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第5話 パーティ
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パーティ当日。
領地から馬車を乗り継いで、ソフィアは王都までやってきた。
会場は王都の中でも一際存在感を放つ王城の、一番広くて煌びやかなホール。
フェルミ王国の重鎮たちはもちろん、各国の要人たちも多く参加しており物凄い活気であった。
そんな中ひとり、場の雰囲気に似つかわしくないテンションのソフィア。
「……はあ」
大きなため息が漏れるのも無理はなかった。
「ねえ、見てよエドモンド家の御令嬢」
「ソフィア様でしょう? あの魔力ゼロの」
「そうそう! 無能のくせに衆前の前に顔を出せるなんて、恥ずかしくないのかしら」
「ドレスも地味だし、ほんと、何しにきたって感じ」
歩くたびに、他の令嬢たちからそんな言葉が耳に入ってくる。
わざと聞こえるような声で言っているのは明白だった。
当然、ソフィアに話しかける者は誰もいない。
由緒正しき魔法師家系のエドモンド家で、魔力ゼロを出した無能が誕生した事件は、社交会ではあまりにも有名だ。
自分の敵味方を決めるべく、時には手を交わし時には牽制しあう社交会において、一族の落ちこぼれであるソフィアと仲良くしようなどと考える物好きは存在しなかった。
それに比べ……。
「マリン様! そのドレスの刺繍、とっても可愛らしいです! どこでお買いに?」
「ふふふ、お目が高いですわね。こちらはシノルンのお店で仕立てて貰った、特注品ですわ」
「まあ、シノルンというと王都で一番と名高いブランドですよね! 流石マリン様です!」
自分とは違って、マリンの周りには人だかりが出来ていた。
豪華なドレス、自信に満ちた表情、堂々とした振る舞い。
どれもソフィアが持っていない物だ。
幼い頃から魔法の才があると証明され、魔法学校でも成績はトップ。
将来的に国を背負う魔法師になるだろうと期待を一心に受けて育ったマリンと仲良くなりたいと思う者が多いのは至極当然だった。
そのうちマリンの元には令嬢だけでなく、何人もの子息も集まってくる。
国の中でもトップクラスの容貌、地位、名誉を持つ美丈夫たちがこぞってマリンにお近づきになろうとする光景は、もう何度見たかわからない。
もはや羨ましさなんて無かった。
あるのはただただ虚な無力感、絶望感。
そして、むなしさ。
母には結婚相手を……などと言われたが、この様子だと婚姻の話なぞ夢のまた夢だろう。
(早く帰りたい……)
帰ったら帰ったで、母にどやさせるのは目に見えているけど。
この、居るだけで惨めな気持ちしか生まない、自分の居場所がない会場から一刻も早く立ち去りたかった。
だが、そういうわけにもいかない。
(終わるまで、隅っこでおとなしくしていよう)
ソフィアはそう決め、誰とも目を合わさぬよう俯きどこかへ行こうとした時。
「お、おい……見ろよ、あれ……!!」
「あれが、聖霊国の……」
そんな言葉が聞こえてきて、ふと顔を上げる。
ざわざわと皆が指さす方向に目線をやると──。
「わあ……」
思わずソフィアは声を漏らした。
そして、瞬時に理解した。
あの二人が、精霊王国からやって来た人物なのだろうと。
あまりにも人間離れした容貌を持つ二人だったから。
(綺麗……)
そんな印象を抱いた一人は女性。
この世のものとは思えないほど整った顔立ち、優しそうなブルーの瞳。
背中まで伸ばした長髪は透き通るような水色できらきらと煌めいている。
スラリとした体躯は国内では見たことのない神官服のようなドレスに包まれていた。
そんな女性の隣を付き添うように歩いているのは男性。
(な、なんだか、怖そう……)
ソフィアはそんな印象を抱いた。
男性の方も顔立ちは恐ろしいほど整っており、目元にかけた丸眼鏡も相まって知性を感じさせる雰囲気を纏っているが、頭の両側から生えた立派なツノと微かに鋭利な耳が同じ人族では無いことを物語っている。
長めに切り揃えた髪は白い。
体つきはがっしりしているが筋骨隆々というよりも引き締まっているように見えた。
女性とは対照的に強い光が宿った瞳が、周囲を警戒するように見回している。
──その視線が、不意にソフィアを捉えた。
(……え)
目があった、というのが瞬時にわかるほどの眼力。
心臓を掴まれたような感じがして思わず、ソフィアはきょろきょろしてしまう。
その間に男性は、女性に何かを耳打ちした。
すると女性の方もソフィアの方を見て、驚いたような表情をする。
(な、なに……?)
何か、やらかしてしまっただろうか。
おろおろするソフィアの元に、ふたりは迷いのない足取りでやってきた。
「え、えっ……?」
ソフィアの周りから人が引いて、三人だけの空間ができる。
「お、おい、見ろよ……」
「なんで精霊王国の人が、エドモンド家の落ちこぼれに……?」
どよめく周りに構わず、男性の方が一歩踏み出してきた。
「あ、あの……?」
ソフィアよりも頭一個分は高い位置から、男性はこんな問いを投げかけた。
「そのフェンリルは、君の精霊か?」
領地から馬車を乗り継いで、ソフィアは王都までやってきた。
会場は王都の中でも一際存在感を放つ王城の、一番広くて煌びやかなホール。
フェルミ王国の重鎮たちはもちろん、各国の要人たちも多く参加しており物凄い活気であった。
そんな中ひとり、場の雰囲気に似つかわしくないテンションのソフィア。
「……はあ」
大きなため息が漏れるのも無理はなかった。
「ねえ、見てよエドモンド家の御令嬢」
「ソフィア様でしょう? あの魔力ゼロの」
「そうそう! 無能のくせに衆前の前に顔を出せるなんて、恥ずかしくないのかしら」
「ドレスも地味だし、ほんと、何しにきたって感じ」
歩くたびに、他の令嬢たちからそんな言葉が耳に入ってくる。
わざと聞こえるような声で言っているのは明白だった。
当然、ソフィアに話しかける者は誰もいない。
由緒正しき魔法師家系のエドモンド家で、魔力ゼロを出した無能が誕生した事件は、社交会ではあまりにも有名だ。
自分の敵味方を決めるべく、時には手を交わし時には牽制しあう社交会において、一族の落ちこぼれであるソフィアと仲良くしようなどと考える物好きは存在しなかった。
それに比べ……。
「マリン様! そのドレスの刺繍、とっても可愛らしいです! どこでお買いに?」
「ふふふ、お目が高いですわね。こちらはシノルンのお店で仕立てて貰った、特注品ですわ」
「まあ、シノルンというと王都で一番と名高いブランドですよね! 流石マリン様です!」
自分とは違って、マリンの周りには人だかりが出来ていた。
豪華なドレス、自信に満ちた表情、堂々とした振る舞い。
どれもソフィアが持っていない物だ。
幼い頃から魔法の才があると証明され、魔法学校でも成績はトップ。
将来的に国を背負う魔法師になるだろうと期待を一心に受けて育ったマリンと仲良くなりたいと思う者が多いのは至極当然だった。
そのうちマリンの元には令嬢だけでなく、何人もの子息も集まってくる。
国の中でもトップクラスの容貌、地位、名誉を持つ美丈夫たちがこぞってマリンにお近づきになろうとする光景は、もう何度見たかわからない。
もはや羨ましさなんて無かった。
あるのはただただ虚な無力感、絶望感。
そして、むなしさ。
母には結婚相手を……などと言われたが、この様子だと婚姻の話なぞ夢のまた夢だろう。
(早く帰りたい……)
帰ったら帰ったで、母にどやさせるのは目に見えているけど。
この、居るだけで惨めな気持ちしか生まない、自分の居場所がない会場から一刻も早く立ち去りたかった。
だが、そういうわけにもいかない。
(終わるまで、隅っこでおとなしくしていよう)
ソフィアはそう決め、誰とも目を合わさぬよう俯きどこかへ行こうとした時。
「お、おい……見ろよ、あれ……!!」
「あれが、聖霊国の……」
そんな言葉が聞こえてきて、ふと顔を上げる。
ざわざわと皆が指さす方向に目線をやると──。
「わあ……」
思わずソフィアは声を漏らした。
そして、瞬時に理解した。
あの二人が、精霊王国からやって来た人物なのだろうと。
あまりにも人間離れした容貌を持つ二人だったから。
(綺麗……)
そんな印象を抱いた一人は女性。
この世のものとは思えないほど整った顔立ち、優しそうなブルーの瞳。
背中まで伸ばした長髪は透き通るような水色できらきらと煌めいている。
スラリとした体躯は国内では見たことのない神官服のようなドレスに包まれていた。
そんな女性の隣を付き添うように歩いているのは男性。
(な、なんだか、怖そう……)
ソフィアはそんな印象を抱いた。
男性の方も顔立ちは恐ろしいほど整っており、目元にかけた丸眼鏡も相まって知性を感じさせる雰囲気を纏っているが、頭の両側から生えた立派なツノと微かに鋭利な耳が同じ人族では無いことを物語っている。
長めに切り揃えた髪は白い。
体つきはがっしりしているが筋骨隆々というよりも引き締まっているように見えた。
女性とは対照的に強い光が宿った瞳が、周囲を警戒するように見回している。
──その視線が、不意にソフィアを捉えた。
(……え)
目があった、というのが瞬時にわかるほどの眼力。
心臓を掴まれたような感じがして思わず、ソフィアはきょろきょろしてしまう。
その間に男性は、女性に何かを耳打ちした。
すると女性の方もソフィアの方を見て、驚いたような表情をする。
(な、なに……?)
何か、やらかしてしまっただろうか。
おろおろするソフィアの元に、ふたりは迷いのない足取りでやってきた。
「え、えっ……?」
ソフィアの周りから人が引いて、三人だけの空間ができる。
「お、おい、見ろよ……」
「なんで精霊王国の人が、エドモンド家の落ちこぼれに……?」
どよめく周りに構わず、男性の方が一歩踏み出してきた。
「あ、あの……?」
ソフィアよりも頭一個分は高い位置から、男性はこんな問いを投げかけた。
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