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第1章

悪の種子

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それから、僕達は爺ちゃんちに戻った。

ミーシャ婆ちゃんが僕達の分も朝ご飯を作ってくれた。焼きたてのパンに、目玉焼きとハムステーキ、コーンスープ。デザートはバナナのカラメルがけ。バナナの甘さにカラメルのほろ苦さが抜群に美味しい。
「ありがとう。ミーシャ婆ちゃん。とっても美味しいよ!」

食べながら、爺ちゃんにリュートさんを紹介して、それから辺境伯領での出来事を話した。

「悪の種子…、また厄介なモノを…。」

爺ちゃんは苦い顔。
元々シブいけど、そんな顔をした爺ちゃんは激シブでカッコいい。

爺ちゃんの話によると、古い戦争で使われたことのある悪の種子は、ここ(王国)と隣国、そして、帝国の3国の協定で永久的に使ってはいけないことに決まったんだって。魔物だけじゃなく、人間まで操れる悪の種子は危険なものだからね。

「なぁ、リュート君は悪の種子がどうやって出来るか知ってるか?」

「いえ、存在は知っていましたが、今回初めて実物を見ましたし、どうやって出来るのかは全くわかりません。」

「あれはな、ある植物系の魔物が人間の体内に種子を植えつけると、その人間の血肉を吸いとって栄養分にするんだ。そうなるとその人間は死んでしまう。
普通、植物の種なら、それで発芽して成長するわけなんだが、悪の種子は発芽せず、大きくなって石のようになるんだ。
今は、亡骸は火葬してしまうからな、悪の種子も大きくなる前に一緒に燃えちまうだろう。」

じゃあ、今ある悪の種子ってやっぱり遺跡と共に眠っていたんだ。

「まぁ、あれを見付けたところで今は使い方を知ってる者は少ないだろうがな。
どの国も公的な書物に残してはいないだろうから、そいつらがどこから使い方を知ったのか…。あれはな、ただ埋め込んだだけでは使い物にはならないんだ。埋め込む前に操るための特殊な術式を悪の種子に込めるんだ。魔力が高いほど遠隔で発動出来るらしい。」


驚くことに、悪の種子について、爺ちゃんは詳しいことまで知っていた。
どうして知ってるのか聞いたら、笑って誤魔化されちゃった。


「ねぇ、その植物系の魔獣は珍しいの?」

「いや、そうでもないぞ。古いダンジョンではたまに見掛ける。ランクもそれ程高いわけじゃないから、恐れることもないんだ。」


王国では、悪の種子はもちろん、その情報が出回ることが無いようにしているのに、隣国はそうじゃないのかもしれない。

「ねぇ、石柩の封印についてなんだけど…。魔方陣について、魔術師の先生に聞きたいことがあるんだ。」

「まぁ、魔方陣のことは、あいつに聞けば教えてくれるだろう。手紙で聞いてみたらいい。そういえば、カミュ。もう魔術を教わりに行かなくていいのか?」

「母さんの店の手伝いもあるから、頻繁には行けないと思うけど、まだまだ教えて欲しいこと沢山あるから、行きたいと思ってるんだよ。」

「カミュ君の魔術の先生って誰なんですか?」

「王国筆頭魔術師のサフィニアさんだよ。」

リュートさんが、目を剥いて驚いてる。

「そんな凄い人に教わってるんですか!?」

「まぁ、そうなんだけど…爺ちゃんの昔からの友達なんだって。僕の魔力量は今のところ王国の第5席魔術師さんと同じくらいなんだ。魔力量が多過ぎると色々ヤバいらしいからきちんと使えるように教えて貰ってるの。」

「サフィニア様…魔力量…第5席…ヤバい…。」

リュートさん、ぶつぶつ言い始めちゃったよ。



それはともかく目を閉じて情報を整理する。解ったこと、解らないこと、やっぱり1度隣国に行かなきゃダメだろうな…。僕も行かせてくれるかなぁ。


「あらあら、カミュちゃん、眠くなっちゃったのかしら?寝不足は体に毒なのよぅ。少し仮眠して行く?」

ミーシャ婆ちゃんが目を閉じていた僕の様子を見て心配してくれる。

「ありがとう。大丈夫だよ婆ちゃん。」

そろそろ辺境伯領に戻らないと。
姉さんの向日葵姫の投票があるんだよね。

ミーシャ婆ちゃんは、お土産にぐるぐるクッキーを持たせてくれた。
わーい。ぐるぐるクッキー!



爺ちゃんとリュートさんは、がっちりと握手をしてる。


「じゃ、またね。」

「色々ありがとうございました。」
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