あなたが浮気できるのは私のおかげだと理解していますか?

たくみ

文字の大きさ
29 / 65

29.狩猟大会

しおりを挟む
 やって参りましたジャマル男爵家主催の狩猟大会の日。

 ジョーは男爵家主催と声高らかに言っているが、仲間内のほんの数人の集まり。

 エリーゼは用意されていた椅子に腰掛けゆったりとじいやと2人で豊かな自然を眺めていた。実に立派な木が生い茂る山。

 この山はライカネル家所有の山の一つである。あまり狩りを好まずほとんど利用しない山なので公爵は狩りをしたいものに金と引き換えに貸し出ししているのだ。

 ここで起こったことの責任は負いませんという条件付きでだが。

「エリーゼ待たせたな!」

 いえ、あなたが予定より1時間早い時間を告げたことは知っていたので先程到着したばかりです

 と言いたいところだが言葉には出さない。

 エリーゼをやり込めてやったと嬉しそうなジョーは友人と娼婦たちを引き連れ至極ご満悦のよう。

 取り巻きたちがエリーゼに向かい胸に手を当て頭を下げるのを見てジョーの顔がムッとする。

「何やってるんだお前たち!こんな落ちぶれた女に挨拶なんかする必要ないだろ!?」

 その言葉に一瞬ゲッという顔をしたが、あんな美人に声かけるチャンスなんてないだろ?君が羨ましいよ!僕たちにもその幸運を少しわけてくれよと彼を持ち上げ機嫌をとっている。

 うん、なんとも面倒くさそうなのによくやるものである。

 取り巻きたちの努力の末、再びご機嫌となったジョーは娼婦たちの腰を撫で回しながら声を張り上げる。

「おい、お前たちこれが俺の妻だ」

 さあ、戦え!と言いたげなジョー。自分を巡るバチバチの女の戦いを想像する彼の鼻が膨らむ。

 だが、その場は静まり返ったままだった。

「お、おい…………「「「きゃーーーーーっ!」」」」

 うおっ!エリーゼと男性陣は急に上がった黄色い歓声にたじろいだ。

「本物のお姫様よ!」

「めっちゃ綺麗!え!?人間!?」

「わかるー!超女神様ー!」

「ていうか、肌綺麗すぎない!?」

「ほんとじゃん!めっちゃ羨ましいー!」

 きゃあきゃあと騒ぐ娼婦たち。

 これは褒められているのよね?

「あ、ありがとう?」

 引きつりながら微笑んで言うとまたきゃーーーーーっと悲鳴が上がる。

「「「笑顔綺麗すぎー!ご馳走様です!」」」

「お、お粗末様です?」

 エリーゼを取り囲む彼女たちは安値のあまり教養のない娼婦だった。だからこそ自分を取り繕わない彼女たちは本音を表に出しまくる。

「帰れ!!!このブスの役立たずどもが帰れー!!!」

 ジョーは暫く呆然としていたが、自分の置かれた状況に気づくと叫んだ。なんだ、この状況は自分と思ったのと全然違う。

 色街を歩いている時に声をかけてきた女たち。俺に惚れたんじゃないのか?だから妻と引き合わせたらケンカになると思ったのに。女たちが自分を取り合う様を友人に見せて、自分がいかにモテるか見せつけてやろうと思ったのに。娼婦たちに不快な視線を向けられ、言葉を吐かれ悔しがるエリーゼの顔を見るはずだったのに。

 ドスドスと足音を立てながらその場から離れるジョーを慌てて追いかけていく取り巻きたち。

 そして娼婦たちは悪態を吐きながら山を降りていった。



 エリーゼはほっと息を吐いた。なんとも嵐のようだった。

「エリーゼ、慌てる君を初めて見たよ」

「あら、サイラス。ご機嫌よう」

 エリーゼの前に現れたのはばしっとキメたサイラスだった。エリーゼお抱えのデザイナーが腕によりをかけ仕上げた狩猟服を身に着け、髪の毛をバシッと整えたサイラスは文句無しにかっこいい。

 この場にまともな独身女性がいたら彼の周りは人集りで大変だったに違いない。

 ジョーの友人たちもちらちらとこちらを見てはなんとも惚れ惚れとした妬ましげな表情をしている。

 男から見ても今日の彼は極上の男のよう。

「ふふふふ、あちらを覧くださいお義兄様。弟君が怖い目で睨んでいますわよ」

「はははは、本当に大丈夫なんですよね?義妹殿」

 小言は勘弁だ。

 サイラスに恨みがましい視線を寄越すジョーを見ながら、エリーゼは目をそっと細める。

 本当に小さい男。

 自分の方が上だと言いながら、サイラスには近寄らない。だって明らかに彼の方がイケメンだから。本当の自分をわかっているのに認めない、直視しないのだ。ダサいこと極まりない。

「大丈夫よ、ほらもうそろそろメインディッシュが来る時間だもの」

 人をメインディッシュ扱いとは――失礼である。がその瞳は心の高鳴りが現れているのかきらきらと輝いている。

 ずっと見ていたいほどの美しき光景。


 だが、そういうわけにもいかない。姿はまだ見えないが複数の人の気配と微かな足音。

 その姿が木々の間から現れると同時に人を魅了する空気が漂うよう。

 正真正銘のカリスマ。

 エドモンド・ハーメルの登場だ。

 皆が見惚れる中、悠然と歩くエドモンドはジョーの前で足を止める。

「本日はお招き頂きありがとうございます」

「………………………っ、はっ……!」

 声をかけられて暫く後に正気を取り戻したジョーはろくに返事もできない。皆が見ていることに気づき、慌てて何か会話をしようと試みるが何を話せば良いのかわからない。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるユーリアは、王国の王太子と婚約していた。 しかしある時彼は、ユーリアの侍女だった女性とともに失踪する。彼らは複雑な事情がある王国を捨てて、他国へと渡ったのだ。 そこユーリアは、第二王子であるリオレスと婚約することになった。 兄と違い王子としての使命に燃える彼とともに、ユーリアは王国を導いていくことになったのだ。 それからしばらくして、王太子が国へと戻ってきた。 他国で上手くいかなかった彼は、自国に戻ることを選んだのだ。 そんな彼に対して、ユーリアとリオレスは言い渡す。最早この国に、王太子の居場所などないと。

処理中です...