55 / 68
助けて圭……蓮君
しおりを挟む
自分なりにがんばって、準備万端だったはず。私の部屋は要塞だ。
それなのに、その日のお風呂あがり、それがまったく無駄だったことを思い知らされた。
窓から真っ黒な影が入り込んできたところを、この目で目撃してしまったのだから。
もはや、絶望しかなかった。
効果なんてまるでないじゃない!
部屋を飛び出していこうにも、今の私はバスタオル一枚。髪からポタポタ雫を垂らしている。
それにコレは、部屋に問題があるわけではないと、私はもう知っている。
狙われているのは、私。
バスタオルからむき出しになった両方の肩を抱きしめ、私は何もできずただ立ち尽くしていた。
唐突に、蓮君に魔除けを施された日から、ちょうど一か月経ったことに気づいた。
そうか、やっぱりあの魔除けの効果は覿面だったんだ。
蓮君はやっぱりすごい。
きっちりお金を払って、そして無我の境地になって、術を施してもらっておけば良かった!
黒い影は狭い部屋の中を漁るように、ゆっくり旋回しだした。
怖い。
動物の毛が濡れたような臭い、それからハァハッハァッという生臭い息遣い。
まるで実体を持たない野犬が、私の周りをうろついているかのよう。
身構えながら、じりじりとバスルームから部屋の方に移動した。
黒い影は、目の位置もはっきり分からない。そもそも、目に相当するものがあるのかすら疑わしいのに、それがじっと私の方を見ているような気がした。
どうしよう……怖い。
カラカラに乾いた喉。叫び出したくても、きっと声が出ないに違いない。
私はベッドに近づくと手を伸ばす。
そこに畳んであった二枚のシャツのうち、一枚を手に取り、サッと羽織った。
近づいて来ようとしていた、黒い影の動きが止まる。
躊躇しているように見えた。
睨み合って思案していた私は、御守りがじゃらじゃら付いたカバンを掴み、間に置いて身を護る。
あとは、塩でも撒いたらどうかしら。
キッチンに出したままだった、塩の瓶に目をやった。ちがう、旨味調味料だわ、あれ。
視界の隅で、黒い影がぐにゃりと歪む。
まずい!
ヒッと喉を詰まらせる私に向かって、ついにそれは躍りかかってきたではないか。
目をつぶって頭を抱え、しゃがみこむ私。こんなことしたって無駄なのに!
ところがそれは、何もないはずの空間にぶつかった。
じれたような咆哮があがる。何度も何度も、私のすぐ手前の空間に体当たりしている影。
何かが、こちらに来るのを防いでいるのだ。目には見えないが、この影を足止めしている壁が存在する。
しかしそれも、すぐにたわんだ。パリン、空気が割れる音がした。
聴覚で聞いたものではない。でも、確かに高い破裂音を感じた。
「──っ」
黒い影は瘴気の触手となってあっさり私を捕らえ、床に抑え込んだ。それから羽織ったシャツの下のバスタオルを容赦なく剥ぐ。
「やだ!」
死んでしまうっ。これは悪いモノ。悪霊ってやつだわ!
「怖いよ、蓮君!」
叫んでから、ハッとした。こんな時なのに、圭太じゃなくて、蓮君を呼んだ自分に戸惑った。
影がシャツも剥ごうとした。
裸にして、私に何をしようというの!?
その時、シャツを掴んでいた真っ黒な触手が、凄まじい勢いではじけ飛んだ。黒い獣は、悲鳴をあげる。
悲鳴と言っても、おそらく私以外には聞こえない断末魔だ。
逃げようとした黒い瘴気が、次の瞬間豪快にねじれた。大きな手の平でお握りにされていくかのように、小さく、小さく、丸め込まれていく。
「な……なに?」
呆然と見守っていると、やがてそれは小石となって、足元に転がった。
「まさか……蓮く──」
それなのに、その日のお風呂あがり、それがまったく無駄だったことを思い知らされた。
窓から真っ黒な影が入り込んできたところを、この目で目撃してしまったのだから。
もはや、絶望しかなかった。
効果なんてまるでないじゃない!
部屋を飛び出していこうにも、今の私はバスタオル一枚。髪からポタポタ雫を垂らしている。
それにコレは、部屋に問題があるわけではないと、私はもう知っている。
狙われているのは、私。
バスタオルからむき出しになった両方の肩を抱きしめ、私は何もできずただ立ち尽くしていた。
唐突に、蓮君に魔除けを施された日から、ちょうど一か月経ったことに気づいた。
そうか、やっぱりあの魔除けの効果は覿面だったんだ。
蓮君はやっぱりすごい。
きっちりお金を払って、そして無我の境地になって、術を施してもらっておけば良かった!
黒い影は狭い部屋の中を漁るように、ゆっくり旋回しだした。
怖い。
動物の毛が濡れたような臭い、それからハァハッハァッという生臭い息遣い。
まるで実体を持たない野犬が、私の周りをうろついているかのよう。
身構えながら、じりじりとバスルームから部屋の方に移動した。
黒い影は、目の位置もはっきり分からない。そもそも、目に相当するものがあるのかすら疑わしいのに、それがじっと私の方を見ているような気がした。
どうしよう……怖い。
カラカラに乾いた喉。叫び出したくても、きっと声が出ないに違いない。
私はベッドに近づくと手を伸ばす。
そこに畳んであった二枚のシャツのうち、一枚を手に取り、サッと羽織った。
近づいて来ようとしていた、黒い影の動きが止まる。
躊躇しているように見えた。
睨み合って思案していた私は、御守りがじゃらじゃら付いたカバンを掴み、間に置いて身を護る。
あとは、塩でも撒いたらどうかしら。
キッチンに出したままだった、塩の瓶に目をやった。ちがう、旨味調味料だわ、あれ。
視界の隅で、黒い影がぐにゃりと歪む。
まずい!
ヒッと喉を詰まらせる私に向かって、ついにそれは躍りかかってきたではないか。
目をつぶって頭を抱え、しゃがみこむ私。こんなことしたって無駄なのに!
ところがそれは、何もないはずの空間にぶつかった。
じれたような咆哮があがる。何度も何度も、私のすぐ手前の空間に体当たりしている影。
何かが、こちらに来るのを防いでいるのだ。目には見えないが、この影を足止めしている壁が存在する。
しかしそれも、すぐにたわんだ。パリン、空気が割れる音がした。
聴覚で聞いたものではない。でも、確かに高い破裂音を感じた。
「──っ」
黒い影は瘴気の触手となってあっさり私を捕らえ、床に抑え込んだ。それから羽織ったシャツの下のバスタオルを容赦なく剥ぐ。
「やだ!」
死んでしまうっ。これは悪いモノ。悪霊ってやつだわ!
「怖いよ、蓮君!」
叫んでから、ハッとした。こんな時なのに、圭太じゃなくて、蓮君を呼んだ自分に戸惑った。
影がシャツも剥ごうとした。
裸にして、私に何をしようというの!?
その時、シャツを掴んでいた真っ黒な触手が、凄まじい勢いではじけ飛んだ。黒い獣は、悲鳴をあげる。
悲鳴と言っても、おそらく私以外には聞こえない断末魔だ。
逃げようとした黒い瘴気が、次の瞬間豪快にねじれた。大きな手の平でお握りにされていくかのように、小さく、小さく、丸め込まれていく。
「な……なに?」
呆然と見守っていると、やがてそれは小石となって、足元に転がった。
「まさか……蓮く──」
52
あなたにおすすめの小説
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる