【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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魔王からの招待編

第71話 優しさ

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「あら? こんなところに人族?」

 魔夜中紫怨マヨナカシオンが居なくなった矢先、彼が消えた方向とは違う方向から、1人の魔族が現れた。

 声が聞こえると同時に、そちらを見る。

 魔夜中紫怨マヨナカシオンが殺した魔族と、同じ種類の魔族だ。髪が長く、胸があるということを除けば、彼らとの差はない。

 女魔族が俺の方を向く。

「え……?」

 そして、表情を驚愕に染める。
 理由は言わずもがな、俺の近くに倒れている2人の魔族の死体だろう。

 女魔族をそれらを凝視した後、俺に目を向けた。

「何か…事情があったという顔をしているわね」

 そして、口を開いた。
 しかし、そこから放たれた言葉は、俺への非難ではない。

「……そうね、弔いたいから、手を貸してくれるかしら?」

 むしろ、俺を受け入れ、包み込むような優しさで。

「……はい、分かりました」

 俺は、その優しさに、甘えた。




・     ・     ・




 2人の死体は綺麗にした後、彼女の炎魔法で火葬した。
 死者を弔う文化があることには驚いたが、不思議とすんなり受け入れられた。
 そして、終始、彼女が俺に非難の目を向けることもなかった。

「ありがとう、手伝ってくれて」
「いえ……」
「それで、彼らはあなたが殺したのかしら?」

 同じような質問を、兄弟魔族にもされた。
 その時は隙をつかれ、殺されかけた。

 だが、今は嘘をついて逃れようとは思わなかった。

 もちろん、彼女から敵意を感じないというのもそうだ。
 しかし、そうというよりは、自分に優しさを向けている彼女に対して、仇で返したくないという気持ちが1番大きい。

「俺の……仲間、というか、同期?というか、知人というか……その人が殺しました」

 だから、嘘はつかない。
 関係性は濁してしまったが。

「そう……。それであの顔、何か複雑なことがあったのね?」
「はい……そうですね」

 俺を批判する意図も、疑う様子もなかった。
 保身的な発言に見えるかもしれなかったのに、俺の言葉を真っ直ぐに受け止めた。

「何があったのか、言ってみなさい」

 それだけでなく、俺の話を聞く姿勢まで見せたのだ。
 そんな彼女の優しさと誠実さに、俺は素直に答えた。

 俺と魔夜中紫怨マヨナカシオンが勇者だと言うことは伏せたが、それ以外は全て正直に話した。

 俺が魔族領にやってきたこと。
 そこで魔獣に襲われたこと。
 その魔獣を殺したところで、彼ら魔族に捕まったこと。
 そこを魔夜中紫怨マヨナカシオンに助けてもらったこと。

 勢いのまま一気に話した話を、彼女は相槌を打ちながら聞いてくれた。
 それだけでなく、話し終えた俺に微笑みかけ、言葉を発する。

「それで、あなたはどう思っているの?」

 それは、俺の話を聞こうとするような、優しい言葉だ。
 彼女は俺の目を真っ直ぐ見つめ、それを問う。

「どう、ですか? 俺としては……彼らの行動が間違っていたとは思えません。そもそも、俺が先に仕掛けたようなものですから」
「でも、あなたも襲われたのでしょう?」
「正当防衛……とでも言えばいいのですか?」
「正当防衛……? それが何かは分からないけど、そういうことではないと思うわ。なんていうのかしらね、殺さなければ、あなたも死んでいたのでしょう?」

 確かに、それはそうだ。
 だが、だからといって。
 それは彼らが正しくない理由にはならない。

「だが……」
「あなたは、なぜ彼に怒っているの?」
「なぜ……? それは……あいつが、必要のない殺生に手を染めたからだが……?」
「それの何がいけないの? そう私は聞きたいわ」
「それは……」

 一瞬、口を紡ぐ。
 魔夜中紫怨マヨナカシオンの行為の咎められるべき点は、何なのか。
 考えているようで、何も考えていなかったような気もする。

 ただ、一つだけ。
 言えることがあるとすれば、

「……あいつの行為は、すべて、あいつの自分勝手なエゴに過ぎないからだ。自分勝手な理由で、簡単に人を殺めたんだぞ」
「それはあなただってそうじゃない? 自分勝手な理由で彼を怒っている。彼の気持ちを度外視しているわ」
「あいつの……気持ち?」
「ええ。彼が何を考えて殺したのか、あなたは少しでも考えた?」
「そんなもの……」
「それを考えずに彼を悪者にするあなたの考えも……エゴではなくて?」

「それは……」

 俺は押し黙る。
 彼女の言っていることを頭ごなしに否定するのは簡単だ。
 だが、彼女の言っていることは、決して間違ってはいない。
 確かに、俺の考えは自分勝手なのだろう。
 そう言われれば、納得はいく。

「あなたを責めるつもりはないわ。ただ、相手の気持ちを考えることも、大切よ」
「……」
「強いものが生きて、弱いものは死ぬ。それは仕方のないことよ。彼らも、それを考えずにあなたを襲ったわけでは無いと思うわ」

 こんな世界だから、弱肉強食なのは必然だと。
 彼らも、それくらいは覚悟していたと。
 そうなのかもしれない。

「だが、俺は…そんな覚悟もなく、殺したんだ」

 それでも、俺にはそんな大そうな考えはなかった。
 何も考えずに、殺した。

 そんな俺の告白を聞いて、彼女はまた、優しく微笑んだ。

「覚悟なんて必要じゃないわ。あなたは生き残りたいから戦った。理由なんてそれでいいのよ。それで負けたのなら、死ぬ。殺したとしても、また殺されるかもしれない。そんな醜い────残酷な世界なのよ。だから、それをどうこう思うひつ用はないと、私はそう思うわ」

 言い返すことはなかった。
 俺がこの世界に抱いていた価値観は、間違っていたのだと、今ようやく自覚した。
 この世界は、残酷で、俺たちのいた世界と比べれば非情かもしれない。
 ただ、この世界で生まれ、育った人々は、それを受け入れて生きている。
 俺の持っている価値観だけで、その全てを否定するのは間違っているのだろう。

 むしろ、俺がこの世界に適応していくべきだ。
 殺すなんて行為は、こんな世界では大きな意味は持たない。
 だからこそ、必死に生きようとすることは、悪では無いのだ。

「ふふ、自分の中で落とし所を見つけたようね。良かったわ」
「ありがとう……ございます」
「いいのよ」

 こんな世界でも、人の優しさは健在だった。
 暖かい、という表現でいいのか。
 何せ、彼女の優しさは、俺にとっては救いだった。
 彼女はそんなことを気にしないと言わんばかりだったが。

「そういえば、お名前は?」
「よ。あなたは?」
「アオイ、です」
「そう、アオイくんね。とりあえず、私たちの集落に案内するわ。いいかしら?」
「え?」

 予定はないが。
 確かに疲れたし、少し休んでいくくらいならいいか。
 いや、しかし。
 人族である俺を、魔族である彼女の集落が受け入れてくれるのか。
 そこは、彼女を信頼しているので大丈夫だと思うのだが。
 迷惑ではないだろうか。

 そんな俺の不安は彼女に伝わっていたのか、彼女は矢継ぎ早に口を開いた。

「大丈夫よ。人族だからと言って無下に扱うこともしないし、少しくらいは休んで行きなさい。まぁ、何かがあるわけでもないけど、それでも良ければね」
「わかりました。お世話になります」
「よろしい。では、ついてきてくれるかしら?」

 俺が承諾したことを快く思ったのか、彼女はやや茶目っ気のある声で了承の意を伝えると、彼女の集落がある方向だと思われる方に振り返った。
 そのまま歩き出す彼女の後ろを、俺は歩いていくことにした。

 時間はまだまだ昼だ。
 俺は温かさを感じながら、彼女の集落へと向かっていくことにした。
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