5 / 65
第5話 パーティ
しおりを挟む
パーティ当日。
領地から馬車を乗り継いで、ソフィアは王都までやってきた。
会場は王都の中でも一際存在感を放つ王城の、一番広くて煌びやかなホール。
フェルミ王国の重鎮たちはもちろん、各国の要人たちも多く参加しており物凄い活気であった。
そんな中ひとり、場の雰囲気に似つかわしくないテンションのソフィア。
「……はあ」
大きなため息が漏れるのも無理はなかった。
「ねえ、見てよエドモンド家の御令嬢」
「ソフィア様でしょう? あの魔力ゼロの」
「そうそう! 無能のくせに衆前の前に顔を出せるなんて、恥ずかしくないのかしら」
「ドレスも地味だし、ほんと、何しにきたって感じ」
歩くたびに、他の令嬢たちからそんな言葉が耳に入ってくる。
わざと聞こえるような声で言っているのは明白だった。
当然、ソフィアに話しかける者は誰もいない。
由緒正しき魔法師家系のエドモンド家で、魔力ゼロを出した無能が誕生した事件は、社交会ではあまりにも有名だ。
自分の敵味方を決めるべく、時には手を交わし時には牽制しあう社交会において、一族の落ちこぼれであるソフィアと仲良くしようなどと考える物好きは存在しなかった。
それに比べ……。
「マリン様! そのドレスの刺繍、とっても可愛らしいです! どこでお買いに?」
「ふふふ、お目が高いですわね。こちらはシノルンのお店で仕立てて貰った、特注品ですわ」
「まあ、シノルンというと王都で一番と名高いブランドですよね! 流石マリン様です!」
自分とは違って、マリンの周りには人だかりが出来ていた。
豪華なドレス、自信に満ちた表情、堂々とした振る舞い。
どれもソフィアが持っていない物だ。
幼い頃から魔法の才があると証明され、魔法学校でも成績はトップ。
将来的に国を背負う魔法師になるだろうと期待を一心に受けて育ったマリンと仲良くなりたいと思う者が多いのは至極当然だった。
そのうちマリンの元には令嬢だけでなく、何人もの子息も集まってくる。
国の中でもトップクラスの容貌、地位、名誉を持つ美丈夫たちがこぞってマリンにお近づきになろうとする光景は、もう何度見たかわからない。
もはや羨ましさなんて無かった。
あるのはただただ虚な無力感、絶望感。
そして、むなしさ。
母には結婚相手を……などと言われたが、この様子だと婚姻の話なぞ夢のまた夢だろう。
(早く帰りたい……)
帰ったら帰ったで、母にどやさせるのは目に見えているけど。
この、居るだけで惨めな気持ちしか生まない、自分の居場所がない会場から一刻も早く立ち去りたかった。
だが、そういうわけにもいかない。
(終わるまで、隅っこでおとなしくしていよう)
ソフィアはそう決め、誰とも目を合わさぬよう俯きどこかへ行こうとした時。
「お、おい……見ろよ、あれ……!!」
「あれが、聖霊国の……」
そんな言葉が聞こえてきて、ふと顔を上げる。
ざわざわと皆が指さす方向に目線をやると──。
「わあ……」
思わずソフィアは声を漏らした。
そして、瞬時に理解した。
あの二人が、精霊王国からやって来た人物なのだろうと。
あまりにも人間離れした容貌を持つ二人だったから。
(綺麗……)
そんな印象を抱いた一人は女性。
この世のものとは思えないほど整った顔立ち、優しそうなブルーの瞳。
背中まで伸ばした長髪は透き通るような水色できらきらと煌めいている。
スラリとした体躯は国内では見たことのない神官服のようなドレスに包まれていた。
そんな女性の隣を付き添うように歩いているのは男性。
(な、なんだか、怖そう……)
ソフィアはそんな印象を抱いた。
男性の方も顔立ちは恐ろしいほど整っており、目元にかけた丸眼鏡も相まって知性を感じさせる雰囲気を纏っているが、頭の両側から生えた立派なツノと微かに鋭利な耳が同じ人族では無いことを物語っている。
長めに切り揃えた髪は白い。
体つきはがっしりしているが筋骨隆々というよりも引き締まっているように見えた。
女性とは対照的に強い光が宿った瞳が、周囲を警戒するように見回している。
──その視線が、不意にソフィアを捉えた。
(……え)
目があった、というのが瞬時にわかるほどの眼力。
心臓を掴まれたような感じがして思わず、ソフィアはきょろきょろしてしまう。
その間に男性は、女性に何かを耳打ちした。
すると女性の方もソフィアの方を見て、驚いたような表情をする。
(な、なに……?)
何か、やらかしてしまっただろうか。
おろおろするソフィアの元に、ふたりは迷いのない足取りでやってきた。
「え、えっ……?」
ソフィアの周りから人が引いて、三人だけの空間ができる。
「お、おい、見ろよ……」
「なんで精霊王国の人が、エドモンド家の落ちこぼれに……?」
どよめく周りに構わず、男性の方が一歩踏み出してきた。
「あ、あの……?」
ソフィアよりも頭一個分は高い位置から、男性はこんな問いを投げかけた。
「そのフェンリルは、君の精霊か?」
領地から馬車を乗り継いで、ソフィアは王都までやってきた。
会場は王都の中でも一際存在感を放つ王城の、一番広くて煌びやかなホール。
フェルミ王国の重鎮たちはもちろん、各国の要人たちも多く参加しており物凄い活気であった。
そんな中ひとり、場の雰囲気に似つかわしくないテンションのソフィア。
「……はあ」
大きなため息が漏れるのも無理はなかった。
「ねえ、見てよエドモンド家の御令嬢」
「ソフィア様でしょう? あの魔力ゼロの」
「そうそう! 無能のくせに衆前の前に顔を出せるなんて、恥ずかしくないのかしら」
「ドレスも地味だし、ほんと、何しにきたって感じ」
歩くたびに、他の令嬢たちからそんな言葉が耳に入ってくる。
わざと聞こえるような声で言っているのは明白だった。
当然、ソフィアに話しかける者は誰もいない。
由緒正しき魔法師家系のエドモンド家で、魔力ゼロを出した無能が誕生した事件は、社交会ではあまりにも有名だ。
自分の敵味方を決めるべく、時には手を交わし時には牽制しあう社交会において、一族の落ちこぼれであるソフィアと仲良くしようなどと考える物好きは存在しなかった。
それに比べ……。
「マリン様! そのドレスの刺繍、とっても可愛らしいです! どこでお買いに?」
「ふふふ、お目が高いですわね。こちらはシノルンのお店で仕立てて貰った、特注品ですわ」
「まあ、シノルンというと王都で一番と名高いブランドですよね! 流石マリン様です!」
自分とは違って、マリンの周りには人だかりが出来ていた。
豪華なドレス、自信に満ちた表情、堂々とした振る舞い。
どれもソフィアが持っていない物だ。
幼い頃から魔法の才があると証明され、魔法学校でも成績はトップ。
将来的に国を背負う魔法師になるだろうと期待を一心に受けて育ったマリンと仲良くなりたいと思う者が多いのは至極当然だった。
そのうちマリンの元には令嬢だけでなく、何人もの子息も集まってくる。
国の中でもトップクラスの容貌、地位、名誉を持つ美丈夫たちがこぞってマリンにお近づきになろうとする光景は、もう何度見たかわからない。
もはや羨ましさなんて無かった。
あるのはただただ虚な無力感、絶望感。
そして、むなしさ。
母には結婚相手を……などと言われたが、この様子だと婚姻の話なぞ夢のまた夢だろう。
(早く帰りたい……)
帰ったら帰ったで、母にどやさせるのは目に見えているけど。
この、居るだけで惨めな気持ちしか生まない、自分の居場所がない会場から一刻も早く立ち去りたかった。
だが、そういうわけにもいかない。
(終わるまで、隅っこでおとなしくしていよう)
ソフィアはそう決め、誰とも目を合わさぬよう俯きどこかへ行こうとした時。
「お、おい……見ろよ、あれ……!!」
「あれが、聖霊国の……」
そんな言葉が聞こえてきて、ふと顔を上げる。
ざわざわと皆が指さす方向に目線をやると──。
「わあ……」
思わずソフィアは声を漏らした。
そして、瞬時に理解した。
あの二人が、精霊王国からやって来た人物なのだろうと。
あまりにも人間離れした容貌を持つ二人だったから。
(綺麗……)
そんな印象を抱いた一人は女性。
この世のものとは思えないほど整った顔立ち、優しそうなブルーの瞳。
背中まで伸ばした長髪は透き通るような水色できらきらと煌めいている。
スラリとした体躯は国内では見たことのない神官服のようなドレスに包まれていた。
そんな女性の隣を付き添うように歩いているのは男性。
(な、なんだか、怖そう……)
ソフィアはそんな印象を抱いた。
男性の方も顔立ちは恐ろしいほど整っており、目元にかけた丸眼鏡も相まって知性を感じさせる雰囲気を纏っているが、頭の両側から生えた立派なツノと微かに鋭利な耳が同じ人族では無いことを物語っている。
長めに切り揃えた髪は白い。
体つきはがっしりしているが筋骨隆々というよりも引き締まっているように見えた。
女性とは対照的に強い光が宿った瞳が、周囲を警戒するように見回している。
──その視線が、不意にソフィアを捉えた。
(……え)
目があった、というのが瞬時にわかるほどの眼力。
心臓を掴まれたような感じがして思わず、ソフィアはきょろきょろしてしまう。
その間に男性は、女性に何かを耳打ちした。
すると女性の方もソフィアの方を見て、驚いたような表情をする。
(な、なに……?)
何か、やらかしてしまっただろうか。
おろおろするソフィアの元に、ふたりは迷いのない足取りでやってきた。
「え、えっ……?」
ソフィアの周りから人が引いて、三人だけの空間ができる。
「お、おい、見ろよ……」
「なんで精霊王国の人が、エドモンド家の落ちこぼれに……?」
どよめく周りに構わず、男性の方が一歩踏み出してきた。
「あ、あの……?」
ソフィアよりも頭一個分は高い位置から、男性はこんな問いを投げかけた。
「そのフェンリルは、君の精霊か?」
25
あなたにおすすめの小説
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる