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本家の動き【蓮視点⑬】
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「利用してくれてもいいのになぁ」
それくらいのこと、俺は気にしない。茜さんの傷が癒えるなら、いくらだって踏み台になるのに。
まあ、彼女はそういう人だ。俺が良くても、彼女の苦になるなら、やっぱり駄目なのだろう。
上条がある程度処理してくれていた書類に、鬼のように血のサイン──神使との契約更新──をしながら、俺は悶々としていた。
茜さんに気を取られてサボっていたツケがたまり、神使たちがストライキを起こし始めたとか。
右京と左京は油揚げでも投げつければ黙るからいいが、気難しい神使は機嫌を損ねると面倒臭い。
彼らを宥めていた上条まで疲弊して、狭間に隠れてしまったものだから、派遣スタッフのスケジュール調整にも支障が出始めているらしい。
そのやりくりを任された事務員たち(人間)の視線も、冷たかった。
……ごめん。
そんなふうに、茜さんのことを気にしながら社畜仕事をこなしていた時、オフィス用のスマホが鳴った。
事務の女の子が出ると、すぐに俺のスマホに転送してきた。
知らない番号だな。
「だれ?」
「それが……芦屋家の者としか、おっしゃらないのです」
怒りが込み上げる。
なるほど、圭介さんだな? あかねさんに連絡したに違いない。ヨリを戻すつもりなのか? それを報告しに俺に掛けてきたのか??
婚約者がいるんだろ? 結婚するんだろ? すべてを捨てる覚悟がないなら彼女に近づくな! いや、すべてを捨ててももう遅いけどな!
俺は腹立ちにまかせて通話ボタンを押し、怒鳴るように言った。
「なんですか、圭介さんっ!」
しかし聞こえてきたのは、物静かな声。
『芦屋宗助と申します。二十七代目当主、芦屋雁助の名跡を継いだ圭介の、叔父に当たる者どす』
少し西の訛りがある声を聞き、俺は電話口で固まった。
嫌な予感がしたからだ。
商売敵という立場上、家同士の関係はどうしてもぎくしゃくしているが、同年代の祓い師ならば、ある程度の情報共有は必要だ。
表立った付き合いこそないとはいえ、互いの連絡先は一応伝え合っている。
圭介さんからの私的な連絡であれば、さすがに俺に直接かけてくるはず。
「何が……ありました?」
『柳楽さんのご本家はんより、こちらの番号へお電話して、事情をご説明しといてほしいと勧められましてな。白訪市の件で、少しお話させていただきとうございます』
そうだ。圭介さんは、検察がごり押ししてきた依頼を遂行するために、まだ白訪市に残っているはず……茜さんに会うどころではない。
白訪市の案件は、元々は市内に関連神社四社の神職を回ってから柳楽家の宗主──祖父に寄せられていたものだった。
それは、少し前からネット上──SNSやオカルト板で騒がれていた内容に起因する。
※
あかねさんと出会う、少し前くらいだろうか。
ある日祖父から、SNSに上がっていた画像を共有された。
アカウント名が「救世主」だ。地味にイラッとしたが、それより画像の悪趣味さに眉をひそめる。
直後「筋肉爺」の名で登録していた、会社の固定電話が鳴る。出ると、祖父は名乗りもせず、大社からの相談内容を話しだした。
「一般人でも、勘の強い者には分かるくらいまで、湖が濁ってきておるそうだ」
あちらはスピーカーにしているようで、本家側には親族が集まっているのが気配で分かった。
「濁りの原因は、まあいつものじゃろうと思っていたのだが、霊視調査したところ、どうも今回はやっかいな気配を感じる」
「いつもの」とは、白訪市がパワースポットと呼ばれる所以──白訪湖の性質のことだ。
あそこは、傷ついた霊や妖を呼び寄せ、癒し、最後には浄化する作用がある。
その過程で濁りが出るのは、珍しい話ではない。
「やっかいな気配って?」
「目下調査中だが、水質調査をしていた市の職員から『湖水が血のように赤い』という報告を受けたわい」
さらに白訪市管轄の警察からも、別件の不可解な現象について相談が寄せられたらしい。
それが、スマホで共有された画像の件だ。拡大してみて顔をしかめる。
なるほど、オカルト好きが騒ぎそうな話だと思った。
「過去にも同じようなことがあってな。明るみには出ていないが、柳楽家の記録には残っておる」
「……もしかして、明治初期の霊災?」
「ああ。ああなっては困るからな」
結局、俺を含めた一族が話し合った結果、何もしない──自然浄化を勧める、という結論に至った。
記録にあるものとは違い、気配は既に湖の底まで沈んでいる。
時間はかかるが、いずれは自然に浄化されるはず……。
この類は最強の妖怪クラスか、祟り神化した『神』──調伏の際には多大な反発に遭うかもしれない。
下手を打てば、また記録にあるような被害が出る。
ただ引っかかるのは画像の件だ。
湖に降りただけではなく、贄を求めているとしたら──?
それくらいのこと、俺は気にしない。茜さんの傷が癒えるなら、いくらだって踏み台になるのに。
まあ、彼女はそういう人だ。俺が良くても、彼女の苦になるなら、やっぱり駄目なのだろう。
上条がある程度処理してくれていた書類に、鬼のように血のサイン──神使との契約更新──をしながら、俺は悶々としていた。
茜さんに気を取られてサボっていたツケがたまり、神使たちがストライキを起こし始めたとか。
右京と左京は油揚げでも投げつければ黙るからいいが、気難しい神使は機嫌を損ねると面倒臭い。
彼らを宥めていた上条まで疲弊して、狭間に隠れてしまったものだから、派遣スタッフのスケジュール調整にも支障が出始めているらしい。
そのやりくりを任された事務員たち(人間)の視線も、冷たかった。
……ごめん。
そんなふうに、茜さんのことを気にしながら社畜仕事をこなしていた時、オフィス用のスマホが鳴った。
事務の女の子が出ると、すぐに俺のスマホに転送してきた。
知らない番号だな。
「だれ?」
「それが……芦屋家の者としか、おっしゃらないのです」
怒りが込み上げる。
なるほど、圭介さんだな? あかねさんに連絡したに違いない。ヨリを戻すつもりなのか? それを報告しに俺に掛けてきたのか??
婚約者がいるんだろ? 結婚するんだろ? すべてを捨てる覚悟がないなら彼女に近づくな! いや、すべてを捨ててももう遅いけどな!
俺は腹立ちにまかせて通話ボタンを押し、怒鳴るように言った。
「なんですか、圭介さんっ!」
しかし聞こえてきたのは、物静かな声。
『芦屋宗助と申します。二十七代目当主、芦屋雁助の名跡を継いだ圭介の、叔父に当たる者どす』
少し西の訛りがある声を聞き、俺は電話口で固まった。
嫌な予感がしたからだ。
商売敵という立場上、家同士の関係はどうしてもぎくしゃくしているが、同年代の祓い師ならば、ある程度の情報共有は必要だ。
表立った付き合いこそないとはいえ、互いの連絡先は一応伝え合っている。
圭介さんからの私的な連絡であれば、さすがに俺に直接かけてくるはず。
「何が……ありました?」
『柳楽さんのご本家はんより、こちらの番号へお電話して、事情をご説明しといてほしいと勧められましてな。白訪市の件で、少しお話させていただきとうございます』
そうだ。圭介さんは、検察がごり押ししてきた依頼を遂行するために、まだ白訪市に残っているはず……茜さんに会うどころではない。
白訪市の案件は、元々は市内に関連神社四社の神職を回ってから柳楽家の宗主──祖父に寄せられていたものだった。
それは、少し前からネット上──SNSやオカルト板で騒がれていた内容に起因する。
※
あかねさんと出会う、少し前くらいだろうか。
ある日祖父から、SNSに上がっていた画像を共有された。
アカウント名が「救世主」だ。地味にイラッとしたが、それより画像の悪趣味さに眉をひそめる。
直後「筋肉爺」の名で登録していた、会社の固定電話が鳴る。出ると、祖父は名乗りもせず、大社からの相談内容を話しだした。
「一般人でも、勘の強い者には分かるくらいまで、湖が濁ってきておるそうだ」
あちらはスピーカーにしているようで、本家側には親族が集まっているのが気配で分かった。
「濁りの原因は、まあいつものじゃろうと思っていたのだが、霊視調査したところ、どうも今回はやっかいな気配を感じる」
「いつもの」とは、白訪市がパワースポットと呼ばれる所以──白訪湖の性質のことだ。
あそこは、傷ついた霊や妖を呼び寄せ、癒し、最後には浄化する作用がある。
その過程で濁りが出るのは、珍しい話ではない。
「やっかいな気配って?」
「目下調査中だが、水質調査をしていた市の職員から『湖水が血のように赤い』という報告を受けたわい」
さらに白訪市管轄の警察からも、別件の不可解な現象について相談が寄せられたらしい。
それが、スマホで共有された画像の件だ。拡大してみて顔をしかめる。
なるほど、オカルト好きが騒ぎそうな話だと思った。
「過去にも同じようなことがあってな。明るみには出ていないが、柳楽家の記録には残っておる」
「……もしかして、明治初期の霊災?」
「ああ。ああなっては困るからな」
結局、俺を含めた一族が話し合った結果、何もしない──自然浄化を勧める、という結論に至った。
記録にあるものとは違い、気配は既に湖の底まで沈んでいる。
時間はかかるが、いずれは自然に浄化されるはず……。
この類は最強の妖怪クラスか、祟り神化した『神』──調伏の際には多大な反発に遭うかもしれない。
下手を打てば、また記録にあるような被害が出る。
ただ引っかかるのは画像の件だ。
湖に降りただけではなく、贄を求めているとしたら──?
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