27 / 65
第27話 屋敷を散策
しおりを挟む
「こちらが調理室、そしてこちらが使用人の控室。この先にある奥の部屋が……」
クラリスの案内で、ソフィアは屋敷内を散策していた。
アランの邸宅は広く、どこにどんな部屋があるのかを一度で覚えるのは不可能なほどだった。
「へ、部屋がたくさんありすぎて目が回りそう……」
「すべての部屋を覚える必要はありませんよ。ソフィア様が普段お使いになられそうな部屋は入念に説明いたしますので、そこだけ抑えていただければ」
「わかったわ」
クラリスのありがたいアドバイスに従って、とりあえずは特定の部屋を覚える事にした。
とは言っても食堂や大浴場などは昨日案内してくれて把握していたので、実質の数は少ない。
追加で覚えたほうがよさそうなのは客人を迎え入れる応接間、そして……。
「こちらが、アラン様が普段、政務を行なっておられる執務室でございます」
「アラン様の……」
他の部屋よりも一際大きく仰々しい装飾がなされた扉。
(この中に、アラン様が……)
そう思っただけで、胸の奥がとくんとくんと高鳴った。
「……ちなみにアラン様は現在、王城にて会議をしておられるので、こちらにはいらっしゃいません」
「あ、そうなんだ……そうなのね……」
しょんぼり。
わかりやすく肩を落とすソフィアを見て、クラリスは微笑ましい気持ちになるが表情には出さない。
「心配しなくても、午後には会えますよ」
「うん……そうね、そうよねっ」
元気が帰ってきたソフィア。
わかりやすく声を弾ませるソフィアを見て、クラリスは思わず小さく笑みを浮かべてしまう。
屋敷内の案内は続く。
途中、すれ違った使用人たちはソフィアの姿を見て一様に廊下の隅に避け、頭を下げたり、挨拶をしてくれる。
(なんだか、新鮮な感覚ね……)
というよりも、あり得ない光景だった。
実家では使用人とすれ違っても挨拶や礼なんてなし。
それどころか、わざと肩をぶつけてきたり聞こえるように影口を叩いてきたりと、海水もびっくりな塩対応だった。
(本来はこれが普通、普通……)
昔いた場所と、今いる場所は違う。
(早く慣れないと……)
意気込むソフィアだったが、それはさておき。
(さっきの方はうさぎ耳……あの方は猫耳……ふおおおお狐耳まで!)
この屋敷で従事している使用人たちの獣族率が高い事に、ソフィアは抑えきれない興奮を覚えていた。
なるべく平静を装っているつもりだが、知らず知らずうちに興奮が身体に浮き出てしまっているかもしれない。
「ソフィア様? 先ほどから鼻息荒いようですが、お疲れですか?」
「あっ……これは違うの、もふもふが凄くてちょっとテンションが上がっていただけ」
「……? よくわかりませんが、お疲れでしたら遠慮せず仰ってくださいね」
正直に明かせば、すれ違い様に一人ずつ呼び止めてふわふわそうなお耳や尻尾を是非そもさわさわさせていただきたく存じるソフィアだったが、そんな事をしては気でも触れてしまったのかと思われかねないので頑張って我慢。
でもいずれ、どこかのタイミングで是非とも仲良くなりたいと思うソフィアであった。
ここの使用人の皆さんだったら仲良くなれそうという、純粋な意味で。
もふもふ触りたさはちびっと……いや多少、ううんそれなりにあるけども。
「こちらが図書の間です」
「図書の間……」
クラリスが通してくれた一室に、ソフィアは心を奪われた。
カカオを薄めたような紙の匂い、森奥の泉のような落ち着いた雰囲気。
自分と部屋と同じくらいの空間に、かなりの冊数の本棚がずらりと並んでいる。
(そういえば……子供の頃はよく、お母様に絵本を読み聞かせてもらっていたわね)
魔力ゼロ事件の前の話だ。
まだ優しかった母メアリーの話すたくさんのお伽話に、ソフィアは夢中で聞き入っていたものだ。
「……本、好きかも」
思わず呟いていた。
「何か、お読みになられますか?」
クラリスが尋ねてくれたが、ソフィアは首を振った。
「ううん、今はいいわ。ありがとう」
ここで本を読み始めてしまったらあっという間に時間が過ぎ去ってしまう。
なんとなく、そんな気がした。
そうなるとクラリスに迷惑をかけてしまうので、また後日、時間のあるタイミングで訪れようと思った。
明日には足を運んでいる可能性が濃厚だが。
「気になった本を何冊か、部屋に持ち帰ってお読みになられてもよろしいですよ?」
「いいの?」
「ええ。アラン様の夫人になられた以上、この図書の間の本は自由にしていただいて構いません」
「なんと素敵な……ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」
ソフィアは入り口に近い本棚の前に立ち、ざっと本のタイトルを眺め気になった一冊を手に取った。
「こちらですね、受け取ります」
「あ、ありがとう……」
自分で部屋に持って行こうとしたが、さりげなくクラリスが引き取る。
(こんな楽をして、いいのかな……)
そんな罪悪感を抱いているなんて、クラリスは露知らなかった。
「さて、これで一通り回り終えました」
屋敷ぐるっと回って、エントランスに戻ったタイミングでクラリスが言う。
「案内ありがとう、クラリス。とても丁寧でわかりやすかったわ」
「いえいえ、それが仕事ですので」
相も変わらずクールに言ってのけるクラリス。
「それではソフィア様、これより昼食を……」
その時だった。
「おや、そこにいるのは」
ソフィアでもクラリスでもない、第三者の声が廊下に響いた。
クラリスの案内で、ソフィアは屋敷内を散策していた。
アランの邸宅は広く、どこにどんな部屋があるのかを一度で覚えるのは不可能なほどだった。
「へ、部屋がたくさんありすぎて目が回りそう……」
「すべての部屋を覚える必要はありませんよ。ソフィア様が普段お使いになられそうな部屋は入念に説明いたしますので、そこだけ抑えていただければ」
「わかったわ」
クラリスのありがたいアドバイスに従って、とりあえずは特定の部屋を覚える事にした。
とは言っても食堂や大浴場などは昨日案内してくれて把握していたので、実質の数は少ない。
追加で覚えたほうがよさそうなのは客人を迎え入れる応接間、そして……。
「こちらが、アラン様が普段、政務を行なっておられる執務室でございます」
「アラン様の……」
他の部屋よりも一際大きく仰々しい装飾がなされた扉。
(この中に、アラン様が……)
そう思っただけで、胸の奥がとくんとくんと高鳴った。
「……ちなみにアラン様は現在、王城にて会議をしておられるので、こちらにはいらっしゃいません」
「あ、そうなんだ……そうなのね……」
しょんぼり。
わかりやすく肩を落とすソフィアを見て、クラリスは微笑ましい気持ちになるが表情には出さない。
「心配しなくても、午後には会えますよ」
「うん……そうね、そうよねっ」
元気が帰ってきたソフィア。
わかりやすく声を弾ませるソフィアを見て、クラリスは思わず小さく笑みを浮かべてしまう。
屋敷内の案内は続く。
途中、すれ違った使用人たちはソフィアの姿を見て一様に廊下の隅に避け、頭を下げたり、挨拶をしてくれる。
(なんだか、新鮮な感覚ね……)
というよりも、あり得ない光景だった。
実家では使用人とすれ違っても挨拶や礼なんてなし。
それどころか、わざと肩をぶつけてきたり聞こえるように影口を叩いてきたりと、海水もびっくりな塩対応だった。
(本来はこれが普通、普通……)
昔いた場所と、今いる場所は違う。
(早く慣れないと……)
意気込むソフィアだったが、それはさておき。
(さっきの方はうさぎ耳……あの方は猫耳……ふおおおお狐耳まで!)
この屋敷で従事している使用人たちの獣族率が高い事に、ソフィアは抑えきれない興奮を覚えていた。
なるべく平静を装っているつもりだが、知らず知らずうちに興奮が身体に浮き出てしまっているかもしれない。
「ソフィア様? 先ほどから鼻息荒いようですが、お疲れですか?」
「あっ……これは違うの、もふもふが凄くてちょっとテンションが上がっていただけ」
「……? よくわかりませんが、お疲れでしたら遠慮せず仰ってくださいね」
正直に明かせば、すれ違い様に一人ずつ呼び止めてふわふわそうなお耳や尻尾を是非そもさわさわさせていただきたく存じるソフィアだったが、そんな事をしては気でも触れてしまったのかと思われかねないので頑張って我慢。
でもいずれ、どこかのタイミングで是非とも仲良くなりたいと思うソフィアであった。
ここの使用人の皆さんだったら仲良くなれそうという、純粋な意味で。
もふもふ触りたさはちびっと……いや多少、ううんそれなりにあるけども。
「こちらが図書の間です」
「図書の間……」
クラリスが通してくれた一室に、ソフィアは心を奪われた。
カカオを薄めたような紙の匂い、森奥の泉のような落ち着いた雰囲気。
自分と部屋と同じくらいの空間に、かなりの冊数の本棚がずらりと並んでいる。
(そういえば……子供の頃はよく、お母様に絵本を読み聞かせてもらっていたわね)
魔力ゼロ事件の前の話だ。
まだ優しかった母メアリーの話すたくさんのお伽話に、ソフィアは夢中で聞き入っていたものだ。
「……本、好きかも」
思わず呟いていた。
「何か、お読みになられますか?」
クラリスが尋ねてくれたが、ソフィアは首を振った。
「ううん、今はいいわ。ありがとう」
ここで本を読み始めてしまったらあっという間に時間が過ぎ去ってしまう。
なんとなく、そんな気がした。
そうなるとクラリスに迷惑をかけてしまうので、また後日、時間のあるタイミングで訪れようと思った。
明日には足を運んでいる可能性が濃厚だが。
「気になった本を何冊か、部屋に持ち帰ってお読みになられてもよろしいですよ?」
「いいの?」
「ええ。アラン様の夫人になられた以上、この図書の間の本は自由にしていただいて構いません」
「なんと素敵な……ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」
ソフィアは入り口に近い本棚の前に立ち、ざっと本のタイトルを眺め気になった一冊を手に取った。
「こちらですね、受け取ります」
「あ、ありがとう……」
自分で部屋に持って行こうとしたが、さりげなくクラリスが引き取る。
(こんな楽をして、いいのかな……)
そんな罪悪感を抱いているなんて、クラリスは露知らなかった。
「さて、これで一通り回り終えました」
屋敷ぐるっと回って、エントランスに戻ったタイミングでクラリスが言う。
「案内ありがとう、クラリス。とても丁寧でわかりやすかったわ」
「いえいえ、それが仕事ですので」
相も変わらずクールに言ってのけるクラリス。
「それではソフィア様、これより昼食を……」
その時だった。
「おや、そこにいるのは」
ソフィアでもクラリスでもない、第三者の声が廊下に響いた。
26
あなたにおすすめの小説
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる