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サーヤかよ
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グシャッとヒールを履いた足が、それを踏み潰す。
「らくしょー」
聞き覚えのある声。違った。ぜんぜん蓮君じゃなかった。
スラッとした女装女子高生が、部屋の中央に仁王立ちになっていた。
「どう?」
「え……」
「惚れた?」
脱がされかけたシャツを直しながら、ぼんやりとサーヤを見返した。
制服なのに、ハイヒールなんだ、とどうでもいいところに目がいってしまう。あとサーヤ、土足なんだけどな。
たぶん、これは現実逃避。あまりに怖い思いをしたから、本能がわざと違うことに注意を向けさせている。
「エロ漫画みたいな触手展開を期待して、しばらく様子見ていたんだけどぉ、さすがに契約不履行で、蓮に祓われちゃうからぁ」
その心無い言葉と蓮君の名前を聞いて、私はやっと正気を取り戻す。
「サーヤ!?」
「反応にぶっ!」
「あなた、蓮君の神使でしょ? どうしてここに──」
「まず感謝でしょう? 失礼しちゃう」
「あ……そ、そうようね。ありがとうございました」
混乱した頭で、それだけ答えていた。
その時になって、震えが止まらなくなってきた。歯がカチカチ鳴るくらい。
怖かったんだ、私。
「それだけ~? 土下座して這いつくばって、私の靴を舐めるのよ」
「それは、嫌です」
サーヤはフンッと私を睨みつけた。
「愛しの蓮から離れて来てやったのに。まあ、命じられたら神使は逆らえないんだけど」
彼の名前を聞いて、震えが止まった。そうか、蓮君が……。
「魔除けが切れること、蓮君は知っていたものね。なのに、私が頑なに断ったからサーヤを……」
申し訳なくてそう言うと、サーヤはサラサラの髪を掻きあげながら答えた。
「それもあるけど、今いないのよ東京に」
「出張?」
「実家よ。急な依頼が入ってね。芦屋家が失敗した仕事を、今度は柳楽家が受けることになったの」
私は目を丸くした。
「芦屋家って、圭太の……?」
サーヤの真っ赤な唇が吊り上がる。自称女子高生なのに、めっちゃ濃い赤!
「やっだぁ、なーんにも聞いてないの? かわいそー、蓮ったら本当にあんたのこと好きなのかしら~? ねえ、元カレからだって、陰陽師だったことすら聞かされてなかったんでしょ? 茜ちゅわん、ぞんざいに扱われる女なんだぁああ!?」
ううう、なんかムカつくわね。圭太はともかくとして、蓮君は別に彼氏じゃないから、いちいち私に話す義理はないのよ!
ムスッとしていると、サーヤはぺたんと私に引っ付いてきた。
「うそうそ~、茜たん怒らないで……でも」
可愛い女の子の声が、一気に低くなる。
「私に乗り換える?」
なんで!? 私はサーヤを突き飛ばしていた。急に男感を出すと怖いんだけど!? 私、今半裸だし。
だいたいね、サーヤは蓮君が好きなんでしょ? さっきまでマウント取ろうと必死だったじゃないの。
「なーんてね。蓮はほら~私の方がいいと思うしぃ。ふふふ」
またキャピキャピした女子に戻った。コロコロと忙しい人ね、誰でもいいのか。
「あなた何がしたいのよ」
「3ピーしたい」
白目を剥きそうになった。その場合、サーヤは男としてなのか女としてなのか。待て待て、まともに取り合ってはいけない。
「三人でピースしましょ、キャッハッハッハ」
私はマリアナ海溝より深く、ナイル川より長いため息を吐いてから、サーヤの足元を眺めた。
「とにかく、靴は脱いでください」
「あらん、私霊体なんだから気にしないで」
うるさいよ、こっちは気にするの! と、言いつつサーヤに座布団を勧めた。飲めるか分からないけど、お茶も入れてやる。霊体とは。
「あの、それで一体どういうこと? 芦屋家が失敗したって」
「そのまんまよ、あんたの元カレ……ケータ? ケースケだっけ? ややこしっ! 正確には芦屋家の新当主芦屋雁助には、解決できなかった」
サーヤのそっけない言葉を聞いて、圭太のお父さんが仕事中に亡くなっていることを、思い出す。
まさか……。
「圭太、何かあったの!?」
サーヤは私の剣幕に片方の眉をピクッと上げ、注意深く答えた。
「一命は、とりとめたみたい」
一命って……そんな酷いケガを? 顔から血の気が引くのが分かった。
知らなかった自分のことを、自分で許せない気がした。
「身体的には元気よ、まだ意識は戻ってないけど」
私は縋るようにサーヤに詰め寄った。
「圭太……今どうしているか分かる?」
サーヤは探るように私を見ながら答える。
「心配なんだぁ……」
そりゃあ心配でしょ、元カレだもん。
「あんたの元カレは、集中治療室にいるってことしか知らないわ」
「そんなに酷いの!?」
「まあ、今のところ命に別状は無いって」
全身から力が抜けた。びっくりした。とりあえず生きてるのね。
でも、そんなに難しい依頼だったの?
私の脳裏に、手揉みハンバーグ店に現れた動きの速い芋虫が浮かび上がる。
まさか圭太、虫がダメなヘタレのくせに、あんなのと対峙したんじゃ?
『茜っち、虫おる! 虫おるで!』
青い顔で騒がれると、私も虫は苦手なんだけどなんとかしてやらなきゃと、勇ましくなったものだ。
ミルクティを飲みながら、サーヤは私の様子をしげしげと観察する。
「振られたくせに、気になる?」
「知り合いがICUにいるって聞いたら、誰だって気になるでしょ」
目を逸らした私の顔を、サーヤがニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「……芦屋家の存続に関わる依頼だったのよねぇ」
「ど、どういうこと?」
「芦屋の坊ちゃま──ケースケの婚約者って、今の官房長官のお孫さんなのよ」
か、かか、官房長官!?
「あのよく『遺憾だ、きわめて遺憾だ、遺憾すぎていかん……なんつって!』って言っているおじさん?」
「ダースーでお馴染みの須田官房長官よ」
雲の上の話だ。
サーヤは、私の方に片手を差し出した。
「もっと知りたければ、茶菓子よこしなさい」
「らくしょー」
聞き覚えのある声。違った。ぜんぜん蓮君じゃなかった。
スラッとした女装女子高生が、部屋の中央に仁王立ちになっていた。
「どう?」
「え……」
「惚れた?」
脱がされかけたシャツを直しながら、ぼんやりとサーヤを見返した。
制服なのに、ハイヒールなんだ、とどうでもいいところに目がいってしまう。あとサーヤ、土足なんだけどな。
たぶん、これは現実逃避。あまりに怖い思いをしたから、本能がわざと違うことに注意を向けさせている。
「エロ漫画みたいな触手展開を期待して、しばらく様子見ていたんだけどぉ、さすがに契約不履行で、蓮に祓われちゃうからぁ」
その心無い言葉と蓮君の名前を聞いて、私はやっと正気を取り戻す。
「サーヤ!?」
「反応にぶっ!」
「あなた、蓮君の神使でしょ? どうしてここに──」
「まず感謝でしょう? 失礼しちゃう」
「あ……そ、そうようね。ありがとうございました」
混乱した頭で、それだけ答えていた。
その時になって、震えが止まらなくなってきた。歯がカチカチ鳴るくらい。
怖かったんだ、私。
「それだけ~? 土下座して這いつくばって、私の靴を舐めるのよ」
「それは、嫌です」
サーヤはフンッと私を睨みつけた。
「愛しの蓮から離れて来てやったのに。まあ、命じられたら神使は逆らえないんだけど」
彼の名前を聞いて、震えが止まった。そうか、蓮君が……。
「魔除けが切れること、蓮君は知っていたものね。なのに、私が頑なに断ったからサーヤを……」
申し訳なくてそう言うと、サーヤはサラサラの髪を掻きあげながら答えた。
「それもあるけど、今いないのよ東京に」
「出張?」
「実家よ。急な依頼が入ってね。芦屋家が失敗した仕事を、今度は柳楽家が受けることになったの」
私は目を丸くした。
「芦屋家って、圭太の……?」
サーヤの真っ赤な唇が吊り上がる。自称女子高生なのに、めっちゃ濃い赤!
「やっだぁ、なーんにも聞いてないの? かわいそー、蓮ったら本当にあんたのこと好きなのかしら~? ねえ、元カレからだって、陰陽師だったことすら聞かされてなかったんでしょ? 茜ちゅわん、ぞんざいに扱われる女なんだぁああ!?」
ううう、なんかムカつくわね。圭太はともかくとして、蓮君は別に彼氏じゃないから、いちいち私に話す義理はないのよ!
ムスッとしていると、サーヤはぺたんと私に引っ付いてきた。
「うそうそ~、茜たん怒らないで……でも」
可愛い女の子の声が、一気に低くなる。
「私に乗り換える?」
なんで!? 私はサーヤを突き飛ばしていた。急に男感を出すと怖いんだけど!? 私、今半裸だし。
だいたいね、サーヤは蓮君が好きなんでしょ? さっきまでマウント取ろうと必死だったじゃないの。
「なーんてね。蓮はほら~私の方がいいと思うしぃ。ふふふ」
またキャピキャピした女子に戻った。コロコロと忙しい人ね、誰でもいいのか。
「あなた何がしたいのよ」
「3ピーしたい」
白目を剥きそうになった。その場合、サーヤは男としてなのか女としてなのか。待て待て、まともに取り合ってはいけない。
「三人でピースしましょ、キャッハッハッハ」
私はマリアナ海溝より深く、ナイル川より長いため息を吐いてから、サーヤの足元を眺めた。
「とにかく、靴は脱いでください」
「あらん、私霊体なんだから気にしないで」
うるさいよ、こっちは気にするの! と、言いつつサーヤに座布団を勧めた。飲めるか分からないけど、お茶も入れてやる。霊体とは。
「あの、それで一体どういうこと? 芦屋家が失敗したって」
「そのまんまよ、あんたの元カレ……ケータ? ケースケだっけ? ややこしっ! 正確には芦屋家の新当主芦屋雁助には、解決できなかった」
サーヤのそっけない言葉を聞いて、圭太のお父さんが仕事中に亡くなっていることを、思い出す。
まさか……。
「圭太、何かあったの!?」
サーヤは私の剣幕に片方の眉をピクッと上げ、注意深く答えた。
「一命は、とりとめたみたい」
一命って……そんな酷いケガを? 顔から血の気が引くのが分かった。
知らなかった自分のことを、自分で許せない気がした。
「身体的には元気よ、まだ意識は戻ってないけど」
私は縋るようにサーヤに詰め寄った。
「圭太……今どうしているか分かる?」
サーヤは探るように私を見ながら答える。
「心配なんだぁ……」
そりゃあ心配でしょ、元カレだもん。
「あんたの元カレは、集中治療室にいるってことしか知らないわ」
「そんなに酷いの!?」
「まあ、今のところ命に別状は無いって」
全身から力が抜けた。びっくりした。とりあえず生きてるのね。
でも、そんなに難しい依頼だったの?
私の脳裏に、手揉みハンバーグ店に現れた動きの速い芋虫が浮かび上がる。
まさか圭太、虫がダメなヘタレのくせに、あんなのと対峙したんじゃ?
『茜っち、虫おる! 虫おるで!』
青い顔で騒がれると、私も虫は苦手なんだけどなんとかしてやらなきゃと、勇ましくなったものだ。
ミルクティを飲みながら、サーヤは私の様子をしげしげと観察する。
「振られたくせに、気になる?」
「知り合いがICUにいるって聞いたら、誰だって気になるでしょ」
目を逸らした私の顔を、サーヤがニヤニヤしながら覗き込んでくる。
「……芦屋家の存続に関わる依頼だったのよねぇ」
「ど、どういうこと?」
「芦屋の坊ちゃま──ケースケの婚約者って、今の官房長官のお孫さんなのよ」
か、かか、官房長官!?
「あのよく『遺憾だ、きわめて遺憾だ、遺憾すぎていかん……なんつって!』って言っているおじさん?」
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