アラサー失恋女子、合コンで年下御曹司(25)にロックオンされる〜タワマン25階住みでも、怪しい壺なんて買いません!〜

世界のボボブラ汁(エロル)

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サーヤかよ

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 グシャッとヒールを履いた足が、それを踏み潰す。

「らくしょー」

 聞き覚えのある声。違った。ぜんぜん蓮君じゃなかった。

 スラッとした女装女子高生が、部屋の中央に仁王立ちになっていた。

「どう?」
「え……」
「惚れた?」

 脱がされかけたシャツを直しながら、ぼんやりとサーヤを見返した。

 制服なのに、ハイヒールなんだ、とどうでもいいところに目がいってしまう。あとサーヤ、土足なんだけどな。

 たぶん、これは現実逃避。あまりに怖い思いをしたから、本能がわざと違うことに注意を向けさせている。

「エロ漫画みたいな触手展開を期待して、しばらく様子見ていたんだけどぉ、さすがに契約不履行で、蓮に祓われちゃうからぁ」

 その心無い言葉と蓮君の名前を聞いて、私はやっと正気を取り戻す。

「サーヤ!?」
「反応にぶっ!」
「あなた、蓮君の神使でしょ? どうしてここに──」
「まず感謝でしょう? 失礼しちゃう」
「あ……そ、そうようね。ありがとうございました」

 混乱した頭で、それだけ答えていた。

 その時になって、震えが止まらなくなってきた。歯がカチカチ鳴るくらい。

 怖かったんだ、私。

「それだけ~? 土下座して這いつくばって、私の靴を舐めるのよ」
「それは、嫌です」

 サーヤはフンッと私を睨みつけた。

「愛しの蓮から離れて来てやったのに。まあ、命じられたら神使は逆らえないんだけど」

 彼の名前を聞いて、震えが止まった。そうか、蓮君が……。

「魔除けが切れること、蓮君は知っていたものね。なのに、私が頑なに断ったからサーヤを……」

 申し訳なくてそう言うと、サーヤはサラサラの髪を掻きあげながら答えた。

「それもあるけど、今いないのよ東京に」
「出張?」
「実家よ。急な依頼が入ってね。芦屋家が失敗した仕事を、今度は柳楽家が受けることになったの」

 私は目を丸くした。

「芦屋家って、圭太の……?」

 サーヤの真っ赤な唇が吊り上がる。自称女子高生なのに、めっちゃ濃い赤!

「やっだぁ、なーんにも聞いてないの? かわいそー、蓮ったら本当にあんたのこと好きなのかしら~? ねえ、元カレからだって、陰陽師だったことすら聞かされてなかったんでしょ? 茜ちゅわん、ぞんざいに扱われる女なんだぁああ!?」

 ううう、なんかムカつくわね。圭太はともかくとして、蓮君は別に彼氏じゃないから、いちいち私に話す義理はないのよ!

 ムスッとしていると、サーヤはぺたんと私に引っ付いてきた。

「うそうそ~、茜たん怒らないで……でも」

 可愛い女の子の声が、一気に低くなる。

「私に乗り換える?」

 なんで!? 私はサーヤを突き飛ばしていた。急に男感を出すと怖いんだけど!? 私、今半裸だし。

 だいたいね、サーヤは蓮君が好きなんでしょ? さっきまでマウント取ろうと必死だったじゃないの。

「なーんてね。蓮はほら~私の方がいいと思うしぃ。ふふふ」

 またキャピキャピした女子に戻った。コロコロと忙しい人ね、誰でもいいのか。

「あなた何がしたいのよ」
「3ピーしたい」

 白目を剥きそうになった。その場合、サーヤは男としてなのか女としてなのか。待て待て、まともに取り合ってはいけない。

「三人でピースしましょ、キャッハッハッハ」

 私はマリアナ海溝より深く、ナイル川より長いため息を吐いてから、サーヤの足元を眺めた。

「とにかく、靴は脱いでください」
「あらん、私霊体なんだから気にしないで」

 うるさいよ、こっちは気にするの! と、言いつつサーヤに座布団を勧めた。飲めるか分からないけど、お茶も入れてやる。霊体とは。

「あの、それで一体どういうこと? 芦屋家が失敗したって」
「そのまんまよ、あんたの元カレ……ケータ? ケースケだっけ? ややこしっ! 正確には芦屋家の新当主芦屋雁助には、解決できなかった」

 サーヤのそっけない言葉を聞いて、圭太のお父さんが仕事中に亡くなっていることを、思い出す。

 まさか……。

「圭太、何かあったの!?」

 サーヤは私の剣幕に片方の眉をピクッと上げ、注意深く答えた。

「一命は、とりとめたみたい」

 一命って……そんな酷いケガを? 顔から血の気が引くのが分かった。

 知らなかった自分のことを、自分で許せない気がした。

「身体的には元気よ、まだ意識は戻ってないけど」

 私は縋るようにサーヤに詰め寄った。

「圭太……今どうしているか分かる?」

 サーヤは探るように私を見ながら答える。

「心配なんだぁ……」

 そりゃあ心配でしょ、元カレだもん。

「あんたの元カレは、集中治療室にいるってことしか知らないわ」
「そんなに酷いの!?」
「まあ、今のところ命に別状は無いって」

 全身から力が抜けた。びっくりした。とりあえず生きてるのね。

 でも、そんなに難しい依頼だったの?

 私の脳裏に、手揉みハンバーグ店に現れた動きの速い芋虫が浮かび上がる。

 まさか圭太、虫がダメなヘタレのくせに、あんなのと対峙したんじゃ?

『茜っち、虫おる! 虫おるで!』

 青い顔で騒がれると、私も虫は苦手なんだけどなんとかしてやらなきゃと、勇ましくなったものだ。

 ミルクティを飲みながら、サーヤは私の様子をしげしげと観察する。

「振られたくせに、気になる?」
「知り合いがICUにいるって聞いたら、誰だって気になるでしょ」

 目を逸らした私の顔を、サーヤがニヤニヤしながら覗き込んでくる。

「……芦屋家の存続に関わる依頼だったのよねぇ」
「ど、どういうこと?」 
「芦屋の坊ちゃま──ケースケの婚約者って、今の官房長官のお孫さんなのよ」

 か、かか、官房長官!?

「あのよく『遺憾だ、きわめて遺憾だ、遺憾すぎていかん……なんつって!』って言っているおじさん?」
「ダースーでお馴染みの須田官房長官よ」

 雲の上の話だ。

 サーヤは、私の方に片手を差し出した。

「もっと知りたければ、茶菓子よこしなさい」

 
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