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第一章
はじまり
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この世界には、7種類の人間がいる。
1つは、僕たちのような一般国民。
僕らは顔も服装の自由も持たず、黒いもやのような肉体と国家指定の洋服を与えられて、陰気な一般区で暮らしている。上流階級になれば、服装を選ぶことができ、顔も与えられるらしい。だけど、大抵の一般国民にとって、上流階級なんて夢のまた夢。おとぎ話の世界なのだ。なぜなら、『才能』の無いものは、僕らの一つ上の階級『特国生』にすらなれずに、人生に飽きて安楽死を望む一生なのだ。僕は、どうなるのだろう。僕も父や母のようにこの街で一生暮らしていくのだろうか。
「次、342番。」
僕の順番が回ってきたようだ。
今日は、『一般国民検査』の日だ。僕たち一般国民は、16才になった年に行われるこの検査で2つの『才能』の有無を調べられる。1つは『学徒検査』学力に優れ、『学徒』になる『才能』のあるものを選出する検査だ。もう一つがこれから受ける『反忘却視力検査』。『反忘却機関』で戦っていくために必要不可欠な『目』を持っているかどうかの検査、らしい。らしい、というのも僕は詳しく知らないのだ。『学徒』についても、『反忘却機関』についても詳しいことは僕たちのような一般国民の情報権限では調べることができない。しかし、これだけはわかる。この試験に受かれば、僕はこの街を出られる。
「はい。」
返事をして、僕は検査官の前に立った。
学校で対策をする『学徒検査』と違い、この検査は内容を教えられない。『反忘却機関』は『戦闘』をすると聞いたことがあるし、なにか運動のようなことをするのか。いや、視力検査、というんだから視力を調べるのか。
緊張感が高まり、無機質な部屋の室温が上がったように感じられる。なにせ、どうにも勉強の苦手な僕にとって『学徒』になる道は絶望的で、この検査に一生がかかっているのだ。
「何が見える?」
灰色のマスクを被った検査官は一枚の写真を見せた。
白い髪の人間だ。歴史の教科書に出てきた昔の人類みたいに、はっきりと顔がある。歴史の授業の時に見たムービーの『女優』という種族に似ている。
「白くて、綺麗な人だと思います。」
自信はなかったがはっきりと答えた。もしかしたら、不正解かもしれない。だとしたら、僕の一生はここで終わりだ。今までと変わらない毎日が脳の老化で僕が死ぬまで続くのだ。
「なるほどなぁ。俺も綺麗だと思うよ。」
灰色のマスクの人は少し笑いながら言った。
答えを間違えたか。
目の前が真っ暗になる気分だった。
お父さん、お母さん、学師様どうかお許しを。
「じゃあ、入ってきたドアから出て、左に進んで貰えるかな。部屋があるはずだからさ。入り口に水色のマスクの奴が立ってる。目印にして。」
はい、と上擦った声で返事をした。
今にも涙が溢れそうで、鼻声になってしまう。
終わった。僕の一生は終わってしまったのだ。
きっと部屋を出れば水色のマスクの人やらに「残念でしたね。お気をつけてお帰りください」なんて出口に案内されるんだろう。
家に帰りたくない。親に申し訳ない。
我慢するのをやめ、涙をぼろぼろ溢しながら、部屋を出た。左に続く真っ直ぐな廊下を歩いていると、水色のマスクの人がいた。
「あっ!見えた子だよね!?こっちこっち!説明会あるから!来てくれる?」
水色のマスクの人は存外明るい声で僕に話しかけた。説明会ってなんだろう。なぜ落ちたか説明されるんだろうか。そんなの生き地獄じゃないか。いっそ殺してくれ。
生き地獄へのドアをあけると学校の会議室のような空間があった。長机とパイプ椅子がセットで置かれ、数人の一般国民が座っていた。
「空いてる所に座ってねー!」
水色のマスクの人の呼び掛けで空いている席を探す。 どこの席も隣に人がいて座りづらい。キョロキョロと隣のいない席を探していると一人の人が手を上下に振って呼んでくれた。しかし、何となく信じられないので、自分を指差して僕?と聞く仕草をするとにっこり笑ってより激しく手を降ってくれた。
「君も受かったんだねえ。どっちで受かったのかなあ?」
えっ?受かったの?と聞き返すと、受かってなければこんなところに通さないよお、と独特な間延びした口調で言われた。その通りだ。
受かった、と自覚すると今までの泣きそうな気持ちは嘘のように消え、何故か憤りを感じてきた。なぜこんなことで泣かなければいけなかったのだ。人前で泣くなんて恥ずかしい。それもこれもあの検査官があんなわかりづらい言い方をしなければ、僕は泣かずに済んだのに。
「これより説明会を開始する。」
ぐだぐだと訳のわからない思考を巡らせていると先程のドアから入ってきたオレンジ色のマスクの人が説明会を開始した。
「ここに集めたのは『学徒会』『反忘却機関』に入る権利のある者だ。」
隣に座った少年がだから言ったでしょ、と笑いかけてくる。僕だってもうわかったさ、と拗ねてやりたくなる気持ちを押さえて微笑みを返した。
「権利といったが、これは義務ではない。少なくはあるが、毎年入ることを拒否する者は出てくるのでな。」
なんて馬鹿なやつなんだ。町中の人が羨むような権利を投げ捨てるなんて。一体、どんな理由でそんなことをするんだろう。理由を聞いても理解できる気はしないけど。
「『学徒会』『反忘却機関』に入るための条件は2つ。1つは家族を捨てること。2つ目は名前を捨てることだ。その覚悟を持つ奴がここに来い。」
条件を聞いて、部屋中がざわめいた。それもそうだ。「名前」は僕たち一般国民にとって自分を示す全てなのだ。顔を持たない僕らにとって個人を示すものは何一つない。それを捨てる。権利を使わなかった人間の気持ちがわかった。
「説明会は以上だ。これより、『学徒検査』合格者の受験番号を読み上げる。入会を希望する者は番号を呼ばれたら返事をしろ。59番122番147番213番……」
次々に名前が読み上げられ、大体の人が返事を返した。隣に座った少年も返事を返していた。
「君、頭が良かったんだね。」
彼の独特な話し方は どちらかというと間の抜けた印象を与える。正直、馬鹿だと思っていた。
「そうでもないと思うよお?」
自慢げに言う姿に腹が立った。誉めたことを後悔した。しかしまぁ、僕よりは頭が良いんだ。尊敬してやらなくも、ない。今後機会があれば仲良くしてやろう。
「次に『反忘却視力検査』合格者の受験番号を読み上げる。入官を希望するものは返事をするように。17番…」
はい、と返事をして先程まで会話していたのとは逆側の少年が立ち上がった。さっきまでとなりに隣に人がいるのを忘れるほど静かだったのに随分と大きい返事をする。17番。面白そうだから覚えておこう。
「279番、342番…」
僕も負けじと大きな声を出して立ち上がった。
お父さん、お母さん、さようなら。全てを捨てて頑張ります。
こうして僕は一般国民から特国生に昇格し、一般区から特別国民区へ住まいを移すことになったのである。
1つは、僕たちのような一般国民。
僕らは顔も服装の自由も持たず、黒いもやのような肉体と国家指定の洋服を与えられて、陰気な一般区で暮らしている。上流階級になれば、服装を選ぶことができ、顔も与えられるらしい。だけど、大抵の一般国民にとって、上流階級なんて夢のまた夢。おとぎ話の世界なのだ。なぜなら、『才能』の無いものは、僕らの一つ上の階級『特国生』にすらなれずに、人生に飽きて安楽死を望む一生なのだ。僕は、どうなるのだろう。僕も父や母のようにこの街で一生暮らしていくのだろうか。
「次、342番。」
僕の順番が回ってきたようだ。
今日は、『一般国民検査』の日だ。僕たち一般国民は、16才になった年に行われるこの検査で2つの『才能』の有無を調べられる。1つは『学徒検査』学力に優れ、『学徒』になる『才能』のあるものを選出する検査だ。もう一つがこれから受ける『反忘却視力検査』。『反忘却機関』で戦っていくために必要不可欠な『目』を持っているかどうかの検査、らしい。らしい、というのも僕は詳しく知らないのだ。『学徒』についても、『反忘却機関』についても詳しいことは僕たちのような一般国民の情報権限では調べることができない。しかし、これだけはわかる。この試験に受かれば、僕はこの街を出られる。
「はい。」
返事をして、僕は検査官の前に立った。
学校で対策をする『学徒検査』と違い、この検査は内容を教えられない。『反忘却機関』は『戦闘』をすると聞いたことがあるし、なにか運動のようなことをするのか。いや、視力検査、というんだから視力を調べるのか。
緊張感が高まり、無機質な部屋の室温が上がったように感じられる。なにせ、どうにも勉強の苦手な僕にとって『学徒』になる道は絶望的で、この検査に一生がかかっているのだ。
「何が見える?」
灰色のマスクを被った検査官は一枚の写真を見せた。
白い髪の人間だ。歴史の教科書に出てきた昔の人類みたいに、はっきりと顔がある。歴史の授業の時に見たムービーの『女優』という種族に似ている。
「白くて、綺麗な人だと思います。」
自信はなかったがはっきりと答えた。もしかしたら、不正解かもしれない。だとしたら、僕の一生はここで終わりだ。今までと変わらない毎日が脳の老化で僕が死ぬまで続くのだ。
「なるほどなぁ。俺も綺麗だと思うよ。」
灰色のマスクの人は少し笑いながら言った。
答えを間違えたか。
目の前が真っ暗になる気分だった。
お父さん、お母さん、学師様どうかお許しを。
「じゃあ、入ってきたドアから出て、左に進んで貰えるかな。部屋があるはずだからさ。入り口に水色のマスクの奴が立ってる。目印にして。」
はい、と上擦った声で返事をした。
今にも涙が溢れそうで、鼻声になってしまう。
終わった。僕の一生は終わってしまったのだ。
きっと部屋を出れば水色のマスクの人やらに「残念でしたね。お気をつけてお帰りください」なんて出口に案内されるんだろう。
家に帰りたくない。親に申し訳ない。
我慢するのをやめ、涙をぼろぼろ溢しながら、部屋を出た。左に続く真っ直ぐな廊下を歩いていると、水色のマスクの人がいた。
「あっ!見えた子だよね!?こっちこっち!説明会あるから!来てくれる?」
水色のマスクの人は存外明るい声で僕に話しかけた。説明会ってなんだろう。なぜ落ちたか説明されるんだろうか。そんなの生き地獄じゃないか。いっそ殺してくれ。
生き地獄へのドアをあけると学校の会議室のような空間があった。長机とパイプ椅子がセットで置かれ、数人の一般国民が座っていた。
「空いてる所に座ってねー!」
水色のマスクの人の呼び掛けで空いている席を探す。 どこの席も隣に人がいて座りづらい。キョロキョロと隣のいない席を探していると一人の人が手を上下に振って呼んでくれた。しかし、何となく信じられないので、自分を指差して僕?と聞く仕草をするとにっこり笑ってより激しく手を降ってくれた。
「君も受かったんだねえ。どっちで受かったのかなあ?」
えっ?受かったの?と聞き返すと、受かってなければこんなところに通さないよお、と独特な間延びした口調で言われた。その通りだ。
受かった、と自覚すると今までの泣きそうな気持ちは嘘のように消え、何故か憤りを感じてきた。なぜこんなことで泣かなければいけなかったのだ。人前で泣くなんて恥ずかしい。それもこれもあの検査官があんなわかりづらい言い方をしなければ、僕は泣かずに済んだのに。
「これより説明会を開始する。」
ぐだぐだと訳のわからない思考を巡らせていると先程のドアから入ってきたオレンジ色のマスクの人が説明会を開始した。
「ここに集めたのは『学徒会』『反忘却機関』に入る権利のある者だ。」
隣に座った少年がだから言ったでしょ、と笑いかけてくる。僕だってもうわかったさ、と拗ねてやりたくなる気持ちを押さえて微笑みを返した。
「権利といったが、これは義務ではない。少なくはあるが、毎年入ることを拒否する者は出てくるのでな。」
なんて馬鹿なやつなんだ。町中の人が羨むような権利を投げ捨てるなんて。一体、どんな理由でそんなことをするんだろう。理由を聞いても理解できる気はしないけど。
「『学徒会』『反忘却機関』に入るための条件は2つ。1つは家族を捨てること。2つ目は名前を捨てることだ。その覚悟を持つ奴がここに来い。」
条件を聞いて、部屋中がざわめいた。それもそうだ。「名前」は僕たち一般国民にとって自分を示す全てなのだ。顔を持たない僕らにとって個人を示すものは何一つない。それを捨てる。権利を使わなかった人間の気持ちがわかった。
「説明会は以上だ。これより、『学徒検査』合格者の受験番号を読み上げる。入会を希望する者は番号を呼ばれたら返事をしろ。59番122番147番213番……」
次々に名前が読み上げられ、大体の人が返事を返した。隣に座った少年も返事を返していた。
「君、頭が良かったんだね。」
彼の独特な話し方は どちらかというと間の抜けた印象を与える。正直、馬鹿だと思っていた。
「そうでもないと思うよお?」
自慢げに言う姿に腹が立った。誉めたことを後悔した。しかしまぁ、僕よりは頭が良いんだ。尊敬してやらなくも、ない。今後機会があれば仲良くしてやろう。
「次に『反忘却視力検査』合格者の受験番号を読み上げる。入官を希望するものは返事をするように。17番…」
はい、と返事をして先程まで会話していたのとは逆側の少年が立ち上がった。さっきまでとなりに隣に人がいるのを忘れるほど静かだったのに随分と大きい返事をする。17番。面白そうだから覚えておこう。
「279番、342番…」
僕も負けじと大きな声を出して立ち上がった。
お父さん、お母さん、さようなら。全てを捨てて頑張ります。
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