僕の背中、空いてますよ。

ヒメ

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悲しみの詩

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 どーも。佐々木航と申します。僕は彼女いない歴=年齢のどこにでもいる高校二年生。趣味はゲームと人助け。…嘘じゃないよ。誰かを助けた後は気分がいいからね。
 今日は困っている人いないかな。いない方がいいんだが。学校は休みだし友達は予定があって遊べないって言うしで暇で暇で仕方がない。彼女がいたらなあ。…悲しくなってきた。考えるのやめよ。
 今いるのはこの辺で一番大きな公園。夕方で遊んでいた子供たちが帰り始めたので人は少ない方だった。…あ、いた。大きな荷物を背負い、重そうに上半身の項垂れている女の子。中学生くらいだろうか。

「お嬢さん。お荷物、お持ちしますよ。」

 …ちょっとキモかったかな。ついついお嬢さんとか言っちゃった。
 いきなり声をかけられた女の子は、めちゃくちゃ困ってた。申し訳ない。
「それ重いでしょう?全部は持てないすけど。」
「え…あの…私…」
「だいじょぶだいじょぶ。僕手ぶらなんで。」
 戸惑う女の子をガン無視して喋り続ける。彼女は何か(多分俺)に恐れているかのように告げる。

「わ、私…荷物なんてな、何も持ってないですよ!」

 …彼女は何も持っていない。まあ確かに。何も背負っていない。…はたから見れば、だが。
「?何言ってんの。しっかり持ってんでしょ。かなり重そうなやつ。ご家庭のこと?それともお友達のこと?さあさ、話してご覧なさい。」
 彼女の顔色が変わる。恐れから困惑の色へ。微笑みを浮かべて詩乃ちゃん(女の子の名前。後ほど判明。)の言葉を待つ。
 彼女はゆっくりと、何かを踏みしめるように語り出す。


 小さいときから音が、歌が好きだった。友達の蓮の家にあったギターを弾いたとき、なんかもう、やばかった。音の振動が身体に響くたびに興奮と喜びが押し寄せた。このために生きていたんじゃないかとすら思えた。
 それからは必死だった。親に頼み込んでギターを買ってもらって蓮のうちに行ってひたすら練習して。蓮の親は音楽が好きだったから家には楽器がたくさんあった。
「うた、ずっと一緒に楽器弾いたり歌歌ったりしようね。」
 『ずっと』…そう、言ってたのに。蓮は、中学に上がる前に、消えた。私が行くことのできないところに。

 死んだ。
 
 蓮が、死んだ。よくある交通事故で。私を庇って。
 後悔した。あのとき私が走らなければ。辛くて死んでしまいたかった。
 でも、私は弾いた。弾き続けた。蓮を忘れることがないように。ここまでならまだよかった。大事なものを失った私の傷を抉るように、何かが始まった。
 まず、私の教科書がビリビリになった。次に体操服に針が入っていた。五本。気づかずに着て首が傷だらけになったこともあった。そして、今日。音楽室に置いておいた私のギターが割れていた。
 もう、どうしたらいいかわからなかった。私のギターが、蓮との思い出が、壊れた。なんで、なんで。私ばっかり失うものが多すぎる。

 詩乃の口から絞り出すように紡がれた話は重く、苦かった。中学生の少女の人生とは思えないもの。
 …これを背負ってきたのか。
「どーも、話してくれてありがとう。…ずっと、泣けてないんすね。」
優しく。少しづつ、少しづつ、詩乃ちゃんの背中から荷物を下ろす。
 驚いたような顔をしてから困ったように顔歪めると、みるみると彼女の目に涙が浮かぶ。
「ああ…ううあああああっあああっああああ…」
 彼女が泣いている間、航は何も言わずにただより添っていた。

 散々泣いた後詩乃ちゃんは頼りない笑顔を浮かべて
「ありがとうございました。」
と頭を下げてからすっと立ち上がり帰っていった。彼女の背中にはもうほとんど荷物は乗っていない。あるのは失ったものを慈しむための少しの重さのみ。
 …ま、あれくらいの苦しみはあってもいいか。蓮君を忘れないための重りだから。

「…詩乃ちゃん(中学生)は蓮君と付き合ってたんかなあ。彼女欲しい。おおおお…帰るか…」

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