竜神様に見初められまして~虐げられ令嬢は精霊王国にて三食もふもふ溺愛付きの生活を送り幸せになる~

青季 ふゆ

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第61話 近い距離

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「失礼する」

 そんな言葉と共に、アランがソフィアのおでこに、自分のおでこをくっつけてきた。

「へぁっ……?」

 突然のことすぎて、ソフィアは間の抜けた声を漏らしてしまう。

 額にひんやりとした、それでいて硬い感覚。
 ふわりと鼻腔をくすぐる甘い香り。

 頭が、ホットケーキの上に乗せたバターみたいに、とろんと溶けてしまいそうだ。

 ソフィアは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

「……~~~っ……~~~……」

 脳が状況を理解すると同時に、ソフィアが言葉になってない声を上げる。
  その一方で、アランは眉を顰めシリアスな言葉を告げる。

「……やはり、少し熱っぽいな」
(アッ……アラン様のお顔が……お顔が……!!)

 近い!!
 文字通り目と鼻の先にアランの凛々しい顔立ちがあって、ソフィアの羞恥度は一瞬にして跳ね上がってしまった。

 それに比例して、ソフィアの首元から耳先にかけてみるみる赤くなっていく。

「む……なんだ、どんどん体温が上がっていくぞ」

 アランが怪訝な表情をして言う。
 その言葉通り、ただでさえ身体の不調で高めだったソフィアの体温は急上昇していた。

「あの……アラン、様……」
「なんだ?」
「その……こんなにもお顔が近いと、とても恥ずかしいと言いますか、なんと言いますか……」
「……ああ」

 アランが合点のいったように目を見開き、ぱっとおでこを離す。
 それから頭を少し下げ申し訳なさそうに言った。

「すまない。これは、竜人族同士が体温を確かめ合う時の習性の一つで……特に深い意味は無かったんだ」
「な、なるほど……そういう習性がおありなのですね」

 額に残った、ひんやりと硬い感触を覚えつつソフィアが頷く。
 その動作だけで、びきんと脳に痛みが走った。

「いっ……」

 思わず顔を顰め頭を押さえるソフィア。

「大丈夫か?」

 ソフィアの顔をアランが心配そうに覗き込む。

「ソフィア様!」

 同時に、後ろに控えていたクラリスがやってきてソフィアの額に手を当てた。

「これは……熱がありますね。それも、かなり高い」
「やはり」

 思った通りだと、アランは続ける。

「夕食は中止にして、今すぐ部屋に戻ろう」

 アランの言葉に、ソフィアの胸に到来するモヤモヤ感。

 自分のせいでみんなに迷惑をかけてしまっている。
 心配をさせてしまっている。

  このままじゃダメだと、ソフィアは目を見開いた。

「い、いえ、それは……大丈夫、ですので」
「どうみても大丈夫じゃないだろう。熱もあるし、何よりもしんどそうじゃないか」

 普段にも増してアランの声に力が入っている。
 自分のことを本気で心配している事がわかって、このまま我を通すのも違うという気持ちも生じた。

「こんな状態のまま、食事を続けるわけにはいかない」

 有無を言わせないアランの言葉に、ソフィアはとうとう観念の言葉を口にする。

「……そう、れすね……」

 おかしい、呂律が回っていない。
 頭がぽーっとして、身体がふわふわしている。

「……立てるか?」
「なんとか……ひゃっ……」

 椅子から立ち上がるなり、ソフィアはアランに優しく抱き抱えられた。
 いわゆるお姫様抱っこ。

「あっ、あらん様……?」
「体勢は辛くないか?」

 アランの問いに、ソフィアはこくこくと頭を上下するしかできない。
 
 落ち着く体温。
 大きくて逞しい抱き抱えられているという安心感

 そしてなんだか……心臓がドキドキする。
 頬がもっと熱くなる。

「よしクラリス。先に部屋に戻って、療養の準備を」
「はい、ただいま」

 クラリスが頭を下げてぱたぱたと駆けていく。

 ソフィアを抱えたまま、アランもゆっくりと歩き出した。

 大きくて逞しい腕の中から見上げるアランの顔つきは精悍で、かっこよくて。
 ダメだと言い聞かせても、胸のあたりがうるさくて落ち着かない。

 自分の中に確かに存在する感情から目を逸らす事は、もはや困難を極めていた。

「ぁりがとう……ございます……」
「気にするな。むしろ、すまなかった。もっと早く気づく事が出来れば……」
「いえ……そんな……」

 私が悪いんです、と口に出そうになった途端。
 ふっと意識から光が消えた。

 身体に力が入らない。

 気が、遠く……なって、いく……。

「ソフィア……!?」
 
 今まで聞いたことのない、アランの切羽詰まった声。
 視界が真っ黒になる直前、ぎゅっと身体を抱きしめてくれるアランの腕の力を感じた。
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