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大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
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目覚めれば、そこは見覚えの無い部屋だった。
どれくらい寝ていただろうか、詳しい記憶は無いが、確か仲間たちと酒を飲んでいたはずだ。
およそ、羽目を外して飲み過ぎてしまったのだろう。
それに対する反省は無い。
それは一昨日、人類の敵である魔王を討伐したからだ。
俺たち5人は3年以上に渡って旅を続け、ようやく魔王を討った。
その日は疲れ果てて何も出来なかったが、翌日、王から報酬を貰い朝から晩まで飲み明かしたのだ。
”酔い”などの低位の状態異常を無効化するスキルを使っている事がほとんどだが、その日に限ってはどうしても酔いたく、スキルを切っていた。
旅で張り詰めていたせいもあり、飲んだのは久しぶりだ。それもあって、かなり酔いが回ったのが伺い知れた。
ほとんどの記憶はない。
気付いたら意識を失っていて、気付いたらこの部屋に居た。
ベッドに横になっていることから、仲間たちが運んでくれたのだろうと推察できた。
そこで、違和感に気付く。
段々と目覚めてくると、自分が裸であることに気がついた。
───裸でベッド……?隣に誰か居たり?
ふと隣を見るも、勿論誰も居なかった。
そして、もう一つの違和感にも気が付いた。
両手両足に枷が嵌められている。
しかも、ただの枷ではない。
手足に力が入らないのだ。押さえつけている者の筋力を低下させるような効果があるのだろう。
現状を鑑みれば有り得ないほどの危機だが、仲間がやったことはほぼ確定なのだ。そういう意味では何かのいたずらだと納得は出来た。
パーティーメンバーであるエリス──彼女は俺の恋人に当たる人間なのだが、彼女のせいかもしれない。
旅の途中ということもあり、性行為はおろか、キスやハグにすら至ってない関係だが、この機に進展するという可能性も捨てきれない。
もしそうであれば彼女の趣味に驚かざるを得ないのだが。
「起きてたんですか、ユウキさん」
「エリス……」
突如、扉が開き、それと同時に女性の声が聞こえた。
彼女こそ俺の恋人のエリスであり、何かのおふざけかと思った。
ただ、そうでは無いことを感じ始める。
エリスの俺への話し方が、これまでに無いほど冷たかったのだ。
彼女は俺をユウキと呼ぶ。ユウキ”さん”と呼ばれたのは出会った時以来だ。
「”人類最強”がその姿。情けなくは無いのですか?」
「エ、エリス…?どうしたんだ?何か様子がおかしいぞ……?」
「ここまで来ても理解できないとは、少し愚かではないですか?」
「な、何を……」
裏切り。その3文字が頭に浮かぶ。
兆しは無かった。昨日はあんなに楽しく飲み明かしていた。旅の途中も喧嘩こそあれど、順調な関係を築けていた。
「こんなこと……レイやクルシュ、アキが許すわけが……」
「何か勘違いをしているようですので言っておきますが、全世界の人間が貴方の敵です。魔王が討たれた今、貴方はもう不要なのです。そもそも、私が貴方と恋人になったのもそれが目的───まさか、気付いてなかったんですか?」
「い、いや……そんなわけがない。昨日まではあれほど……」
「キスも、ハグも。何もしなかったでしょう?」
「それは、旅の途中だったからで…」
「本当に、馬鹿ですね」
「どういう、意味だ」
話をしながら状況を確認する。
ついでの気持ちで枷に抵抗するも、ビクともしない。
魔王討伐の際にあらゆるマジックアイテムの情報を調べたつもりだったのだが、この枷に関する情報を俺は持っていなかった。こんな強力なアイテムの情報を俺が知らないはずが無い。
つまり、今まで俺に隠されてきた。
目的は言うまでもなく、俺を殺す為だろう。
「最後だから教えてあげましょう。ここは大森林の奥地にある、貴方を殺す為だけに作られたログハウスです。ここに貴方を拘束し、家ごと魔法で破壊します。魔法の詠唱者はクルシュ。貴方の大切な仲間の一人です」
意気揚々と彼女は続けた。
「人類にとって大き過ぎる力……まぁ、魔王を倒すのには都合の良い力と言いましょうか。王は貴方を殺すつもりだったようですが、残念ながら利用価値を見出してしまった。その上で完全に殺す為の手立ても考えました」
「信じてたのに…」
「それはそうでしょう。私たちも貴方に信頼されるように頑張ったのです」
「いつから…」
「言うなれば、最初からです。人類にとって魔王と貴方は強過ぎた。人々から見て貴方はただの脅威──英雄などでは無く、怪物なんですよ」
喋る力も奪われていく。
手足に付けられた枷は余程強力なものなのだろう。全身からありとあらゆる筋肉が機能を停止し始めているのを感じた。
「さて、お話する事ももうありません。最後に何かあればお聞きしますが?」
「俺はエリスを愛していた」
「そうですか。それはありがとうございます。私は貴方に愛など、これっぽっちも抱いていませんが」
その言葉だけを残して、エリスは部屋を出て行った。
部屋から外の様子は伺えない。まともな灯りもなく、あるのは今にも消えそうな蠟燭が一本だけ。
必死に抵抗して逃げ出そう、そうも考えた。
ただ、それをさせない程に彼女らの作戦は完璧だった。
エリスが誰かに操られているかもしれない、という考えも捨てきれないでいた。
尤も、そんなことは無いと頭では理解していた。
「なんで、だろうな…」
人類の為に必死に戦い、魔王を討伐した。
仲間に”勇者”と呼ばれる少女──名はアキという──が居たのだが、俺は彼女のパーティーメンバーとして選ばれたのだ。
これから、というタイミングだった。
平和な世界でしたい事は沢山あったし、エリスと行きたいところもいっぱいあった。
その全てが泡沫のように消え去ってしまう事が悲しく──
───そして、恨めしかった。
沸々と心の内から怒りが込み上げる。
「というか、防音性でもあるのか、この部屋。いつ魔法が撃たれるか分からないの、怖いな」
それが、最後の言葉だった。
天井が壊れる音、同時に感じる有り得ないほどの熱量。そして、重量感。
クルシュが使う最高レベルの魔法──<隕石>。かつては頼もしかったその魔法が今、俺を殺す為に差向けられていた。
目の前に巨大な隕石が迫る。
それはコンマ一秒もあれば俺を押し潰し、死体も存在しないまでに木っ端微塵にするだろう。
ドゴゴォォォッ………
けたたましい轟音が響き渡り、ログハウスと近くにあった木たちは跡形も無く消滅した。巨大なクレーターのようなものが出来上がり、その中心は高温の為に湯煙が立っている。
およそ1000度の隕石だ。直撃すれば死は免れない。
「エリス様!やりましたか!?」
「皆さん、まだ警戒を緩めないようにっ!彼はこれでも生きている可能性はあります!全方向から包囲をし、存在を確認次第攻撃してください!」
”人類最強”であるユウキを討伐する部隊。
国内の精鋭を集めた、300人で形成されている。
筆頭は、”聖女”エリス、”大賢者”クルシュ、”勇者”アキ、”最硬”レイ。
元勇者パーティーと呼ばれる、人類最強の4人だ。
王の命令と民の期待、そして単純な欲望からユウキを討伐する為に集った精鋭たち。
装備も何も無いユウキでは、いくら”人類最強”であろうとも抵抗は出来ない。
────はずだった。
「エリス様!中央に人影を確認!」
「何っ!?様子を見て、生存しているようであれば攻撃を開始しなさい!クルシュ!魔力回復のポーションを飲んで!レイはいつでもスキルを使える準備を!アキは応戦出来るように!」
「わ、わかりました!」
「了解」
「あぁ、任せてくれ」
エリスはクレーターの中央に目を向ける。
煙は少しずつ晴れてきていた。丁度、その中央に人影を確認できる程度には。
「やはり殺せませんか……ですが、彼とて瀕死のはずです!皆さん、準備を!」
「これほどの人間が集まったのか」
何の為に集まったのか、言うまでもないだろう。彼らから感じる敵意を汲み取れば目的など容易に想像できる。
巨大な隕石に押し潰される寸前、俺はスキルを使用した。
200時間に一度しか使えないスキル──<不死鳥の如く>。死から一度だけ免れることのできる、最強クラスのスキルだ。
単純に今まで使う機会がなかった為成功の確証は無かったのだが、それが彼女らに情報を与えないことに繋がった。
それは兎も角。
「とりあえず、皆殺しにするか」
自分を殺そうとしてくる奴らの命に慈悲は必要無いだろう。
「──<黒き装束>、<矢守の加護>、こんなものでいいか」
スキルを使い、黒い服を作り出す。
次いで、飛び道具への完全防御を図った。
「弓部隊!攻撃を開始しなさい!魔法部隊も援護を!」
エリスの叫び声が聞こえる。
不愉快だ。
「<無限の煉獄>」
エリスを処理したい気持ちを抑え、俺を囲う人間たちから処理をする。
一人一人殺すのは面倒な為、使うのは範囲型の炎魔法だ。
煉獄とは名ばかり、2000度以上の地獄の業火が広範囲に渡って人々を焼き尽くした。
阿鼻叫喚。
人々の叫び声が響くも、それも一瞬のこと。
何故なら一瞬で呼吸器は溶け、声など出せなくなるのだから。
「彼のどこに!あんな魔力が残っているのですか!!!」
そんな中、叫び続ける一人の女が居る。
得てして、魔法の範囲から外した奴だ。
彼女が死なないように配慮したあまり、20人ほど残ってしまった。
「エリス様!どうされますか!」
「そうです、いえ、落ち着きましょう。アキ、行ってくれますか?」
エリスは落ち着いて自陣営最強の個である”勇者”アキに依頼をした。
「ああ、任せてく──」
ドスッ
鈍い音がした。
「アキっ!!な、何が……」
「エリス様!何が起きてい──」
「は──?」
次々と人が死んでいく。
こんなことができる人間に、エリスは一人しか心当たりはない。
いつから居たのか、目の前には男が居た。
「ユウキ……」
「あぁ、まだゴミが残っていたか……。──<聖焔槍>」
手に数本の魔法で出来た白く輝く槍が表れ、それらがエリスの近くに居た人々を殺していく。
いとも容易く、精鋭と呼ばれた王国の戦士たちを殺す魔法。
そして、それらをゴミと言い切る異端さ。
エリスは震えが止まらなかった。
感じるのは──恐怖。
目の前に現れた絶対強者への、畏怖の念。そして、死への恐怖。
「アキは殺してしまったが…そうだな、レイ。お前とは仲良くできていると思っていたが、残念だ」
さっきから誰も口を開かないのは恐怖からか。
動けば殺されると悟っているからか。
「クルシュ、さっきの<隕石>は素晴らしかった。危うく死ぬところだった。お前のような優秀な魔法使いがこの世から居なくなることは大きな損失だろう。死ね──<聖焔槍>」
今度は2本の槍が表れ、一直線にレイとクルシュを貫いた。
直後、人が倒れる鈍い音がする。
世界最強レベルに強い二人を同時に、しかも一撃で殺したのだ。
言葉もなく、抵抗も許されず、二人は死んだ。
あまりにも淡々と人を殺すその姿は──まさに魔王そのものだ。
「さて、最後になったが、エリス」
「ま、待って!待ってください!!これには深い事情があって…!私も騙されていたの!騙されていたんです!」
「ふむ?」
手が止まる。
もしタイミングが少しでも遅かったら殺されていただろう。
「私はユウキと戦うつもりはない!私は…王に利用されているだけなのです…。ユウキを殺さなければ家族を殺すって…人質に取られているの」
エリスの周りには20の死体。そのうちの3つは仲間たちのもの。
そしてクレーターの周りには──人と認識するのも難しいほど無残な死体の数々があった。
「そうか」
「私はユウキを愛しています。心から愛しているのです」
「それで?」
「私で良ければ好きに使ってください。心も体もユウキのものです。自慢じゃないですが、胸も豊満ですし、満足させられるように努力もします。聖女ですし、もちろん純潔です」
「そうか、ならば殺さないでおこう」
「本当ですか!」
美しい顔を地面に擦り付けるように土下座をしていた価値があったというもの。
美しい金髪も仲間の返り血に汚れ、元の美しさは失われていた。
女としての尊厳は失うかもしれないが、それも命あってのことだ。
エリスはユウキから得た意外な回答にホッと胸を軽くした。
そして土下座していた頭を上げ、ユウキを見上げる。
「<地獄の焔>」
そこには、魔法の炎を手に纏ったユウキが居た。
その手は一直線にエリスの顔へと向かい──
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
エリスは激痛と共に、死を迎えた。
「呆気ない」
俺の感想はその一言だった。
人間からは怪物と言われ、魔族からは悪魔と言われるユウキ。
彼を殺そうと試みる部隊にしては、あまりにも呆気ない終わり方だった。
「とりあえず──滅ぼすか、世界」
「人類全員が敵」というエリスの言葉を思い出し、忘れかけていた怒りを感じ始めたユウキは決意した。
どれくらい寝ていただろうか、詳しい記憶は無いが、確か仲間たちと酒を飲んでいたはずだ。
およそ、羽目を外して飲み過ぎてしまったのだろう。
それに対する反省は無い。
それは一昨日、人類の敵である魔王を討伐したからだ。
俺たち5人は3年以上に渡って旅を続け、ようやく魔王を討った。
その日は疲れ果てて何も出来なかったが、翌日、王から報酬を貰い朝から晩まで飲み明かしたのだ。
”酔い”などの低位の状態異常を無効化するスキルを使っている事がほとんどだが、その日に限ってはどうしても酔いたく、スキルを切っていた。
旅で張り詰めていたせいもあり、飲んだのは久しぶりだ。それもあって、かなり酔いが回ったのが伺い知れた。
ほとんどの記憶はない。
気付いたら意識を失っていて、気付いたらこの部屋に居た。
ベッドに横になっていることから、仲間たちが運んでくれたのだろうと推察できた。
そこで、違和感に気付く。
段々と目覚めてくると、自分が裸であることに気がついた。
───裸でベッド……?隣に誰か居たり?
ふと隣を見るも、勿論誰も居なかった。
そして、もう一つの違和感にも気が付いた。
両手両足に枷が嵌められている。
しかも、ただの枷ではない。
手足に力が入らないのだ。押さえつけている者の筋力を低下させるような効果があるのだろう。
現状を鑑みれば有り得ないほどの危機だが、仲間がやったことはほぼ確定なのだ。そういう意味では何かのいたずらだと納得は出来た。
パーティーメンバーであるエリス──彼女は俺の恋人に当たる人間なのだが、彼女のせいかもしれない。
旅の途中ということもあり、性行為はおろか、キスやハグにすら至ってない関係だが、この機に進展するという可能性も捨てきれない。
もしそうであれば彼女の趣味に驚かざるを得ないのだが。
「起きてたんですか、ユウキさん」
「エリス……」
突如、扉が開き、それと同時に女性の声が聞こえた。
彼女こそ俺の恋人のエリスであり、何かのおふざけかと思った。
ただ、そうでは無いことを感じ始める。
エリスの俺への話し方が、これまでに無いほど冷たかったのだ。
彼女は俺をユウキと呼ぶ。ユウキ”さん”と呼ばれたのは出会った時以来だ。
「”人類最強”がその姿。情けなくは無いのですか?」
「エ、エリス…?どうしたんだ?何か様子がおかしいぞ……?」
「ここまで来ても理解できないとは、少し愚かではないですか?」
「な、何を……」
裏切り。その3文字が頭に浮かぶ。
兆しは無かった。昨日はあんなに楽しく飲み明かしていた。旅の途中も喧嘩こそあれど、順調な関係を築けていた。
「こんなこと……レイやクルシュ、アキが許すわけが……」
「何か勘違いをしているようですので言っておきますが、全世界の人間が貴方の敵です。魔王が討たれた今、貴方はもう不要なのです。そもそも、私が貴方と恋人になったのもそれが目的───まさか、気付いてなかったんですか?」
「い、いや……そんなわけがない。昨日まではあれほど……」
「キスも、ハグも。何もしなかったでしょう?」
「それは、旅の途中だったからで…」
「本当に、馬鹿ですね」
「どういう、意味だ」
話をしながら状況を確認する。
ついでの気持ちで枷に抵抗するも、ビクともしない。
魔王討伐の際にあらゆるマジックアイテムの情報を調べたつもりだったのだが、この枷に関する情報を俺は持っていなかった。こんな強力なアイテムの情報を俺が知らないはずが無い。
つまり、今まで俺に隠されてきた。
目的は言うまでもなく、俺を殺す為だろう。
「最後だから教えてあげましょう。ここは大森林の奥地にある、貴方を殺す為だけに作られたログハウスです。ここに貴方を拘束し、家ごと魔法で破壊します。魔法の詠唱者はクルシュ。貴方の大切な仲間の一人です」
意気揚々と彼女は続けた。
「人類にとって大き過ぎる力……まぁ、魔王を倒すのには都合の良い力と言いましょうか。王は貴方を殺すつもりだったようですが、残念ながら利用価値を見出してしまった。その上で完全に殺す為の手立ても考えました」
「信じてたのに…」
「それはそうでしょう。私たちも貴方に信頼されるように頑張ったのです」
「いつから…」
「言うなれば、最初からです。人類にとって魔王と貴方は強過ぎた。人々から見て貴方はただの脅威──英雄などでは無く、怪物なんですよ」
喋る力も奪われていく。
手足に付けられた枷は余程強力なものなのだろう。全身からありとあらゆる筋肉が機能を停止し始めているのを感じた。
「さて、お話する事ももうありません。最後に何かあればお聞きしますが?」
「俺はエリスを愛していた」
「そうですか。それはありがとうございます。私は貴方に愛など、これっぽっちも抱いていませんが」
その言葉だけを残して、エリスは部屋を出て行った。
部屋から外の様子は伺えない。まともな灯りもなく、あるのは今にも消えそうな蠟燭が一本だけ。
必死に抵抗して逃げ出そう、そうも考えた。
ただ、それをさせない程に彼女らの作戦は完璧だった。
エリスが誰かに操られているかもしれない、という考えも捨てきれないでいた。
尤も、そんなことは無いと頭では理解していた。
「なんで、だろうな…」
人類の為に必死に戦い、魔王を討伐した。
仲間に”勇者”と呼ばれる少女──名はアキという──が居たのだが、俺は彼女のパーティーメンバーとして選ばれたのだ。
これから、というタイミングだった。
平和な世界でしたい事は沢山あったし、エリスと行きたいところもいっぱいあった。
その全てが泡沫のように消え去ってしまう事が悲しく──
───そして、恨めしかった。
沸々と心の内から怒りが込み上げる。
「というか、防音性でもあるのか、この部屋。いつ魔法が撃たれるか分からないの、怖いな」
それが、最後の言葉だった。
天井が壊れる音、同時に感じる有り得ないほどの熱量。そして、重量感。
クルシュが使う最高レベルの魔法──<隕石>。かつては頼もしかったその魔法が今、俺を殺す為に差向けられていた。
目の前に巨大な隕石が迫る。
それはコンマ一秒もあれば俺を押し潰し、死体も存在しないまでに木っ端微塵にするだろう。
ドゴゴォォォッ………
けたたましい轟音が響き渡り、ログハウスと近くにあった木たちは跡形も無く消滅した。巨大なクレーターのようなものが出来上がり、その中心は高温の為に湯煙が立っている。
およそ1000度の隕石だ。直撃すれば死は免れない。
「エリス様!やりましたか!?」
「皆さん、まだ警戒を緩めないようにっ!彼はこれでも生きている可能性はあります!全方向から包囲をし、存在を確認次第攻撃してください!」
”人類最強”であるユウキを討伐する部隊。
国内の精鋭を集めた、300人で形成されている。
筆頭は、”聖女”エリス、”大賢者”クルシュ、”勇者”アキ、”最硬”レイ。
元勇者パーティーと呼ばれる、人類最強の4人だ。
王の命令と民の期待、そして単純な欲望からユウキを討伐する為に集った精鋭たち。
装備も何も無いユウキでは、いくら”人類最強”であろうとも抵抗は出来ない。
────はずだった。
「エリス様!中央に人影を確認!」
「何っ!?様子を見て、生存しているようであれば攻撃を開始しなさい!クルシュ!魔力回復のポーションを飲んで!レイはいつでもスキルを使える準備を!アキは応戦出来るように!」
「わ、わかりました!」
「了解」
「あぁ、任せてくれ」
エリスはクレーターの中央に目を向ける。
煙は少しずつ晴れてきていた。丁度、その中央に人影を確認できる程度には。
「やはり殺せませんか……ですが、彼とて瀕死のはずです!皆さん、準備を!」
「これほどの人間が集まったのか」
何の為に集まったのか、言うまでもないだろう。彼らから感じる敵意を汲み取れば目的など容易に想像できる。
巨大な隕石に押し潰される寸前、俺はスキルを使用した。
200時間に一度しか使えないスキル──<不死鳥の如く>。死から一度だけ免れることのできる、最強クラスのスキルだ。
単純に今まで使う機会がなかった為成功の確証は無かったのだが、それが彼女らに情報を与えないことに繋がった。
それは兎も角。
「とりあえず、皆殺しにするか」
自分を殺そうとしてくる奴らの命に慈悲は必要無いだろう。
「──<黒き装束>、<矢守の加護>、こんなものでいいか」
スキルを使い、黒い服を作り出す。
次いで、飛び道具への完全防御を図った。
「弓部隊!攻撃を開始しなさい!魔法部隊も援護を!」
エリスの叫び声が聞こえる。
不愉快だ。
「<無限の煉獄>」
エリスを処理したい気持ちを抑え、俺を囲う人間たちから処理をする。
一人一人殺すのは面倒な為、使うのは範囲型の炎魔法だ。
煉獄とは名ばかり、2000度以上の地獄の業火が広範囲に渡って人々を焼き尽くした。
阿鼻叫喚。
人々の叫び声が響くも、それも一瞬のこと。
何故なら一瞬で呼吸器は溶け、声など出せなくなるのだから。
「彼のどこに!あんな魔力が残っているのですか!!!」
そんな中、叫び続ける一人の女が居る。
得てして、魔法の範囲から外した奴だ。
彼女が死なないように配慮したあまり、20人ほど残ってしまった。
「エリス様!どうされますか!」
「そうです、いえ、落ち着きましょう。アキ、行ってくれますか?」
エリスは落ち着いて自陣営最強の個である”勇者”アキに依頼をした。
「ああ、任せてく──」
ドスッ
鈍い音がした。
「アキっ!!な、何が……」
「エリス様!何が起きてい──」
「は──?」
次々と人が死んでいく。
こんなことができる人間に、エリスは一人しか心当たりはない。
いつから居たのか、目の前には男が居た。
「ユウキ……」
「あぁ、まだゴミが残っていたか……。──<聖焔槍>」
手に数本の魔法で出来た白く輝く槍が表れ、それらがエリスの近くに居た人々を殺していく。
いとも容易く、精鋭と呼ばれた王国の戦士たちを殺す魔法。
そして、それらをゴミと言い切る異端さ。
エリスは震えが止まらなかった。
感じるのは──恐怖。
目の前に現れた絶対強者への、畏怖の念。そして、死への恐怖。
「アキは殺してしまったが…そうだな、レイ。お前とは仲良くできていると思っていたが、残念だ」
さっきから誰も口を開かないのは恐怖からか。
動けば殺されると悟っているからか。
「クルシュ、さっきの<隕石>は素晴らしかった。危うく死ぬところだった。お前のような優秀な魔法使いがこの世から居なくなることは大きな損失だろう。死ね──<聖焔槍>」
今度は2本の槍が表れ、一直線にレイとクルシュを貫いた。
直後、人が倒れる鈍い音がする。
世界最強レベルに強い二人を同時に、しかも一撃で殺したのだ。
言葉もなく、抵抗も許されず、二人は死んだ。
あまりにも淡々と人を殺すその姿は──まさに魔王そのものだ。
「さて、最後になったが、エリス」
「ま、待って!待ってください!!これには深い事情があって…!私も騙されていたの!騙されていたんです!」
「ふむ?」
手が止まる。
もしタイミングが少しでも遅かったら殺されていただろう。
「私はユウキと戦うつもりはない!私は…王に利用されているだけなのです…。ユウキを殺さなければ家族を殺すって…人質に取られているの」
エリスの周りには20の死体。そのうちの3つは仲間たちのもの。
そしてクレーターの周りには──人と認識するのも難しいほど無残な死体の数々があった。
「そうか」
「私はユウキを愛しています。心から愛しているのです」
「それで?」
「私で良ければ好きに使ってください。心も体もユウキのものです。自慢じゃないですが、胸も豊満ですし、満足させられるように努力もします。聖女ですし、もちろん純潔です」
「そうか、ならば殺さないでおこう」
「本当ですか!」
美しい顔を地面に擦り付けるように土下座をしていた価値があったというもの。
美しい金髪も仲間の返り血に汚れ、元の美しさは失われていた。
女としての尊厳は失うかもしれないが、それも命あってのことだ。
エリスはユウキから得た意外な回答にホッと胸を軽くした。
そして土下座していた頭を上げ、ユウキを見上げる。
「<地獄の焔>」
そこには、魔法の炎を手に纏ったユウキが居た。
その手は一直線にエリスの顔へと向かい──
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
エリスは激痛と共に、死を迎えた。
「呆気ない」
俺の感想はその一言だった。
人間からは怪物と言われ、魔族からは悪魔と言われるユウキ。
彼を殺そうと試みる部隊にしては、あまりにも呆気ない終わり方だった。
「とりあえず──滅ぼすか、世界」
「人類全員が敵」というエリスの言葉を思い出し、忘れかけていた怒りを感じ始めたユウキは決意した。
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
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「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
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世界を滅ぼした後にゆっくり国王を葬るって手もありますな。続編に期待。
これは続編が是非とも欲しい話ですね。
聖女だけボロボロの状態で生かしておいて、王国が滅ぶところを見せる、というのもアリだったかも。
続編をは期待しています。
仲間と恋人の裏切りにムカついたし救ってもらったのに手のひら返し…
ほんとザマァ最高に良かった( ゚∀゚)人(゚∀゚ )
短編が勿体なく思って、ショートぐらいで読んで見たかったかも(*^O^*)
続編楽しみにしてますねーo(^o^)o
国王の魂とらんとな
(。-∀-)ニヤリ