよさそうに目を細めているが、黙ってソフィアの愚痴を聞いてくれていた。

 頼れる者など一人もいないソフィアにとって、こうして愚痴に耳を傾けてくれるのはとてもありがたい存在であった。

 時々『きゅいきゅい』と、顔を擦り寄せてくれるのは慰めてくれているのだろうか。
 ハナコに人間の言葉がわかっているのかはわからないけれど、どっちでもよかった。

 一通り愚痴を吐き終えた後、ソフィアは言う。

「そういえば今度のパーティ、精霊王国の人が来るんだって」

 不意に、ハナコの細かった目が僅かに見開かれた。
 しかしソフィアはハナコをもふるのに夢中で、その変化に気づかない。
 
「精霊王国には人間じゃない、色々な精霊がいるって聞いたけど……どんな精霊が来るのかなー、ちょっぴり楽しみかも」

 先程とは打って変わってのんびりとしたソフィアの声だけが、薄暗い部屋に響き渡っていた。
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