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蓮君と向き合うために
しおりを挟む職場の近くで待ち伏せされた。
そんなのストーカーじみているのに、一瞬胸がキュンとしてしまった。
なんだかんだ言って、高速道路上での唐突なプロポーズも──びっくりしたのは確かだけど──悪い気はしなかった。
だって、遊びじゃなくて真っ直ぐな好意だったわけでしょ?
胸の奥が温かくなって、くすぐったいくらいだった。
まあ……若さゆえの盛り上がりだったのかもしれないけれど。
私は枕に顔を押しつけた。
──心身ともに、癒してもらった……。
指先が肌をなぞった感触や、耳元に落ちた小さな息づかいまで鮮明に思い出してしまう。
始終、私の反応を窺うあの潤んだ瞳。情熱を込めながら、とんでもなく優しかった。
……反則よ。
「まずい、ほんとまずい……年下相手に何してるの、私」
相手はまだ二十五の若僧なのに……私ったらあんなに──。
舞い上がる気持ちと気恥ずかしさが交互に押し寄せ、私は何度も枕に頭を打ちつけた。
私、チョロいのかしら?
たぶん、たくさん会って話せば、蓮君のことを好きになる──いえ、もう半分以上そうなっている。
うっかり体を重ねてしまったからもあるけど、そもそも彼、あの悪夢の夜から私を救い出してくれた、命の恩人でもあるのだ。
せめて出会いのきっかけが、もっと違っていれば……。
雑念にかき乱されず、最初からまっさらな状態で向き合えていれば、純粋に好きになれたかもしれない。
今の私は駄目。
彼の施す高価な魔除けを無料で利用して、失恋の寂しさの穴埋めまでさせてしまった。
こんなずるくて弱いアラサーが、前途有望な彼に相応しいはずがない。
「距離を置いて、正常にならなきゃ……」
枕を抱きしめたまま呟いた。
でないと、自分の気持ちが追いつかないまま、蓮君のペースに飲まれてしまいそうで、怖かった。
スマホを手に取る。
今日は一通もメッセージが来ていない。
いつもなら仕事終わりには未読が山のように積み上がっていたのに。
……そうよね。彼も若気の至りだと気づいたのかも。
面倒くさいアラサーの相手ばかりしていられるほど、彼も暇じゃないだろうし。
ほっとすると思ったのに、予想以上に凹んでしまうのは、どういうことよ?
遠ざけておいて、勝手に寂しがって、自己嫌悪……この繰り返し。
私は結局、誰かに甘えて、支えられて生きてきたんだわ。
弱いから、好意に寄りかかろうとしてしまう。
自分の足で立てるようにならなきゃ。
まずは金縛りや悪夢をどうにかしよう。蓮君のやり方は私の心をかき乱すだけだし……また身を任せたくなるに決まっている。
それに、業界でトップの祓い屋のお代なんて、本来なら払えない。
内臓売りたくないし。
※
思い立った私は、休日を使って、悪霊への対処を教えてくれそうな人を探し回った。
ネットはやっぱり怪しい人ばかり。
知り合いづてに紹介してもらっても、多少勘がいい程度だったり、ただの占い好きだったり、宇宙人と交信できたりで、なんか違う。
心が折れそうになる。あらためて思った。お祖母ちゃんも、圭太も、蓮君も、普通なんかじゃなかった。
あの三人の纏う空気は、根本から違っている。まあ分かっていたことだけど、本物の霊能者なんて、あんまりいない!
蓮君の、笑顔なのかそうじゃないのか判然としないあの顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
思い出した瞬間、体の芯が疼き、慌てて頭を振った。
だめだめだめ、彼に頼るのは終わり。
好意につけ込んで甘えるなんて、もう絶対にしない。
一日歩き回って帰宅した頃には、バッグは御守りで重くなっていた。
手首にはパワーストーンの数珠、胸元にはロザリオ。
部屋中に護符を貼り、ドリームキャッチャーからナザーレボンジュウまで吊り下げた。
なんだか、ごちゃまぜの雑貨屋みたい……。
でもこれだけあれば、きっと大丈夫。蓮君のペロペロにも匹敵する結界になる……はず。
彼の魔除けがいらなくなって、失恋の痛みも消えたとき──初めて蓮君と向き合える気がする。
傷が癒えて、誰にも依存しなくなれたら……その時は、私から彼に連絡をしよう。
それがきっと、一番いい形だから。
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